第三十話
加速、加速、加速――
「加速!――付いてきているな!ハイネ!サトーさん」
「付いていかなきゃお前が孤立するだろうが!」
「な、なんとか、な」
よし、ここまでは付いてきているな。サトーさんはちょっと怪しいけど――ちっ。
「メビウスが3機、迎撃に来たぞ。サトーさんはそのまま直行、俺とハイネで手早く片付けるぞ」
「異論はないんだけどさ……隊長って俺だよな?」
「おっと、これは失礼」
ハァ、今まで青秋桜刈りは自分勝手に刈ってきた上に久しぶりの実戦だからつい。
「くっ、ミゲルではないが精進せねば……」
本当に、頑張ってくれよ?まだまだ俺達は加速するぞ。
「早速派手なお出迎えだ」
メビウス3機からはミサイルが発射されたのが目に入る。各機が4発。つまり12発。メビウスは1機につき最大4発搭載のはずだから全弾だ。こいつらは予備戦力か?いや、この位置でミサイル載っけてるってことは――
「護衛機か。となると――」
やっぱり速度を落としてる場合じゃないな。ここで速度を落とせば間違いなく周りから救援が『前』から来ることになる。そうなると更に速度を落とすことになって――終いには包囲されて袋叩きだ。そう簡単に負けるつもりはない。包囲網を突破することはずだが、俺達の誰かが犠牲になる可能性が高い。そして目標にも届かず、ただただ無謀な行為をした愚か者達ということになる。実力が伴わず失敗ならまだしも分かりきった判断を間違って失敗なんてした日には――
「俺が俺を許せない!」
両手に握るマシンガンを単射モードで3発ずつ、計6発を撃つ。そして同時にミサイルは12発全てが爆発。よし、俺もハイネも訓練通りできているな。お互い意思疎通せずとも会敵直後ぐらいは示し合わさなくてもどのミサイルを迎撃するかぐらいはできて当然だ。それにミサイルが対機動兵器のもので速度重視で動きが素直だったから狙いやすかったというのもあるか。これが対艦ミサイルだと迎撃対策として弾道が読めないから弾をばら撒くかもっと接近してからでないと難しかっただろう。もっと接近してから迎撃するとなると通常のジンよりも装甲が薄い俺のジンだと不安だ。次回までに対策を考えておく必要があるな。
「近代兵器としては当然の作りだけど……やっぱりメビウスじゃ相手にならない、な!」
空気抵抗がないのに空気抵抗有りきのデザインと推進器の配置、そしてその配置から来る旋回性能の悪さ……搭乗者がナチュラルでは旋回時のGに耐えられないから仕方ない話でもあるが――だからこそこうやって容易く撃墜できる。
念の為、マシンガンを連射モードにして撃ったが、2機撃破。そしてハイネが――
「1機撃破!」
「よし。減速した分、加速するぞ」
「ああ、サトーさん1人で突っ込ませるわけにはいかないしな」
マシンガンを撃てば反動で機体は後ろへ下がり、減速してしまう。特に無重力下では反動を地面に逃がすことができないし、減衰機構があっても限度がある。だからこそ無駄玉はなるべく控えて最小限に撃破が理想だ。
……ハイネの様子を伺うが、特に変化は見られない。今のメビウスが初めて人を殺したんだから心配になる。よく武道で精神を鍛えるなんて言葉があるが、アレは心のあり方の話であって殺すための心を作るものじゃない……当たり前のことだけどな。
「ミゲル……俺は大丈夫だ」
「考えていることはお見通しか」
「それなりに長い付き合いだからな。凹むのは後にしておくよ」
「結局凹むのかよ」
「さすがに、ね。でも、ミゲルを撃とうとする者に容赦するつもりはないさ」
「……心強いな。頼りにしてるぜ」
「お、おう」
さすがにちょっとセリフが臭すぎたか、ハイネがめっちゃ照れてるな。
「後、そういうセリフは死亡フラグだから気をつけろよ」
「なぁに、フラグは折ってこそだろ!」
それもフラグ臭いんだよなぁ……できるだけ気にかけとくか。
「さて、サトーさん無事だよな」
「ああ……ぐっ!2人のおかげでな」
あ、俺達が追いつくぐらいの速度にしたからサトーさんも加速しなくちゃいけないのか。大変そうだ。更に精進すべし!もうそろそろこのぐらいの速度は慣れてほしいんだけど。
「お、狙いの団体さんだぞ」
「……あの艦隊を見てその感想で済むあたり相当頭をやられてるぞ。なあハイネ」
「ハハハハハ……」
俺達の狙いはメビウスじゃなくて艦隊そのもの……しかもたった3機による奇襲だ。普通に考えればKAMIKAZEみたいな状況だが――
「俺達ならできるさ」
「作戦は説明されたが……本当に上手くいくのか」
「ここまで来てそりゃないだろサトーさん。後は当たって砕けろ!だぜ」
「ハイネ、当たって砕けるはさすがにこの局面だと洒落になってないぞー。……さて、そろそろお出迎え第2派が――来たぞ!落とされんなよ!」
「「おう!」」
ドレイク級が前面に展開している状態だから連合の艦隊基準で言えば中央の天頂部からの奇襲だから若干遠いにも関わらず、数えるのも馬鹿らしくなるぐらいの数のミサイルが俺達に殺到してくる。
その向かってきているミサイルに対してハイネとサトーさんは左右に散り、俺は――
「遠回りなんて面倒な事するわけないだろ!行くぜ!相棒」
スラスター全開!真っすぐ突っ切る!
この掛かるGが俺を護り!強くする!
「さすが艦載のミサイル!メビウスのやつより性能がいいみたいだな!」
速度も上、追尾性も上、それに加えていい意味で、俺達的には悪い意味で不安定な弾道で回避性能まで有して、止めにおそらく破壊力も上ときた。完全上位互換だ。
「だが所詮既存の機動兵器しか想定されていないミサイルなど!!」
出迎えのミサイルはターゲットを固定しているのではなく、複数のターゲットの中から直近のものをターゲットにするというアルゴリズムらしく、ミサイル全弾が俺に向かってきた。
「今の速度で当たるミサイルは――このあたりか!」
いくら追尾性能が高いと言ってもメビウスよりは鋭角に曲がってくるが直角に曲がることはない以上は当たらないミサイルが存在する。そうじゃなければターゲットに当たるより先にミサイル同士が接触して自爆なんて笑い話が生まれることになる。つまりその当たるだろうミサイルだけを落とせば――
「道は生まれる!」
やること自体はメビウスのミサイルを落とした時と変わらない。強いて違いを言えば先程とは違って単発射撃ではなく、連射に切り替えていることとたった今増槽1つが空になってパージしたってことか。そんな違いしかないのだから何も問題があるはずがない。
「よし!第1ミサイル群突破だ」
ミサイルはすれ違ってしまえば俺の速度に追いつくことは難しい。追いついた頃には艦隊の中だ。思った以上に楽だったな。……まぁ、大きなミサイルの破片が間近を通っていったのは少々肝を冷やしたけどな。破片とはいえ、俺自身の速度とミサイルの爆発という推進力を得た破片がぶつかりあえばどうなるか……もしかしたらメビウスのバルカンよりも威力が高い可能性がある。散弾みたいなものだから注意が必要だ。
「早くも第2陣か。メビウスを前に出しすぎて数が少ないのは幸いか……まぁだから狙ったんだけどな」
しかも、第1陣とは違ってミサイルの発射タイミングが随分違う。これじゃさっきみたいに最小限に落として突破して振り切ることができない。連合軍の軍人さんも有能なやつがいるな。
「というか確かに直進している俺が危険なのはわかるけどなんでミサイルが全部俺に向かってくるんだよ!ハイネとサトーさんにも多少は取り合えよ!」