第五話
表彰され、前世を含めて初めてインタビューを受けた。
その時にカメラのフラッシュってあんなに眩しかったんだと初めて知った……ついでに変な感じにテンションが上って「立てよ国民!」と叫びかけた。危うく黒歴史を作るところだったな。
いくら10歳とはいえ大勢の記憶に残る黒歴史は御免被る。これで本当に決起したら正しく汚点だ。……その可能性があるんだからマジで洒落にならない。
とはいえ、インタビューの前もインタビュー中も周りからのプレッシャーが半端なかったけどな。
ナチュラルは悪、コーディネイターは善。ナチュラルが諸悪の根源、コーディネイターは悪を祓う存在、旧人類に天罰を!的な発言を求められていたんだと思う。俺はニュータイプじゃないから本当のところは知らんがそのプレッシャー
戦争を覚悟はしていても俺自身が対立を煽るつもりはない。
それに加えてどうもマスコミがそういう発言を望んでいるというだけで実際表彰するプラント評議会の方はそんな圧力を感じない。
いや、ブルーコスモスやナチュラルに対する嫌悪感はマスコミとそう変わりないが、唯一違うのはマスコミは『今』不満をぶつけて関心を買い、売上をあげたいという安直な狙いに対して評議会は『将来』確実に独立を目指すという目的の違いだ。
評議会は今水面下で地球連合に対して戦いを挑む準備をしている最中……のはずだからいらぬ波風を立たせたくないはずだ。ただし、厭戦感情も望まないだろうけどな。
というわけでインタビューは自然と当たり障りない受け答えになった――1つを除いては――
「ミゲルくんは将来何になりたいですか」
ミゲルくんって言われると消○力~と歌わなきゃならない気がしてしまうが、冗談を言っている場合ではない。
ここは盛大にアピールしておくとしよう。
「俺は警察官みたいな皆を守る仕事がしたいです」
と答えるとマスコミから歓声が上がる。
やっぱりこういうコメントはウケが良いよな。まぁウケを狙ったのは間違いないけど嘘も言ってない。むしろ更に踏み込んだものなんだけどこの場にいる誰も知る由もない。
正確には警察ではなく、軍人を狙っているんだけど。
そんなこんなで俺は一躍時の人となったわけだが、もちろん1番影響出るのはスクール……ではなく、通っている警察推奨のトレーニングジムだ。
元々異端と言われるほどの身体能力……じゃなくてトレーニング内容だったことからある意味当然、むしろとうとうやりやがった的な声が多い。
それを証拠に――
「おう、坊主!随分なご活躍だったようだな!」
「お前が仕事しないから代わりに働いてやったんだよ!」
「おっとそれは悪かった!じゃあジュース奢ってやるよ!」
「どうせプロテイン入りだろ」
「当然だ!」
そう言っていつもよりも速く顔面へと近づいてくるミットが飛んでくる。それを軽く屈んで懐へと入り込んでボディにワン・ツーを叩き込み、間を置かずに流れるように脇腹へと蹴りを見舞う。
「カァー、これが10歳やそこらの坊主の動きだってんだから嫌になるねー!」
ミット打ちのトレーナーをしてくれている現役警察官が大げさなリアクションで言う。
「坊主はどうも俺が大げさに言っていると思っているようだが、テロリストを完全無力化なんて普通はできやしねーよ!」
「まぁあんな素人で不意打ちならなんとでもなると思うけどな」
あのテロリストは間違いなく素人だった。格闘経験どころか人殺しすらもしたことがないだろう。優れていたのはただコーディネイター憎しで自爆をやってこなすその精神性だけだった。
「実戦で訓練通り動けるなんて奴ぁそうはいない。自分の命が掛かっているなら尚更な。その点坊主は……キチガイだな」
「せめて円やかに天才とかって言ってくれませんかね」
「じゃあ狂人だな」
「それはまぁそれなりに鍛えているから強靭ではあるな」
「わざと意味を取り違えてんじゃねーよ」
10歳の子供に向かってキチガイだの狂人だの好き勝手言っている奴のセリフじゃないからな。
「ところで坊主は……本当に警察になるつもりか?」
「あ、本題はそれか」
「察しがいいな」
「期待させて悪いけど、残念ながら警察にはならないさ」
「そうなのか、いやー、良かっ――」
「そんな尊敬されるものじゃなくてもっと殺伐として泥臭いものになる予定なんでね」
そう答えると現役警察官殿は真剣な眼差しから緩み、そして俺の続けた言葉に更に厳しい表情に変わる。いやな百面相だな。
「坊主はその年頃にしては年齢以上に考えていることは知っているが、その言葉の意味を理解して言ってるんだよな?」
「もちろんだ」
さすが、警察官。俺が言いたいことを察してくれたようだ。
そして俺の志望先はできる予定がないとは言わないあたり、近い内に軍が……ZAFTが出来上がるのは間違い無さそうだな。
「……親御さんには」
「死ぬ確率が高い職業に就くのに賛成する親がどの程度いるだろうな」
「…………ハァ、若いもんは死に急ぐというがこれがそうなのかねぇ」
「ボブも十分若いと思うけど」
「前から言ってるが俺はトニーだ」
俺的にはボブ顔なんだけどなぁ。なんというかヘイ!ボブ!って声を掛けたくなる。
「まぁ2、3年後にその覚悟が変わらんようなら俺が口利きしてやるよ」
「たかが2,3年程度で心変わりするような軟な志じゃないんでいつでも声を掛けてくれ。その時に向けて身体を温めておく」
「いや、これ以上はやめとけ。マジで体壊すぞ」
現役警察官であってもコーディネイターの潜在能力への見積もりが甘い気がしてならない。
もちろんトレーニングのし過ぎで怪我をしてしまうのはコーディネイターでもいるからわからなくもないが、それは別の問題でコーディネイターの能力は筋力的なものや頭脳的なものだけではなくて回復能力にも差が存在する。
まぁこれに気づいたのはトレーニングジムに通うようになってからなんだが、明らかに前世と比較すると短時間で疲労が回復していると実感している。もちろん筋肉の増強具合も比にならない。
自分の身体を使って試行錯誤し、独自のトレーニング方法を編み出した。
それは、休憩トレーニングと名付けた。
最初に言っておくと、科学的根拠は一切ない。いくらコーディネイターで頭脳が底上げされていても勉強、研究をしないと科学的根拠なんてものは示せない。簡単に言えば俺の体感的、感覚的に基づいて編み出されたものだ。
その実態は――
「大丈夫だ。右を鍛える時は左を休ませ、左を鍛える時は右を休ませ、上半身を鍛える時は下半身を休ませ、下半身を鍛える時は上半身を休ませれば全ての問題はクリア――」
「――するわけ無いだろうが!この脳筋!!」
「失礼な。これでもスクールでは常に上位だぞ」
前にも言ったが通常の覚えてそれを応用する程度のテストなら成績は良いんだぞ。ただし、美術系は排除する。
「頭が良い馬鹿ってのは本当に厄介だな!」
「酷い言い草だな」
俺の考えた休憩トレーニングは大雑把に言ったとおり、部分的な筋肉トレーニングを行っている間に他の部位をコーディネイターの回復力を活かして休ませることで長時間トレーニングを行うことができるという画期的なトレーニング方法だ。
一応他の奴らにも教えているんだけどなぜか上手く行かない……やっぱり根性が足りないのか?