第六話
ブルーコスモスの自爆テロを防いでから1年が過ぎた。
俺自身は身長が伸びたり肉体強化が順調だったりと順当に成長している。
もっとも大きな変化があったのはトレーニングジムだった。
10歳だった俺の活躍によって所属していたトレーニングジムは俺以上に知名度を上げることとなって沢山の人間が押し寄せてきた。
曰く――「卑劣なナチュラルから家族を守るために!」
曰く――「うちの子にはミゲルくんのような子供になって欲しくて!」
などなど。
とりあえずミーハーな奴らが大半だったな。
中には俺とスパーリングしたいとかいう人もいた。
浅ましいやつなんかはテロリストを倒した俺を倒せば名が売れると考えて挑んでくる。
さすがに独自にトレーニングを積んでそれなりに強くなっていると自負している俺ではあるが、誰でも倒せるというほどは強くない。常識的に考えて現在11歳、当時10歳の子供には酷な話だろ?それこそ神様チートをもらったラノベ主人公であるまいし。
だが、幸いそんな浅ましいやつらは程度が知れているようで、問題なく、そして遠慮なく沈んでもらった。
ちなみにその光景を見ていたマスコミはこぞって雑誌の表紙にしたんだが……修羅の子とか名誉毀損ものじゃないか?こんな幼気な11歳、当時10歳……を捕まえて。
「お前が幼気なんて言ったらあの青秋桜共も幼気があるぞ」
いやいや、ボブさんよ。さすがにアンチコーディネイターの存在と同レベルなわけが……え?なんで皆頷いているんだ?いつの間にかホームがアウェイになっていたとは思いもしなかった。
「そりゃ全勝してりゃそう言いたくもなるって」
「個人的には勝っているわけじゃないんだけどなぁ」
スパーリングは時間制限がある。そしてそれが終わってしまえば延長なんてなく、スパーリングは終了する。だから俺の実力では勝てないと判断した相手にはひたすら守りを固めて時間稼ぎで負けない戦いをしていた。
これが本当の10歳なり11歳なりなら維持になって倒すことを目指すんだろうが、あいにく中の人は大人だから灰色に濁すことぐらいは朝飯前だ。
つまり全勝という表現ができるほど勝ってはいないんだ。
「さて、もう1回スパーリングに付き合って――」
『緊急速報をお伝えします!つい先程セプテンベル市、ノウェンベル市、マイウス市で同時多発テロが発生しました。プラント評議会の発表によりますと被害は各市の変電所が集中的に狙われており、市民には当分の間、電力の節約をお願いし――』
「セプテンベル、ノウェンベルにマイウス……全部工業系のコロニーばかりか」
世界の工場と呼ばれているプラントの工業系コロニーの変電所でテロ……しかも市民に節電を頼むほどの被害となると――
「随分とブルーコスモスは深く入り込んでいるみたいだな」
工業系コロニーの変電所の警備が薄いわけがない。しかもその守りがコーディネイターでテロリストがナチュラルならなおさら簡単に侵入できるわけがない。
にも関わらずこれほどの被害が出ているということは嫌な位置に内通者がいるということだろう。
今までテロがなく、不意を突かれたのならまだわかるが既にテロは俺の阻止したもの以外にも10以上は起こっているんだから完全に諜報合戦には敗北していると考えないといけない。
コーディネイターが優れていると言っても所詮人間ができることは限られているってことだな。
「坊主は察しが良すぎるぞ。それはともかく、すまんが俺は仕事が入るだろうから他のやつに相手してもらってくれ」
そう言っていつの間にか身支度を終わらせたボブが出て行った。
現役警察官でしかもどう見ても現場の人って感じだから非常時には休憩中はもちろん休日も出動は当たり前だよなぁ。
それに警察推奨トレーニングジムというだけあって他にも身支度して続く人が結構いる。
「ただ、警察官じゃないとあまり相手にならないんだよなぁ」
格闘系のスポーツ選手や候補がいるが……イマイチ気乗りしない。
前世でキックボクシングをしていた時は俺も格闘家の端くれだと思っていたけど、それは平和ボケと思い上がりだと軍人を目指す上で理解した。
どれだけ真剣に鍛えても動きが違う。所詮は人を殺すことを前提の動きじゃない。当然といえば当然だ。なにせスポーツは人を殺さないように作られた娯楽だからな。
本当に人の命……自分の命、敵の命、守る人の命、そして国を掛けて戦う軍人とではあまりに在り方が違う。
そういう意味ではボブは間違いなく軍人だ。今は警察官だが、殺すことを前提とした動きをしているから間違いなく軍が設立されることを前提として鍛えている。
多分はっきり明言はしてないがボブは黄道同盟と繋がっているのだと思う。もしかしたら特殊部隊だったりするかもしれないけど……まぁどちらでもいいか。
「とは言っても今が暇なのは間違いないからテキトーに相手してもらうか」
そのあと、スパーリング相手になぜか泣かれた。普通にプロボクサーの攻撃を全回避していただけなんだが……。
「連合にはもうちょっとまともな奴はいないのか?」
変電所の爆破テロでエネルギー生産効率が大きく落ちたことは子供でも知っていることだ。
そこで問題になったのは工業系やエネルギー生産はプラントの主要産業なんだが、この主要産業というのが内需や普通の輸出品なら良かったんだが……輸出品と言う名のプラント理事国への貢物のようなものになっている。
そしてその貢物は平時でもそれなりに重くのしかかっているのに生産が落ち込んでいる現状ではその圧迫は比にならない。
プラント評議会は当然そのノルマとも言えるそれを減らすように理事国と交渉した……らしいが……多分梨の礫だっただろうなぁ……結果は拒否。
このあたりが理事国がプラントを投資先と見ずに植民地扱いしているという所以だろうな。いい加減食料の生産を全て握られている段階でいい気分ではないのに。
「こうやって実体験してみると……プラント独立はブルーコスモスの策略か?」
原作ではどうだったか知らない。けど、少なくともプラントが独立するようにブルーコスモスに仕向けられているようにしか思えない。
今のままでは世論的にコーディネイターを根絶やしにするのは難しい。コーディネイターが妬ましいとは言っても殺したいと本気で思っているナチュラルはごく一部……のはず。
むしろこのままコーディネイターへのテロが続けば同情が集まって世論はコーディネイター擁護に流れる、なんてことはないだろうけど、少なくともそれをプロパガンダとした派閥が生まれて泥沼化する可能性もある。そうなったらコーディネイターマジ殺すマンのブルーコスモスとしては面白くないどころの話じゃない。
だからこそ、世論が影響しない……むしろ世論をコーディネイター排除に向かわせるために政治的な観点から攻めてきた可能性があるな。
『テロで被害が出て可哀想なプラント』から『テロも防げず工場を止めて物価が上がってエネルギーも不足させたプラント』という情報操作……いや、印象操作が行われる可能性が高いな。
もしこれが本当に狙いならかなり厄介な敵だ。
ナチュラルの敵と考えるとまず浮かび上がるのが……アズラエル?だったか?……うん、なんたらアズラエルだったな。顔は覚えてるんだけどな。
ブルーコスモスの盟主にして大西洋連邦を牛耳っている存在で核は持ってて嬉しいコレクションじゃない、とかなかなか現実的で非現実なことを言っていた人だけど……今何歳なんだ?SEEDでは3馬鹿におっさん呼ばわりされてたけどそれほどの年齢に見えなかったけど……もう活動しているぐらいの年齢なんだろうか。