第七話
「マジで理事国ってのは馬鹿なのか?」
あまりに理不尽な理事国からの要求にプラントで労働者……特に輸出に大きく関わっている産業の……がボイコットを行った。
それはもう大騒ぎになった。主にプラントの工業力とエネルギーに頼っていた理事国が。
そしてプラント住人が注目する理事国の対応は!!
「なんでこんなにフットワーク軽いのかねぇ」
近い将来、血で血を洗う戦争をする相手がこれほど愚かだと引き金が軽くなってある意味助かるが……まさかこれほど簡単に軍を……しかも艦隊を動かすなんて誰が思っただろうか。
おそらくプラント評議会もこんな対応は夢にも思わなかったはずだ。せいぜい陸戦隊が送られてくる程度だろうと考えていたに違いない。
いくらコーディネイターが相手であってもコロニーという柔らかい大地に住んでいる関係上、武力行使はコロニー内の大地で行われるという認識だっただろう。
にもかかわらず理事国が繰り出してきた手は艦隊、しかもモビルアーマーをしこたま展開した状態で威嚇するといものだ。
「そりゃ度肝を抜かれるよな……でも――」
確かにボイコットはやめた。それは事実だ。
しかし、プライドも能力も高いコーディネイターがたかが脅された程度でただただ泣き寝入りをすると本気で思っているのか……思っているんだろうな。実際ボイコットをやめると、そんなに時を置かずに艦隊は撤退していった。陸戦隊を派遣されることもなかった。
まぁ陸戦隊が送られてきたら送られてきたで十中八九コーディネイターがフルボッコにして余計に話がこじれてしまうだろうけども。
「まぁこの結果も敵愾心を煽っただけなんだけど」
反理事国、反連合、反ナチュラル一色となった。全員が全員ってわけではないだろうけど、少なくともプラント内でそれらを擁護するような言葉を発することができないほどには染まった。
そしてシーゲル・クライン、パトリック・ザラが主導して黄道同盟は活発に活動を開始したようだ。行動パターンが大きく変化している。さすがにどんな活動をしているのかまではわからないけどな。
ただ工場で働く知り合い曰く、絶対正規の商品以外の何かを造っているのは確実らしい。そして最後に「傲慢なナチュラルに鉄槌を!」って叫んでグラスに入った酒を飲み干すまでがお決まりの流れだ。
傲慢なのはどっちもどっちだと思うがもちろん口にはしない。
「もしかするとMS……ジンを開発してたりするのか?いや、戦艦の方かな?」
……そういえばSEEDの戦艦ってあまり知らないなぁ。アークエンジェル、ドミニオン、ミネルバ、エターナルみたいな主役級とラウ・ル・クルーゼ乗艦のヴェサリウスくらいしか覚えてない。
3隻同盟のオーブ艦の名前は思い出せない。出た第七話的に少ないし特徴的でもなかったから仕方ない。エターナルも登場自体は少ないけど特徴的な戦艦だし、フリーダムとジャスティスの母艦だし、Destinyにも出てたしな。……確かオーブだし和名だったような?
なんて考えを巡らすが、結局年若く、実績も人脈もない俺には黙々と鍛錬を積み重ねることぐらいしかできないんだけど。
連合軍威圧事件から1年。
プラント全体で見れば大きく変わった感じはしない。
大きく変わっていないというのはプラントの現状……市民が抱く、連合への敵愾心も、だ。
普通ならこういうのは時間が経過すれば何かがない限り収まるものなんだが……マジで連合は、理事国は、か?どちらでもいいけどコーディネイターを暴発させたいらしい。
プラントは食料自給率0%で100%輸入に頼っている……というより理事国によって依存させられているわけだが……あれからというもの理事国の気まぐれで食料の値上がりや定数割れ、トラブルによる遅延、食材の偏り(イモ類5割など)という嫌がらせが行われている。
食い物の怨みは怖いってことを知らないのか?ちなみにここのところ俺も芋はしばらく見たくない……が食べないという選択肢はないんだよなぁ。
自称クール系の俺でもさすがに熱血系に転職するのに時間は掛からなかった。
母親が頑張って料理してくれたが……芋は芋なんだよおぉ!!
プラント全体ではこんな感じだが最低限の平和……平和?な時間が過ぎているが、俺個人としては結構な変化があった。
「刈っても刈ってもキリがないな」
それは……青秋桜狩りだ。
字面だけ見れば紅葉狩りのみたいで楽しそうだが、現実は……俺の八つ当たりだ。
俺達の食卓を芋だらけにしやがって!……という理由もあったり……いや大半を占めているけど、実は自爆テロをまた同じ感じに阻止したんだ。
前回同様にラファエルが不審人物を見つけて俺が寸前で取り押さえて(重傷)また表彰されたんだが――
「まさか俺がブルーコスモスに狙われるとか……笑えない」
どうやら2回も自爆テロを阻止され、それで表彰されたことで恨まれたみたいでブルーコスモスが襲ってくるようになった。
幸いなのは銃火器の類は持ち込めず、使われなかったことか。さすがに鍛えても銃火器には勝てない。目の前で銃を抜いてくれればできるだろうけど流石に狙撃とかマシンガンみたいに連射されると無理だからな。
あと、明らかにブルーコスモスが俺を狙ったことでプラント評議会が動いてくれて俺達は保護対象となったので私生活においては安全がある程度確保された。
とはいえ、逃げ回るのは性に合わないのでたまにこうしてうろついて青秋桜を刈っているわけだ。
「お小遣い……金一封がもらえるし、迷惑な奴らを刈れるんだから一石二鳥だよな。これも一種の花売りって言うのかね」
俺の花売りは自分ではなくて他人を売っているんだが……ちなみに既に自爆テロを5輪ほど、そして俺達を狙ってくる暗殺者を3輪……いや目の前に転がっている2人を含めると5輪目か、を摘んでそれなりの収入になっている。用途は半分は生活費の足しにしてもう半分は将来への貯金だ。
主な目的はラファエルの将来だけどな。俺は戦争で死ぬかもしないから残せるものは残しておこうと思ってな。
どうせ俺が使うにしてもプロテインとかトレーニング機材程度だし、それもいくつも表彰されたおかげでスポンサー契約とか結んだり、今やプラント屈指の知名度を誇るトレーニングジムに行けばある程度融通してくれるからなぁ。
スポンサー契約ってのは青秋桜を刈っている俺に気づいて企業が支援してくれるって話になったんだ。
12歳の子供に何言ってんだ?と思いもしたが、よく考えれば前世でも現世でもスポーツ関連では普通のことだった……でもあっちは夢への投資だけどナチュラル憎しの投資だから微妙な気分になるんだが……結局契約したんだけどな。
というかラファエルの青秋桜センサーが凄すぎる件について。
おかげで母親のラファエルに向ける視線が和らいだし、周りから向けられる視線も変化した。
一応ラファエルがブルーコスモスを発見しているということはちゃんと報告しているから俺と共に表彰されているから当然といえば当然だ。
「子供のうちから実績が求められるなんて嫌な世の中だ」
10歳前後の子供に何を求めているのやら……幸い、ラファエルの虚弱さは進行していない。むしろ評議会から勧められた病院に通うようになって改善傾向でもある。さすが評議会から勧められた病院なだけはある。
だからこそ青秋桜狩りに協力してもらっているんだけど。
「僕もお兄ちゃんのように悪いやつらやっつけたい!」
…………俺に憧れたり、勇敢なのはいいがほどほどに頼むぞ。弟よ。