第八話
パンッという音が耳を叩く。
「反動は少しきつめだけど連射しなければ問題ないかな。あと普通より小さめだから俺でも持って歩けるし」
「いや、そのエアーガンは反動が警察で採用されている銃以上なはずなんだが……そうだよな?」
とボブは一緒にいたケント(同じくジム仲間)に話を振ると頷いて肯定してこのエアーガンがどういったものか説明してくれた。
「ああ、このエアーガンは空気を汚さないクリーンな銃として開発されたものだが射程内での威力は問題ないがその射程が短く、更には反動が強くて鍛えた男ですらブレブレで試作で開発中止になった品物なんだが……それにしてもお前、よく撃てたな。普通ならひっくり返って当たり前なのに的を捉えているし……」
「伊達に鍛えてないからな」
「いや、だから鍛えた男、大人ですらまともに撃てないって言ってんだろ!」
「根性と鍛錬が足らぬ」
「この脳筋がっ!」
「だからスクールの成績では上位だと前にも言っただろ」
「クソ、前々から思ってたけど坊主はハイスペックすぎる!」
「コーディネイターだから仕方ない」
「俺もコーディネイターだっての!」
さて、なぜ俺がこんなことになっているかの経緯を語ろう。
話はそれほど複雑ではなく、青秋桜狩りをラファエルと共に勤しんでいたらそれに気づいたボブが――「こいつらこのまま放置してたらいつか死ぬぞ?!」――と言ってせめて俺に護身用に銃を持たせようという話になって今に至る。
ちなみに未成年の銃の所持は違法、というか大人でも資格が必要なんだが、俺は特例……というわけではなく――
「それにしても火薬、電力、ガスを利用する銃に類するものを禁止するって法律に触れないように空気だけで銃を作るってのはどうなんだろう」
と呟きつつ引き金を引く。よし、的に当たった。次……急所直撃っと。
「だいぶ癖がわかってきた」
「……坊主、射撃は初めてだよな?」
「むしろこの年齢で射撃経験があるやつが……いや、結構いるか……ともかく産まれて初めて銃を持つぞ」
もちろん前世でも持ったことも撃ったこともない。ハワイにも行ったことないぞ。
ついでに言えばプラントにおいては未成年の射撃そのものは違法じゃないため、家族の誰かが資格を持ち、家に銃を備えているも結構あるそうだ……ウチ?あるわけないじゃん。だってめっちゃ税金高い。コーディネイターはそもそも鍛えていなくともそれなりに動ける人間が多い。同属ではあるがその同属故に能力が優れているとわかっているので銃を無条件に持たせるのは無謀というものだ。
とはいえ、青秋桜の侵入を許している現状では自衛手段を規制することもできないので税金で抑制するのは苦肉の策らしい。
ああ、そういえばプラント内の法律については情勢が反映されているかのように2つ法律が存在する。もちろん1つはプラント評議会によるもので1つは地球連合のものだ。
まぁどちらが使われているかは言わずともわかるだろ?一応ナチュラル相手には地球連合の法律が適応されるというのは明言しておく。
「確かに撃ち方は素人のそれなんだが……」
「おい、素人ってわかっているなら撃ち方からだろ。いきなり試射ってだめだろ」
「坊主は1度痛い目にあっておいた方がいいと思ってな!」
ひどい大人がいたもんだ。
子供の教育でそういう方法があるのは理解できるが銃でそれをやるのはさすがにないだろ。
「テロリスト狩りをしている子供の方がもっとないわ!」
「ぐぅの音も出ない正論だな」
「ならもう少し自重しろ!」
「だが断る」
「そんな駄目なところだけ子供なのマジやめろよ!」
「男は何歳になっても子供って言うだろ?そもそも俺はリアル子供だし」
「正論なんだがなんか納得いかないのは俺が悪いのか?」
「大人が小さいことを気にしたら負けだ」
「こいつは?!」
さて、じゃれ合いはともかくとして――
「連射しても銃身が熱くなりにくいのはいいな。音が大きいのは難点だけど」
圧縮された空気を解放することでエネルギーを得るので火薬のように不純物が銃身に残らないため連射しても摩擦が少ないらしい。ただし、その威力に比して音は煩い。
まぁ的が青秋桜であることを考えると発砲音は周りに警告にもなるし悪くはない……か?
「ところでさっきから的を外してないように見えるんだが?」
「見えるものを撃つだけでの単純作業なんて誰がやってもこの距離で外すわけがない」
「「いや、無理だからな」」
逆にこの程度のことができない方が驚きだ。
前世の俺やナチュラルには不可能だったわけだが、射撃場で環境が整えられた状態で的も静止状態だから身体能力に優れたコーディネイターで更に鍛えているならできて当然にしか思えない。
俺が規格外?……いや、別に規格外ではないと思うんだ。ちょっと前世の記憶があって鍛えるのが趣味な何処にでもいる12歳の子供だ。間違いない。
「じゃあ今度はシミュレーションをやってみるか?あっちなら的は動くぞ」
「面白そう。ぜひやらせてくれ」
で、シミュレーションをやった結果は――
「やっぱり人間、鍛えるのは大事だな」
と改めて実感する。
「確かにそのとおりだな」
ボブも結果を見て納得してくれたようで何よりだ。
動く的を狙うというのは結構大変だった。的の動きそのものはスローで見えているし、狙いも悪くない……と思ったんだけど、想像以上に難しい。
的が一定速度以下だと優れたこの身体は行き過ぎて、逆に速すぎれば身体が追いついても照準がブレてしまう。それに銃で動く的に狙いをつけるというのは腕を動かすということでもあるわけだが、このエアーガンのきつい反動は構えを取ってないと耐えられずに腕が跳ねてしまう。やっぱり鍛えるのは大事だな。(確信)
「坊主も普通の人間だったんだな」
「一体俺をなんだと思っていたのか気になるが……そこはツッコまないでおく」
主に俺の心へダメージを考慮して。
それはともかくとしてこうして俺は遠距離攻撃を手に入れた。
「心配して手配した本人が言うのもなんだが……渡しちゃいかんやつに渡しちゃいかん物を与えたような気がするぞ!」
「人間は後悔を繰り返して大人になっていくものさ」
「だからお前は何様だ!」
ボブの拳が後ろから飛んで来ることを感じて躱して文句を垂れ流す。
「おっと!暴力反対!児童虐待!」
「そんなこと言っておいて回し蹴りはないだろ!」
「……条件反射はどうしようもない。それにしっかり受けられたし無問題」
「坊主の蹴りをミットなしで受けてただで済むわけないだろうが!痣ができるだろ!」
「……ミゲルくんの蹴りも大概だけど、それを反応して防御までして痣で済むボ……トニーも大概だな」
「おい、ケント。今、ボブって言いかけたよな?お前とは結構な付き合いだと思って――」
「というわけでミゲルくんにこの銃を渡しておく。撃つ際には相手をよく見て判断してくれよ?」
「はい」
正直に言えばそのあたりのことは素手で人を簡単に殺せるのだから今更だと思う。
銃を使って殺そうが素手で殺そうが過程は違っても結果は同じだし、手に入れた玩具を振り回したくなるという意味でも同じだ。
前世の頃、キックボクシングを習い始め、それなりの成果が出始めた時に意味もなく暴力を振るいたくなったもんだ。その当時は社会人だったから理性という鎖で抑えつけて消化することができたが……さて、これが子供の頃、特に思春期だったらどうなっていたやら。せめて心を鍛えることを前提する柔道か空手、そもそもその性質上暴力に向かない合気道あたりならセーフか?空手は少し怪しいけど。