第三射 ドタマに穴あけたる
重々しい空気の中一人の老人が肘を腕につき、手を顔の前で口を隠すように組み軍人かと思われる人間に聞いた。
「36号…シックスの訓練状況はどうだ?聞くまでもないが…使えるんだろうな?」
「既に訓練の全課程を終えました」
「え?」
「え」
「なにそれこわい」
〜36号(以後シックス)に関する報告書〜
某日シックス対する戦闘訓練を開始した。本人の承諾は軽く得られたものの第三皇女が強く反発。以後シックスから直接説得されたものなり。訓練内容は以下の通り
・刀剣類、及びその他の武具を用いた接近戦
・暗器の使用訓練
・魔法の会得
・魔法に関する知識、及び術式に関する技術
・レアスキル『投影』の訓練
以上の通りである。なお全課程を数日で終了されたし。
開発記録にもあった通り知識と経験は継承されているようだ。魔法の件に関しては影の属性しか使えないため専門の魔法使いを抜擢。
基本すら数時間で会得、後は実戦で昇華されることを願う。なお訓練過程が終了後にはシックス独自による旧世界の兵器『銃』の訓練を開始、これは形になるまで少々時間がかかったみたいだが現時点では目を見張るものがる。
またレアスキルとして確認されている投影の魔法だがこれに関して多くの魔法使いが解析したがどれもこれも実現には至らず。この投影の魔法は魔力を用いて『現物』を生み出す特に極めて珍しい魔法である。なお自身が作った存在は自由に消すこともできるそうだ。
この投影による魔法には既存の魔法と同じように錬度がありそれによって再現度が上下する。
シックスが訓練に用いる銃の類もこれによる生産であり最初のほうこそ数発放っただけで故障の現象が見受けられた。しかし錬度を高めたのか現時点では故障の現象は見られず。またどれほどの生産を行うことができるのかまだ不明である。
〜報告書より〜
「すさまじい成長速度だ。いやここはやはり知識と経験の継承が成功した、と見るべきか」
獣人の重鎮がこの報告書に目をやり呟く。
シックスの成長速度もさることながら『知識と経験の継承』がどれほどすさまじいものかを皆は理解していた。中には研究に関する全てのことを処分するのを反対したものもいる。何よりこの『知識と経験の継承』に関する技術だ。これをシックスのように実現させれば多数の凡人で数百年に一度の天才を越えることが出来るのだ。
最もそれはあまりにも危険すぎるため皇帝自ら処分の命を下した。
「そしてこの投影という魔法、戦艦などは造れないのか?」
「設計図など詳細を教えてくれるならばと本人自らそれを肯定していますが…第三皇女の強い反発によって実際作ることはないでしょう。名目は護衛ですのであそこまで反対されると無理でしょうね」
チっと舌打ちの音が聞こえた。
しかし戦艦など造らなくともこのシックスがその分活躍すればいいだけだとまとめ役の重鎮が発言。
その言葉に無理に納得したのか厳つい顔で退室していった。
○
ダダダ!!
「当たりじゃ」
ダダダ!!
「ど真ん中…というか木っ端微塵じゃ」
ダダダ!!
「…真ん中」
ダダダ!!
「…」
ダダダ!!
「これ以上する必要はないじゃろ」
圧縮空間に作ってもらった狙撃訓練施設で俺は射撃訓練をしていた。
使用武器はバレットM82A2、素晴らしい出来だ。
隣で耳当てをして望遠鏡を覗いているテオ。
硝煙の臭いとか大丈夫なのか、まぁいいだろう。
俺が悪いわけじゃないし。
ちなみにテオに確認されなくても『肉眼』で見えるからね。
なにこの体。シモ・ヘイヘも目じゃないから。
どこの世界に機関銃でオンリーヘッドショットかますキチガイがいますか?しかもこの体反動をまったく受けないのだ。RPG-7、ジャッカルやハルコンネンだって反動が無いかと錯覚してしまった。
さすがエックスさんマジパネェっす。
「狙撃の秘訣はただ一つ、練習だ。かの死神シモ・ヘイヘもそう言っている。彼は『150mの距離から1分間に16発の射的に成功した』とか殺害率が150%とか。狙撃にはスコープだって用いていなかったんだぞ。しかも愛銃は今や旧式のモシン・ナガンM28だ」
俺の熱意ある演説にテオはため息を吐く。
…あ、別に知らないか。
ここじゃ銃(笑)だったんもんな。
腹を貫通した程度では回復魔法で治るし、さすがに無関心ではないが。
「そんなこと言われてもよくわからないのじゃ」
「あぁ、すまんすまん。旧世界の知識だ。俺には無駄な知識があるようだな。そろそろ上がるか。テオ、手伝ってくれてありがとな」
「ふん!妾の護衛じゃ!手伝うのは当たり前のことじゃからな!!」
いや護衛の訓練手伝う主様なんかいないって。しかも微妙にツンデレ調なのは何故か。別の訓練もすぐに終わったし、そろそろ戦争も始まるか。始まった理由はなんだったかよくわからないが、俺が原因となって戦争とか嫌だよなぁ。俺は俺の出来ることをするさ。何よりテオを守るという役目を。英雄?知るかボケ
「ほら速く行くのじゃ!」
「了解」
結果的にはこの世界は救われるしテオドラはジャック・ラカンに普通ではない感情を持つだろう。
俺がいなくても物語は進む、だがこの世界には今俺がいる。俺がどう影響するかどうかわからない。
本当は俺は何もしないことが良いのかもしれない。
ここには本当の主人公がいる。だが悲しいけどこれ戦争なのよね。
戦争中に俺に見つかって狙撃されちゃっても文句言わないでね。
ハルコンネン使う気まんまんだから。あれ絶対人間に向けていいものじゃないって。何よ射程距離が4000mって。
訓練に訓練時々テオとイチャイチャしたり。そんな日々の中俺は一歳の誕生日になったり戦争が始まったりと。完全なる世界っぽい奴らが重鎮達に接触していたが…さてどうするか。
さすがに射殺すると俺ってバレるからな。そんなことをするとまさしくメガロメセンブリアの老害どもが笑顔で噛み付いてくるな。
…どっかで聞いたような言葉だ。
「出撃命令、ですか?」
「…うむ。なにが護衛なんじゃろうな。妾を守るため討って出る、だそうじゃ」
ついにきてしまったようだ。
どうせ俺が先頭に繰り出されるだろう、死んだとしてもそこまでだ。
俺の肉体がそう簡単に死ぬわけがないがな。驚いたよ?まだ投影の錬度が低かったとき銃がよく破裂したんだ。
持ってた手の皮や肉が吹き飛んだね。
痛かったけどすぐに慣れるわみるみる再生するわ。
「テオドラ様」
「な、なんじゃ?」
「必ず帰ってきます。俺は貴方様の護衛ですから」
うむ!とにこやかな笑顔で返してくれた。
くさい台詞だと思うが俺の偽りのない本心だ。
戦争は正直怖い。人を殺すことも。悲しいけどこれ戦争なのよね。悪いが糞ったれども、俺の礎となりな。
○
ゴゴゴゴゴゴゴ
すごい光景である。
これが魔法界の戦争なのか、俺は一番先頭にある戦艦の…名前忘れた、まぁいいか…空を覆い尽くす戦艦戦艦。
俺にはただの的にしか見えない。
射程距離4000mの餌食だ、愚か者め。近づいてきたら影で切り裂いてやるさ。
「シックス殿、敵戦艦との距離残り5000mです」
不安の顔を隠し切れてないぞ艦長。
まだ戦力が定まってない不確定な存在がここにいるのだからしょうがないのだが、相手が戦艦なら余裕だ。
人を殺すのも慣れていはいるが、さてさて。
知識と経験の継承がどれほどのものか見せて貰ったよ。軽く引き金を引けるんからな。
「……あぁ」
フードを深く整える、俺はアルビノだからな。日光にはなんの影響もないが怖いのだよ。
俺は白いフード付きローブをテオの前でもしている。
フードも被ってるよ?あんまり顔見られたくないからべ。正直イケメンだったが目が怖いのだよ。
さてそろそろ甲板に出て砲撃開始と行きますか。
「どちらへ?」
「蠅は邪魔だと思わないか?」
はぁ?な顔をしている艦長どの。
術式を追加して強化したハルコンネンの力を見せてやろうではないか。
局点防衛用長々距離砲撃戦装備ハルコンネン、別に拠点じゃないが…全ての地上・航空兵器を撃破できると豪語している兵器の威力を見せて貰おうか。
あ、コンテナは邪魔だからハズした、どうせ弾は投影で作りまくるし。
くっくっく、広域立体制圧用爆裂焼夷擲弾弾筒ウラディミールの炎を受け取れ蠅ども。
ガチャン!!!
風の音がゴウゴウする甲板。ダイレクトに風がぶち当たる。甲板に固定されたハルコンネンのスコープから的を見やる。
狙うはブリッジ、またはエンジン部分、兵器の知識詰め込めばそれだけ優位になるのだよ。
何か撮影されているような気がするがまぁいいさ。
ズドン!!!
もはや『銃』はあらず。
大砲かなにかのような轟音が空に響く。
甲板に亀裂が走ったが気にしない。
わざわざ爆煙をあげている戦艦を見やる必要もないな、じゃ次行きますか。
〜とある艦長の日記〜
開戦より数週、ついに噂のエックスが投下されるという話を聞いた。しかも私が任されいる戦艦だというじゃないか。
正直不安であったが、それもこの目で見たときそれが全て吹き飛んだ。
彼が甲板へと移動し莫迦でかい大砲みたいなやつが文字通り火を吹いたんだ。一瞬のことだったよ。
私には何が起きているかわからなかったがとりあえず遠見の魔法で連合軍の様子を見てみたんだ。
もう何が何だかわからなかった。
次々と爆煙をあげる連合の戦艦ども。
何もすることもできずむやみに回避行動をとり味方と衝突。
そこを射撃(あの攻撃を射撃と書いてよいのかわからないが)され両艦共に火に包まれていた。
私の戦艦の甲板から放たれる紅い一本の閃光は、連合の戦艦を次々と地面にたたき落としていった。
このときが彼が甲板に出るまえに言った一言「蠅は邪魔だと思わないか?」を本当に理解したときだっただろう。
彼にとってアレはただの的、いやもはや的以外の邪魔ものでしかないのだ。
上空から落ちてきた戦艦に尚更混乱していく陸軍。
ブリッジを正確に狙撃していることに気付いたときは私は不安を越え恐怖を覚えたものだ。
これがあの帝国の秘密兵器エックスなのだろう。
〜某戦闘の後〜
何発撃ったかわからないぐらい撃った。
焼夷弾の効果か辺り一面火の海だ。
環境破壊?俺はテオを守ればそんなんどうでもいいんだよ!エコをオカズに飯は食えないのだよ。
気付けば味方以外の戦艦一つない青空に黒煙が天まで届いていた。制空権を反撃することも出来ずに奪われた連合は既に撤退を始めていた。
「シックス殿、連合軍が撤退を始めました」
「…見えてる」
いつのまにか甲板に出ていた艦長が教えてくれたが本当に見えてるからね。
彼の顔には不安の代わりに恐怖と興奮が混じっているように見えた。俺はただハルコンネンを立てて戦場という仮初めの名前であるただの蹂躙場を眺めた。多くの人間が死んだだろう。だがでっていう。
○
重鎮達は空いた口が締まらなかった。
まさか戦闘と呼べる戦闘を行わずに勝利を、しかも圧倒的な勝利をもたらしたのだから。
会議場には大きなスクリーンに二つの映像が流れていた。
方や黙々と長銃の引き金を引きリロードするフードの男。方やただ燃え尽きて沈みこむ戦艦の数々。
「勝ったな」
「あぁ」
一人の重鎮がやっとの思い出で口を開いて放った言葉にその返事、だれもそれを疑うことなどなかった。
ただ中にはそれが敵対するかもしれない恐怖を持つものがいた。その強さにただ陶酔するものがいた。
「これで連合の戦力は大きく欠いた。後は我々の仕事だ」
さすがに彼一人で戦争させるわけにはいかない、そんなことをすれば間違いなく愚か者だ。結局どの重鎮たちも自らの手柄が欲しかったようである。
「この戦局で我々の被害は零、方や連合の被害は見た目で8割の損害だ。戦争を続行できるかどうか疑問すら覚える」
気が付けば映像は二つの映像は一つになっていた。
映し出しているのは夕焼けを浴びるフードの少年。
右手で支える立てた長銃。そして天に届かんとする黒き煙であった。
○
「聞いたぞ圧勝…というかお主だけで良かったんじゃったな」
テオドラの笑顔が眩しい。どうやら俺はこの笑顔に惹かれているらしい。なにしろ現実ではこんな笑顔を見る機会なんてまったくなかった。
ロリコン?いいえ違います、俺も少年サイズだから大丈夫なの!というか俺一歳だから!ぼくひとちゅ!!
「御陰で俺の出撃予定は繰り上げ、老人共がよってたかって少なくなった手柄を奪い合うそうだ」
「ふん!いい気味じゃ!まぁお、お主が妾の側にいられるのじゃからそこだけは褒めてやらんとな」
プンプン怒ってかと思ったら顔を真っ赤にしてモジモジ言うテオ。
あぁ俺がもっと成長していたらお持ち帰りしていたろことだ、あぶねぇ。
「テオから貰ったアーティファクトも使う機会がなかったな」
まだ仮契約だがテオによると将来は本契約もするらしい。本契約の方法って何だろう。いや予想はつくが…。
「そうじゃなー、折角いいものじゃったんだが。…なぁシックス?」
上目遣いで何かを聞いてくるテオドラ。
いや流れからしてアレしかないんだろうけどさ。
「仰せのままに…『アデアット』」
出てきたのは龍の形を模したソーサー。ピンクの悪魔が乗りこなしピンクの機体に虹色の羽を持つエアライド、ドラグーンだ。
俺があのピンクボールと同程度のサイズと考えたうえでゲームより二回りほど大きい。人を乗せて空を飛び回れる。
「よし!さぁ行くのじゃ!」
音をたてて数秒で雲を突き抜ける。
おいそんなに俺に体を押し当てるな。
このマシンの特性故か自動に風やらを遮断する術式も展開するというサービスつき。
帝国の城を中心にぐるぐる回るようにしないとすぐに迷ってしまうほど速い、なにこれすっごく速い。
To be continued