第五射 ヒャッハーァの文学
ダァァン!!!
戦争も中盤と言ったら良いのか『紅き翼』の面々の御陰で進行速度が下がっているわけのだよ。
最も所詮やつら少数個人の集まりだ、1を守っても9は攻められてしまう。
特に俺が出撃している戦域で『紅き翼』とかち合うと99割(爆)の確率で抑えこむよう命令が下る。
別にやつらが死んでもかまわんのだがそれなりに『原作』を思ってしまうのだよ。
俺がいるから同じ流れにならないのかも知れないし、なるのもかもしれない。
世界の修正力とやらに期待するか?それだとナギ殺したって生き返りそうだ。
ダァァン!!!
あー、最近撃墜数増えねぇ。
連合の莫迦共も学習していたのか障壁を前面に張り巡らせるようにしてきたからな。
1000mぐらい近づかないと貫通出来ない、出来ても被害は少ない。
1000mも近づいたら艦隊戦始まっちゃうからね。
最初俺が乗ってる戦艦が落ちないかと不安だったが…
ダァァン!!!
上下縦横斜め前後カクカク動いて被弾率が未だに零、なんだこの戦艦は。
弾幕ゲーム宜しくグレイズ大稼ぎだ。
船員の士気も異常に高い、最近なんか『ヒャッハーァ』だけで通じるのか所々『ヒャッハーァ』しか聞こえない。
何はともわれ、1000mも近づきたくない俺が確実に戦艦を撃墜するためにハルコンネンの真の姿である30mmセミオートカノン砲2門を使うようにした。
さすがに2門から放たれる弾丸を同一カ所にぶち当てることは疲れる、精神的に。
フルオートしてもいいがそれだとスマートじゃない。
狙撃がいいんだよ!…これのフルオート射撃はやばすぎるのもある。
それに俺の現在の投影じゃフルオートだけには耐えれない。
影の倉庫にしまっておいた、前もって投影し術式を組み込んだ奴じゃないとすぐに砲身がいかれしまう。
「精霊砲!ヒャッハーァ!」
「ヒャッハーァ!」
ブリッジからの音声。何だよ『精霊砲ヒャッハーァ』って。具体的に精霊砲をどうする気か貴様等。格好も変わってくるんじゃねーのかこのままだと。世紀末なかけ声の空飛ぶ戦艦ってどういう組み合わせだよおいこら。
…さて、そんなことを考えていると連合の戦艦に飛んでいった精霊砲が消え去った、あっというまに。何故だ?大規模な対魔障壁か?
「む?」
何故か異様に目立つ高台。
肉眼では見にくかったのでスコープ越しで見ると…
「…黄昏の姫御子」
ツインテ幼女が鎖につながれていた。
他の戦艦のも消え去ったようだ。
なんかめっちゃざわついている。もちろんこの戦艦も例外ではなく…
「シックス殿!なんですかアレはなんですかアレは!黄昏の姫御子ってナンディスカー!!!」
「…黙れ」
ダァン!!!
声が響いてくる音声管にジャッカルの弾丸をぶっ放した。
ギャーギャー騒いで五月蠅い奴らだ。
魔法が消えるならそれは騒いだって同じことだ。
伝統だけのオスティアという小国が戦争に勝つためにはこの手段しかなくこれ以上効果的な手段はない。
オスティア王族が保有するマジックキャンセル。
しかしその王族は魔法を消滅させながら魔法を使うという末恐ろしい存在だ。だが存在的な魔力が『英雄』を生み出すほど多いわけでないのだ…王族だからしょうがない。
王が先頭に立って戦うなんてことはありえないのだ。どこぞのアーサー王じゃないんだぞ?
「…乗る船変えようかな、テオに頼んでもらうか」
そんなことを考えていたりすると「ズガァン!!」を大きな音とともに鬼神兵の集団が吹き飛んだ。
黄昏の姫御子がいた高台の前で守るように浮かんでいる集団『紅き翼』がそこにいた。突貫したら大打撃だな。少しは考えろよ。というかカッコイイな、ナイスタイミングだぞ、妬ましい。
「『来たれ』」
桃色の龍が具現した。
これのおかげで虚空瞬動やら飛行術とか覚える必要ないので安心だ。ちなみにこういったソーサーは魔法界では異様に人気が無い。
ソーサーで浮かぶぐらいなら飛行術の練習をするし何より箒があるし…みたいなやつだ。
軍事に開発しようとしても個人用ソーサーでは用意する数が大きく費用がかかりすぎる。そういった理由らしい。
○
「お、お前は『紅き翼』千の呪文の…」
高台を守っていたローブの魔法使いが赤毛の少年に指を向けて震える口を開ける。
そこには希望と、たったその少人数で何をする気か?という疑問だけだった。
「そう!!ナギ・スプリングフィールド!!またの名をサウザンドマスター!!」
空中に浮遊し自分の名を誇るかのように叫ぶ。
自分で二つ名を叫ぶ赤毛の少年に『アルビレオ・イマ』と『青山詠春』がやれやれ、と言った表情で、しかしどこか嬉しげに困っていた。
「行くぜうりゃぁ!!『千の雷!』」
複数の鬼神兵を雷が貫く。
大きな爆音と輝きを放つその姿はまさしく最強の魔法使いに相応しかった。
あんちょこ見ながら唱えているという点で全て台無しであったのはここだけの秘密だ。
周りに群がる帝国の尖兵を次々と倒す『紅き翼』
「…よう、嬢ちゃん。名前は?」
「ナ、マエ?」
そんな中赤毛の少年が鎖でつながれた少女、黄昏の姫御子へと話しかけた。
赤毛の少年の魔力は絶大、しかし人間個人の力では世界を変えることなど不可能、それをフードの男に言われた赤毛の少年。だが赤毛の少年はそんなことわかっていた。そしてわかった上で行動していると。
「アスナ…アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア」
赤毛の少年は少女の口から垂れていた血を拭った。
名前を聞いたころに満足した彼は目の前に存在する帝国の軍を倒そうと気合いを入れる。
そのときであった…
ズガァァァン!!!!!
「な、なんだ?」
「…狙撃手に見つかってしまったようですね」
慌てるオスティアの魔法使い。
そして珍しくいつも同じ表情のアルビレオ・イマが険しい顔になっていた。
赤毛の少年も。
メガネの剣士も。
高台の隅に巻き起こった爆煙を睨み付けていた。
爆煙がはれる。
しかし姿があったのは桃色のソーサーのみであった。
ソーサーがまっすぐ高台へとツッコンで来たのだ。だが驚いた彼らは一瞬の隙を作ってしまった。『彼』がその隙を突くにはあまりにも大きい僅かな隙を。
ガチャッ
「しまった!?」
メガネの剣士が叫ぶ。音がした方向は彼らの後ろ。黄昏の姫御子のほうからだった。
「……無様」
「白いフードに…赤い目!…す、スナイプ・オブ・インペリアル…!?」
「野郎!!せっけぇマネしやがって!」
ただ一言しか言わなかった帝国の狙撃手(スナイプ・オブ・インペリアル)白いフード付きのローブにフードの奥から覗く真っ赤な目。
彼は黄昏の姫御子を掴み上げ米神に黒い拳銃を突きつけていた。
『紅き翼』の面々が攻撃しようとしても黄昏の姫御子の存在がそれを許さなかった。
魔法の詠唱よりどっちが速いか、無詠唱の魔法よりどっちが速いか、一目瞭然だった。
「餓鬼一人も救えないかスプリングフィールド」
無表情に淡々とのべる狙撃手。
その様子に怒りが達した赤毛の少年は叫ぶ。
「てんめぇ!!」
「ナギ!!!」
大きな焦りを抱いていたアルビレオ・イマは必死に赤毛の少年を押さえ込む、彼は今人質を取っているのだ。
連れて行かれて利用されたらそれこそ終わりだ、とアルビレオ・イマは思っていたのだ。
利用しないにしても黄昏の姫御子はオスティアの大きな戦力であるのだ。
それを失えば王家の血筋の一端を消すことにもなる。
戦力を下げたことを喜んで帝国は進行してくるだろう。
「すぐに発砲しない様子から見ると、なにか用でもあるのですか?」
アルビレオ・イマは彼が会話してくれることを望んだ。
会話に引きつければ『紅き翼』も動けないが『帝国の狙撃手』の動き封じることが出来る。
今や帝国連合両方にとって『狙撃』の代名詞とも言える彼の存在は大きい。
戦わない、その一つだけで大きく違うのだ。
「……」
しかし狙撃手は何の返答も無かった。
会話には耳を傾けているような様子だったためひとまずは安心するアルビレオ・イマ。
今の彼らには時間稼ぎしか出来なかった。だが彼らは知らない、狙撃手の真の目的を
「(やべー、何も考えずに人質にしてしまったわ。お持ち帰りも駄目だろ?さすがに無抵抗の幼女殺せないし)」
戦場での迷いは死に直結する。狙撃手もまだまだのようだ。
○
「おい何か答えろ!」
ナギが五月蠅い、ほらみろアスナちゃんも怯えて…はい俺に怯えていますね。というか俺って近接の発砲とかあまりやりたくないんだよね。
血肉が飛び散るし。
旦那のジャッカル強すぎんだろ、普通の銃は穴が空く程度だろ?なんでバラバラになるんだ。
あー、誰か俺をこのまま帰らせるきっかけ作れ…しょうがない。最後の手段を使うしかないのか!情報渡すために来た!な感じにすればいいかもしれない、最悪の好感度も少しは上がるだろう。
「『完全なる世界』」
「あぁ!?」
先生この人怖い何この人怖い。どう見てもチンピラです本当にありがとうございました。
このチンピラは素で強いから本当にやばい。だいたいチンピラなんてやってるやつは噛ませ犬なんだけどさ。さすが主人公(笑)
「人類か人間を選べ愚かなイカロスの翼…む」
丁度よかった!何故か妙に静かな艦長から戦闘終了のお知らせ。
ここの戦域はある程度片付いたらしい。
「何わけわかんねぇこと言ってんだ!早くその子を放せ!」
別にいいよ?もう俺帰るし。
俺は銃を下ろして掴んでいた姫御子をナギにぶん投げた。
あまりの出来事に声も反応も出来ないかお莫迦フィールド、お前如きに俺の行動を予測出来るわけなかろう!!フゥハハー!…艦長の笑い声が移ったか?
「……帰還」
テオ以外の前だと上手く話せない、超恥ずかしい。
前世でもあんまり人と話す機会無かったからね。
最初に見た存在であるテオは特別なのか、なんだか余計に恥ずかしくなってきた。
「おい待てや腰抜け!!」
ドーーーン!!!
放っておいたドラグーンに乗り込んで俺は戦艦へと帰還する。
やっぱり駄目だったね、何も考えずに行動するのは。
勝手に行動して上手くいくのはああいう莫迦だけだよ。
俺にはとてもとても。
それにしても腰抜けだと?その通りだと思うよ、君よくわかってるね。
狙撃手たるもの常に逃げ腰で殻に籠もるタイプじゃないと、近接戦闘するのは戦闘狂だけだろ。
なんで魔法あんのに格闘するの?趣味かオラァァ!!
ドォォォォォン!!!!
おおっとあぶね!あの赤毛の莫迦『千の雷』ぶっ放して来やがった!!怒り極大なせいかあらぬ方向へと飛んでいったが…これだから前線は怖い。
もうお家(城)に帰りたい、そして布団を被りたい、そしてお家に帰ると今度は魔法使い様(笑)に実弾兵器を使うことをダシに莫迦にされるんだ。
パパ、ママ、こんな職場ですが僕は頑張ってます。
○
「奴ら黄昏の姫御子を前線に出したとな!?」
帰宅後、俺の本来の任務であるテオの護衛にいそしむ。
まぁこんなところで襲う莫迦はいないようで。護衛という名の子守かもしれん。俺1歳だけどさ。
「なんじゃかいよいよ焦臭くなってきたのじゃ」
そりゃそうだ。気付くやつは気付く。
戦力が減らない連合、突然帝国によるオスティア奪還のための戦争。
そして降伏するわけもなく王族である黄昏の姫御子を投入し出す。
まるで戦争を長引かせようとしてるみたいだ。
「何かしらの存在が裏から糸を退いてるやもしれん」
俺の言葉に目を大きく広げる。
焦臭いがさすがにそこまで考えはいなかったのだろう。
それが『完全なる世界』と教えてもいいが、どうせオスティアのアリカ殿下との対面後普通にわかるのだ。
示す証拠もないため、下手に教えて『完全なる世界』に追われることになりかもしれん。
追われないようにするのが俺の仕事だがな…なるべく危険な道を渡らせたくはないのだよ。
「何かしら!?そうだとしたら一体何を目的に…!?」
「戦争を長引かせて儲ける兵器屋か…」
「第三の国が漁夫の利を獲ようとしているのか…か?」
俺はコクン、と頷いた。しかし漁夫の利を獲るとするなら既に諦めているだろうよ。
どんなに戦艦を送り込んでも俺が撃墜しちまうからな。
互いの戦力を減らそうとしているのに帝国が相変わらず、連合の戦艦はどんどん沈んでいくって図になっている。
『紅き翼』が出撃している戦域ではそうでもないみたいだが…
「…今は保留じゃ。藪のなかに何がいるのかわからないのじゃ。藪をつついて何かを出すなんてことは…」
もう一度言うけど出てきたときのための俺だけどな。
「やはり戦争はコリゴリじゃ」
皇女といえど第三位。
継承権も薄く将来も政略結婚などで決まっているようなものだ。そんな自分の発言力が低いことを恨めしそうにため息を吐くテオ。
肩をがっくり落とすその姿に萌えたのはお兄さん(一歳)との秘密だぞ?
To be continued