第六射 テオご乱心でござる
突然だが俺はキメラでもある。
本当に突然で申し訳ないが…キメラとはまぁ簡単に言うと合成生物のことだ。
一つの肉体に複数の遺伝子を持つ存在のことである。
ギリシャ神話に登場する伝説の生物「キマイラ」に由来しているそうだ。
本来は生物が持つ免疫という体内防衛システムが『自分とは異なるモノ』である異なる遺伝子を破壊してしまう。故にキメラは存在不可能であったのだ。
例外としては遺伝子情報が近いモノからの臓器移植だ。しかしそれは同じ人間という生物の範囲だからこそギリギリ可能であるのだ。
俺の中身には龍やら狼やらあらゆる化け物が詰まっている。さて、人間と龍や狐や猫、マンティコアはどれほど遺伝子が違うものかな?そんな科学ではありえない技術を成功させた技術はまさしく『魔法』である。
更にいうとベース体であるホムンクルスも結構やばい。
ホムンクルス、別名『フラスコの中の小人』その名からもわかるとおりホムンクルスは大抵製作途中で死に絶えてしまう。
禁忌とする場所もあり研究者も異様に少なく例が少ない。
魔法といえどこれらの技術は相当レベルが高いものであるのだった。
俺の肉体を開発した研究者はまさしく狂気の塊と言えるだろう。だがホムンクルスとキメラという高レベルの技術を使用し、そしてその二つを組み合わせたその脳味噌は褒めることが出来る。
最も、俺の知識での研究者…俺の産みの親は様子からして特に深い考えでもなく適当にホイホイ技術をツッコンでいただけのように見えるのだが。
ただ詰め込む技術のレベルが『無駄遣い』の言葉が合うほどすごい。
なんでこの帝国抱え込みの研究者がクビになろうとしていたのかわからないぐらいだ。
彼ならば数年に一度の研究成果の発表も楽々だと思う。
そう考えるとこの研究者に『完全なる世界』が関わっていたのではないかと思ってしまう。
そうであるのならば、優秀すぎる人材を方向性のある狂気へと導く、なんと恐ろしいことか…深く考えるのはやめようと思う。
科学者は死に帝国の重鎮たちは俺に関するあらゆる存在を灰にしてしまったのだから真相は不明でありそれには正直俺も助かる。
さて、俺には狂ってるとしか思えない過程で作られた。
キメラに使ったサブの生き物も『こいつ強そうじゃね?よろしいならば追加だ』そんなノリで加えられた。
途中で腐った過去の実験体もツッコまれるわ、鬼神兵が混ざるわ…だが俺を俺として存在させるために組み込まれた術式は異様なものである。
数百数千もの化け物が混ざったのにも関わらず俺が人間の姿をしているのは『肉体固定』の術式であるしそんな大量の生き物が人間サイズになるのだ、体重がやばい。しかし俺は重くないのだ。
体重を筋力に転換する術式を見つけてしまった、その時は唖然としたものだ。
俺は影の魔法というある意味『術式』を専門とする魔法しか適性が無い。
開発途中ではあらゆる適性が抽出され追加されたはずであるが、なんでも影に喰われたとかよくわからない隠喩を使われる仕舞いだ。
さて何故影の魔法が術式に深く関係するかというと…影の特性のせいであるのだ。
影だよ影、『切断・貫通・拘束・倉庫』しか思い浮かばない。
詳しくなるとそこに『浸食・吸収・緩和・衝撃』とか入ってくるのだが…。
影は火や雷のようにそれそのものが外に影響することはない。
つまりだ。
影を上手く利用するためには術式による追加効果が必須であるのだ。
例えば『障壁破壊』や『爆破』などだな。
『爆破』の術式を組み込んだ影の塊で爆撃するチート野郎がいたとかいなかったとか。
一瞬のうちに大量の影に大量の術式を組み込むとは…さすがだ。
術式は非常に面白い、科学と魔法の合成みたいな感じだ。
呪文詠唱による発動する魔法の効果を文字で表すという。
極めれば既存に存在する『例』的なものではなく自分専用のものを作れる。
まぁ大抵の人間は既存のものにちょっと追加したり修正したりして自分に合わせるだけなのだがなぁ。
既存の『例』でも魔力を大量に込めれば広域殲滅魔法も防げるからね。
研究されきってる感は否めない。だが俺の肉体に組み込まれている『肉体固定』や『体重転換』は今までに類を見ない存在だ。
魔法とはそもそも人型の者が使うものだから『肉体固定』は必要ない。
わざわざ犬や猫の体型になりたい奴は…いるかもしれないが。
『体重転換』も必要ないものである。
200㎏300㎏程度では魔力強化のほうが随分と効果が高いのだ。
推定数百トンの俺だからこその術式である。
これらの術式もあの研究者が一から組み上げたものだと知ったときには…鳥肌が立ったよ。
「鳥肌が立ったよ(キリッ!」
「なに一人でブツブツ言ってるのじゃお主は」
すまん、術式の勉強が非常にややこしいからつい現実逃避してしまった。
俺の撃墜数が愕然と落ちている今日このごろ。
ハルコンネンの強化、及びに影魔法の研究、訓練過程は終了したものの未だ未発達な部分もあるし何よりテオを守るためだ、幾らでも頑張るさ。
「テオのことを思うと頭が壊れそうで」
「う、嬉しいのじゃがどこか危ない感じがするのじゃ…」
顔を赤くしているが微妙に引きつっていたような気がする。
フフ、照れやがって…さて術式の話に戻るが、不思議なことに俺は影以外の属性魔法は呪文で具現させることは出来ないが、術式による、例えば武具に属性を追加したりすることは出来るのだ。
出来る、と言っても精霊の力を借りることが出来ないため非常に効率が悪いの難点であるのだが。
「グレート=ブリッジも陥落したのじゃからそんなことをする必要ないじゃろ〜」
寝転がってタレているテオ。
テオが俺が戦争に行くことに反対してくれるのはめっちゃ嬉しい、恥ずかしいから顔に出さないけど…『肉体固定』ってばマジ便利。おかげで帝国内で『顔がサイレント・キル』とか呼ばれた。命名は艦長。
最近艦長が偉くなってきている。数隻を預かる提督になったとか、北の艦隊に配属されたとか。
俺が乗る戦艦じゃなくなったので泣いていた。「ヒャッハーァ殿!私はあなたを忘れません!」…名前が固定していた。
「テオのためさー、幾らでも頑張るさー」
「むぅ」
枕に顔を埋めてバタバタしている。
あぁー平和だなぁ。え?グレート=ブリッジが陥落したとか聞いてないって?そりゃ言ってないし俺出撃してないもの。
グレート=ブリッジは戦艦と違って防御主点だからね。
俺の狙撃にも限界がある、それなりの重火器生み出せばなんとかなるかもしれないけどなー。
今回は作戦上俺は必要のなかったのだ。その作戦は簡単言うと
①堅くて『スナイプ・オブ・インペリアル』でも落とせそうにないぞ
②じゃ持ち前の大軍で落とそうぜ!
③遠くて行くのが面倒だな
④じゃみんなで転移しようぜ!
⑤じゃさっそく大規模遠距離転移の開発だな
⑥おk把握
大規模転移でグレート=ブリッジの要塞までひとっ飛びだからな。
艦隊戦でもないし狙撃の俺はあまり必要ないのだ。いや地上戦しようと思えば出来るぞ?普通に乱射すればいいだけだからな。
いつのかにか戦艦撃墜用になってしまった俺だ。
最近は敵さんも上手くなって数弾ぶちかましてようやく落ちるからな、その前に俺が乗っている戦艦が落ちないかとヒヤヒヤしてなかなか集中出来ない。
…運が良すぎて適当に引き金引いても当たるのだがなぁ。
狙撃手として一発一発魂を込める必要があるわけで、そんなことは邪道である。緊急の時は重宝するがな!
「む?もしもし、なんじゃ…?何!」
電話っぽい魔法具で話だしたテオちゃん。…あー、グレート=ブリッジのことかな?
確かあそこ大規模転移の侵略の後もう一回『紅き翼』の活躍で奪還するんだっけ、そして帝国は退却せざるを得なくなるわけだ。
グレート=ブリッジを拠点にあらゆる場所に陣取ったのはいい。だがグレート=ブリッジからの物資補給が無かったらお終いだ。
帝国は連合を落とす最大のチャンスでありながら弱点丸出しという不思議な状態にあるのだ。
一点突破という点ならば俺よりアイツらのほうが優秀だ。なにより人数が違うからね?
「そうか…うむ、わかった」
ガチャっと切るテオ。何故だろうか?電話のような物には必ず『ぷるるるる』という音と『もしもし』という返事と『ガチャッ』と切る音があるのは。様式美だろうか。というか最初に『もしもし』言い始めた人って誰だろうな?更に言うとドラマとかで電話が切れた後にももしもし言ってる人がいるが…電話が切れた後にもしもししても意味ないよね。
「…『紅き翼』か?」
「そうじゃ、グレート=ブリッジは陥落。広域に点在している軍も即刻撤退しないといかん。また、遠のくな」
戦争、の一言は言わなかったが俺にはよくわかるよ。
戦争に参加している身でありテオの護衛である俺はどうすればよいのか、俺が戦うことを拒否した場合、帝国は落ちる。
それほど奴らの補給力が異常なのだ。だが俺がいれば均衡する。均衡するどころか戦争に集中すれば連合を砕くことも出来る自信が…少しだけある。
俺がいないほうが戦争が早く終わる、テオとアリカ殿下の出会いももう少し早くなっていたのかもしれん。
「む」
テオが俺のローブを握っていた、どうにも顔に出ていたか。
基本無表情(というか表情が上手く作れない)なのにテオはわかるらしい。これが愛の力か。
「…」
「…悪い」
俺の思考が読めるのか(愛の力で)無言で俺を貫く。だが俺も(愛の力で)言いたいことを受信しとりあえず謝る。
俺は個人という兵隊なのだ、考えてもしょうがないことだな。あるのはやるべき事をやるだけ。先生(シモヘイヘ)俺頑張るよ!
○
「——まるで誰かがこの世界を滅ぼそうとしているかのようだ、ですか?」
帝国から取り返したグレート=ブリッジの畔にて、アルビレオ・イマが赤毛の少年の言葉に続いた。
終わらせるために戦えば戦うほど矛盾するかのように戦争は長引いていく。
『スナイプ・オブ・インペリアル』一人によって連合の戦艦200隻ほど沈められたが、それでも今なお尽きる気配がないその供給力に誰もが疑問を感じていた。
一人、褐色筋肉達磨のような男を除いて。
「ある意味そうかもしれないぞ」
「ガトウ」
ダンディズムがしみ出して人の姿をしたようなスーツの男『ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグ』が肯定した。
その隣には同じようにスーツに身を包んだ少年『高畑・T・タカミチ』がいた。
「俺とタカミチの少年探偵団の成果が出たぜ。やはり奴らは帝国・連合の双方の中枢にまで食いこんでいる。そして奴ら秘密結社『完全なる世界』だ」
「『完全なる世界』ですか。そりゃなんとも…偶然の一致でしょうかね」
アルビレオ・イマが顔を引き締めて言うがいつもとあんまり変わらないので皆重要性に気付かない。
赤毛の少年は忘れていてメガネの剣士は存在を忘れ去られていた。
「一致?なんだぁ知っていたのか?」
「『スナイプ・オブ・インペリアル』がそんなことを言っていたな。確か…『人類か人間を選べ』だったか?」
さすがに影が薄いことを気にしていたのかメガネの剣士『詠春』が代わりに返す、それに答えたのは赤毛の少年の魔法の師『ゼクト』であった。
「狙撃手か、そやつも『完全なる世界』の一派なんじゃろうか」
「そりゃねーな。自分達のことをベラベラしゃべるような奴じゃねーよアイツは」
否定したのは赤毛の少年『ナギ・スプリングフィールド』、彼の普段とは全然違うマジメで的を射ている解答に皆は驚きを隠せない。
「あー、そこまで評価してんのか。そんなに強いのかそのスネイクとか言う奴は」
褐色肌の大男『ジャック・ラカン』が欠伸をしながら呟く。
『紅き翼』の面々はそれに首を縦に振り肯定、ジャック・ラカンが『紅き翼』に参入し戦うようになってからは狙撃手の出撃回数が減り、一番大きいグレート=ブリッジ奪還戦でもいなかったのだった。
「というか『スナイプ・オブ・インペリアル』ですね、彼の射撃は正確無比ですよ。戦艦撃墜数ならあなたを軽く越えています」
「ば、馬鹿な!?たかだか後ろでチョコチョコ撃つよう奴に…」
ズーンと沈み込むラカン。
ナギは同感する節があるのか引き笑いをしてそれを見ていた。
○
「シックス!出かけるぞ!護衛じゃ護衛!」
妙に元気だテオ可愛い、なんで今更出かける必要があるのか?つうかいつも護衛してますよ。
襲ってくる莫迦いないけどね。
「御意」
まぁどこまでもついていきますサー御姫様。
あれ、これってデートじゃね?
羨ましいか莫迦共。ウヒョヒョヒョ。
「オスティアのアリカ姫が妾と会いたいそうじゃ。なんでも戦争を終わらせたいとな」
ヒソヒソと教えてくれた、あぁそういうことか…デートじゃなかったよ。
…べ、別に期待していたわけじゃねーからな!本当だぞ!
「妾のプライベート船で行くのじゃ、操作はまかせた」
操作出来るかどうかわからない件について
To be continued