第七射 テオドラ様と愉快な豚共
なんとかなる、これほど良い言葉はないと俺は思う。
実際なんとかなったからこそ余計に重みを感じ、全国の受験生の皆に伝えたい。
いや本気にしちゃ駄目だよ?…まさか飛空船を動かせるとはな。
確かに俺は色々なものを受け継いでいるがそれが知識であったりと感じたことの無い経験という矛盾したようなものであるわけで…だがよく考えると原作でも魔法界に行った生徒達が普通に飛空船を手に入れ普通に動かしていたような気がする。
あれは市民船とか言う奴だろうか。
テオのプライベート船といえど普通に武装しているこの船は一体どっちに分類されるのか…あ、皇族御用達って奴か。
「こっちでいいのか?」
「うむ、ほら…あそこの遺跡じゃ」
魔力エンジンの音が響く中、ゆったりと目的地まで進めていた。移動中は襲ってくる奴もいなかったしすこぶる快調な航海もとい航空であるわけだ。
アリカ殿下が何故テオと接触しようとするのかイマイチ理由がわからないがアリカ殿下がテオを認めている、と納得することにしよう。
確かに第三皇女で相続権が低いとはいえど彼女は皇族だ。
政治やらなんやら結構優秀っぽいよ?俺、政治とか全然わからないからどうすごいかよくわからないが。
「ドラグーンで行ったほうが速かったな」
「あれは結構有名になってるのじゃ、見つかりやすくなるじゃろ」
なるほど、そういうわけか。認識阻害にも限界あるしな。
そもそも認識阻害の魔法は魔力やら気に精通した存在に対してはあまり有効じゃないしね。あれ隠蔽用だから。
どこかのチーターズのように違う人に見せかけるような術式俺作れないから、専門は影の『切断・倉庫・浸食』に追加術式で『障壁突破・衝撃』だ。
爆破とか難しすぎます先生。
後は対魔、対斬、対壊、対突、対異常やら…。武器が強力な分だけ防御面にまわしているわけだよ。
「はーい、第三皇女御一行様とうちゃ〜く」
俺とテオ以外いないけどな!カツンカツンと外へ繋がる階段を下りる。
荒々しい岩石が剥き出しの荒れ地のど真ん中の、かつて繁栄した文明の絞りカスなのか岩をくり抜いた物体の数々。
ヘラス帝国首都から南東、大胆にも連合の領地内である…罠だろこれ、常識的に考えて。
いや実際罠ではないのだが戦争中の相手国の皇位保持者と接触だなんて、俺にはマネ出来ない。
…罠であろうがテオには指一本どころか同じ空気さえ吸わせはせんよ。
「うむ!苦しゅうないぞ我が騎士よ」
騎士?後ろで引きこもってバカスカ引き金を引く奴が騎士とな!?…語呂よくね?韻踏みすぎだろ。俺の今の気持ちは『波貝』のようにはみ出ているぞ。
「……」
「お、アリカ姫じゃな」
石畳の遺跡から来たのは腰まで届く真っ直ぐな金髪に翠と蒼のオッドアイ、そしておっぱ…オスティアの王女『アリカ・アナルキア・エンテオフュシア』である。
最近オスティアが大人しいので調べてみたらどうにも彼女がクーデター起こして国を乗っ取ったらしい。
悪いことに見えるが前王は『完全なる世界』と繋がっていて真っ黒黒助でして、っていうオチだ。
「よく来てくれた、テオドラ第三皇女。そちらは…!『スナイプ・オブ・インペリアル』じゃと!?なぜここに?」
白いフード付きローブに加え赤い目ならば全員そうじゃね?…あぁ、そういえば俺以外にこんな格好している奴みたことないわ。
常にフード被ってる奴もいないしアルビノによる赤目なんてほぼ居ない。
そもそも人のアルビノってほとんど外でないからね、俺が異常すぎるのだ。
アルビノの癖に妙に目がいいし確かに日光は眩しく感じるけどそれも慣れた、普通はサングラスとかかけないと危ないんだけどなぁ。
肌色は血が通ってないのかと思うほど白いし、目がいい、というより第六感まで全て含めた感覚器官が異常に発達しているのだろうよ、俺特別製の肉体ですから。
「シックスはもともと妾の護衛じゃ、さて。そろそろ本題に入ろうかの」
護衛ですよー。守りますよー。な空気を感じてもらえないのが悔しいビクンビクン。というか『スナイプ・オブ・インペリアル』と言われたとき少し敵意感じたからね。
そりゃ戦艦とか色々落としまくったけどさ、悲しいけどこれ戦争なのよね。…何回目だこれ。
○
密会、といっても内容はだいたい予想できるだろう。
戦争やめたいのじゃ〜、おk、頑張るのじゃ〜。と年寄り臭い会話が続く。なんとも言い難い空気だ。
俺空気だしね。
や、護衛が騒ぐようなことは極力ないほうがいいのだが悪いがそうもいかないみたいだ
ガチャン!
「む、嗅ぎつかれたのか?」
コクンと俺は頷いた。
アリカ殿下も少しは予想していたのだろう結構落ち着いている。
さて、今回のミッションはこうだ。
アリカ殿下を追加したいつもの護衛。
今回は二人同時に護衛だからかなりキツイ、どっちかが捕まったらゲームオーバーだろう。
殺されることは何故かないが…、テオが捕まる?おお勇者よ捕まらせてしまうとは情けない。
「…目を潰れ」
ジャッカルさんは使えない、肉ミンチなスプラッターな光景みせてしまうからね。
第三の鼻の穴が空く程度のものでいいんだよ!
装備は『デザートイーグル』だ、全長269mm、全高149mm、重量2053g。使用する弾丸の弾頭径は0.54インチ。
拳銃のくせにめちゃくちゃ強い、ジャッカルさんと比べると月とおっさんだが。せいぜい肉が飛び散る程度だ。
「…覚悟ぐらいしておる」
ダッダッダッダッダッダッダ
大量の足跡が響く。
隠れる気もまったくないらしい。
移動中は尾行された気配が無かったがアリカ殿下についてきたのか、それとも事前に知っていたか。
どっちにしろ俺には関係のないことである。
やれることをやれ、俺の先生もそう言った。
「見つけ「パァン!」…」
パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!
両手に持ったデザートイーグルさんが火を噴く。
狙撃手としての誇りのため全員ヘッドショットで決める。
下手な部位に当たって生き残ったら面倒だからな、情報を吐かせるのもいいがたぶん無駄で無理だろう。
「ク…『スナイプ・オブ・インペリアル』!誰がこんなことをさせたのか聞く必要はないのか!?」
パァン!パァン!!
「そ、そうじゃ。お主なら出来るじゃろ」
身長の関係で俺の足下に伏せてもらってるアリカ殿下が銃声に負けじと叫ぶ。
テオは俺のローブにしっかりとしがみついていた。
いやはや役得役得、ってTPOぐらい弁えよう。
さて、情報を掴むことは出来ないの理由は俺が一人で防衛対象が二人であるからだ。
「無理だ、護衛対象が二人いるのでな。そら外に出るぞ」
とりあえず脱出しなければならない。いざとなったらドラグーンを使えばいい。
テオと俺はどうにでもなるのだ、問題はアリカ殿下。
そのためはアリカ殿下が乗ってきた船に行かないといけん、しかしここで問題がある。
下手に船に乗り込むと結構やばいことだ。
船からの攻撃は数で押してくる相手には微妙な域だし、そもそも戦闘を目的とした船じゃねー。
敵を全員なぎ倒す、あるいは戦意をゼロにする必要があるわけだ。
「……」
無言でついてくるついていくテオとアリカ殿下。
銃声が響き断末魔があがるたびにビクッと震えているのは隠しきれないようだ。
それでもアリカ殿下は目を見開き死んでいった兵隊を見据えていた。なるほど、王女だ。テオ?テオはしょうがないでしょ。ただでさえ長命種族なんだから精神年齢の成長も遅いの!いいんだよ!
「オマケだ」
ダァァァァン!!!
RPG-7をぶっ放す。
遺跡が少し崩壊したが気にしない、少し崩壊ってのも何か違うような気がする。
落ちてくる岩石を影で切り裂き前に進む。出口が見えてきた。
もう大丈夫…とは行かないのが世の中、テオは血肉の臭いや硝煙で既に倒れそうだった。アリカ殿下も。
…ドジったなこりゃ、刀剣で応戦すべきだったか?いや詠春じゃあるまいし無理だな。
そもそも接近を許してはいけない状況だぞ?
「そこまでだ!貴様達は包囲されている!!大人しく「パァン!!」…」
ドサリ、と司令官っぽい奴が天を仰いで即死する。
悲しけど(略)外に出た分、風があるし密室でもないので幾分調子を取り戻した様子のテオとアリカ殿下。
まぁそれでもやばいんだけど、視界が赤くなるって結構きついのよ。
「…狙撃手…いやシックス殿。これは逃げ切れるか?」
「シックス…?」
「護衛対象が一人ならばな。互いの逃げる方向が真逆だ、無茶言うな」
不安そうに上目遣いで握りしめてくるテオに萌え萌えしながら、されど冷酷に現状況を伝える。
テオだけ連れていくか、そうしよう、どうせこいつ助かるし。
「テオ…「駄目じゃ」…Yes, Your Highness」
な、なん…だと…!?悪いが最後まで足掻かないと行けないようだ。
さて最後まで兵隊も付き合ってくれるかどうか、下手に時間をかけると最高クラスの魔導師やらが来てしまう。
特にあの三番目の白髪が来てしまうと駄目だな、そいつしか知らないけど。
「『歯車・起動』」
生み出すのはガトリングガン。
ロマンの塊でありながら最高クラスの攻撃力、そんな素晴らしい一品を両手に肩左右、計4門呼び出す。それぞれが異なる標準を持って敵を殲滅しよう…俺の魔力が尽きるまで。
テオが俺の背中に抱きつき、アリカ殿下が俺の足下に伏せる。
邪魔だ、と言う前にそうしてくれたことは嬉しいものだ。
「今日の天気は鉛色の雨が降るでしょう」
ダーーーーー、と左右前方から火を噴くガトリングガン、もはや音が一つとなり砲身がグルグル回る。
体を動かし広範囲に広がっている敵を血飛沫に変えていく。
相手も学習してきたのか障壁を肉を壁にして魔法を撃ってくる。
さすがに弾丸では魔法を防げないので影の触手で打ち払う。
最初こそ俺が圧倒的であったと思うが、敵さんは防御を主点としたゴーレムを召還してきたりと面倒臭いことこの上なし。
ガチャン、と左のガトリングガンがジャムった。
あ、結構やばい。
すぐに放棄して作り直すが相手も訓練された軍隊、これを好機にと一気にせめ立ててくる。
「『縛鎖となりて敵を捕まえろ魔法の射手・戒めの風矢』!」
一気に攻めてきた左側を埋めるために意識を分割しすぎてしまった。
俗に言う油断、捕縛の魔法が俺にのし掛かる。
術式を解析し反転させる時間も無い、風の魔法で全身に重みがかかる。
筋力ではなかなか無理があるようだなぁ、いかんいかん。
「汚物は消毒だー」
棒読みで決め台詞を言いながら火炎放射砲で薙ぎ払う。
純粋な炎のため魔法使いには防ぎやすいが牽制になる。
現に燃え尽きる奴もいるしな、だが重みが随分と邪魔臭く行動が一歩一歩遅くなる。その間に次々と捕縛魔法が何重にも重なる。
「シックス!もうやめるのじゃ!」
「『歯車・起動』」
五月蠅ェ、と無視して再度武器を投影する。
何度でも何度でも相手が消えて無くなるまで歯車を回す回すぐるぐる回す、だがその時であった。
衛宮ほど強烈な鍛錬をしていたわけでもない俺は限界が来てしまったようだ。
投影そのものの魔法の歪みだろう。魔力を物質化するという異端、さすがに負担が大きい、ようだ。テオがなんて言ってるかよくわからない。
—シ——ス!し—り——る———!—を開——!——
だんだんと視界が黒くなる。耳に入る音を置き去りにするような不思議な浮遊感。ミッションオーバーってな。
「あぁ、悪いテオ。歯車の調子が…」
暗闇の中、俺はそこに立っていた。
当たりを見渡すと壁がある、それも一面の。
その壁はどこまでも大きく近くにありそうで触れる場所には無い。
そこの壁には歯車が付いていた。
何重もの何百個もの歯車がギチギチと、ギギギギと音をたてて火花をまき散らす。
魔力の暴走に近いものだろうか?弾丸をずっと投影し続けるのもなかなか大変な苦行だったのか…、さて。
「『歯車・停止』」
歯車の動きが鈍くなり、次第に止まる。
火花をまき散らすことも無くなったし変な音もしない。
あれか?起動したまま気絶(?)したからか?狙撃の鍛錬だけではなく投影の鍛錬もすべきだな。
何はともわれ…帰るか。
ここにはあんまり来れそうにないしな。
俺の心の風景であるがいつもあるとは限らないのだ。
誰かのように同じ心情風景などありえないことであるぜよ。
○
ガチャ…ジャラジャラジャラ
「なんという鎖」
って、手も足も固定されてるわな、結構関節とか窮めていてキツイ。
力も上手く入らない、その上見ての通り(?)鎖でぐるぐる巻きにされている。
それに魔力の放出が封印されているしなぁ、警戒しすぎだろ常識的に。
…で、ここはどこなのだろうか、俺はどれくらい寝ていたのだろうか、何よりテオと…アリカ殿下は無事なのだろうか。
あぁ、なんとも不甲斐ない。あれほど守ると誓ったのに。
「シックス!起きたのか!?」
「無事か!…よかった」
あ、正面に居ましたね。
区切られているけどさ。
あまりのショックさに何も見えなかったよハハハ。
あなた達も無事でなによりだ。というかアリカ殿下が俺に対して『よかった』とか寒気を覚えるんだけど。
「…悪い」
「気にしては駄目じゃ、あれほどの敵じゃ。あ、足手纏いがいたのじゃ、無理もないぞ?」
「巻きこんですまぬ…」
あぁ、感動のあまりに涙が出そう。
こんな俺でもいいんですね!いいんディスネー!…ゴホン、何もないよ?俺自身の現金さに呆れながらも俺は質問する。ここはどうやら『夜の迷宮』という場所らしい。
メガロメセンブリアの東に位置する遺跡を利用した監獄、もっとも今では使われていないそうだ。
「どこか痛いところはないか!?腹は減ってないか!?なにかあったらすぐに妾に言うんじゃぞ!?」
「かーちゃんか…脱出するか」
こんだけ騒いでも見張りが来ないということは一体どういうことかわからないが好機だ。
助けが来るまで待つのもいいが俺はテオの護衛でありテオを助けるのは俺の目的である。
待つ、という選択なんて存在しない
「『歯車・起動』」
作るのは爆弾。
体外に出せないのならば体内に出せばいいじゃない。という発想で手の甲と足先に軽く爆弾を作る。
嫌だねこんな体、すぐに再生するから
ダァァン!!
両手両足がもげる。だがジュルジュル言いながらすぐに再生する。きもっ!?
「なな、な、ななな、なな」
「め、滅茶苦茶じゃ…」
結構ショッキングだったみたいだ。
女性陣にはなかなか酷評である、無理もない。
さて、いざ気合いを入れて脱出しようとした時、それは起こった。
ズズゥン!!!
爆音を立てて壁が崩れ、見えるのは赤毛の少年、後ろにはメガネの剣士がいた。
助けに来たようだ。そしてなにを隠そう俺はとてつもなく怒っている。
今ならもう一段階越えれそうな気がするほどだ。手足もいだ意味ないじゃんかよー。
「よう来たぜ姫「パァン!!」うお!危ねっ!?」
To be continued