第八射 狙撃と紅い翼
「おい狙撃手!なんでてめぇがここに!?」
ガン飛ばされている今日このごろ皆様はどうお過ごしでしょうか。とは言ってもガンを飛ばされる理由ぐらいはわかるものだ。
俺がこいつらから速攻で逃げ回っていたからだ。
狙撃手たるもの接近を許してはいけない、しかしこいつらやばい、まじやばい。
主人公様の運というか勘と言ったらいいのか、ヘッドショットかまそうとしたらクシャミで避けられるわ、丁度別の兵士が射線上に出てくるわ。
本当になんなの?俺だって運が良いはずなのに!運を引き寄せる力は所詮こんなものだというのか!?
「おいナギどうし…な!狙撃手!?」
メガネ剣士詠春もいた。
ナギはともかく俺こいつとの相性の悪さはトップクラス。
コイツが一番強いような気がするほどやばい。
だってよ?弾丸斬ってくるんだもの。
どこの斬鉄剣の担い手だよ畜生!というか斬ったところで割れた弾丸が飛んでくるだろうが!そのままはじき飛ばすとかどこのサムラーイだよ
「くらぇ!マンマンテロテロ「やめんかぁ!?」アミバっ!!」
ナイスだアリカ殿下、俺のためによう働いてくれた。それにしても華麗な一撃だな。見たところナギが力まかせの障壁を張っていたはずなんだが見事に貫通しているね。
これが噂のマジックキャンセルか、超怖い。
未来に黄昏の姫御子があのエヴァンゲリオン(?)の障壁をぶち破るのもコレか。
俺?俺だったら普通に避けるけど。
「なんだか騒がしいのう」
テオよ、悪いがこれも戦争なんだ。
…よく考えると俺って『紅き翼』に対するほとんどの相性が悪いような気がする、というか俺あんまり強いやつと戦いたくない。
俺の専門は対軍、対兵器だから!?あんなチョコマカ動く人間なんか相手したくありません!アンタ莫迦ァ!?
——タルシス大陸極西部オリンポス山『紅き翼』隠れ家
俺たちが捕まっていた『夜の迷宮』より南東、丁度タンタルスという港町の北にある山。
海に直面していてまさしく世界の端っこって感じがする。
アリカ姫が『紅き翼』に「かくかくしかじか」という説明をしてくれた御陰で特に莫迦と争うことも無かった。
まぁナギやラカンには戦おうぜ!なんてことになったのだが本当に死ねばいいのに。
「おい貴様等テオドラ様をこんな『豚小屋』に招き入れる気か?」
「そうじゃ!なんじゃこの掘っ立てご…豚小屋!?」
まじありえないデース。
そもそも俺とテオは普通に帝国に帰る予定だったのだぞ?なんでなし崩し的とはいえこんな処に来なくては行けないのか。
それをもう!なんでこんな豚みたいな奴らが。
「逃亡者の俺等に何期待してんだよこの腰抜け」
逃亡者のくせに皇女であるテオをこんなところに?貴様バッキュンしてやろうか?
「なんじゃと!貴様無礼であろう!!名を名乗るのじゃ!」
テオはやさしいからな。
こんな肉達磨の名前をわざわざ脳味噌の容量削ってまで覚えあげようとしているんだ。
フハハハ、盛大に名を名乗るがいい!!
「そこの狙撃手のことだ!ええ?なぁ腰抜けの狙撃手?」
手をひらひらさせて当たり前のことを言う達磨野郎、というか名乗れよ。
皇女が名を聞いてるんだぞ?常識的に考えて名乗れよ莫迦!
「こらぁ!妾を無視するんじゃない!!」
「貴様ーァ!?テオドラ様を無視するとは許せん!今すぐマッハで蜂の巣にしてやんよ!」
「おお?やんのコ「ダァン!!ダァン!!」なにこれこわい」
○
ダァン!ダァン!ダァン!ダァン!ダァン!ダァン!ダァン!
「あのやけに元気な少女が…そしてあの狙撃手、うるせぇ」
「ええ、彼女がヘラス帝国第三皇女ですね。そして狙撃手は本来彼女の護衛だそうですよ」
ヘラス帝国第三皇女と呼ばれた褐色肌に角が生えている少女を肩車しているフードの男。そしてフードの男は両手に黒い拳銃を装備し、ジャック・ラカンに乱射していた。
少女がフードの男の頭をすごい勢いで揺らしているせいか標準が定まっていない。そんな光景を変な汗を垂らしながら見ていた剣士詠春と魔法使いのアルビレオ。
「護衛か…、あの少女第一主義に見えるな」
「ええ、彼とは仲良くなれそうです」
未だに銃声が響くオリンポス山。
アルビレオが友情の視線を狙撃手のシックスに向けている。
そんなシックスはその時妙な寒気がしたというが…それは別の機会に語ろう。
「さて姫さん、助けてやったのはいいがこっからが大変だぜ」
異様な光景を気にすることなく赤毛の少年『ナギ・スプリングフィールド』はアリカ姫にそう言った。
ナギの後ろにはスーツ二人、ガトウとタカミチがいた。
「連合にも帝国にも…アンタのオスティアにも味方はいねぇ」
非情なる現実を口ごもることもなくハッキリと言う少年ナギ。
アリカ姫はその言葉に臆することもなく絶望することもなく、ただ不敵な笑みを浮かべ明日を見据えていた。
ダァァァァァン!!!「あ!てめぇ!?それは反則「ダァン!!」…」
なにやら視界の後ろが騒いでいたがナギもアリカ姫も見なかったこと聞かなかったこと知らなかったことにした。
もちろん後ろのスーツ組の人も。
そしてスーツのガトウはナギの言葉に繋げるように説明する。
「それどころかオスティアの上層部が最も黒いと、その可能性さえも上がっています」
「やはりそうか」
ガトウが更なる絶望を加えるが、それでもアリカ姫の顔は変わらない。
「我が騎士よ」
「だから我が騎士ってなんだよ姫さん!?クラス的にいったら俺魔法使いだぜ?」
アリカ姫の言葉に真っ赤になるナギ、帝国に『赤毛の悪魔』と言われた少年もまだまだであった。
顔を真っ赤にしているナギに対してあからさまなため息を吐いたアリカ姫は向こうで起こっている惨事を視界に入れた。
「シックス!我が騎士よ!そこの筋肉達磨を粛清するのじゃ!!」
「ヒャッハーァ!」
「え、ちょ!おま」
アリカ姫とナギはその光景をなんとも言い難い沈黙で見続けた。
ナギは少しだけ文句を言いたい気持ちを抱いたが…
「あっちは素直だというの…」
再びため息、その様子に唖然と口を開けることしか出来ないナギであったが更にそれを無視してアリカ姫は続けた。
「連合に帝国、そして我がオスティア。世界全てが我らの敵というわけじゃな」
どこか遠くを眺めるアリカ姫。
その心情には何があるのだろうか。
恐らく決心、希望、未来。
負の感情などあるわけもなく、戦うもののためにただ勝利を信じるのみであった。
「じゃが…、お主とお主の『紅き翼』は無敵なのじゃろ?それに『スナイプ・オブ・インペリアル』もいるしの」
「(なにそれ聞いてない)」
翠と蒼のオッドアイがナギを見つめた。
後ろで騒いでいた仲間たちも彼女の、否、彼ナギのもとへと集まっていく。
ただ、無敵という言葉に反応したジャック・ラカンが所々血を流していたりプスプスと煙を上げていることが色々台無しにしていた。
「世界全てが敵、良いではないか。こちらの兵はたったの8人、じゃが最強の8人じゃ」
「(ナギ、ラカン、詠春、ゼクト、アルビレオ、ガトウ、タカミチ…あと一人誰だよ)」
彼女以外誰も口を開けることはしない。出来なかった、と言うほうが正しいのかもしれない。
王族たる威厳か、それとも目標を見据え覚悟を決めた人間の誇りか。
「ならば我らが世界を救おう。我が騎士ナギと、我が盾と我が剣となれ!」
「(あ、俺?まじウケるんですけど)」
アリカ姫はその手に持つ黄金の剣を構えた。
黄金の剣がオリンポス山の山際から漏れる太陽の光を反射し太陽の光は荒れ地となった一面を何よりも輝かしく照らしていた。
それに笑みを浮かべるナギは、片膝をついて忠誠の意を示した。
「へっ、いいぜ。俺の杖と翼。アンタに預けよう」
太陽に照らされる二人。
風がナギのボロボロになったローブをパタパタと、アリカ姫の金の髪をサラサラと揺らしていた。
『紅き翼』の反撃、英雄として利用され今や犯罪者となった者達の反撃が今始まろうといていた。
「おいテオどうすんだよ、なんか俺たちも戦うことになったんだけど」
「ふむ、まぁ帝国にいるよりはマシじゃ。腐った重鎮共を掃除できる好機じゃ」
「わー、超アグレッシブ」
「いざとなったら帝国でも情報収集が出来る。『紅き翼』との二面工作じゃな」
そんな光景の端っこで身をかがめてヒソヒソやっている主従一組。
その会話も姿も誰にも見られなかったことは幸いであっただろう。
○
ナギの言うとおりにここからが大変だった。
何にしろ相手がどこにいるかわからないからだ。
相手の正体を掴めてもそれじゃダメである。
そういうわけで我ら帝国組と『紅き翼』による合同作戦が開始、作戦と言っても頭が良い情報収集組とその情報を元に潰しまくる脳筋組に別れ行動するだけだ。
俺とテオは主に帝国で行動している。
常にフードを被っていたためフードをとったとき誰も俺の存在に気付くことがないという。
街の中をフードで歩いていたらヒソヒソしたり、サイン色紙を持って後ろをストーキングしたりする民衆もさすがにいない。
この点に関しては灯台もと暗しと言うべきか。
「ではキリキリ吐いてもらいましょうか。あなたは『完全なる世界』のなにを知っているのですか?」
今俺は『紅き翼』のアジトにいる。
ここにいるのは俺とアルビレオだけ、他の存在がいない時間を狙ってくれたのか特にテオがいない時間を狙ってくれたのか非常に助かる。
俺実は知ってるんだぜ?とか言ったら怒られそうだ。それだけは勘弁してほしいもんだよ
「……他の奴らは?」
「いないほうがいいでしょう?だから誰にも話さなかった。違いますか?」
自信満々に言われても困る。
だって違うもん、話してもいいけど確かな証拠はない。
例え事実だとしても皆を余計に混乱させるだけだし、何より最後にはこいつらが勝つのだから俺がいても大きな流れは変わることはないだろうよ。
「感謝するよ。テオに聞かれたらなんと言われるか」
「ははは、安心してください。同じ幼女趣味のよしみでしょ」
何を言っているのかコイツは。幼女趣味?あー、言われればそうなのかもしれない。
テオがいれば他の存在なんかどうでもいい感じがするし…というか忘れてるかもしれないけど俺まだ一歳だからね。
「『完全なる世界』…詳しいことは知らないが、奴らの目的は世界を救うことだ」
「は?」
莫迦?みたいな顔で見てくるが事実だからしょうがない、しょうがないったらしょうがない。
サ○シがピカチ○ウを選ぶぐらいしょうがないのだよコレは。
「人類の手によって世界は荒廃している。今でさえ、な。ならば将来は?」
「…なるほど、そういうことですか」
忘れがちだけどこいつ高位、しかも最上級の魔法使いだからね。
めっちゃ頭いいんだよコイツ。
正直魔法使いなんで誰もが人格破綻してるだろ。
例ならばあの艦長…今は提督だけどいいか、艦長で。
「将来苦しんでゆっくり滅びゆく人類、何も考えず荒廃させてゆく今の人間。聞いたよな?貴様たちはどちらをとるのかと」
だんだん違うような気がしてきた。
正直相手は世界を無くすだけで何も考えていないような気がするが…さてどうするか。まぁノリでなんとかなるだろう。
「『人類か人間か』とはそういうことでしたか。私たちは人間をとりますが奴らは人類をとった。ただそれだけですね」
「…あぁ」
こんな会話をナギに聞かれたら怒りそうだ。
自分たちは正義のためにやっていることなのに悪である『完全なる世界』が、まさか救うという道をとっているとは誰も思うわけがない。
未来に人間たちは思うかも知れない『何故あのとき滅びなかった』と。このとき苦しみ悲しみ絶望して、今を生きる必要があるのかと?
「だがなそんなこと関係ないのだよ、少なくとも俺には」
衝撃的な事実のせいかブツブツ言っているアルビレオを無視して俺は言う。これだけは言っておかなくてはいけないことだ。
「何時何処で誰が何人死のうが俺にはどうでもいいのだよアルビレオ。俺は守るべき存在は一人しかいない。例え奴らが絶対的な正義であろうとも、彼女を仇なす存在ならば俺は奴らに銃口を向ける」
俺の言葉に反応したのか、ブツブツ言うのをやめるアルビレオ。
こいつ性格破綻していも立派な魔法使いだからな、お前等こいつ舐めすぎだろ。
…お前等って誰だろうな。
「…こりゃダメな英雄ですね」
英雄か、俺はただ一人の英雄であればそれでいいのだよアルビレオ。
大多数凡人の英雄なんざただの生け贄だ。
もっともそれを否定する気はないがな。
前世では俺も、その大多数凡人の一人であったからよくわかる。
何もせず強い人偉い人にまかせる、見れば悪いことかもしれない。だけどそれを出来ない存在がいるのだ。
何を足掻いても主役にはなれない、誰かの前を歩くことも出来ない。ならばそれらはどうする?足掻くことをやめるのだよ。
本当にそう思うのか?勇者が魔王を倒すまで何もしていないと。
勇者が街を襲う魔物を打ち払うまで何もしていないと。
否だ、誰もが守りたい。
家族を、大切な人を、隣人を。
誰だって思うさ、『もし自分が勇者ならば』と。
「正義の味方になどなる気はない。ただ一人のため存在する。それこそ俺の…役目だ。化け物である俺のな」
「化け物?」
「さてな」
それ以上何も言わなかったアルビレオだった。
本当に助かるよこいつ、空気読めるし…あえて読まない時もあるが。
To be continued