第九射 魅せろ!ドイツの科学力
「あの…シックスさんちょっといいですか?」
「じゃ断る」
「え」
ちょうど『完全なる世界』の拠点潰しの合間のひと時。
テオも護衛の俺を放っておいてどこかへ行ってしまった。
そんな俺は暇をもてあましていたわけで、お気に入りの『フェイファー・ツェリザカ』を磨いていた。
この『フェイファー・ツェリザカ』は馬鹿の塊である。なんと60口径のニトロエクスプレスという象撃ちの大口径マグナム弾を放つ『拳銃』なのだ。世界最強すぎてまともに使えない。もはやコレクションの領地である。
○
「銃を教えろ馬鹿だと?」
「そこまで言ってないです!!」
さて、俺は特に情報を集めるような奴でもなく施設を破壊しまくるような奴じゃない。
戦闘にも最近は参加せずバックアップ的な位置にいる。
もちろん予想できるだろうがそんなもの必要ない。
一応こいつら世界最強の類だからね、そんな位置にいるせいか暇である。
先ほど述べたように戦闘の合間ってのもあるが…まさかそんな時にタカミチから銃の扱いかたのレクチャーを命令されるとは思いもしなかった、俺仰天。
「やだ、面倒臭い」
「えー、お願いしますよー」
頼み込むのが面倒だが教えて欲しいってところだろうか、段々頼み方が雑になってきた。
そもそもコイツ、ガトウに弟子入りしてなかったか?渋み成分の補給要因として。
子供に銃を持たせるのはだめだよな、表現的に考えて。というか俺とこいつら『紅き翼』とは一応協力関係だが頼らないで欲しい。
なにもかもテオの方針によるものだ。
どこに貴様らみたいな無敵集団に協力する莫迦がいるものか。
「フフ、いいじゃないですか。教えてあげたらどうです?」
アルビレオがそんなことを言うものだから、ついつい師事してやることにしてしまった。
こいつには微妙な借りがあるため大きく出れない。
別に出てもこいつはアレを言いそうにないが…一応ね。保険だよ保険、備えあれば嬉しいなってな。
「じゃコレから行ってみるか」
タカミチにS&W M29を渡す、44マグナムを使用する有名な奴だ。
映画やドラマに出てくる奴は大抵これのカスタムモデル。射撃姿勢をしっかりととれば子供でも撃てるというか姿勢がうまければもっとでかい奴も撃てるから。
タカミチが輝く少年の目をしている。
わかるよ、わかるぞ少年。これはロマンだからな、単発式とか今時アレだがロマンだからな!姿勢をとって一発撃ったら相手からフルオートの弾幕飛んで来ましたとかザラだからな!
「まずはスタンディングポジションだ、文字通り立った状態から撃つ姿勢だ」
タカミチに姿勢の調整を与えているといつ帰ってきたのかわからないが他の莫迦どもが集まってきた。
興味津々だけど派手な奴じゃないし見ていても面白ないと思う。
見ていて面白いのはやはりガトリングガンだな、あの砲身の回転っぷりがすごい。
「目を10秒ほど瞑れ、開くと照準がずれるから腕を動かさずに足と腰で調整しろ」
姿勢を合わせるだけで何分もたつが特に文句も言わずに続けるタカミチ。
最初のほうは知識と継承した経験をもとに試行錯誤であった、懐かしいな…すぐに当たるようになったが。
最初はその姿勢が自然に出るようにしないといけない。
「そのまま状態を維持、肩の力をもう少し抜け…、よし、好きなときに放ちな」
パァン!と銃声が響く。
タカミチが思ったよりも反動が小さく感じたことに驚いたのか目を大きく開いていた。もちろん輝いていたな。
やはりいい、射撃は本当にいい。
結果としては用意していた的には当たらなかった。その後何度も続けてみたが…。
「…何か一つに絞れ、あれもこれもするなら全て中途半端だぞ」
才能が無い、とは言い切れない微妙な域である。
何度も練習を重ねればそれなりに出来るようになるかもしれない、でもならないかもしれない。
そういうことを言ってやったら素直にガトウのとこに戻っていった。
それがいいと思うよ?俺教えるのも面倒臭いし、教えると言っても基本教えたら自分で大体出来るようになるけどね。
必要な弾丸と銃を用意してやればいいだけだ。
「なーシックス!俺にも撃たせてくれよ!」
とりあえず無視したがあまりにも五月蠅かった。
よく考えたらこいつまだ中学〜高校生程度の年齢だということを思い出す。
ふふ、クソ餓鬼が。
コイツの滅茶苦茶っぷりに忘れていたものだ。
やはり目を輝かせているものだから渡してやった…フェイファー・ツェリザカさんをな!
「おお!カッケェ!!!」
ダァン!!!!
「…あれ?」
身体強化しているならばどうにかなったかもしれないが射撃姿勢も考えずに片手で撃つもんだから腕が有ってはならない方向へ曲がっていた。ざまぁみろ莫迦。
普段実弾兵器(笑)って小莫迦にしているがすさまじい科学力と職人の努力の結晶だぞ?…詠春はすごさに気付いていたみたいだが。さすが職人気質(過去の話だが)の日本人、さすがサムライだ。
オー!スシゲイシャテンプーラ!!
○
『紅き翼』のオリンポス山の誓いから半年あまりが過ぎた。
テオドラ第三皇女やアリカ姫の行動により最初こそ世界の敵として認識されていた彼らであったが徐々に味方を増やすことに成功。
その間に肉体労働担当者達が要点を潰していく。
単純だがこれ以外に道は無く、なにより今のところ一番効果的であったかもしれない。
要点といっても違法な武器商人や私腹でブクブクに太った役人のお掃除が主であり、それらは『完全なる世界』でも端っこの中の端っこで、雑魚と一纏めにしても問題が無い存在であった。
「灯台もと暗しと大正デモクラシーって似てね?詠春?」
「あ、あぁそうだな…」
『完全なる世界』の本拠地を突き止め、追いつめた彼ら『紅き翼』と帝国の英雄であり狙撃手の代名詞ともなった彼『スナイプ・オブ・インペリアル』たちは決戦へと迫っていた。
「不気味なぐらい静かだな奴ら…」
彼らの眼前には風の音しか響かない秘境。
アリカ姫が生まれ後継者として育った国であるオスティアにこそ『完全なる世界』の本拠地は有った。
まさしく大…灯台もと暗しと言えるだろう。
雲の上に鎮座するその古代の宮殿、世界最古の都王都オスティア空中王宮最奥部『墓守りの宮殿』と呼ばれる場所、アリカ姫からすればどれほどの屈辱的なものか誰が想像出来るだろうか。
「ケッ、そんなもんだろ悪の組織って奴はな」
赤毛の少年の言葉に褐色肌の大男が返した。
宮殿より遠く離れた地より彼らはその様子を見ていた。
オレンジ色に燃える空と漂う雲の海、この世界においてそこだけが動いているように見えるほど神秘的で畏敬を産む。
「ナギ殿!帝国・連合・アリアドネー混成部隊の準備が整いました!」
鎮座する宮殿を一言二言言葉を交わしただけでただ見ていた彼らのもとに騎士装甲に身を包んだ女性の兵士がやってきた。
頭の左右に後ろ向きに角が生えていた。
彼女は中立武装国アリアドネーが所有するアリアドネー魔法騎士団のリーダーであり名前をセラスといった。
彼女に言葉に「おう」と応えるナギ・スプリングフィールド。
そして彼女はナギにサインをねだり皆に笑われていた。
「I'm a shooter. A drastic baby.」
ただ一人、狙撃手である彼はそんなひとときの間に入ることもせず、引き金を引くように歌っていた。
フードの奥から少しだけ見える赤目はただ宮殿を鋭く貫き、片手に持つ巨大な銃はその銃口を空へとむけただ鎮座していた。
「The deep-sea fish loves you forever.」
歪な詩を歌う彼の様子に、笑い有っていた彼らは心を引き締める。セラスも狙撃手の背中から感じる威圧にゴクリと喉を鳴らした。
そんな彼に、彼が友と認めた一人であるアルビレオ・イマが近づいていった。
片眼だけを開き狙撃手、シックスに独り言を言うかのように呟いた。
「狙撃手に深海魚、ですか?これまた歪な詩ですね。しかしあなたにはピッタリなものですね」
ガチャン、と巨大な銃を鳴らす狙撃手。
決戦は間近に迫ろうとしていた。
今シックスと別行動をしている彼の主であるテオドラ第三皇女はタカミチと共に帝国の正規軍の説得へ向かっている。
ガトウとアリカ姫も同じように連合へと掛け合っているが間に合うことはないだろう。
「世界を無に帰す儀式か、そこにあるのは無か夢か霧か」
ダァン!!!と空へ一発の弾丸が放たれる。
空へと伸びる紅い閃光をその場にいたものは皆眺めていた。
そして彼が天へと手を伸ばし呟いた。
「『崩れ逝く歯車(ミッシング・ギア)』」
天へと伸びた弾丸は爆発し閃光が飛び散らせ、それを合図のようにその場にいたもの全ては武器を取る。
あるものは家族の無事を願い、あるものは愛する者の平穏を守るため、またあるものは自分の未来のため。
「よぉし!野郎共っ!!行くぜ!」
杖を手に取ったナギが号令をかける。そして飛び出した。
ナギ、ラカン、ゼクト、アルビレオ、詠春、そしてシックス。
世界最強の彼らを前に騎士装甲に身を包んだ戦士たちは彼らのために戦う。
今戦場に立つ彼ら全てが英雄であり英霊として、名が無くとも勇敢に戦ったと語り継げられるだろう。
「お先に」
「あ!シックス汚ぇ!?」
シックスがドラグーンを呼び出し一気に突貫する。
桃色の閃光が敵を蹂躙し、桃色の龍の体から放たれる必殺の弾幕が敵を次々と撃沈していった。
搭乗者が耐えれるまで加速し続けるこの機体を止めることの出来るものはそこにはいない。
彼はまっすぐと宮殿へと進む。
「I'm a thinker.I could break it down.」
詩が戦場に広がることはなく怒号と魔法の爆音でかき消え去った。だが誰に聞かすわけでもなく彼は歌った。
ただ戦場に立ち戦場で戦い戦場で散る。
それこそ彼、否、『彼ら』が生み出され到達すべき目標でもあるからだ。
ダァァァン!!!!
『紅き翼』の仲間たちとかなりの距離を残したまま彼は宮殿へと突貫していった。
古ぼけた岩石の壁が龍の突進を止めることが出来るわけもなく、龍はそのまま宮殿の奥地へと進んでいった。
ガガガガガガと削れ破壊し砕く音。
だがその音が彼の耳に届くことはなかった。
彼はただ見ていた。
その先にいる存在を。
あらゆる億を超える大多数凡人が集まり一で億を超える天才を更に越える。
それこそ彼の義務であり本能とも言えた。
「見つけたぞ『造物主』どうやら貴様を蜂の巣にせんと俺は人間になれないらしい」
ガチャンと両手に持つ黒き拳銃ジャッカルの銃口がその存在へと向けられた。
本能は必要だからこそ本能として生き物に在り続ける。
『その生き物』であるということは『その本能』を持つということだ。
『その本能』が無くなったときこそ彼は戦闘兵器エックスではなくなるのだろう。
その先どんな『生き物』になるかは…彼次第であろう。
「と、いうわけだ。生き物の進化に負けるといいさ。古ぼけた絞りカスが」
ダダダダダダダダダァン!!!と幾重にも重なった発砲音。
それと同時に放たれる水銀の弾丸が造物主へと伸びる。
その時間はそれこそ一瞬の時間である。だがその弾丸は造物主に当たる前に魔法陣によって静止しカツンと落ちる。だがそれでも関係なしにと弾丸の雨を降らす。
一秒間に何発ものコツっと空になった薬莢が石の床に落ちる。
造物主が体を反らしはずれた弾丸すら『運良く』跳弾し未だに余裕の雰囲気を出している造物主へと向かう。正面から放たれているはずの弾丸は、跳弾し何故か造物主に対して四面八方取り囲むように向かう。
そのことに気付いた造物主は、一瞬だけ怯むのであったが…、次の瞬間あらゆるものが吹き飛んだ。
パァン!!というはじける音がする。
シックスが張っていた防御障壁は術者を守る気もないかのように一瞬ではじけ飛び、至近距離で受けたシックスは全身がバラバラになりながら地面にたたき付けられた。…が、ブジュルという音とともに肉体が一瞬で再生、影の倉庫から取り出したハルコンネンを造物主に突きつけ焼夷弾を放った。
ダァァァン!!!!
再生速度に驚いたのか、それともまだ生きていることに驚いたのか造物主は動けなくその一撃を受け吹き飛んでいった。
空気を燃焼させながら宮殿の壁を何枚も貫き飛ばす。だがそれで決まるとも思っていないシックスは追撃する。
——歯車・起動
ガチャンと一つの歯車が壁にはまりこみ、全ての歯車に動力を与える。
ぐるぐるがちゃがちゃと忙しく回転する歯車。
ビリビリっと青い稲妻を出しながらエネルギーを伝達する。
頭の知識に接続し設計図を引き出す。
構造を把握し、部品を生成して、物体を構成し、存在を具現させる。
「そら、ロードローラーだっ!!!」
黄色に塗料されたロードローラーが彼の細い豪腕によって投げつけられる。
片手で振り回すかのように投げられたソレはまっすぐ垂直に飛んでいく。
それこそ造物主が吹き飛んでいった速度よりも速く。
「!?」
この魔法世界では『見ること』の無い物体に驚いたのか腕を大きく広げ魔法を放ちロードローラーを消し飛ばそうとした。だがまだ彼の攻撃を続く。
「ドイツの科学力は世界一ィィィ!!」
彼の腕に支えられた8.8cm高射砲が造物主が魔法でロードローラーを破壊するよりも速く、高射砲の榴弾がロードローラーごと造物主へと向かいそして爆散する。高温の金属を高速でばらまき周囲を破壊しつくす。
爆煙をあげ周囲の様子を探ることも出来ないほどであったが、彼は次に四門のM61バルカンを呼び出す。
何に当てるかも決めていない4つの砲身から放たれる20mm×102の弾丸が大量の薬莢をまき散らし鉛の雨を降らす。ダーーーーーーーっと弾丸が放たれる音は一つになる。
爆煙がより多きくなろうとも関係なしに造物主がいると思われる地点に飽和攻撃をする。そして…
ドン!!!
再び衝撃。彼が作った武器も全て消滅し、彼は四肢が吹き飛ぶ。
ボールのように飛ばされる彼だがやはり再生。
一瞬だけ腕の色が暗緑色に見えたがすぐに元の白い腕に戻る。だが再生しても何度も吹き飛ばされ再生する。吹き飛ばされ立ち上がり、頭が無くなった状態で歩き詰め寄り、そして弾丸を放つ。
ドン!!!
何度目かの衝撃。そしてようやく彼は五体満足のまま乗り越えてしまった。
フラフラと立ち上がるシックスを見て造物主は何を思ったのか。
そして重なる再生が原因か、それともただの様子見か。造物主と狙撃手は沈黙で向き合う。
そこに言葉は無かった。
硝煙と爆煙が立ちこめる。
砕けて天井からあらわになった空から光が漏れる。
風がサラサラと流れ、もはや役目をはたしていないシックスのローブをかすかに揺らす。
対して造物主は、まとっていた黒い布が所々消し飛び燃え焦げ付いていた。
「あと何百回だろうな?俺を殺しきるのは。クックック、お前自身が次々にお前に勝てない因子を消し飛ばした御陰で随分とスッキリしたものだ」
造物主、始まりの魔法使い。
魔法世界と十数億人の魔法世界人を創造したとも言われる太古の存在。
魔法世界人が彼には絶対に勝てない理由であるのだ。
それこそ人形が人形師に逆らえないように造物主が自らが作り出したものに多大な攻撃力を誇るのも当たり前のことなのだ。
無論それに関して魔法世界の存在をいくつも内包しているシックスにも言える。だが全てではない。
例え魔法世界において作られたとしても、外の因子が紛れ込むのは当たり前だ。
造物主が関与していない因子を持つためシックスの全てが削られることもない。
「貴様はなんだ?」
ようやく口を開いた造物主に対して「さぁ?」と挑発するかのように笑うシックス。
残った肉体は既に再生しきっており、彼は度重なる破壊を「慣れ」ることで耐性を得ていた。現代の生物が数千万年の進化を経て極地で生活する生き物のように。だが攻撃に適応したとしても防げるわけでもなく、シックスにとってようやく同じ、あるいはこちらが数段低い土俵にやっと立てた状態であった。
「(あそこまで攻撃してこれかよ、もっとデカイなら奴行けるか?)」
自身が放った武器とは比べる必要がないほど強力な兵器の設計図をひっぱりだす。しかしあまりにも異常な存在すぎて笑いが出るほどのソレは投影したこともなく作りきれる自信がなかった。
例え作れるとしてもソレを完成させるには時間がかかる。間に集中が途切ることがあるならば、可能も不可能になってしまうほどソレは異常だった。
「シックス!ってうぉ!?ラスボスがいやがる!?」
ピクっと動いた顔は無表情にしか見えなかったが、もし彼の顔の変化を感じ取るものがいたのならば、どこぞの新世界の神みたいな顔だと気づいていただろう。運が良いのだろう、良い時間稼ぎを見つけることができて。
To be continued