大戦から20年後のとある日のことである。
「のうシックス?」
「なんだ?」
「働け」
第十一射 みゃほら
働く、即ち労働。
労働、即ち絶望だ。なんで俺が働かないといけないのかまったく理解出来ない。
そもそも働くという行動は金を目的とした動きだ、つまり金があれば働く必要ない。では何故金が必要なのか。
それはもちろん生活するためだ。
生活の根源たる衣食住。
着る物も食べる物の住む場所も金が必要なのだ。
逆に言いと『有る』ならば金は必要ないのだよ。つまり俺がテオの護衛として存在することは衣食住が確定しているわけであり、つまり金を必要としていない。
結果として俺は労働、即ち働く必要がないのだよ。というか俺テオの護衛として働いているよね?なんで働け?昼に起きて狙撃訓練して飯食ってまほネット見て寝る生活のどこが悪い!?
「何か問題でも?」
「…全然ないさテオ」
顔が怖かったので速攻で負けた。逃げてもいいよね、俺人間だもの。
あ、人間じゃなかった。
まぁ俺が人間か人間じゃないかなんて些細なことだ。
ナギが裸でリンボーダンスするぐらいどうでもよいことである。で、俺の最初の仕事になったのは帝国領内に潜伏する犯罪者や賞金首の抹殺、及び捕獲。
帝国領内ってのがポイントだ。
いくら仲直り(笑)したとしても根本的な部分は変わらない。
政治というやつだよ。
もっとも俺も、連合の手が伸びてる範囲で働きたくはない、なにしろ遠い。
ドラグーンでひとっ飛びだけどさ、気持ち的に嫌なのだ。そもそもお外で出たくないでござる。
「で、今度はなんだ?」
お仕事という名の厄介事を持ってきたのだろうか。
突然テオの執務室に呼ばれた俺はいささか疑問の思念を持ってみたり。最近じゃ犯罪者も賞金首も帝国内じゃ異様に少なくなり、逆に連合の範囲内に生息するようになったらしい。ざまぁみろ。
「お主に手紙じゃ、ええーっと…日本?ってとこからじゃ」
幼女から美女になったテオがなんだか異様な雰囲気を放つ手紙を渡してきた。
ヘラス族では三十路でも人間換算だと十代らしいから…まだ大丈夫だろ、うん。というか日本?日本人に知り合いはいないはずだが…詠春か?結婚式行かなかったことを怒っているのか?なおさら行くか莫迦め。
「ええー、日本、麻」
バリバリバリバリ
「やめて!」
邪悪な文字が見えた気がしたので破った俺は悪くない。
どうみても赤紙です本当にありがとうございました!!
こんな手紙を俺に送ってくるとは莫迦にしてやがる。
やっぱり蜂の巣に…するんだったら結局行っちゃうことになってしまうな、なんという二重の罠、これは恐ろしい。
今孔明でもいるんじゃないだろうか
「何をやっておるのじゃ!!手紙を破るとは!!」
「考えてみろ、俺に日本人の知り合いはせいぜい詠春ぐらいだ。しかも詠春は京都という場所に住んでいる。麻がつく地域に知り合いはいない」
「でも手紙を破るのはまずいじゃろ!!」
細けぇこたぁいいんだよ!!…しょうがない、こうしようじゃないか。
「この手紙は無かった」つまりそういうことだったんだよ。
簡単に言うとこの手紙を出した莫迦が悪いということだ。だいたい見なくても予想つくからね。
「内容もわかっておるのか?どんな内容じゃ?」
「どうせ警備員とかだろ?日本の麻帆良は魔導書やら魔力を溜めに溜め込んだ樹があるからな」
「……」
テオがなにやら考えこんでいるが気にしない。
どうせこの魔法界にいる限り関係ないしなぁ、だから考えても無駄であるというのに。
それにしても随分とこの娘成長した。俺は今二十歳だけど娘的な視線で見れるぜ。
いやー、一歳で戦争に参加して殺しまくったとかギネス級じゃね?ギネスは旧世界のほうだったわ。
「シックス。これは命令じゃ」
「ほ?」
なんだよ突然命令って、なんでそんなに真剣なの?俺嫌な予感しかないよ?まさか君まで俺に働けというんじゃないだろうな。
何度も言われたか。絶対に嫌でござる!!ニート三日もすれば奈落の底!とは誰が言ったものか。ニートを三日すると心もニートになってしまうという偉い人の格言だ。
俺もこういう生き方をしてみたいものだ。
「麻帆良に行って働くのじゃ、そして見て回れ。世界を!」
バーン、と後光がさす。
なんだよ世界を見て回れって。
これでも俺もと日本人だよ?中身だけだけど。
ええっと、ヤマノテセンー、ロッポンギー、グンマー、カゴシマー、ホッカイドドドド。チバシガサガ!!だろ?やめてよね、俺が本気だしたら日本なんか丸わかりだよ。
「なんじゃその顔は嫌なのか?ん?」
「角でぐりぐりするなじゃじゃ馬、畜生!毎週手紙を送ってやるからな!!」
「おーそうしろそうしろ」
ああ、おかしいよ神様。目の前が揺らいで見えないんだ。これは涙?あははは…働きたくねぇ。
お前達にわかってたまるものか、起きたら豪華な『昼飯』が勝手に出てきて(出てきません)読みたい漫画があったらすぐに届くし狙撃の練習しほうだいだし家賃も払う必要なし!三食用意!豪華な部屋!なにより金が必要ない!護衛?…やってるよ?大戦後俺の情報が一般公開され、テオを俺が護衛していることは魔法世界全区に知られているんだよ、そういうわけでテオを襲う莫迦はいない。
「うわーん、もう来ねぇよーーー!!!」
「な!?ちょ、それは…」
一気に窓から飛び出す。
ドラグーンを呼び出しゲートへ向かう。
…ゲートが繋がる日は大丈夫だろうか、まぁ俺が頼んだら無理矢理開けてくれるかもしれない。
こういうときに権…名前を使うべきなのだよ、ふひひ。
ほら視界の下にある街から愚民共が俺を指さしてくるんだ。
ほら手を振ってやろう。
…キャーキャー五月蝿ェ狙撃するぞ莫迦ども。ファンサービスだよ莫迦、言わせんな。
「日程とか全部無視したけどまぁいいか」
そんな些細なことを考えながら俺はゲートへと向かうのであった。
○
「ぬぅ、その狙撃手は信用できるのかの?」
机に肘を立てて、苦虫を噛みながら呟いた老人がいた。
もっとも後頭部が変に長い存在を人間というカテゴリーに入れることが出来るかどうかただ疑問を持つだけである。
「第三皇女第一主義ですからね、他の存在には興味を湧いていませんでしたが…」
その老人に対してメガネでスーツが渋い男、どこかしら『ガトウ』を思わせるかつての少年『高畑・T・タカミチ』が返した。
対面する老人が心配の顔をしているのに対してタカミチは妙にソワソワしていた。
タカミチにとって、彼はほんの数時間、下手をしたら一時間程度だったかもしれなかったが銃の使い方を教えてくれた師匠でもあった。
なにより彼の『守るべきはものは必ず守る』というスタイルに憧れていた。
「逆に何もしなければ何もしない、か」
老人はカタカタとパソコンを打ち出す。
接続するのは魔法世界における最大の情報サイトであるまほネット。
闇の情報は手に入らないが一般公開されている情報ならば必ず細部まで知るころが出来る場所である。
画面にはダブル・シックスの肖像と彼にまつわる話、戦闘能力における考察などが書かれていた。
「狙撃手の代名詞とも言える彼がのぅ…ほ、なるほど『狙撃主』か」
もじって『狙撃主』と書かれていることに納得している老人であった。
老人は続いて疑問を口にする。
「まず彼が来てくれるか」というごもっともな質問である。
これに対してはタカミチも薄笑いしか出来なかった、来なくて当たり前来てくれれば御の字。
客観的に見て、テオドラ第一主義であった彼がテオドラから離れることはほぼありえないのである。
「シックスさん元気にしてるかなー」
彼が所属していた『紅き翼』の面々と肩を並べていた彼のことを思い出し、自然と笑みがこぼれる。
彼の対艦対兵器における破壊力は最強とも言えるし対個人においても無限に出てくるのではないか?そう思わせる銃弾があるのだ。
正義の魔法使いたちは彼のことを腰抜けとか言うがそれは間違いこの上なく、なにより彼にとってそういう言葉はホメ言葉だから無駄だなぁ、とタカミチがしみじみと思っていた。
「ほー、連合の人間には微妙な存在なのじゃな」
「ええ、帝国ではナギさんよりも有名ですね。大戦時ではラカンさんの1,5倍ほど戦艦を多く撃墜していますし、彼は帝国領土内で犯罪者や賞金首の抹殺をしていましたから」
そのおかげで犯罪者や賞金首が連合に流れてきたんですけどね、とタカミチは続ける。
実際彼の言うとおりシックスは連合と帝国とでは真っ二つであった。
同じように帝国の兵隊を殺しまくった『紅き翼』だが、それは何故か帝国でも人気がある。
まほネットの掲示板では日々選ばれし者(NEET)達がこのことについて議論している、曰く元老院の仕業だと。
そしてそれを書き込んだ者はいなくなるという都市伝説まで流れる始末であった。実際どうなのだろうか・
「ほーほー、いいのう第三皇女(のおっぱい)が…」
帝国では守り神とも言える存在だが、連合では『悪魔の弾丸』の異名を故意に広めようとしている気配すらあった。だが連合の人間でも彼に憧れる人はいる。浸透しなかったので選ばれし者たちは「ざまぁwww」と書き込んだそうな。
「あはははシックスさんに聞かれると死んじゃいますよ」
「クシュン!!あーー、だる」
ソーサーに乗っているフードの狙撃手は太平洋のど真ん中でクシャミをする、これがバタフライ効果か!?
To be continued