第十二射 After Five
「あーーー、忌々しい太陽だ、ガッデム」
俺はどこぞの莫迦とは違う。
故に俺はちょうど昼と朝の間あたりを狙って学園に侵入した。
どこぞの莫迦はこの女子区行きの電車に乗ってたりと、まぁそんなときにも認識阻害の魔法は効くんだからすごい。
とくにこの認識阻害の魔法は糞ったれな麻帆良学園にある滅茶苦茶でかい樹から魔力チューチューしてそれを利用しているからか…範囲がすごい。
魔力の無駄遣いここに極まる、だ。
さて、皆様にとってお忘れがちな憎い奴かもしれないが俺はアルビノだ、色素がない。
太陽がめっちゃ眩しくてうざい、死ねばいいのに。
一番驚いたことに旧世界と魔法世界の太陽が微妙に違った。あれか、オゾン層破壊とやらで紫外線が多いのか…。
俺はゲートを通りアメリカのどっかに降り立った。
その時だったね、朝日が丁度上がっていてよー、つい見てしまった。
あれはひどかった。思わず「ピャッ!?」て言いながらもがいた。
非常にアレだったが…周りの人間が少なかったので少しお話しした、おかげで俺の対外的評価が下がることはないだろう。
俺の評価が下がることでテオの評価が下がる可能性があるからな。
で、朝日が目に激突したのでサングラスを買った、これいいね。
最初は投影したんだが設計図があるわけない。ただのイメージによる投影だったせいか、それに加えてグラサンの投影とかはじめてだったんもんで、どこぞの糞餓鬼がクレヨンで適当に書いたような形になった。
フフフ、すぐに散っていったよ。
「どこから見ても不審人物だなこれは…、これだから旧世界は」
ガラスに映った俺自身の様子を見る。
どうみても犯罪者です本当に…これはひどい…!圧倒的ひどさ…!ざわ…ざわ…。で、グラサン買おうと店に入っていったわけなのだが、認識阻害の魔法を忘れていて危うく通報され…るどころかどこからかモスバーグM590(ショットガン)らしき物体を取り出すという始末。
「We are the world」
さすがに人が居ないと言えど、いつまでもガラスを見つめるわけにもいかないので俺は歩き出した。
そこで更に問題点が浮上する。どこに行けばいいのかわからないという。
女子区という場所までは覚えているんだが、んー知らん。
ただでさえやる気がないのに余計削る気か莫迦が、おい誰か迎えに来いよ。
手紙破り去ったから細かいことは知らないのだ。
まぁいいか、ホテルでも探すべ、金は腐るほどあるし一番高そうな場所にしようではないか。
「(糞ッタレの狙撃にも良いしな)」
○
「何!?侵入者じゃと?」
朝でもないしかといって昼飯を食べようとするような時間でもない微妙な時間。とある学舎のそれはそれはとても偉いジジイの部屋。もはや人間見えないその頭部が特徴の糞ッタレなジジイである。
さて、そんな微妙なジジイの微妙な時間に『彼ら』は正規のルートではない場所からの侵入を察知した。
「ええ、魔力を抑えているみたいで捕捉はまだしてませんが…認識阻害をしてるようでして」
電話の向こう側から焦っているように感じられる声が聞こえる。
焦るのも無理はないだろう、認識阻害を使っている術者は非常に高レベルらしいのか一人一人集中して探さないとすぐに見失ってしまうとのことだった。
しかし一人一人集中していれば何万もの人間の中から一人を見つけだすことがどれほどの労力か…。
「むぅ…空からの侵入に加えこのステルス性…AAクラス以上の奴かいな、タカミチ君?」
電話の向こうの相手は苦笑しながら肯定も否定しなかった。
かすかに笑い声が聞こえてくるばかり、しかも少し『何か』に引いているような感じも合わさっていた。
それにもしもし?と尋ねた老人、そして返ってきた言葉は…
「ほ、捕捉しました学園長、本国クラスだとSA以上でしょうね…あははは」
「ふぉ!?」
スーツメガネの男は見てしまった。
街をぶらつくフードを被った男を。
タカミチは忘れない、彼の後ろ姿を。
タカミチはフゥっとタバコを吹かし、フードの男であるシックスのもとへ走っていった。
あまりの出来事に学園長と呼ばれたジジイへの報告も忘れて。
「あの、すいません」
後ろから白いフードの男へと話しかけるタカミチ、内心少しビビっていたがもしかしたら、という可能性も有る。
最後に出会ったのは何時の日だったか、まだ自身が幼く『彼ら』の背中しか見ることの出来なかった日々を思い出していた。
「黙れヒゲ、俺は今忙し…oh、ナンティコッタィ」
振り向いた男の顔がフードから覗いた。後半の口調がエセ外人にしか見えない件についてはタカミチは触れることはなく、フードの男は非常に嫌そうな顔をしていた。
タカミチは目印となる赤目を見ようと思ったがサングラスをしているようなので本人かどうかはわからなかった。しかし動きやらを見て、なによりタカミチ自身のことを知っているようは振る舞い(学園内の魔法使いはそこまで驚かない)だったため彼がそうだと確信した。
「久しぶりですね!シックスさん!!いやー何年ぶりかな!?」
テンションが鰻登りどころかコイの滝上りクラスに上昇しているタカミチを見ながら、やれやれだぜ、な感じを出しているシックスであったが動かないはずの口元が少しだけ上がっていたのは誰も気付かなかった。もちろん本人さえ。
「おら、仕事をもらいに来てやったぞ」
「ええ!すぐに学園長のもとに案内しますよ!!」
タカミチに先導されながら学園内を歩くシックス。
数歩歩いたとき何か思い出したのかシックスのほうへと振り向き尋ねた。
今まで何をしていたのか、自身が咸卦法を使えるようになったとか、エヴァンジェリンがいるとか、そのサングラスはなんなのかとか。
楽しそうに話すタカミチをじっと見ていて、シックスは何も言わずただ頷き、話を遮るようなマネはしなかった。
「あ、そういえばテオドラさんの護衛はどうしたんですか?」
「世界を見て回れとの命令だ。その命令を実行するにあたって丁度良かったからだ。手紙も来たしな」
ツンデレみたいなこと言うシックスに「うんうん」と満足するタカミチ。
かつて彼が目指す『彼』たちの仲間と肩を並べ、そして戦ったシックスの大戦中のことを思い出ししみじみとしていた。だが最後に「手紙は見る前に破り捨てたけどな」とボソッと言った言葉が聞こえてしまい、一瞬だけ世界の時間が止まった。
「そ、それにしても世界を見て回れ、ですか。何故そんな…?」
タカミチの疑問に声に一瞬、いつもの無表情のまま口を開けたシックスだった。しかしすぐにシックスは思考に入り、顔はやはり無表情のままに。
シックスの出生を知っている人間ならばこれの命令もあながち悪くないと言える、だが知らない人はただ疑問だけだろう。
シックスにとって世界とは?それは最初に見た人であるテオドラであり、彼女が住む帝国であり、なにより戦争であった。…と思ってる彼らであるからして。
「…俺の母は緑色の液体で、父はいかれた科学者だからだ」
「な!?…まさか…初耳ですよそれ!?」
聞く人が聞けば頭がおかしい会話にしか見えないが、なにより大戦中の、それこそ大冒険と言える旅の中において様々な経験をしたタカミチにとってそれを考えつくのは容易なことであった。だが、まだ半信半疑であるのか不安な目をシックスに向けている。
「実は俺お前より年下だからな。戦争に参加したのは一歳前後だからな、hahahaha」
「な、なんだってーーー!!??」
○
「ふぉっふぉっふぉ、歓迎しますぞ狙撃手殿」
なんという、まさか生でみるコイツがここまでの奴とは思いもせなんだ。なにこの後頭部?莫迦なの?死ねよ。
中身が気になる、非常に気になる。パァンって撃ったらどんなお花を咲かせるのか気になる!
さて、咲かすとしたら銃の選択も非常に大事だ。あまりに強力な莫迦銃だと綺麗にならない。かといって弱すぎるとはじけ飛ばない。
頭に残った弾丸を爆散させるのもアリか…いやないな。焦げ目がつく。美しくない。
「し、シックス殿?その白い拳銃をワシに向けないでほしいのじゃが?というかワシなにかした?」
「…んぁ?あぁメンゴメンゴ、その後頭部を綺麗に吹き飛ばしたいと思ったんでつい」
「なにそれちょーやばいんですけど!」
イラッと来たが放っておく。
このタイプの莫迦ジジイは下手にかまうと調子に乗るタイプだ。
相手が偉いジジイなもんで大きく出れないことにつけ込む変態行動タイプだな。というかマジムカツイた、影の倉庫でも伸ばしておくか。いざとなったら倉庫から全門開放だな。
出てくるぞ?一杯、それはもう。
「で?俺は仕事として何をすれば?」
「むむ!そうじゃな、丁度テストに合格したネギ君もいるんじゃし副担「ガチャ!!」モガ!」
こいつ今春休みって言わなかったっけ?だとすると時間狙った意味ないじゃん。
むしろ部活生がいて大変だよ。いや今はそんなところはいい、先生?やめてよね僕の専攻は兵器工学だよ?何を教えろと?というかあとでこのデザートイーグルさん洗わなくては、消毒もいるな。いやいっそのこと消してしまおう。
勢いで口にツッコんでしまったが…全部この莫迦ジジイのせいだ果てろ。
「いいか?俺は先生なんかにならん、この学院には警備の仕事があるんだろ?それでいい」
ガチャっとデザートイーグルさんを口から抜いて消した。
折角術式追加したのにもったいないけど、ジジイとキッスかましたやつなんかいらん、せいぜい成仏してくれや。
「昼間何をする気じゃ?」
「はぁ?」
イマイチ理解出来ない言葉を聞いた。
あれか?俺が帝国産なのが悪いのか?産地直送じゃだめなのか?イジメかこれは?なんで金があるのに昼間も働くのか理解出来ない、夜の仕事(エロくない)はテオの説得のことを考えて万歩譲ったのだぞ。
なんということか日本人はどうしても働かないといけない莫迦民族なのか。
働きすぎだろ少しは効率考えろよ。つめ込めばいいわけねーだろ!!
「あのなジジイ?俺は金がある、つまり俺働かない」
「し、しかしのぅ、近所の目が」
「黙れ莫迦ターレ、貴様達日本人の気質なんか俺は知らん。夜の仕事(エロくない)もテオがあそこまで言ったためだ、昼の仕事をするぐらいなら今すぐコートジボワールでカカオの栽培を始めてやる」
「なんでカカオ!?」
うっさいタカミチ、フィーリングだ。適当だ、チョコレート作って毎年テオに送りつけてやる。
金は大量にあるから高賃金優待遇のプランテーション始めて地域密着型でも始めてみるか。
カカオ王にでもなってみるか、いいね。世界のことなんでも知りそうだよテオ。
「あいわかった、しょうがあるまい。それでじゃ…住むとこなんじゃが女子りょ「ダァン!!」…ナンデモナイヨ?」
「高い処だ、一番高い処にしろ。この麻帆良が遠くまで見通せるほどのな」
後ろの窓がバラバラになってるのを横目で見ているジジイが頷いているので銃を下ろした。それにしても色々最悪だなこのジジイ。
抹殺するぞ莫迦が、その長い後頭部は一体何のためにあるのか、その後頭部は考えるためにあるのではないのか!?
「うむ…探しとくわい。あぁ、それと戸籍も勝手に作ってかまわんかね?」
「一応作れ」
マンガやDVDを借りるためには個人証明書がいるからな。それを得るためにはやはり戸籍はいるだろう。
本来夜型ってのもあるがここまでニートだと逆にすがすがしいな。
どうせ窓あるいは屋上から狙撃するだけだしなぁ、わざわざ俺が出向いてまで戦うような奴がいるならとっくに麻帆良潰れてるだろう、一応ここは魔法世界においても有用な魔導書やらが置いてあるからな。
「手配しておこう。警備に関しては後に連絡するぞい、念話しかないからちゃんと受け取るのじゃぞ?それと今夜12時に世界樹広場前「だが断る」なん…じゃと…!?」
「見せ物にする気か?よろしい、ならばこの麻帆良が世界で唯一列車砲が爆走する街に変えてやろう」
バリバリバリバリ!!
「やめて!!見せ物にする気はないのじゃが…ほら、チームワークじゃったり…な?」
hahahaha、何をおっしゃる莫迦ジジイ。
狙撃手たるもの常に殻に引きこもり後頭部が長いジジイには従わないものだ、今決めた。
そもそもね、遠くからパンパンするだけの簡単なお仕事にチームも莫迦も無し。というか普段から実弾(笑)な癖して何言ってるんだこの莫迦共は。
相手の手札を失笑で済ます魔法使いどもにチームワークとかベルゼブブがキンチョールを振り回すぐらい有り難し事なり。
「17時にまた来る、そのときまでに家を用意しろ」
トビラを開けてさようならっと。
適当に17時とか言ったがそれまで何をするか…いや狙撃手たるもの地形把握は完璧でなくてはいけない。360度あらゆる面からの狙撃と跳弾を操るときにこそ我が『狙撃主』たる本領が発揮されるのだ!!…めんどくせ。
○
「はー、寿命が300年ぐらい縮んだわい。なんという我が儘な男じゃ」
バタン、とシックスが退場した部屋に愚痴が広がる。
ため息とともに吐かれたそれは撃ち抜かれた窓の向こうへと広がり、静寂が続く。
少しした後、タカミチが彼を弁護した。
「ハハハ、あれがシックスさんですよ。テオドラさん以外の存在については最低限でしか無いですから」
案内しているときの会話を思い出したのか、顔を伏せるタカミチ。
それを見て不安そうな学園長ではあったがヒゲを撫で回しいつもの砕けたジジイになる。
「ま、理解出来ないこともないが…。彼は銃を扱うようじゃからな。魔法使い達、特に『正義の魔法使い』達からは非難の嵐じゃ。反面帝国の住人からは圧倒的な支持を得ているがの」
「『正義』をうたう連合の戦艦を200隻以上たたき落としましたからね。ナギさんたちが彼の狙撃をくぐっていったらしいですが…、アルさんが言うには『アイツ』を除いて唯一死ぬ覚悟をしたらしいですよ」
「フォッフォッフォ、それにしてもタカミチ君。君は嬉しそうじゃな」
タカミチは笑っていた。
彼にとってシックスもまた憧れの一人でありごく僅かな時間といえど師事してもらったこもあるのだ。
学園長の言葉にタカミチは「また彼と仕事が出来るからですよ」と、最近仕事で疲れ気味の顔を吹き飛ばし、満面の笑みで返した。
「ネギ君には来るべき日に教えよう。ほれ、修学旅行ももうすぐじゃしのう。…あ、エヴァンジェリンのこと忘れておった」
「あ」
ジジイが策略を練りながら大変なことを思い出す。
最強種の一人として過去最高額の600万ドルの賞金首である彼女だが学院にいる理由はナギ・スプリングフィールドの呪いによってに縛られているからだ。
ナギの息子ネギ・スプリングフィールドの試練の一環として呪い解除を狙う彼女に襲わせようとしているのだ。
学院結界もあり吸血鬼としての力を大部分削られている彼女はそれこそただの『幼女』である。600年研磨してきた経験もあるが…狙撃に効果があるだろうか?
「まずいですね、彼ならばエヴァを一方的に虐殺出来ますよ!?」
「いますぐ念話を!」
ガタガタと机から立ち上がりソワソワする学園長と頭を抱え出すタカミチ。
そしていざ学園長が念話を送ろうとすると…
(ただいまこの念話はご使用出来ません。現在電波が届かない場所にいるか、そもそも拒否されている可能性があります)
「おおおいい!!!」
「17時になって来たときに話しましょう…」
そうじゃな、と机に頭を押しつける学園長。
一件で発せられた悲鳴が学園七不思議の一つに加えられたのは、どこの話であろうか?
To be continued