第十三射 狙撃手の弟子
トュルルルルルルルルル…ガチャ
「もしもし…俺だ」
夜中の何時だと思ってやがるんだ莫迦ジジイ。
ただでさえ時差ボケで死にそうなのにバッキュンするぞ…どうせ一眠りしたら時差ボケ治るんだけどね、素晴らしい肉体だ。
それにしても電話番号教えた覚えはないのだが…ってコイツが用意した部屋だから知っているのか、なんかストーカーみたいだ。
どうせ仕事だろう、受けた分ぐらい働くさ。とっとと屋上に出ますか。
「シックス殿!夜中すまんが援護してくれんか!?思ったより敵が多くてのう」
「金は?」
「払う!今日は思ったよりも大勢来てるんじゃ。敵の位置…」
パスー、とタバコを吹かす。
実際タバコじゃなくて魔法薬の応用で作った薬なんだけども、効果は興奮血圧を下げるものだ。あと煙が紫外線を吸収してわずかにマシになるらしい、一体どういう原理か非常に気になる。
魔法薬なんて俺にはサッパリーニョだったがな、知っても出来ない。
投影?設計図すらないのにあんな細かい物体作れるか。
で、タバコを吸いながら見るのは麻帆良の夜景。
百万ドルには負けるがなかなか趣がある…かな?
「あぁ…既に捕捉した、全方位いつでもいけるぞ?」
俺の目玉は大抵のものを捉えることが出来るぞ。
フフフ、風で飛ばされたスカートもバッチリだ。
いかんノイズが入ったか、ガチャンとハルコンネンを構える。
範囲が狭いから狙撃体勢に移る必要も無いな、麻帆良も狭いもんさね。
そして俺の弾丸は百八発あるぜよ。
「なんと!?」
「なめるなよジジイ、帝国の狙撃を見せてやるさ」
スナイプ・オブ・インペリアル。
いつからか帝国ではなく帝王の意味にすり替わって来たらしい、狙撃の王様的な感じでな。
まほネットにおける『帝国最強のシックス様 666弾目』参照だ。
相変わらずまほネットは混沌の海であるがなかなか有益な情報も多い。
なにより個人個人の包み隠されていない感情があらわになっているのだ。
耐性が無いものならば寝込むぐらいひどいものだが。
「目標をセンターに入れてダァン!目標をセンターに入れてダァン!目標をセンターに入れてダァン!目標をセンターに入れてダァン!目標を…飽きた」
言葉に合わせる必要なんかないな。
肉眼で捉えること出来るしなによりこれだと狙撃が遅い。
別にこのままでも援護が目的だから大丈夫だろうが、まぁ初仕事だ。
全力とはいかないが本気で行かせてもらおう…それしか能がないんでね。
撃ち負けはせんよ、当たるのであれば。
○
「はぁっ…はぁっ…クッ!」
麻帆良のとある森の中にそれはもう奇妙な光景があった。
黒髪ポニーテールの女子中学生が刀を振り回し化け物っぽい奴らと戦うという光景だ。
さて、そんな一部の大きなお友達が待ちに待ちそして望んだ光景であるのだが見ればその少女は大分苦戦しているようだった。
ボロボロになりながら、しかし決してその手に持つ刀を放そうとはしない…美しい。
「マナ?そっちはどうだ?」
「フフ、これはピンチだね。弾がソコを尽きたよ」
そして刀を持った少女と背中を合わす黒髪ロングに褐色の肌、長身の少女は応える。
口は軽いが手に持つ拳銃の中に既に弾丸は無く、そして疲労により肩が揺れていた。
それは勿論刀を持った少女にも言えることである。
お互い五体満足であるが疲労困憊、俗に言う&ピンチ&だろう。
「これはこれは、余計に報酬を貰わな「パァン!」なに!?」
褐色の少女(大)が更に声を繋げるときにそれは起こった。
目の前の化け物達、鬼や鴉天狗といったやつらが突如&はじけ飛んだ&のだ。
頭を中心に円状に吹き飛ぶ化け物たちは為す術もなく、木の影や仲間の影をそのままに、そしてそれごと消し飛ばしていった。
「これは狙撃か!?」
「援軍…なのか?」
褐色の少女は自身がそういう武器を使うのか目の前の光景に関して心当たりがあった。だがそれの行為にこそ心当たりがあるものの、それを行う人間に心当たりは無かった。
極東の地でありながらそこら一帯の魔法使いたちの拠点とも言える麻帆良だからこそ、『狙撃』という行動に出る人間は彼女&龍宮真名&ぐらいしかいないのだ。
(お〜〜い、桜咲君に龍宮君。今援軍をよこしたからもう少し…え?もう来てる?)
(学園長!?一体誰が…!?)
今頃念話をしてきた学園長。見れば囲んでいた化け物は全て消滅し、そして術者と思われる人間は上半身が無かった。
何かに抉られたような死体。
そこで龍宮真名はその狙撃をした人間について、ある程度の予測がついた。
正確無比でありながら異様な速度での狙撃…
「(まさか…師匠?こんなところで?しかし…)」
「ふぅ、他の地域も同じような感じだったらしいぞマナ…マナ?」
なんでもない、と慌てて返す。
その様子に何か言おうとしたが特にかける言葉も思いつかなかったし、なにより疲れていた。
互いは無事に安堵し、一方は例の狙撃の恐ろしさを。もう一方は恩師であり恩人でありいつか越えるべき存在を思い出していた。
「(あれは…アルカナか?なんでここに…って確か"そう"だったな。最近何も覚えてねーなぁ)」
で、360度一秒間に数発の狙撃というギネスもビックリどころかもはや変態な記録をたたき出した例の狙撃手だが、彼は仕事(という名の虐殺)を終えプハァ〜とどこぞの金に汚い豚野郎のように煙を吐き出した。
特に意味はないそうだがなんとなくやりたくなるらしい。
煙の輪っかをぽっぽっぽと出したり暇つぶしにはいいとのこと。
「あーー、もしもーし。こちら狙撃手」
夜よりも黒い何かがコンクリートの床からニョロニョロと伸びた。
その先には携帯電話がある。
彼の目のように赤色の携帯をカパッと開き彼は電話した。相手は雇い主である学園長である。いちいち報告するのは面倒な彼であるが、組織に組み込まれている以上我が儘も言うわけにはいかず渋々といった表情。
「シックス殿か、仕事が早いのう。先程の狙撃に関する質問が多数じゃ」
「俺の存在のことは言うなよ?」
「わかっておるわい、適当に誤魔化しておいたぞい。ファファファファ」
笑い方が異様にムカツイたシックスだったが、その怒りを聞こえるようにした舌打ちで我慢した。
学園長がそれについて何か言っていたが無視して、小汚いお金の話になる。
後には自身のここにいる理由が無いという理由で見事に100万を超える金を得ることに成功したシックスと、空を見ながら何かを呟く学園長が残ったそうな。
「おおお、なんという…この金喰い虫め!?」
「黙れ、これで最新のゲーム機器とプロジェクターでも買うか。部屋が無駄に広いし面白そうだ」
大画面でリオレ○スを拡散弾で滅多打ちにしたのはまた別の話である。
逆鱗がとれないのはただ運が悪いだけだ。
シックスが住まうことになったのは注文通りの高層マンションの一番上のフロアである。
運よく誰も買い手がいなかったのでそのフロア全部の部屋を買ったのはさすがというべきか、金を出したのは学園長であるのだがここでは触れないでおこう。
「まずは発売日を調べてスケジュールをたてなくては、一切の無駄も赦さんぞ」
中身の本質は未だに変わらず、更に言うなら魔法世界というある意味閉じこもった世界で何年も過ごしたのだ。その思いはどれほど積もったものか、彼以外に知るよしはないだろう。
別に知っても特に意味はないのだが。
「クフフフ、我が腕の中で息絶えるが良い!例えゲームをクリアしても第二第三のゲームが(略」
真夜中の上、なにより最上階全てが彼の部屋であるため屋上に誰も来なかったのが幸いしただろう。
所変わって、真夜中にマンションの屋上から閃光が飛ぶという噂が広まったとか…調べようとしても誰も見つけるのことが出来なく、そのまま泡の様に噂は消え去っていった。
○
「良い買い物をした」
次の日の夕方のころ。夕焼けを浴びながら俺は帰宅する。
左手にはゲーム機、右手にはソフトが入っている袋、完璧だ。
レトロから最新作まで網羅、糞ゲーワゴンゲーから地雷ゲーなんでもお取り寄せ可能。
ククク、脳汁の分泌が止まらない。
「普段のローブじゃねーから怪しまれないしな」
さすがに認識阻害が全体にかかっているといえどやめた方いいものである。
中には勘の良い人間がいるし、なにより俺がここにいるのは極秘なのだ。
名目ではジジイの個人戦力だとか言ってたな、まぁなでもいいさ。
俺の今の姿は赤いネクタイに黒いスーツという簡単な姿だ。白髪オールバックに黒いサングラス。
ふむぅ、どこのヤクザだ俺は。今気付いたが俺を中心に道が左右に分かれていっているように見える。
「怪しまれないけど怖いっていう」
だが今更この格好を止めるわけにはいかない、何故だがそう思う。
まぁ結構この格好気に入ってるから最初から変える気はないのだ。
この麻帆良だからきっと俺の格好もいずれどうでもよくなるさ、たぶんな。
それにしても面倒くさい。
俺的は折角日本に来たのだから京都へ行きたい、というわけでジジイに休暇(仕事を始めて数時間後)を貰おうと思ったがダメだった。
なんでもタイミングがどうのこうの言っていた。
仕事を守れないやつがテオを守れるわけがないそうなので(テオの言葉)渋々従うことに。
「あー、北海道行きてぇ」
カニを食べたい、カニの味噌汁飲みたい。
なんでこう、食物関係になると異様にやる気が増すのか…まぁいいさ、食べ物は必要なものだ。だからしょうがない。
食っても食っても体重も体格も変わらないからな、ダイエットも必要ない。
いるのは『肉体固定』の術式をいじることだけ、その気になれば猫にもなれる、んまい!!もふもふもふもふ!
「もしかして…師匠?」
ちょうど俺の横を通り過ぎた女子中学生が俺に話しかけてきた。
見た目大人だからコスプレにしか見えない褐色黒髪ロングというモロ俺の好みだから困る、俺とテオの間を切り裂こうとする邪神だなこれは。
というか俺のことを師匠って呼ぶのはやはりアイツしかいないな。タカミチは言わない、言えよ。
「アルカナか、なんでここにいるのか気になるが」
「今は龍宮真名さ、それとその質問はこっちの言葉だと思うけど」
マナ・アルカナ改め龍宮真名。
一応俺の正式な弟子でもある。
仕事中に出会った主従一組の従者がコイツだった。
四階の鈴みたいな名前の組織に所属していたが…コイツも俺と同じように銃器を扱うタイプだった、俺の正体のことを知るなり弟子にしてくれと頼まれた。
お断りしたいところだったが主従そろいに揃って俺をストーキングしてくるものだから半年の間だけ弟子入りを許可してやった。
あれ?こいつがいるということは主人もいるのか?
「お前には関係のないことだ、あと俺のことを師匠と呼ぶのをやめろ」
「わかったよ師匠」
カチンッと来るねこの女。
畜生いたる所成長しやがって…コイツの成長具合だったが、チート級だったね。
撃てば撃つほど当たる、なにこの女こわい。
俺のハルコンネンに興味津々だったが反動を計測したら大変なことになっていたので諦めてくれたよ。
二丁一式のケルベロスと交換になぁ!妙に喜んでいたがどうしたものか…ってよく考えたら帝国の英雄である俺が直接渡したものじゃねーか。どんだけ価値があるのか。まぁ大量生産できるんですけどね。
「ここで傭兵の仕事をしているのさ。なかなか高額だからね」
わかります!一回の出撃で百万はもらった、結構絞ったけど…というか傭兵?なんでコイツ傭兵なんて真似を…
わーお、忘れていたがアイツ死んじゃったんか。
ご愁傷様、俺には関係ないけどな!紛争地帯に介入しているのさ、五体満足のほうが少ない。
まぁ…どんまい。
「昨日の件は礼を言うよ、御陰で仕事仲間と一緒にあの世行きにならなくて済んだ」
「あの程度の敵でそれか、俺の弟子のくせに不甲斐ない」
俺が弟子と言ったせいか目を開いて驚いていた。
対して「師匠のようにバグじゃないから」と言われた。
確かに中身も肉体もバグであるのは間違いないがそのバグの弟子のくせになんたる始末…!これはひどい…!
ガンナーとしては弾数が命だからね、魔力が尽きない限り無限供給できる俺と、やはり差がついてしまうだろう。
魔力に自信があるのならば魔力弾でも撃てるんだが、生憎ねぇー。
「師匠はどこに住んでいんだい?」
「なんで教えないといけない?」
「フフ、冗談さ。あそこのマンションの最上階かな」
な ん で 知 っ て や が る 。
そりゃそこの屋上から狙撃しましたけど!?コイツは化け物か!?って化け物のほうが都合いいな、バグの弟子だし。
コイツ魔眼持ちだろ?あれ?邪気眼だったっけ?羨ましいな魔眼、かっこいいし。
俺の目はその気になれば複眼でも何でもなるが魔眼と一言で言うとかっこよすぎる。
「oh、ソンナワケネーダロィ」
「ダウト」
バレた。
まぁコイツに住所バレてもどうでもいいや、コイツなら俺の性格知っているし言いふらすこともないだろう。
さすが我が弟子だ、一瞬で見破るとはな。
これで褐色黒髪ロングじゃなかったらどんだけ良い奴なのか(テオとの仲的な意味で)
「誰にも言いふらさないさ…そういえばあそこの餡蜜が美味しいんだよね」
チラっ、チラっとコッチを見てくるのはアレか、脅しかこの莫迦弟子。
しょうがない、金は使うためにあるものさ。
昨日貰った100万を半分も使ってないし別にいいか、どうせ食い物かゲームしか買わないので。ついでに夕飯も行こう
「うるせェ寿司食いに行くぞ」
「お、イケル口だねぇ。デザートに餡蜜もお願いするよ」
コイツ餡蜜大好きだな、なんでか知らないが。ちなみに俺は炙りサーモンが一番の好物だ。え?聞いてない?世の中には無駄な知識ってのもあるんだよ!その無駄な知識が生活における潤滑油となるのだよ!ってけーねが言ってた。
けーねって誰だよ
To be continued