第十四射 不死の仔猫(爆)
この麻帆良学園とは摩訶不思議な場所でもある。
そもそも、こんな極東の地にこんな聖地級の場所があるとは俺には理解出来ない。
魔法世界における大英雄『紅き翼』のメンバーたるアルビレオとタカミチ二人がこの麻帆良にいるわ、英雄級の力を持つというここの学園長、過去最高賞金首の『闇の福音』、英雄の頭でもあるナギ・スプリングフィールドの実子もいる。
利用すれば世界を覆う大魔法の行使を可能にする魔力を保有する樹(バントウって名前だったか)やAAAクラスの禁書もあるわ…一体ここは何なのか。
タァァン!!
日本といえば京都だ。
京都はなんと世界有数の霊地でもある。
素晴らしいさすが京都だ。
日本の文化そのものが他の国々の文化と異様に異なり、その異なる文化が寄り集まった場所の京都だ、観光客美味しいです。
テオと一緒にまわりたいものだ。
一応&皇族&だから無茶なことは出来ないのだが。悔しいビクンビクン、っていう冗談はさておき…
タァァン!!
なにこの仕事超チョロイ。
前回のごとく敵戦力を撃ち抜く必要は本来無い。
関西ジュジュチュ協会の強行派の一派なのか、いわゆる式神を行使して攻めて来る。
式神はまぁ使い魔的な存在なのだが、魔法使いの従者の代わり的な存在なため猫や鴉といった使い魔より遙かに強力だ。
中には下手をしたら傾国をぶちかますような奴を使役した存在もいるという…噛んでないぞ?
タァァン!!
ジャパニーズモンスター、妖怪である彼らは正直『滅茶苦茶強い』の一言だ。
従者と違い大量召還可能、使用する魔力もあらかじめ紙に込めたものを使用するというエコロジー。
さて、そんな奴らであるが驚異的では無い、というのも式神という概念状のため魔力の供給を続けなくてはならない。無くなればポンッと還っていく。
エコロジーだが燃費が悪いという一見矛盾したような奴らだ。で、簡単に言うと狙うのは術者だけでよい。
特に俺は脳天一撃必殺だからな、式神共はある程度自立するがすぐに終了だ。
タァァン!!
ジジイの話では術者を拘束するのではなく、殺すという理由のためか少し反感を買っているそうだが…俺が狙撃するのは突破されそうな地点のみであるため公に文句を言うことも出来ないとのこと。
一方的に悪と決めつけてブチコロス癖に、もう一方では殺すという行為に文句を言うとはなんとも面白い存在である。
タァァン!!
一方的な正義とかなんとか言うが…俺は特に何も思わない。肯定の意も持つし否定の意も持っているさ。
その一方的な正義が世界を包んだら、まさしく世界は平和になるだろうよ。
個人の意見?莫迦か貴様等、それこそ最も戦争を起こす種だ。
俺は誰に言っているものか、最近やった変なゲームのせいだ。
畜生俺ならばBETAなど肉体解放だけで殺せるというのに!
「こちら狙撃手だ…終わったぞ」
「うむ、今日は撃った数が少ないようじゃな。ってことは…」
電話でジジイに告げる。
活躍などから給料を出すことをやめたのか、俺は弾数の歩合だ。使った弾丸が多いほどそのぶん給料は高くなる。
わざと多く使ってもいいのだが、無駄なことはしない主義だしなにより金に困っているわけじゃない。
働くならば金を必ず貰う、っていうアレだ、そういうアレだ。
狙撃手の誇りとしてより少ない弾丸で一撃必殺を。心の師匠のように必殺率150%を目指さなくては。
「スイス銀行に振り込め…意味?特にない」
ガチャっと電話を切る。
ちなみにどうしてスイス?ってな人のために説明しておくが…スイスが永世中立国だからだ。
戦争に介入もしないし軍隊の通行も赦さない代わりにこちらは何はしないっていう国な。
どういうことかというとスイスの銀行に振り込めば警察も何も出来ないってことだよ。
僕は悪い殺し屋じゃないよ、ぷるぷる。がリアルで出来る(ような気がする)…むむ
ガチャ…
「ほぅ…気付くか」
どうやらお客さんのようだ。
招いてもいないし拒絶しているわけでもないが…狙撃手の後ろをとるとは命知らずな奴だ。
まぁ俺はどこぞのスナイパーよろしく撃つわけじゃない、だが狙撃手は後ろががら空きだからその反応は正しい、殺されても生き返ると言ってよい俺だからこそ余裕っぷりを醸し出せる。
命知らずなのはどっちだよって話だな、上手いぜ俺。
○
「さすが帝国が誇る狙撃手だ」
黒いマントに金色の髪が月夜で輝く。
彼女の目の前には依然として麻帆良の夜景を見ている狙撃手がいた。
彼女の隣には彼女の従者である魔法と科学が融合したガイノイドの姿もいる。
そんな彼女たちは最近学園における魔法関連の人間たちに噂になっているという…『もしかしたらこの学園に狙撃手いるんじゃね?』という話を聞いた。
学園長のジジイに聞いてもはぐらかさる、だが彼女ほど長く生きたい存在ならばこれが答えとなってしまう。
『狙撃手が実在』すると。
「だが背中をとられるとは狙撃手として「マスター!!」なんだ茶々丸?」
未だにタバコを吹かし麻帆良の夜景を眺めている狙撃手は彼女『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』の存在に気付いてないかのように、しかしタバコを持っている手と逆の手には銃を構えていた。
無論、彼女もそれには気付く、だからこそ話を進めようとしていたのだ。
「な、なん…だ、これは!?」
狙撃手として背中をとられる、それは狙撃手としては最悪の状況だ。
彼女は世界最強の狙撃手であるシックスの背中をとりご満悦の表情であったが彼女の従者『絡繰茶々丸』の声に反応し、そして気付いてしまった。
茶々丸の無言の目配りに合わせて見てしまったのものは、彼女たちを狙う無数の『銃』がそこにあった。
「砲撃の魔法使いが背中をとられるとはな、ククク」
そこで狙ったかのように振り向く狙撃手を見て、ようやく彼女は気付く。誘い込まれたという現実に。
一見狙撃手の背中をとるという行為は狙撃手にとって致命的であるが、致命的であるからこそ対処をしない狙撃手はほぼ皆無だ。
魔法陣のトラップをしかけるもの、高密度の障壁を張る物、対処にこそ様々な方法はある。
「(チッ、嵌められたッ!…なるほど英雄だ)」
エヴァンジェリンは彼の姿を見て、噂通りだ、と思う。
曰くフード付きのローブを着ている、曰くその目は血のように紅い、曰くフードを深くかぶりその目しか見えない、と。
学園に閉じこめられて15年、様々な意味で暇を過ごしていたエヴァンジェリンにとって彼の来訪は天の声にも等しいものだった。
「13秒だ。貴様がここに降り立ってたったマヌケな時間は」
エヴァンジェリンは益々興味が湧く、まるで自分を閉じこめた憎き『アイツ』のように…目の前の狙撃手は彼女のことを知りながらも、そんなこと関係と言わんばかりの行動言動思考、だが彼女はそこに『紅き翼』とは違う英雄としての器を垣間見たような気分だった。
「ほぅ、私が『闇の福音』でありマガ・ノスフェラトゥであることを知りながら、マヌケと言い切るかスナイパー」
フードの影と夜ということもありながら顔の様子は見えない。
しかし、何故か彼の二つの目はまるで光っているかのように、ハッキリと赤く染まっていた。
彼女が攻撃しないとでも思っているのか攻撃したとしても対処できるという自信か手を大きく仰いでいた。
「随分と偉そうな糞餓鬼だな。お前がどういう魔法使いだろうが、俺には関係のないことだ。立ちふさがるのならば鉛色の空を見せてやる」
「クックック、さすがだな狙撃手。連合には随分と嫌われているようだが…納得いくものだ」
嫌われている、とハッキリと言うエヴァンジェリンだったが狙撃手は不機嫌になる様子もなく、誰にも気付かないようニヤッと笑い、展開していた銃器を消した。
彼女はそれを見て驚く。
魔法の類ならば、銃を生み出すという工程を作る必要も無く、幻影の類であるのらそもそも彼女には効かない。そしてなにより自分を殺すアドヴァンテージを消したのだ。
「いいのか?私が貴様を殺すやもしれんぞ?」
「無駄だ」
ハッキリと言う狙撃手に対して、楽しそうに笑うエヴァンジェリン。
最強の魔法使いの一人として扱われる彼女をまえにして「お前は俺に勝てない」と宣言しているものである。
ただの蛮勇か、それとも…どっちにしろ彼女にとって好ましい性格であった。
「くくく、自信満々だなぁ?」
彼女からすれば正直今の状態において狙撃手に勝てる要因は一つも無いことはわかっていた。
600年研磨させた経験がどこまでカバーできるかにかかっている。だが経験といえどどこぞの糞餓鬼じゃなく、戦場を渡り歩いた英雄の一角である彼に有効的なものだとは思わない。
故に彼女はいつでも動けるように神経を張り巡らせた。
「ここに縛られている上に学園結界で力も封殺、むしろそれで俺の眼前によく出れたな」
「(…15年目でようやく気付いたというのにっ!?)」
ほのかにショックを感じたエヴァンジェリンであるがそれを悟らせるわけにはいかない。
600年も悪の魔法使いとして生きた彼女にとって感情を隠すことは容易であるのは言うまでもなく、ショックを上手く隠せたのか、それを表に出さず会話を続けた。
「んで?用はなんだ?」
「なんだツレナイなぁ、私が噂を確かめにきてやったというのに」
だら〜ん、と腰をかける狙撃手を相変わらず見下し(位置的な意味)ながら言葉を言うエヴァンジェリンであるが、特にシックスは見ての通り、気にすることもなく答える。
コンクリートの床に寝転がりながらタバコを吸うという一部の人からは積極的に怒られそうな姿を見せる彼に、警戒心という言葉を忘れたのかコイツは、という心情であった彼女であり、表情が次々に変わる主の姿をしっかりと録画していたポンコツがいたのは秘密だ。
「噂ぁ?…んぁ?まぁどうでもいいがな」
「狙撃手がいる、とな。狙撃で思い浮かべるのは貴様だけだからな、ダブル・シックス」
狙撃手的な心情から言えば噂されることは想定内である。
内心で「モテる男はツライな」半分冗談を思おうとしたところ、背景に角の生えた般若がいたので一瞬でその思考は消え去った。
フードと夜という関係もあってか冷や汗を誰にも気付かれることはなかったが体温の上昇やらなんやらを感じ取ったガイノイドの従者がいた。が、あえて空気を読んで黙っていた。なかなかやる。
「俺も聞いたぞ?この麻帆良には合法なロリ吸血鬼がいるってな」
「…」
「十中八九マスターのことか「少し黙れ」Yes」
なんだこの莫迦は、と口から出そうになったが持ち前の無表情無関心無気力のスキルを使用して喉に詰め込んだシックスだったが、目を細めてしまったためかエヴァンジェリンは思いっきりシックスを睨んだ。
眼力で鳩も射殺す勢いだったが、そこは戦場で死線をくぐり抜けたシックスには無効である。
なにより封印された状態では、特にエヴァンジェリンという幼女のにらめっこレベルだからしょうがない
「もういい茶々丸、帰るぞ」
「ハイ、マスター」
エヴァンジェリンの目的は達した。
帝国が誇る最強の英雄と言われている(連合では不人気)彼がこの麻帆良にいる、それだけで随分と麻帆良における生活も楽しめる、そう思った彼女であった。
あのナギ・スプリングフィールドでさえ戦場で会えば恐怖を覚えるという狙撃手、連合の空を恐怖に塗り替えた犯人が、この正義の魔法使いどもがいる、さらにはナギの息子がいるこの麻帆良で警備員になっているという笑い話だ。
「(狙撃手に背中を見せるとか莫迦か)」
そんなことを思いながら飛び去っていく二人を見てタバコの煙を吐く。
本当は彼の無表情のせいか気付かなかったが、不機嫌さがMAXであるシックスだった。
彼の表情を明確に読める存在はただ一人であり、なんとなくわかる存在が数名なのが幸いした。
突然現れた幼女に測られるという一種のご褒美(一部)なのだがシックスにはそういう属性は無い。
「(ますます奇妙な処だ麻帆良学園は、どこかに戦争ぶちかます気か?関西呪術協会に喧嘩売ってるとしか思えんが…)」
ジジイの思考的には何も考えてないのだが、見れば見るほど怪しいのは言うまでもない
○
「なんという…絶望ッ!勝てない…俺が…ッ!?」
ざわ…ざわ…という擬音が聞こえてきそうな我が家です。
まさかこの麻帆良で俺がここまで苦戦する敵がいるとは思いもしなかった…なんという失態、狙撃手たるもの事前に相手のことを調べ徹底的に潰すための作戦を考えておかなくてはいけなかった。
「なんという連戦…無理!!畜生……バ・ベルめ!!!」
次々と死んでいく仲魔たち、サマ○カームが間に合わないだと!?王の門とやらは化け物かっ!?反則だろ常識的に、なんで連戦なんだよ莫迦めっ。
「くそう、これがメガ○ンクォリティか」
ダメだな、今日はやめたやめた。
散歩にでも行くか。
狙撃の練習も続けないといけない。魔法球も持ってくればよかった。
さすがにエヴァンジェリンのように時間圧縮までは無理だったが任意の空間を作り出すことは出来たのだ。だがまた一から作るとなると、しんどいものだぞ。
ジジイに頼むか、それとも射撃に携わる部活にでも顔を見せてみるか、まぁ適当に歩きながら考えるべ。
ガチャ
「おや師匠奇遇」
バタン!!
「幻覚だ」
俺ゲームのしすぎで目が疲れているかな?道理で変な邪神様の幻覚が見えるんだ。
畜生、なんでテオじゃない。
そこまで邪神オーラが強烈なのか、自称したくはないが英雄の一角である俺が負けるだとっ!?畜生、褐色肌黒髪ロングという『何かの極み』とか…なんて強さだ。
これで巫女服で迫られたら死ぬ、十二分に死ねる。
女神様(テオドラ)の加護が俺を守ってくれるように祈るしかあるまい
ピンポーンピンポーン
おかしいぞ、今度は幻聴が聞こえるようになってきたな。それにしても…おかしい。重大なことだから二回言いました。
奇遇なはずなのに最上階にいるとか、今なお聞こえてくる呼び鈴の音とか、一体全体どういうことか。
なにがなんだからわからない。あぁ、神様。今俺に邪神を打ち倒す力を授けたまえ。
ピンポーンピンポー…ダァン!!
あれ?呼び鈴じゃない音が聞こえたような気がするぞ。しかもしょっちゅう聞いたことある音だ。
具体的に言うと発砲音かな?サイレントタイプみたいだが…幻覚幻聴の次はなんだよ、俺は今忙しいのだぞ。
「や、師匠!」
「oh」
貴様っ。誰が修理代出すと思ってやがる。ジジイだとわかってんのか、お?よしもっとやれ。
それしても本当に俺の住所を特定するとはなんという奴だ。
調子に乗って訓練しすぎたか?ふむぅ、ケルベロスの件もあるし戦闘力が結構高いんじゃね。
ケルベロスの弾丸は問題ないみたいだが…ケルベロスそのものはまだ使う気はないのか。聞いてみてもはぐらかされるし。
「なんでお前ここに」
「少しお腹がすいてね、偶然にも師匠の家が近くにあったんで…」
理由になっていない件について。いつのまにたかる女になったんだコイツは。
邪神様め、それ以上俺に近づくんじゃない!!ナンマンダムナンマンダム!!
「十字架っぽい奴の前で手を合わせてるってなんの宗教?」
いかん、ついパニッシャーを出してしまった。
神様の加護がありそうだからなぁ、その気持ちわかります!くやしい!!ビクンビクン。
「…はぁ」
手でついてこい的な意味を出すとフフンと笑いながらついてくるこの女、何故か逆らえない。
まるでテオドラのようだ。
褐色とおっぱいという部分しか似てないくせに一体どういうことか。
今日も憂鬱、明日は曇りの日。なんとまぁ、最低な場所だなこの麻帆良。
「なんで十字架を背負っているんだい?」
「…あ」
To be continued