第十六射 暗黒便箋三十六の波紋
〜拝啓 親愛で崇高かつ最高なテオドラ様へ
最近こっちでは桜とか言うピンク色のエロい木の花びらが散り緑色になってきたような気がしないでもありません。
そんな今日このごろテオドラ様は如何お過ごしでしょう。
テオドラ様といえば——
《以下便箋3枚分ぐらいの賞讃の嵐》
つまるところ私はあなたのような御方にお仕え出来て幸福で死にたい気分です。
さて、本題に入りますが、麻帆良での仕事の都合において日本の古都、京都へ行くことになりました。
良い土産を用意したいと思っております。
今日も元気だテオ可愛い。
〜敬具 シックスより
「(どこで踏み外したんじゃろうか…)」
気合いの入った旧世界からの手紙を読むふけてるテオドラ第三皇女の姿があった。
一見頭がおかしいんじゃねーの?と思ってしまうほどの内容具合に呆れて、空をボーっと眺めている皇女は今後のことを考えてしまう。
「(そもそも本題が二文って…)」
最強の従者のダメダメっぷりにドン引きしながらもやはりどこか不思議な、何か胸が熱くなるよいうな感情を持ってしまう彼女だった。
この手紙を彼のファンに公開したらどんな社会現象が起きるのか少し好奇心の湧いた皇女だが、そう民衆が上手く信じるわけもない。
馬鹿な考えだといそいそと返事を書く準備をする。
まさか本当に七日に一枚は手紙を出すというマメさと溢れて腐り果てそうなその忠誠心に少し感謝をしながら、どこかご機嫌で手紙を書き紡いだという。
「(嬉しいのじゃがぶっ飛んでおるのぅ…これが愛か!?)」
20年以来の関係である。お互い娘と父、母と息子、そして何より愛する者ものと恋するものの関係である。
シックスの出生の理由のためいろいろと複雑な関係であるが、それでもテオドラは現状に満足していた。しかしどこか行き過ぎなシックスの文様に引きつってしまう皇女であった。
「(少しは妾立ちを…やっぱダメじゃ!)」
もどかしい感情を抱いて、表情が次々と変わる第三皇女を心配したり微笑ましいとにこやかだったりと、世話をする女官たちが噂をしていたそうな。
○
「えーこちらは京都における揉め事の専門家のシックスさんです。何かあったらこの方がゴニョゴニョしてくれます」
おっぱいフェスティバルなメガネの姉ちゃんに紹介されましたワタクシ、狙撃手ことシックスでございます。
さて、外を彷徨く用のスーツに身を包みましたがなんでも俺は&あの&3−Aと一緒に行動することになったのだ。
ターゲットから近いのはいいことだがあまりに近すぎて行動が制限されるような気がする。あとこの3ーAの視線がおかしい、黄金を見つけたアメリカ人並だ。
「あーー!!マナちゃんの隣にいた人!?」
「本当だっ!?」
マナに聞いたところ俺と一緒にいたところを写真に撮られたらしい。
殺気も威圧も何もない一般人相手だったら俺気づけないよ?だって後ろから狙撃するだけじゃん?俺の仕事。あきらかなモノじゃないと俺は気づけないんだよ。俺の仕事的に相手が俺に気づく前にヤるからいいのだよ、お解り?
「みなさーんお静かにーー!?」
ギャーギャーやかましい。
震える手をテオに9割9分をそそぐ良心の残りの欠片を用いて自制する。
噂の莫迦餓鬼の姿も始めて見たような気がするよ。エヴァンジェリン(笑)との決闘の時は魔法しか見てなかったからね。
折角の京都だというのに騒がしいのはちょっとお断りしたいものだ。
古都だぞ?世界最強の古都だぞ?東京(笑)になるぐらい素晴らしいところだというのになんという…なんという!
「あー、ご紹介されました。ダブル・シックスだ。揉め事をあんまりおこすなよ」
目を輝かせている莫迦共は莫迦餓鬼の注意を聞いたのか口を抑さえる。
俺の言葉に「ハァーーイ♪」と寒気が覚えるような言葉で返してきた。
いかん、帝国で引きこもりすぎて対人戦闘続行不可能だ。今更だがな!
なんかよ、その目の輝きを通り越して殺気とか威圧とかそんなチャチなもんじゃないなにかの片鱗を匂わせる感じの奴がいるぞ。
なんだあのパイナップルは。
そもそもなんだこのクラス。
小学生みたいなやつから乳がハリケーンな奴もいるぞ。
「ええと、シックスさんでいいのかな?ちょっと質問させてもらっていいかなー?」
「軍事機密に関わらない程度なら」
「じゃまず一つ!龍宮真名さんとはどういう関係かな!(軍事…?)」
なんだコイツ、俺のボケをスルーしやがって。
軍事機密とか、言い訳です本当にありがとうございました。
あ、別に本気にするなよ?実際軍事機密って結構やばいから、戦艦の製造方法とか網羅しちゃったけど。
三ヶ月ほど訓練時間をくれるなら本物を見せてやりますよ。金取りますけど。
(なぁマナ、こいつのパイナップル切り落としていいか?)
(反省してるから勘弁してあげて)
なかなか難しいことを言ってくれるなこの莫迦弟子。
俺はこういう妙にテンションが高い奴は嫌いなんだ。
いや、そう考えるとこのクラスの人間大体当てはまるような気がする。
俺の返答を待っているこのパイナッポー女をどうするか、おいマナなんとかしろ。
「息子の知り合いだ」
「な、なんだってーー!?」
ΩΩΩ、な空気を醸し出す。
最終手段的なアレだがまぁいいだろう。
結果として被害はマナに返り咲くってな。
いやいや、それにしてもいい空気だ。
この暢気な莫迦共とこの旅行において『何か』を感じ取っている訓練された莫迦共の。ギャップ萌えとはこのことだったのか。
さて、騒いでいる莫迦共を放っておいて俺は新幹線へと乗り込む。
よく考えたら俺ここに来て初めて新幹線にのるわ。
「シックスさん、今回は宜しくお願いします」
「んぁ、まぁボチボチな。ポニテもまぁ適当に楽しんでおけ」
ポニテではないと自身の名前らしきものを言っているが気にしないことにしよう。
ここで今回のミッションの確認をしよう、成功報酬は合計1000万、尚前金として300万は既に得ている。
作戦概要はターゲットの護衛。
護衛において一般市民への被害は確実にゼロにすること。
魔法バレの責任は莫迦餓鬼に押しつけよう、俺の知ったことじゃないし。
どうせバレるだろ、うん。ターゲットの名前は近衛木乃香。
学園ジジイの実孫であり、莫迦魔力の保有者。敵はこの魔力が目的かと思われるなり。
「(莫迦餓鬼のほうは…まぁ、適当に期待しとくか)」
敵戦力は不明、恐らく関西呪術協会の一部かと推測、対魔弾丸でも用意しておくか。
式神やらなんやらはマトモに相手するのは面倒だ。
ジジイの要望にて敵戦力に対してはなるべく生け捕り、非常に難しいことを言ってのけるが金を貰ってるので断れない。
まぁ、力の見せ所だ。
ガタンゴトン…ガタンゴトン…
新幹線が動き出した。
俺は座席には座らず後ろのほうに立っているだけだ、車両と車両の間にあるあの空間だ。ちなみに桜咲も何故かいる。
あれか、ご主人様と一緒に入れられないほど愛おしいか、いい光景だ。
憎たらしいほど愛おしいとはこのことだな。
俺もそのレベルまで達したらきっと昇天しちまいそうだ、フヒヒ。
「(3ーAにおいて戦闘可能な人間は…4、いや5人か?相手が式神ならばアスナ姫は最高戦力だ…って、マジックキャンセル扱えるかどうか不明か)」
戦力の分析、ジジイによれば魔法がバレているのはアスナ姫だけらしいが中には感づいているものもいるかもしれない。
そういう奴らが集まっているからね。戦闘が可能なのは桜咲、マナ、糸目、中国、次点でアスナ姫。
行動できるのは桜咲、マナ、アスナ姫の三人ということになる。だがマナは傭兵として狙撃手としての誇りを叩きこんだから金を貰わない限り動くことはないだろう。
莫迦餓鬼は置いておく。
アスナ姫がターゲットの側にいるのは幸いだ、俺はずっと後方でスコープを覗いておけばいい。
前に出て戦う必要がないのだ。
「(桜咲は例の件もあるしずっと一緒というわけもあるましいな)」
莫迦餓鬼とアスナ姫の二人でターゲットを常に護衛、何かあったら桜咲が駆けつけるという寸法だ。
敵が本国最高クラスでも無い限り二人が桜咲が駆けつける前に死ぬこともないだろう。
ま、任務の都合上俺が殺させることもさせんがな。
相手の戦力が不明なため途中の戦力低下だけは避けたい。
「(万が一、ターゲットが確保された場合…)」
敵戦力がターゲットの魔力を狙っていると考えると『何か』を用意している可能性がある。ただ攫うだけだとすぐに奪還のメドが立ってしまうからな。
すぐにその魔力を利用した何か…思い出せよ俺、全然思い出せんぞ。
一般人どころか英雄の魔力を越えるターゲットを利用する魔導兵器か。だとすると国崩しクラスの化け物になる。
召還された場合、全力を持って排除せねばならんな。グスタフさんでも用意しておくか。
「(人質にされたら場合は…どうでもいいか)」
2000mも離れてなければアリの眉間に弾丸をぶち込む自信がある。
人質をすり抜けて敵に当てることなんざスコープ無しでも出来るぜ…ためしたことないけどな。
ただ人質にして関東魔術協会と交渉の可能性も考えておこう、ターゲットは関東魔術協会の頭の孫であり関西呪術協会の娘でもある。
敵が関西呪術協会の手のものならば魔法使いどもに何か制限を与えるようにするだろう。
「(下手をしたら関東魔術協会でも関西呪術協会でも無い第三の勢力…いずれにせよ、俺というイレギュラーが存在するのだから何が起きても不思議ではないな)」
日本そのものに大ダメージだな。
それとも敵がそうだとしたら魔導兵器狙いか。
やれやれ、厄介な仕事を押しつけられたものだ。京都と聞いて俺もノリノリだったのがアレだがな。京都楽しみでしょうがないのは秘密だ。
ワーワーキャーキャー
「五月蠅ェ」
前の車両から騒ぎ声が聞こえる。
先程、というか出発するときから五月蠅かったか今聞こえるのは悲鳴だ。
早くも妨害でも入ってきたのか、そうだとしたら相手は二流の糞莫迦だ。
一般市民に何の影響も与えずターゲットのみをしとめる、これがプロ(笑)の通常だ。もう既に焦っているのか…無いな。
「行かなくていいのでしょうか?」
「一般ピーポーも巻きこんでいるのならむしろ行く必要はないさね。少なくとも忍者と中国人と莫迦餓鬼が動くさ」
忍者、中国人は一般市民だが戦闘力は保有している、マナは言うまでもない。前者二人も見習いの魔法使いよりも役に立つだろう。
前方の様子から見るとただ騒いでるだけなので…カエル?まぁいい、ただのイタズラレベルだな。
マジメに考えるならばどさくさに紛れて莫迦餓鬼が持つ手紙の入手か、ターゲットの捕獲は無理だろうし。
「ツバメだな」
「私が」
このポニテもある程度は仕事に慣れているらしい。
まぁマナと行動していたし、中学生の割りには神鳴流も板に付いていた。
一定のレベルの神鳴流ならばジャッカルの弾丸も切り裂くぞコイツら、おお、こわいこわい。
ま、ハルコンネンさんだと無理だがな。
出来るのは詠春か、歴代最強とか言われている青山姉妹か…あいつら焼夷弾の炎ごとぶった切るからな。
なんだアイツらコワイ、だから神鳴流は嫌いだ。
代表者たる詠春とは巫女について語り合う仲だがソレだけは勘弁してほしい。
さて、話を戻す。
奪おうとしたのは手紙だった。
ドサクサに紛れてツバメ型の式神に奪わせたらしい。だがポニテが飛んできたツバメをスパッと斬った。
この狭い車両内で野太刀を使うという神業(神鳴流なだけに)だ。
キンッと刀をしまう音しか聞こえなかったな、すげェ。何よりツバメだけを斬るというね。なにこの娘天才じゃね。
「(俺を襲ったときのように焦ってなかったら中々だな)」
「待てーーーーー!!!」
莫迦餓鬼が追いかけてきたようだ。というかね君、車両内にネズチュー連れてくるんじゃねーよ。
いや、それを言うのならば10歳の子供が教師という立場になっている異常を先になんとかして欲しいのだがなぁ。
まぁ今更俺が言ったってしょうがないし、末端たる俺が一言申しても意味は無いだろう。
そもそも俺のことを嫌っている人のほうが多いからね、言っても聞くわけがない。
何より俺が麻帆良にいることを知っている人間は10人にも満たない。
「ネギ先生…?」
「桜咲さん?…それと、ええと」
「シックスだ。ミスタ・スプリングフィールド、車両内ではあまりはしゃぎすぎないようにして欲しいものだがね」
「あ、すいませんシックスさん」
妙にへこへこしながら謝られた。&五月蠅ェ莫迦しゃべるな&という副音声が聞こえないらしい。
というか俺自己紹介一応したよね?なんでコイツ聞いてないの?…別に覚えて貰ってもどうでもいいな、特に男にとか。マジ勘弁して欲しいって感じ
「気をつけたほうがいですよネギ先生、特に向こうに着いてからはね」
手紙を渡すポニテに腕をブルンブルン振る莫迦餓鬼。
いや「落とし物です」って渡しても普通に怪しいよね今の俺たち。だが莫迦餓鬼はそこら辺のことを考えては無いようだ。
その代わり肩にのっているネズチューがなにやら呟いている。
残念だったな、ヒソヒソ話だが俺の『あらゆるテオの命令を聞くため』の特別製イヤーには筒抜けだ。
なにやらこっちをチラチラ見ながら車両に戻っていったが…あのネズチューは特に俺のほうを見ていたが一体なんなのか。
「桜咲、さっきの発言でどうにも疑われたみたいだぞ」
「えっ」
あのネズチュー、女子寮で性犯罪を起こすくせに頭だけは回るみたいだ。だが今回はまわりすぎてドツボに嵌ってしまったな。
…ジジイの野郎、誰が味方か説明もしていないのか、下手をしたら仕事の邪魔になるぞ。
そんときはそんときで別にヤッてもかまわないのだがな、書類にはターゲットの護衛と3ーA生徒の安全。
それに『極力魔法をバラさない』というふざけた条件、バレることは確定だな。
原作でも確かそうだった気がする。
残念だが3ーAの担任の話は一個も無い。
「(死体で返ってこようがバラバラになろうが、任務完遂のための犠牲だ。正義の魔法使いの大好きな役職だ。さぞや本望だろうよ)」
どの道刃向かって来た場合だけどね、さすがにそれは無いことを祈るよ。
俺でもかつて背中をまかせた人間の子で、何より子供だ。
未来が定まっていない子供を殺すのは将来的な損害だな、もしかしたらテオの肉の盾になるということもあり得る、というかそれだけであってほしい。
莫迦と殺し合い、そして莫迦餓鬼と。親子に渡って殺し合うか…面倒だ。
…いや悪くないかもしれん。
どこかのベストセラー作品に似たような展開があったはずだ。
《まもなく京都です、お忘れのないよう御気をつけ下さい》
来たか、ついに俺の京都初上陸作戦が始まる。
フヒヒ、鹿苑寺龍安寺清水寺平安神宮伏見桃山二条城どれを最初に堪能するか。いや、まず最初はお茶と団子を楽しむべきか!?
「ときに桜咲」
「なんでしょうか?」
「100万程度で買える程度の土産ってないか?」
「……程度?」
To be continued