第二十三射 時の引き金
プルルルル……
「……んぁ?あ〜〜、もひもひ?」
旅館のロビーにて携帯の着信音が広がる。その携帯の持ち主はシックス。
眠たげなその目をこすりながら携帯を開く。
彼と同じように麻帆良の生徒もいるのだが、ソファでふんぞりかえっている彼の姿を疑問に思わないのは何故だろうか。謎は深まるばかり、さすが麻帆良の生徒とでも言えばいいかもしれない。
気が付いたら眠っていたぜ、的は雰囲気を醸し出すそのシックスの姿はかなり珍しいと思われる、そしてまったく関係ないがその風景を納めている写真、あるいは映像はマニアには高額に売れるだろう。
「わしじゃ!!お主は何をやっておるのじゃ!?」
うっせぇうっせぇ近所迷惑だ、とロビーにまで聞こえそうな学園長の言葉を戒める。
何で怒っているのかサッパリ要領の掴めないシックスだったが玄関から見える外の様子を見て納得したようだった。
携帯を器用に頭と肩で押さえ、ポンッと右の拳で左の手を叩く。
現在は夜、星々が煌めく闇の時間。そんな詩人みたいな言葉を考えるシックスは密かに焦っていた。
「(やべぇ寝てた)」
「こりゃ!聞いておるのか!?関西呪術協会の本拠地の結界が破られたのじゃぞ!?」
破られたことには自身は責任は無い、と思うシックス。
何度も書くが彼の任務は&護衛&と3ーAの一般人の&安全保障&である。
本拠地の結界が破られたのは本拠地の奴らの責任であり、それを自身に着せるなと呪怨を込めて呟く。
確かにその通りである、現に学園長ですら本拠地の結界が破られるとは思わず、デマカセですぐにバレるだろうがシックスもまた「まさか破れられとは、遺憾の意である」と言えばいいのだ。
総責任者である人が気づかす現場の人も気づかなかった。ならば悪いのは?
「結界を破られるとは、ご愁傷様」
「人ごとじゃないぞい!そもそも本拠地には生徒諸君も行ったという、護衛はどうしたのじゃ!?」
「なるほど、次はネギ・スプリングフィールド及び周辺の護衛人の失敗を俺に押しつけ、尚かつ自身から顔をツッコンだ一般人(仮)の安全を?そりゃ無理でござる。さすがに俺でも戦場の真ん中を歩く餓鬼を戦争から助けるなんて、わはははは」
シックスだって無茶苦茶なことを言っているとわかっているつもりだった。しかし学園長はこの言葉に黙ってしまう。
契約の内容上確かに近衛木乃香の護衛と『一般人』の安全は保証するように決められている。しかし本拠地にいる生徒はどうだろうか?確かに中には何も知らない一般人はいる、だからこそ学園長はシックスに責任を追及することも出来るのだが…では彼女たちを連れて行ったのは誰だろうか?彼に責任を追及するということは、ネギ・スプリングフィールドにも責任を取らせないといけなくなるのだ。
「わかった、よーくわかった!お主の責任については後々語らせて貰うとして早く現場へ急ぎ任務の続行を!後生じゃ!こちらもすぐに増援を送る!」
シックスは意外とも言える表情をした(らしい、なにしろ無表情なもんで)切羽詰まるのはしょうがないことだが、電話の向こう側からはゴンッと何かをたたき付ける音。
そして後生という本来、上の立場であるはず学園長の願望。
そこまでされたらさすがのシックスは断れない、そもそも契約上行くという行為が決定しているのが九割ほどであるのだが…
「了解だ、学園長殿」
「へぇ?」
ピッと向こう側で何か騒いでる学園長を無視して電話を切る。
内心、増援とかどうやって送るんだよ莫迦ジジイ、と思う。
麻帆良から京都まで、狭い日本と言えど速攻で送ることなんざ無理な話である。そこれこそグレート=ブリッジ奪還戦で行われた大規模転移魔法のようなものが無い限り。
あれは帝国のの秘術のため外部の存在が知っているとは思えない。ならば個人転移か?と思うが転移魔法は相当難易度が高い。
転移符を使うとしてもここまでの距離を行けるはずがないのだ。
転移魔法を使う人間が麻帆良に……エヴァンジェリンぐらいしか思い浮かばなかったかやっぱり彼にとってどうでもいいことであった。
「や、師匠。仕事のサボりかい?」
「シックス殿も行くでござるか?」
「強い奴と戦えるアルね!?」
電話を切った後、正面にいるのは彼の弟子『龍宮真名』と忍者『長瀬楓』、彼が言う中国『古菲』の三人だった。
どうにも誰かが救助要請的ななにかでも送ったのだろう。
面倒くさそうな顔をするシックスはこれ以上厄介事を担うつもりは無かった、であるからして
「お前達はお留「お断りするよ」……」
代表マナ選手の一言でぶった切られた。だが内心こいつらが負けるとも思っていないわけで仕方がなく、それはもう渋々と言った表情で許可をした。
電話が鳴り響き数分後のことである。
京都の街の空高く、魔法世界では知らぬ者はいない恐怖の龍が雲を切り裂いていった。
○
「クカカ、これが1600年前に打ち倒された飛騨の大鬼神というわけか」
でかい、思ったよりもでかい。でかすぎて逆に萎える。
確かに大気を振るわすほどの威圧を持っている。が所詮クラシックモンスターだ。
莫迦弟子一同を下ろした俺は祭殿を含む湖を一望できる高台でその様子を見やっていた。
視界の隅では群がる鬼共を俺がよこした二丁拳銃ケルベロスを使って片っ端から木っ端微塵にしていくマナ・アルカ……龍宮真名だったか。
ガチャン!!
さらに語るならばマナの援護をするように拳を使う中国。
いやコイツ強いんだけど。
なんで中学生がこのレベルに達っしてるの?才能なんてレベルじゃないな。
なにかバグでも起きたのか…莫迦(ナギ)や莫迦(ラカン)のほうがまだバグだが…将来に不安を感じる。
忍者のほうはあの黒髪の闘士やらとニャンニャンしている。
あの忍者もなかなか強いな。
…おいなんだこの生徒共は。
(おい狙撃手!私の得物も残しておくんだな!)
(デカイ奴と小さい奴がいるが?)
(デカイ奴だ!)
了解了解っと。
増援っていうのもやっぱりエヴァンジェリンだった。
呪いやらなんやらはどうにかするらしい。出来るなら最初からなんとかしとけよ、そもそも3年の約束だったんだろうが。
俺が気にしてもしょうがないことだけどな。
ま、あの莫迦ババァはどうやら相当気合いの入っている様子、俺としてもただの的よりもアーウェルンクスをぶち抜いた方が楽しいと思う。
「鳴らせ撃鉄、回せ歯車、流れよ我が概念」
ガチャンとバレットM82に弾丸を装填する。
影なから取り出したそれは徹底的に速度と貫通力を強化したせいか化け物に…まさか射程が10倍ほど長くなるとは思いもしなかった。
対物ライフルのくせに貫通力が高すぎて無駄な破壊をしないという芸術品だ。
「銃口を天に向け、我が身を焦点に」
魔力を銃に施した術式に流し込む。
一つ一つ起動する様子がわかる。
精密回路のごとく細やかでありながら、嵐に揺れる大海のごとくそれはもう大きくうねる魔力光。
大気を震動させ、そして大気を制圧する。
「進めよ鉄塊、砕けよ脳髄を」
スコープ越しに見えるその世界は外の世界と切り離される。
視覚以外の五感を全て閉ざし狙うは敵。
まるで世界が一コマごとに見る道楽アニメのようにゆっくり、ゆっくりと時間を進ませる。
向こうに見える世界はただ一つ。
今その時、ネギ・スプリングフィールドを殴ろうとしているアーウェルンクスの腕、好機?……いやまだだ。
「我こそ狙撃手、敵を討ち滅ぼせ愚かな深海魚」
アーウェルンクスの腕が捕まれる。
ネギ・スプリングフィールドが掴んだのではない。
彼らの足下には影の沼、エヴァンジェリンが転移して来たようだ。
彼女の手がアーウェルンクスの攻撃を妨害する。
同時にずるりと身を乗り出す闇の魔王。遙か遠いここでもわかるほどの魔力量、これが『不死王』か。
素晴らしい存在だ。
——彼女がこちらを見て、ニヤリと笑ったのは気のせいだろうか
「貫け運命、灰色の魔弾『時の引き金(クロノ・トリガー)』」
——弾丸は音を飛び越え無音
○
ネギ・スプリングフィールドは驚愕した。
彼女『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』にではない。
確かに彼女&&闇の福音&の出現には多少驚いたものの、今の驚愕はそれによるものでは無いのだ。
彼は遅延魔法という珍しい魔法を駆使し、最強の一角フェイト・アーウェルンクスに拳を一発浴びせた、そこは賞讃に価するだろう。
そしてその後の出来事だった。
アーウェルンクスが憤怒の感情を表しネギを殴ろうとする、が……
「(影を利用した転移魔法!?)」
何者かが妨害する。
アーウェルンクスもまた驚愕した。
そこの未熟な子供に攻撃を入れられたのもある。
帝国の英雄である狙撃手一人でもこっちは大変だというのに最強の幻想種『真祖の吸血鬼』エヴァンジェリンすらやって来たというのもある。しかし、彼らが驚いたのはやはりそれではない。
「ぼーやが世話になったな、若造」
15年振りの外、しかも自身が好む京都という場所のせいもあって彼女はすこぶるご機嫌である。
彼女にとって先程のネギ・スプリングフィ−ルドを護るという行為はただの気まぐれであり、このご機嫌のせいもあった。
彼女にとって憎む相手でもある馬鹿の息子でもある彼を護るほどのご機嫌の良さがそこに現れた。
——カァン!!
突然、まるで磁器の置物が砕かれ崩壊するかのように彼、アーウェルンクスが崩れ始めたのだ。
この光景にはも動じることのないエヴァンジェリンは不敵に笑うだけだった。
普通の生き物ならば、頭吹き飛んだとき血肉も飛び散るはずである。
狙撃手が使った弾丸は無駄な破壊をせず、つまるところ頭が吹き飛ぶという結果にはならないのだが頭に穴が空くのではなく&崩れ落ちる&とは如何なものだろうか。
「…………」
アーウェルンクスは湖にバラバラになりながら崩れ落ちる。
そのとき、ヒビの入った眼球がしっかりと狙撃手を睨み付けていた。
視線が建物のあいだをくぐり抜け、木々の奥を見通し、発見。親指を下に突きつけている狙撃手が口を開く。
「『あ』『ば』『よ』『さ』『ん』『ば』『ん』『め』」
視界が水に埋まる前、狙撃手の口がこう動いていた。
湖のバシャバシャと彼の&部品&をぶちまける。
たった数秒、下手をしたら1秒も経っていなかったであろうその時間の間。しかし瞬間の出来事は誰も忘れることは出来ないだろう。
(ク、そらエヴァンジェリン、とっとと"アレ"を食わねば俺が喰うぞ?)
(見事だ狙撃手。今度は私の番、というわけだな、ククク)
エヴァンジェリンとシックスはお互いに悪そうな笑みを浮かべる。
周りの人間達は時間がまだ止まっているようだった。
無理も無いだろう、突然&闇の福音&が来訪したかと思ったら…今度は本拠地の結界を破ったアーウェルンクスが崩れ落ちる。
当事者でなければ支離滅裂な出来事に思えるだろう。
「マスター、結界弾セットアップ」
(やれ)
そしてエヴァンジェリンの従者が弾丸を放った。
単独で戦う狙撃手とは違う『援護』の意味を含めた封印弾である。
例え巨大なリョウメンスクナカミであろうともその結界に封じ込めらた、しかしさすがその巨体、結界はせいぜい10秒ほどしか持たないらしい。
その報告を従者から受けたエヴァンジエリンは、十分だ、と高笑いを始め、そして唱えた。必殺の絶対零度魔法を。
○ 見えるのは砕け散る古の大鬼神
ヒュー♪
やるねぇ、さすがエヴァンジェリンだ。
広範囲殲滅呪文の一つ、氷属性の最高峰『おわるせかい』、しかもそれを一定範囲内に納めきるという荒技をやってのけるとは。
俺でも絶対零度だと行動不可能だからな、怒らせないように気をつけよう。
(おい狙撃手!聞こえるか!さっさと返事をしろ!?)
(なんだエヴァンジェリン、俺は帰る処なんだが…)
敵をぶち殺したのに何で慌ててんのか。
俺もアーウェルンクスを貫いたからご満足であるため今ならテオドラ関連以外のお願いも少しだけ聞いてあげたいところだ。
…ふむ、何でも莫迦餓鬼が石化を喰らったらしい。
俺にどうしろと言うのだ。
俺の管轄外、それは契約のこともあるし治療の魔法の話でもある。
(お前さんと同じさ、覚える必要の無いもんは覚えん。そもそも影以外の適性が無い)
(なななななな)
(なんだ惚れたか?)
(黙れッ!)
ブツンと念話が切られる。
なんだ図星なのか、しょうがない奴め。
まったく莫迦餓鬼はあの莫迦(ナギ)と同じように無節操にフラグを立てるとは。良い船エンドでも希望する気か?しかしあの莫迦(ナギ)は何故か女性陣の間で「じゃあ分け合おう」という結論に至るという謎の展開を構築、まぁ最後はアリカ殿下が勝ち取ったのだが、息子はどういう道を辿るか…どこをどうバグったらそうなるか是非知りたい。
そうしたらテオドラ三人分ぐらいのフラグタワーを建築するというのに。
………む。
パァン!!
「やれやれ、あの絶対零度から逃げるとは」
また肉片になった人間の死体が出来てしまった。
お掃除は微生物にまかせることにしよう。
見つかっても変死体ですね、わかります。
ま、一応詠春に連絡……しなくてもいいか面倒くさい。などと考えていると、祭殿の辺りが光っていた。
誰かが治療しているのか…?おお、接吻しているぞ10歳の餓鬼と女子中学生が、これは仮契約か。
これはターゲットの護衛の範囲内に納めるべきだったか…今なら撃ち殺しても問題無いような気がする。詠春ならばむしろ推奨する気がするしな。
(おい、絶対にやめろ)
何かを感じ取ったのかエヴァンジェリンが莫迦餓鬼の前に立つ。しかし周りの生徒共から見れば奇怪極まりの行動である。
さすが幼女、考えることが違うな。というか俺の空気をそこから感じとるというね、なんだこいつら。3−Aの連中は化け物か!?間違っても相手にしたくない連中だ、面倒だから。
「お疲れ様師匠、このケルベロス使わせて貰ったよ」
「あぁ見てた。それを使えるようになったか…しかし及第点だなマナ、狙撃手たるもの「常に腰抜けであれ、かい?」……」
あぁ、よくわかってるじゃないか莫迦弟子。
後ろから撃つだけだろうが前にでてガン=カタしようが関係無く怪我をするとは情けない。まったく情けないなぁ!
「おや、ここにいたでござるかシックス殿」
忍者も現れたが俺にどうしろと言うのか。
なんで集まる?お前等はトイレに友人を誘う女子中学生……女子中学生だった。というかね、こいつ自分が忍者って処隠す気ないでしょ全然。
いや普通の忍者でも「ござる」とか言わないけどね。
「シックス殿がまさかマナの師匠とは驚いたでござる、一つ拙者と手合わせを…」
「寝言は寝ていえ」
戦争屋に手合わせとか無茶言わないで欲しい。
俺使うの主に銃器だからね、わかる?手加減なんてしにくいんだよ。
わざわざ餓鬼との手合わせに鎮圧用の衝撃弾なんか使いたくないもの。
普通の弾丸と違って投影にもう一工程かけるから。ただでさえ多用するんだから。
「あいやー、みんな速いアル」
「お前達もとっとと帰れ、俺は先に帰る」
ズブズブと転移魔法を発動する。
あぁ影に沈み込むってなんでこう、気持ちいいのか。
そしてなんか中国人が「また走るアルか!?」とか言ってような気がする。
若人よ、しっかりと走るが良いさ。
To be continued