※マジメに読まないように推奨します。
第三十七射 ファンサービス
「おいジジイ」
「ふぉ!?なんじゃ突然?」
おらぁぁぁ!と扉を思いっきり開けて学園長室に入ってきた男が一人、彼こそ帝国の大英雄と呼ばれるダブル・シックス本人である。
諸事情により主第一主義の彼がこんなところにいる。
学園側は夏休みに突入し、いよいよ暑さも本格的に。学園都市というコンクリの塊なせいか暑さもこれまた強い。とはいっても魔法という力で緩和できる上、彼はそういうことを必要としない肉体をしている。
その気になれば裸でサハラ砂漠を歩き回れるし、逆立ちしながら南極大陸を横断も出来るだろう。
彼にとって暑さより重要なことは&光&である。
白い肌に真っ赤な目、俗に言うアルビノである彼には光はやばい。
肉体が克服しても苦手意識だけは消えない彼の天敵であったのだ。
「実はな…」
「む…」
ゴクリと学園長は息を飲んだ。
基本的に無気力無関心無干渉である彼が、マジメな顔になって話を出そうとしているのだ。
学園長たる彼には信じ難いことだが今こうしてシックスはその顔をしているのだ。彼がそこまでして話すというコト、それがどんなものなのか、と覚悟を決めた。
「帰る」
「ふぇ?」
ニッコリ、ではなくニタァと眼だけが歪んで笑うシックスだった。どんな無理難題かと思ったら、確かに十分勘弁して欲しいことなのだが、実際は三文字、漢字に変換すると二文字という極短絡的な内容。しかしそれで全てがわかってしまうほど、シックスのことをよく知っている学園長だった。
何よりも主であるテオドラの元に帰ろうとする、本能的な何かを持っている彼なのだ。というか帰る帰る言うのは今に始まったことではない。
「も、もう少し残ってくれんかのぅ〜」
「ほう、なるほど。つまりなんだ?俺を殺す気なのか?」
「なんでそこまで!?」
テオドラ!テオドラァァァァッヒャイ!うわああああ!!!とか言い出した&誰もが羨む英雄&の本性を目の当たりにして、コイツどうしたら治るのじゃろうか、とか思っている学園長だった。
実際はここ、麻帆良に来て随分、というか完璧に近いほど既に治っているのだが秘密である。
帰せー返せー俺のテオドラを返せー、と地獄の底から湧き出た亡者のごとく学園長に詰め寄るシックス。血の涙を流している時点にもうドン引きだった。むしろ「帰れ」と言いたくなるぐらいひどい。
「む、誰か来ているぞ」
「なんと」
「学園長先生〜?神楽坂明日菜ですけど〜?」
「あの、シックス殿?血の涙拭いてくれんかのぅ?お願いじゃから」
舌打ちをしながらローブでゴシゴシふきだす。それで!?という驚きを隠せない学園長だったが、もう一度ノックの音が学園長を促す。しょうがない、と入ってくるよう言う。
入ってきたのは神楽坂明日菜、の他に近衛木乃香、桜咲刹那の二人もいる。まず彼女たちが最初に驚いたのは血みどろになったローブを着ているシックスの存在だった。
「あ、あの……これ」
「あぁ、俺のことは気にするな。もう少しで死ぬとこだっただけだ、大量出血で」
HAHAHAとラテン系陽気な外人っぽく笑うシックス(無表情)のほうをチラチラ見ながら学園長に一枚の紙を渡す。
「フォフォフォ、英国文化研究倶楽部か」
「あ、はい。そのー」
「あんなメシマズ国家を研究して何の糧にするつもりなのだ」
「シックス殿?お願い少し黙ってて」
「そ、それで……どうかな?と」
ohと学園長からのお願いを信義になって聞き届けることにしたシックス。
上目遣いで学園長に頼み込む神楽坂明日菜に「フッ成長したな」とか適当に思っていると桜咲刹那に話かけられた。どうにも気になることがあるらしい。
「シックスさんは何故こちらに?」
「シックスはんも何か用事ー?」
「俺、帰る、お家に」
「……」
「へー、そうなんかーお土産買わんとなー」
近衛木乃香ののんびりしている表情に驚きながら「何故片言なのか」という疑問を覚える桜咲刹那、普通に会話している近衛木乃香がいるせいか疑問を思っている自分に疑問を覚えてしまう。というか会話がすごすぎてそれどころじゃなかった。
お土産の話になったらシックスがゼロの桁が10個程度の買い物について聞くわ、普通に「あー、わからんわぁ」とハニカミながら返す彼女。あまりにも自然な会話に「自分が間違ってる?」とか思う桜咲刹那だった。
そして気付けば神楽坂明日菜は学園長からの設立の許可を貰おうとしているところだった。
「よかろう!認可じゃ!」
「ありがとうございま、……あれ?」
「ふぉ?どうした……あ」
「ククク」
学園長は判子をポンと押した後に気付いた。書類が入れ替わっているという事実に。
愉快そうに笑うシックスのほうを見やり、ハッとした表情で書類を見る。
「……仕事完遂じゃと?」
「ではさらばだ、永遠に!」
ヒャッハーァ!俺は自由だーァ!と言いながら、書類をぶんどり&窓&から派手に飛び出したシックス。
バリーンとガラスが崩壊していくと同時に、学園長は白く燃え尽きていた。
ある意味麻帆良全ての戦力を集めても抑えれるかどうか、というレベルの戦力を一瞬で失ったという事実。そして口調ぶりから二度と来ないという絶縁。
もうなんでもいい、とか言いながらその下にあった本当の書類に力なく判子を押す学園長だった。
——ヒャハハハハハハ、いざ征かん自由の空へ!!!
——キャーーー!!!
——うるせぇサービスだ莫迦!
——ファンファンファンファン……
「「「「…………」」」」
○
「……なんじゃこの土産は?」
「よくわからなかった、反省はしている、でも後悔はしてない」
警棒とか手錠とか、ある意味使えそうな(プレイとかで)物でそれ以外はまったく使えそうにない物を土産と言い張る英雄がいた。
ヘラス帝国、帝都、帝国城にて長年(三ヶ月ぐらい)の願望が願ったシックスだった。
帝都にある大通りを金字の紋様が刺繍されたローブを着込んで凱旋してきた彼だが、反面外は異常な騒ぎとなった。
堂々と歩く英雄、周りの目に関係なく全てを威圧するように。何を考えながらシックスが歩いてきたかは知らないが、とりあえず彼は帰ってきた。
外はお祭り騒ぎである。よくわからない狙撃手饅頭とか売ってるような気がする。
「……これが妾が喜ぶとでも?」
「こう、雰囲気で」
実際はニヘラ顔が止まらない皇女なのだが、同じように実際役に立たない物体を持ってきたコイツをどうしようかと悩んでもいた。
そして柔らかくなったというか、なんか意味不明になって帰ってきたということで、麻帆良をどう破壊しようかなぁとか物騒なこと考えていたり別に麻帆良じゃなくてもよかったかもしれないとか思ってた。
「護身用?にどうぞ」
「護身用なのはお主じゃろうが、存在的に」
ハハハ、と軽く笑いながら受け流す。
日本警察が所有する警棒を渡されても非常に困ることこの上ないだろう。というか普通に盗人のような行為をしてくる彼に驚きだ。
テオドラはそれを問いつめたものの、返って来た言葉に唖然、というか返す言葉が無かった。
莫迦まっしぐらになった彼をどうすればいいのだろうか。
「戦利品だ」
と、一言。
思考が野蛮になったかと思えば、優雅にワインをコクリを飲み干す上流社会人。むしろ合わさって色々ひどいことになっている。
「どこの世の中に公的機関と戦って戦利品を獲る存在がいるんじゃーー!!」
「今思えば…」
なんじゃ反省しておるのか?と怒りは一端収まる。まぁ返ってきた言葉はやはりダメっぽかった。
「殲滅しとけばよかったな」
「……」
とりあえずこの壊れて治って壊れた責任を麻帆良に取らそうかな、とか思い始めた第三皇女テオドラだった。しかし怒ってはいるものの終始ニヤけててしまりが無い。
結局最後には「寂しかったが送り出してよかった」と思う彼女だった。
この阿呆は後で修正していけば大丈夫とどこからか湧いた自信を持って、そう決めるのだった。
今はとりあえず、今まで渇望していた何かを補給するのだった。
○ 放課後ウォータイム
大戦時終了時においてこういう話があった
その話の真偽は確かではないが、多くの人間が真だと言った
もっともそれはメガロメセンブリア元老院が全否定をしたのだが
その話は結局有耶無耶なまま闇に消えることとなった
英雄ダブル・シックス
魔法界で最も有名な英雄群『紅き翼』と戦い、そして彼らが真なる英雄となった戦い
造物主と呼ばれる者、彼が率いる『完全なる世界』との決戦において
造物主を倒したのは彼ではないのか?
という話である。
目撃者……最後において終わりの間近で見てきた者達の噂話である
諸説、というか通常は、教科書にも倒したのは英雄『紅き翼』であり
それを率いるナギ・スプリングフィールドだという
しかし人々は見た
雲海を突き抜けた一本の線を
魔法でもなく、勿論魔力の一撃でも、気の何かでもない
火薬の、金属の
無骨な一撃が空へと伸びたという
そして人々は見た
崩れ去る無数の鉄塊を
魔法でもなく、勿論魔力の一撃でも、気の何かでもない
鉄の、鋼の
無骨な鉄塊が地へ落ちたという
金属を扱う英雄などただ一人
彼こそ英雄、狙撃の代名詞、最強にて最高
スナイプ・オブ・インペリアル
ダブル・シックスである
彼の扱う個人技能についての憶測は様々である
魔力を物体化、あまつさえそれを兵器という形にて具現するという所業
かつて大戦において空よ地よ海よ、全てを血に染めた化け物の所業
畏敬と恐怖と切望と渇望と
全ては彼女のために、彼はそこに存在す
空へと伸びた一撃、地へと落ちる鉄塊
そして直後に起きる世界の終わりと始まりの魔法
噂が出るのもしょうがないかもしれない
帝国の人々ならばむしろそれを好ましいと思う
何よりも『紅き翼』が敵を倒したなど、誰も言っていないのだ
それは我々『紅き翼』でさえ
嫌な予感がする、ドロドロで黒い漆黒の沼のような
嫌な予感しかしない、歩けば歩くほどからみつく螺旋の蜘蛛の糸
連合……メガロメセンブリア元老院が何かを隠している
その話が出てくるのはすぐ後の話
同じく帝国も何かを隠している
その話が出てくるのは大戦時
いつ?どこで?だれが?
英雄ダブル・シックスという存在を得たのか
いつ?どこで?どういうわけで?
彼が第三皇女の護衛となったのか
魔法使いとしては珍しい銃器を扱う者
その中でも"極"とも言っていいほどの戦力が
『いままでどこにいた?』
その疑問が口に出ることは案外簡単だろう
出身、生年月日、経緯、全て不明の大英雄
魔法使いでありながら
魔を扱わず、鉄を用いる錬鉄の化け物
魔を用いて、火をもたらす生命体
鉄を火を持って鋼に鍛え
鋼を持って歯車を
誰かが聞いたという、その音を
英雄が蹂躙していく戦場で聞いたという
歯車の音を、連結する音を、回る音を
私はそこで一つの仮定を立てた
歯車というのは彼の音ではないか?何故彼から歯車の音がするのだろうか
その仮定、バカバカしくてそれ以上の答えは無いだろう
——彼は作られた存在なのではないか?
それならば
出身、生年月日、経緯、無いのは当然だ
下手に"設定"するより、しないほうが良い
最初からそういう目的で作られたのならば
彼が護衛という存在でいるのも納得がいく
投影という彼の個人技能
私はそこに兵器という部分に目をつけた
それは彼を表しているのだと
彼そのものだと
彼こそ一体の、一個の兵器として
もう一度言おう、バカバカすぎると
証拠も確証もなく、ただの観察からの推論である
ただ
彼が私に言った『化け物』という言葉
これが頭から離れなくてしょうがない
彼が人間ではないということだろうか
それとも、そういう思考を持っているということだろうか
思えば
確かに彼は壊れていた
"人間"というか一生命体としておかしかった
全ては彼女を、一も彼女に
彼はそういう男だった
兵器投影ということをふまえ、表現するならば
彼女こそ担い手で
彼こそ兵器……、使われる者
彼は彼女のために全てを注ぎ戦い、そして殺す
そこに担い手たる彼女が、全ての責任を
兵器に罪は無い、あるのは使う者
皮肉にもほどがある
もし彼女が望むなら
もし彼女がそのように使うなら
さて、それはどういうことになるのだろうか
もし誰かがこれを見ているなら、もうすでに私はこの世にはいないだろう
これを書き残し、私の目標は心半ばで打ち倒される
私は知ってしまったのだ
どうか、どうかこれを見ているアナタにお願いです
これを後生に……
"奴"は一人ではない
"奴"には勝てない
"奴"こそ頂点である
"奴"と戦う者よ、覚悟を決めよ、真理を閉ざせ、答えはその向こう側に
「というコラムを作ってみたのですが、どうでしょうか。なかなかの出来かと……アナタの正体をソレっぽく伝えることが出来ますね」
「死ねアルビレオ」
To be continued!