第四十二射 覆面と筋肉と時々筋肉
「お主自分の弟子にでも銃を向けるとはの、いやある意味予想通りじゃが…」
「ピンピンしてるからどうでもいいだろ」
「いや実際ものすごく痛かったよ師匠」
新オスティアに作られた皇族御用達のとある部屋に男一人、女二人。男はフード付きローブを着こなし、どこからどう見ても魔法使いです、と言わんばかりの格好だ。
女の片方、腰を越える特徴的な黒髪に褐色肌の、出てる処は中学生のはずなのに出ている。もう片方は、褐色の肌にこれまた人間とは思えない角の生えた高貴な雰囲気が溢れて止まない美女。
言うまでもなくダブル・シックス、龍宮真名、テオドラの三人組である。
実はこの三人組は結構昔から揃っている、というのもシックスはテオドラの護衛としてすぐ側にいるし(むしろ離れない)龍宮真名は彼の弟子、というわけですぐ側にいる(むしろ離れない)からだ。
典型的な三角関係だが、種族を越えた(化け物、亜人、真名の正体)愛溢れるロマンティックが上がるものであり、そして危険な関係でもあるのは言うまでもない。
「(……対魔弾を使ってくるとは、まさか気付いて…ッ!?)」
「(必要ないから適当に使った対魔弾効果ありすぎだろ、意味わからん)」
「お主等どうしたんじゃ?」
包帯の巻かれた右腕を押さえながら思考する龍宮真名といつも通り無表情ながらに、ボケーとしていたシックスの師弟二人。
二人同時に「なんでもないさ」と言葉を言うと、女片方は不機嫌にもう片方は上機嫌に、オマケに男は胸を抑えてロマンを押さえ込むという奇妙な状況になった。
師弟そのものは知らないものの、まさかお互いが人間じゃないということを知ってしまったのなら一体どういうことが起きようか。案外何も起こらないような気がする。
「そういえば……なんでマナがここにいるんじゃ?ん?」
「師匠あるところに私あ……麻帆良からの依頼だよ」
「なるほど、これが呪言というものか」
そうか、と呟きながらテオドラはシックスの頭をスパン、と軽快良く叩いた。
テオドラはどういう依頼か、という疑問は口には出さなかった。恐らく彼女テオドラこそ、今目の前で同じ格好(ポーズ)でコーヒーを飲んでる師弟二人のことを知っているからだ。
二人は、特に弟子である龍宮真名は&傭兵&という立場にいる。
別の戸口からの依頼をホイホイ他人に知らせるなどある意味信用で戦う&傭兵&としては非常にいただけないものだ。そして何よりその&傭兵&たる何かを教えたのも彼女の従者であり、最も信頼を寄せる男であるダブル・シックスなのである。
テオドラが同じ格好でコーヒーを飲んでる二人にジト目で抗議しても、二人は頭上にハテナマークを浮かべるだけでシックスに至っては脳内で激しく萌えていたりするのだが、これは割愛しよう。
「そういえば……」
「「ん?」」
「…………拳闘大会にナギそっくりな奴が出てるそうじゃ、ジャックが出資してる奴の」
テオドラはこいつら何なの、とか思ったがそれは口に出さずに皇女たらしめる優雅さでサラリと流した。
シックスはギクリと全身が一度震えたものの「あーあー、あれね、あぁあれあれ、うんあれだな」とコーヒーカップを持ってる左手がカタカタと揺れていた。
マナは「あぁ知ってるさ」と一言言うだけで、蕁麻疹でもできたのかな?と彼女のカタカタしている師匠をただ眺めていた。
「実際はどうなんじゃろうな、本当にソックリ……まぁ幻術でも出来るがのぅ。生身でアレだとしたら、血族か何かなのじゃろうか」
「実の息子だからな」
「ネギ君も成長しているようだ」
「なんじゃ息子か……ん?な、なんじゃってー!!」
ズバーム!と背後に巨大な擬音が流れるテオドラ第三皇女だった。
普通に喋る馬鹿従者とその馬鹿の弟子の、あまりの普通さにごく自然にそのまま終わろうとする処だった。
何で今まで黙っていた、と言おうかと思った彼女だったがそれは喉で止まった。
自分が聞いたというわけでもなかったし、そういう会話をしていたわけでもないからだ。まぁいいか、と思うぐらいには彼女は彼を信用していた。
ただし、気に入らないことがあった。勿論龍宮真名も知っていたということだ。
シックスの手紙で麻帆良に少年がいることは知ってはいた、だからこそ二人が知っていることもわかる。だからどうした、そういうワケであった。
「ほ、ほぅ。従者のお主が知らせないのはまだいい。じゃが二人で共有しているとはどういうわけじゃ?ん?」
「……思えばそうだっゴファッ!?」
「やだなぁテオドラ様」
吐血してビタンッ!とマグロ市場に水揚げされたマグロの悲劇のような惨事を起こしたシックスを無視したまま乙女二人のドキドキッ!人外二人のチョメチョメが開催されていた。
彼女達の背後には、八つの首を持つ龍と、九つの尻尾を持つ狐が火花、というか本気で光線を撃ち合っていたという。
世の中数が勝負らしい、諸君も覚えておこう。互い互いが首がもげても、尻尾が焼けただれても再生出来るリバイバーだったという、わりとどうでもいい!!!!
「よしっ!闘技場へ行くのじゃ!今日はそ奴の試合もあるみたいじゃしのぅ!ほれっ!いつまで腐っておるんじゃ!」
「ハッ!?」
「(師匠が莫迦に……いや案外)あぁ、非常に残念だけど私は遠慮するよ、任務中だからね」
死にかけているシックスにつついた後、満足そうな笑みでありながらどこか、未練がましいというような表情をしながら去っていった。
彼女もまた傭兵という身でありながら、皇族の部屋に入ってるという状況故、退いていったのだろう。無論そんなことはない。まったくの嘘で真っ赤っかである。
○
《話題のナギ選手!異形の魔族コンビを圧倒!コジロー選手は高見の見物か〜〜!?》
どういうセンスか疑いたくなるような仮面と、思いっきり『蜘蛛魔ぞく男』とプリントされた甲冑を付けた、足がいくつもある男の魔族と、手が三対…何故かメイドの格好をしている女の魔族のコンビとナギ・コジローのチームが戦っていた。
いや、戦っているとのは間違いだろう、何故ならばそれはもはや蹂躙に等しい、圧倒的な展開だったからだ。
コジローは後ろで手を組みながらそれを見ているだけ。実質二対一でありながら、魔族のチームは御覧の有様だった。
「くっ、これほどの実力とは聞いてないぞ!」
男の魔族が吠える。
蜘蛛手の女が六つの剣を握り斬撃を出すも、強化された拳だけでそれを受け流し、それどころか一対の手でありながら攻勢に出ているナギ。
一瞬で隙をつかれナギに正拳突きを喰らい闘技場の柱へと直撃する。
男の魔族が魔法で生み出した水流で押しつぶそうとするも……、全身に雷光をまといながら逆に決定的な一撃を出したのだった。
《ナギ選手圧勝ーーー!!!》
「(蜘蛛女……アリだな……ハァッ!?)」
「ケッ、ちったぁ嬉しそうにしやがれってんだ」
「(シックスがまた妙なことを考えてそうじゃなぁ)」
蜘蛛手の魔族の女性だが…長い黒髪に褐色、オプションのオマケ程度に角が生えているという。
実質効果があるかどうかは知らないがメイド服装備である。
正直に言うと彼のストラクゾーンに直撃しているのであった。シックスは彼女を奇怪な目で凝視したあと「うわぁああああ!!!うあぁぁあ!!テオドラァぁぁぁぁあああ!!」と叫びながら己の愚かな所業を悔やみ、そして悟ったような顔で闘技場のVIP席から飛び降りようとした。
もちろんそれは周りのテオドラとジャック・ラカンに阻止されたのである。その後では色々噂になると恥ずかしいので何事も無かったかのように話が進んでいく。
「それにしてもお主がわざわざここに来るのも珍しいのうジャック」
「あぁん?どうでもいいだろーが」
久しぶりの友人に出会ったということもあったのだろう。皇族故の悩みである。友人に出会えてた彼女は嬉しそうに笑いながらラカンに蹴りを一発入れる。
なんでかは知らないがこういう挨拶が日常らしい。それに対してラカンは三十路がどうのこうの言いながら適当に流すのだった。もちろんそこに待ったを入れるのが彼の役目である。
「貴様、我が主がどうでもいいだとっ!?」
「いや、そういうわけじゃ…」
彼の愛する皇女が「どうでもいい」の一言で切られるなど言語道断である。故に彼は激怒した。
必ず、かの邪智暴虐で変態で半裸のラカンを除かなければならぬと決意した。
シックスにはテオドラ以外がわからぬ。
シックスは、帝国の英雄である。
銃を撃ち、金と遊んで暮して来た。けれどもテオドラに対しては、人一倍に敏感であった。
今日未明シックスは村を出発することも、もちろん野を越え山越えることもなく、この新オスティアの街を訪れていた。とかどうでもいい事を一息で&叫んだ&後…
「なんだと貴様ッ、ツンデレだと言う気か?なるほど死ヘブィ!?」
「やめんか戯けぇい!!」
「(あ、コイツ面倒くせぇわ)」
ポッポーと頭から七色の蒸気が噴出し始めた処でテオドラの拳がシックスの顔面にめり込んだ。
さすが、愛……と呟き、指についた鼻血で「愛故に死ぬ」と一筆してバタンと倒れる彼だった。
殴った後、どういう成長を遂げてしまったのか、それの一部が露わになったことで後悔の念が絶えず落ち込むテオドラだった。なんであんな場所に……まぁいいか、と一瞬でケロリで復活するのもまた彼女らしい。
「ハハハ、これはとんでもない光景……かなりやべぇな」
「おお!?なんだなんだおめぇらそろい踏みだな!」
「放っておいたらすぐに戻るのじゃ」
ガチャリと扉を開け、またVIPルームに人がやってきた。
シックスが言う泣きたくなるほど可哀想な髪型のメガロメセンブリア元老院リカードと、アリアドネー魔法騎士団総長セラスの二人だった。
入った瞬間空に手を伸ばしながらプルプル震えている帝国の英雄を目の当たりにして、一度目を擦ったのは言うまでもないだろう。
帝国の第三皇女、アリアドネー魔法騎士団総長、そしてメガロメセンブリア元老院議員という三人の状況についてラカンが一言言うも…
「つれねぇこと言うなよラカン、俺たちぁ戦友だろ?せっかくの再会に難しい話はナシだぜ?そこののびてる帝国の狙撃手も含めて、な!」
「バレなように防護対策は万全よ」
元老院とかやりたくないんですけどー、的なことを言いながらリカードは肩を回す。
それに対してセラスがまた一言言ったり、ナギという名の拳闘士に注目したり、実はナギの実の息子ネギだと判明したりと…シックスが黄泉返った辺りには既に会話の大部分が終わっていたり…いい夢だったぜ、とか言いながら帰ってきたシックスだったが、どうせなら最後まで死んどけばよかったと後悔したりと様々だった。
「ナギの息子ならあいつが優勝で決まりじゃなー、つまらん」
「いや、それもわからねーぜ?俺もエントリーしてきたからな!ガハハハ」
「「はぁ!?」」
拳闘会から身を退いて十年ほどになるラカンだが、まさか彼自身が出場するとも誰も思わないだろう。
彼は英雄であり、何よりも最強の一角なのだ。だからこそ宣言しよう、誰も勝ち得ない、と。
例え相手がナギの息子であろうとも、まだ10歳ならば…大戦時においてシックスには劣るものの『紅き翼』ではナギを越えて堂々の戦艦撃破数一位を誇る彼なのだ。だが、そこで気になるのが&パートナー&である。一体誰?というわけなのだ。
「あぁ……ええと、あぁ、カゲタロウっつう俺の"ともだち"的な…」
「カゲダロウ?"聞いたことない"のぅ」
「予選で見たが、そいつ"かなりの実力者"だぜ。今まで"無名"だったのが恐ろしいぐらいだ。一番恐ろしいのは"まったく情報が無い"ことだな」
「ええ私も見たわ、それに未だ"力を隠している"わね。彼が最後の相手だったでしょうに……それに千の刃が加わるとねぇ…」
彼らの頭上には「やっほー」と言いながらとも○ちマスクを付けている正体不明の敵が映っていた。
戦歴不明、ただあるのは突然現れ、そしてヘラスの拳闘大会予選を全て数秒で終わらせた&怪人&という情報だけ。生年月日ももちろん本当の顔も全て不明なのである。
そんな奴がいるとなると、しかも帝国だと……彼に質問が回ってくるのも自然なことである。
「シックスは知っておるか?」
「あ、あぁ……俺の"ともだち"でもあるさ。ハハッ、なー糞莫迦死ねラカン?」
「なー、俺たちの"ともだち"だぜ、ハハッ」
なんとか誤魔化そうと脳内の分割された666の思考をフル活動させるシックス。
結果としてやつあたりを決行。念話にて呪詛を666の分割された思考で送り込み、ジャック・ラカンを一時機能停止にさせるという悪魔を彷彿させるようなことをしでかしたのだった。
医療術師などの活躍により、結局カゲタロウの犠牲は有耶無耶になったのである。
彼は作戦通りッ!と新世界の神(Not造物主)のような顔で深い思考の奥にその感情をしまったのだった。
○
《予選Dブロック決勝!南方、ヘラスの怪人カゲタロウー!!さぁ今までタッグ戦というこの大会をなんと一人で戦い抜いた猛者!しかし今回ついに彼(?)のパートナーがエントリー!!》
「(怪人?)」
闘技場の真ん中で覆面に普通のスーツを着た怪人がただ立っていた。
全方位から降ってくる歓声の声に何を思うか。ただの瞳が無機質に描かれた覆面からは何も想像出来やしない。
突然のパートナー、それを聞いた観客がざわつき始める。
《驚くことなかれ!彼が公式の場から消えて早10年!彼こそ伝説の傭兵剣士、自由を我が手に!大戦平和の立て役者!……アラルブラ!千の刃のジャック!!ラカーーーン!!!》
——ウォォォォォォオオオオ!!
「(うるせェ…犠牲にすんぞ)」
闘技場の闘士専用の通路から大剣をかついて現れた筋肉隆々の大男。
最強の一角である彼の登場に、あまりの驚きでであろう対戦者は身動きが出来なかった。
例え動けていても全て無駄であっただろう。だからこそ彼は最強、最強の魔法使いナギ・スプリングフィールドの盟友であるのだ。
大音声の開始!の一言で全てが決まるほど、彼は強く、そして相手は弱かった。一気に跳躍し、そして彼の心底に眠る気を解放する。
「んーー!!羅漢適当に右パンチ!!」
「(→+弱連打ってとこだな)」
轟音を轟かせながら彼の一撃、土埃が闘技場に巻き起こる。もう戦いは終わっていた。
土埃が消えて見えたのは、人が小さく見えてしまうぐらい大きな拳の形をしたクレーターとその真ん中に情けなく気絶している二人の対戦者だった。
ラカンは峰打ちだから安心しろ、とか現状をよく見て言え的なことを言い、そしてカゲタロウは……
「(おー、いいそらだー、もう帰りたい、俺の暖かライフは何処へ…)」
カゲタロウェ…
To be continued