「なぁシックス、一つ聞きたいことがあるんだけどよ」
「んぁ?」
「おめぇ覆面つけたままワイン飲んでたが……、なんでその覆面にワインはつかないんだ?」
「そういう日もあるさ」
「日付の問題ッ!?」
第四十五射 愛と勇気の使者 前編
歓声が響き渡る新オスティアの街。年に一度、空中に浮かぶその都市に開催される平和記念祭においてその大会は存在する。
ナギ・スプリングフィールド杯。
優勝賞金が大量ということもあり&初期&の参加者は莫大だった。
名前の通り大戦を終わらせた英雄ナギ・スプリングフィールドを称えるための拳闘大会である。
新世界各地の地方予選から始まり、そして新オスティアで行われる更にもう一つの予選を越え、大会の決勝トーナメントは始まった。
世界中からの名うての拳闘士達が我こそはと集結し、そして戦い抜くその大会における優勝とは非常に名誉なことである。
今年は特に、親善大使であるヘラス帝国第三皇女テオドラが見ているということもあり盛り上がりは最高潮だった。もちろんそれが理由の全てではなく、この大会における決勝戦のカードのこともあったのだ。むしろ、そのカードこそ理由の大半を占めているに違いない。
——英雄ナギと同じ姿をしている拳闘士
——英雄ナギと共に戦った世界最強の一角
その二人が戦うのだ。
見ない者は恥、と言える程の一大ニュースなのだ。
ナギを名乗る拳闘士、そして彼の相棒である狗族の青年コジロー。
対するは大戦の英雄千の刃のジャック・ラカンと正体不明の怪人カゲタロウ。
互いが互い、各々の戦闘力を持って世界各地から集まった最高峰の拳闘士達を一蹴し上り詰めた存在である。
もっともそれは英雄であるジャック・ラカンには言うまでもないことである。
ナギを名乗る相手に、既に身を引いたジャック・ラカンが出場ということで人々の間で様々な諸説が走り回っていた。
ナギを確認しにきた、偽物を懲らしめに来た、カゲタロウ怖すぎ、とか色々あったのだ。
大会でこそ圧倒的に勝ち進んできたナギ・コジローペアだったが、マスコミがおこなった街頭アンケートの調査・勝敗予想では、だいたい4割がナギ・コジロー。残りの6割がラカン・カゲタロウだという結果だった。
さすがに英雄である&ラカン&には勝てないだろう、という言葉まで残っている。むしろ何分持つか、という賭け事までおこなわれている始末という。
「よぉ、どうした?何か不機嫌じゃねーか」
「見せ物は余り好きではない」
あぁそうかよ、とジャック・ラカンは豪快に笑いながら言った。
闘技場の選手の待合室の一つに二人の影があった。言葉を最初にかけた金髪褐色の大男と、それに対峙している銀髪白色の色以外普通の男。
白色の男こそ、帝国において圧倒的な知名度をほこる大英雄ダブル・シックス本人である。何故彼がここにいるかというと、既にお気づきであろうが…
「まぁいいじゃねーかよ、この覆面マジイケテるぜ?」
「(どこが……ッ)」
ホレ、と言いながらラカンはその覆面をシックスに投げた。
覆面に描かれている模様はある意味今大会で最も有名なもの。目玉の中に天に指を差す手、手の甲が目玉の瞳に当たるという奇妙全力全開そのまま卍解しそうな勢いの暗黒模様。そう、彼こそカゲタロウの&中の人&だったのだ。
英雄と英雄、もし彼が普通に参加していれば大会は既にオジャンになっていたであろう。もしかしたら負けることすら記念になると思い挑む存在がいるかもしれないが…おかげで街頭アンケートを全てひっくり返すことになるだろう。
二人は妙に何故か結託し今回のカードを引き出したのだ。
カゲタロウに変装したシックスがナギに化けた…実子ネギ・スプリングフィールドを誘い出し、ラカンが色々&誤魔化し&て修行させたのだ。ラカンの本来の目的はネギの成長である。
この決勝でどれほど力が伸びてきたか、そしてネギが目指す父ナギと同じ最強の一角という土俵に登るための壁として君臨したのだ。ちなみにシックスはただの気まぐれである。
「15分遅れ……こういう展開はな、だんだん面倒になるんだよ」
「どーかんだ。だがアイツは逃げるような奴じゃねー。そうじゃないと……困る」
「ハッ、既に退場する気満々だな莫迦筋肉。少しは足掻いて見せろ凡人」
ククク、シックスは笑った。ラカンも同じように愉快そうに笑った。
テオドラ以外の繋がりを一切持とうとしないことに『帝国の狙撃主』は非常に有名だった。だが、今二人の間に&それ&は確かにあった。
二人は英雄であり、宿敵であり、そして&仲間&で背中を預け合った存在だった。
狙撃手と『紅き翼』の物語は有名だ。今でこそ色々美化されているようだが…ただ二人はゆっくりと歩き出した。
シックスが覆面を被りカゲタロウへと変装する。
ラカンはガチャンと大剣を抱える。
闘技場へと続く階段を上り、そして光の中へと入り込んだ。
一気に開放感を味わう二人、風が頬を撫で回し、闘技場の砂埃が視界に映る。
——ワァァァァァァァ!!!!
歓声が更に広がった。
名前を呼ぶ声、黄色い声、勝利を願う声、ありとあらゆる声があった。
人一人の言葉なぞ全て溶け込んで隣の人にすら聞こえることは無いほどの音量。
闘技場が揺れる、震える、震撼している。ここで全てが決まると、ここで全てがわかると、ここで全てが終わるということを理解しているのだ。二人が戦場に立った。
まもなく、反対側から二人の青年が登場する。会場に設置された空中映像によって各々の選手の顔がピックアップされ、様子がよくわかるようになった。二人と二人が対峙している。
「よく来たなぼーず、いっちょやるか?」
「逃げておけば楽であったものの……まぁ何でもいいか」
ガンッ、と剣を地面に突き刺しラカンはネギにそう言った。続いてカゲタロウもまた相手を挑発するように言う。だが、対峙するネギとコジローと名乗る小太郎は涼しい顔でそれを流した。
ネギは言う、勝たなくてはいけない理由が出来た、と。ラカンは感心するように声を漏らし、黙ったままのカゲタロウの覆面に描かれている目の視線が二人を貫いている。
「もし僕が勝ったら……一人前と認めてくれますか?」
「フン、そらまぁ…勝てたらな」
「一人前どころか"ともだち"だな」
意味わかんねぇが怖ぇなお前、とラカンが心の中で呟いた。
正面からまっすぐと、言葉を放ったネギ・スプリングフィールドは反面、さすがと言うべきか喜んでいた。
なるほど主人公だ、とか呟くカゲタロウにラカンは若干不安になりながら、もう始まろうとしている戦いへと身を乗り出した。
全てが決まる、観客達は全て、例外無く、前のめりになり、その光景から目を離すことは無かった。
「それでは、全力全開どんな手を使ってでも勝たせて貰います!『来たれ!』」
「アーティファクトだと!?」
ネギは小太郎に声をかける。表現するならば、ヒマラヤ山脈を登る者同士声を掛け合うがごとく、互いを喚起させ奮起させ、目の前の山(最強)を登らん(越えん)と。もっとも二人は実に不運だと言う他が無いだろう。
あの丘を越えれば、そう思うの自由だが丘の向こうに何があるのか考えたことが無いということに。だが確かに不運であるものの、反面&幸運&とも言えた。
かつて述べたように余計な思考を増やさずに済んだのだ。実に愚かで愉快な話である。
「(蝋で固めていないことを願うばかりだな)」
愚かな愚かなイカロスの翼、彼は思った。
ただその翼は単純な&憧れ&という蝋で固められた不愉快極まりの無いものであるのか。
それとも、真なる意味の翼なのか…空へと、上へと羽ばたくための翼は、本当なる意味で存在しているのか。
だが、そこまで考えた彼は、自ら思考したその考えを消し飛ばした。
原点に帰ろう、所詮関係無いと。例え翼が蝋で固められた物だとしてもそうじゃなくとも、否、だからこそ&どうでもいい&と。見極める必要すらそこに存在はしなかった。
天からの罰として蝋が溶かされようとも、どこまで続く晴天を己の意のままに跳び続けようとも…彼は笑った。
ニタァとそれはもう生理的嫌悪をもたらすほどい醜悪な、顔を歪ませて。
それは実に&不運&なことに覆面で見えることは無かった。
《それでは決勝戦!開始ィーー!!!》
「(天から落とされようが、登り飛び跳び越えるのが人間であろう、なぁテオドラよ)」
——そういえばそうだった
ソコに来てから何度も呟いたその言葉を彼はまた言わずにはいられなかった。
○
「始まりますよテオドラ様ッ!うわーー!すごい生ラカンですよ!……あれ?姫様?」
「ん?……あぁ、そうじゃな」
闘技場のいわゆるVIPルームに侍女を控えた第三皇女がいた。
侍女の騒ぎようにぼんやり答えるものの、特に興味も無さそうに闘技場に目を向けていた。
彼女の視線の先には色々と吹き飛んでいる格好をしているカゲタロウがいた。
彼女のため息を共に向けられている視線に気付いていないのか気付いているが敢えて無視しているのか彼がこちらを向くことは無く、対峙している青年二人のほうへと顔を向けていた。
「やれやれ、やることが大人気無いものじゃな。まぁ…あやつらもたかだか&この程度&の理不尽を越えることが出来なくてはな…」
「姫様…?」
第三皇女のぼやきに真意を見いだせない侍女が頭を傾げた。
そんな様子の侍女に気付いたテオドラは納得したかのように声を漏らし、その試合のタネをあっさりと伝えることにした。
背後から影の触手をうねうねさせているカゲタロウに指を差し…
「カゲタロウじゃがな、あやつの正体はシックスじゃ」
「な、なんだってーーッ!!」
侍女が騒ぐ、というかなんだってー、の一言で終わらせるのは容易ではないほどのレベルの事象。
世間では事実のようにラカンvs偽ナギの構図なのだ。
ラカンのペアであるカゲタロウも、偽ナギのペアのコジローもそこまでメディアが主人公として取り上げることはすくない。それを正面から打ち崩す所業だ。
複数人である『紅き翼』と対比される個人『帝国の狙撃主』が、その場にいる。それだけで十分なほど騒がれるのだ。しかも、ラカンとペアを組み偽ナギと戦う、おかしいと言わずに何を言えようか。
当たり前かのような顔で勝敗を予想している専門家達は総じてヒックリ返ることになる。
「え?えぇ!狙撃手様がッ!?なんでまたッ」
「さぁそこは知らんが……。ま、ナギ達が勝てる見込みはゼロに近いのぅ」
侍女は驚く、彼女もまたシックスを性格を知る人物の一人だ。
第三皇女が知らない場所で彼が行動するなど想像も出来ない。だが事実として、今眼下でおこなわれようとしている試合があるのだ。
「修行もした、策もうった、自信もついた、じゃがそれを打ち壊すほどのイレギュラーを、越えることが一番の課題かの」
「……」
息を飲む侍女。
そこまでいけば逆に偽ナギのほうが気になってくる。
シックスとラカンが出張ってまで対峙する価値があるのか。それはもう&偽&という一言で片付けるほど…単純な出来事じゃない。
目の前の皇女もそうだ、千の刃も、狙撃主も、対峙する青年達に目をやった。
侍女は冥福を祈れずにいられない、皇女の言葉からして、シックスは偽ナギの全てを砕き折るつもりだと、そしてそれを越えなくては偽ナギの目的は達成&さえ&出来ない、と。
「シックスは妾に秘密しているつもりじゃろうが、フッフッフ。まだまだ甘いのぅ」
「は、はぁ…」
悪代官のような笑みを浮かべるテオドラに対して、どう成長してしまったのか不安に思わずにはいられない侍女だった。
大人になったじゃじゃ馬と比喩された彼女の成長に感動すればいいのか、変な方向に曲がってしまったことに憂えばいいのか…だが結局、狙撃手様よりマシですね、と侍女は案外素っ気なかった。
○
「行きます!『ラス・テル・マ・スキル・マギステル!契約に従い我に従え高殿の王!』」
雷属性最大級の呪文を唱えだしたラカンは驚く。
無理も無いのだ、目の前の青年は本当はまだ10歳の少年なのだから、天才を越える天才と比喩も出来るほどの才を持っている、とラカンは感心する。
一端呼び出したアーティファクトを下げ、詠唱に入ったところからラカンはアーティファクトについての予想を立てる。
呪文などの威力を上げる補助型のアーティファクトと仮定し、己の気を増大させ始めた。
——なんだ、つまらん
詠唱に入ったナギにも、コジローにも、ラカンにもそれは聞こえた。
背筋が凍るかと思うほど冷淡で平坦な一声。
いつのまにかナギの背後に彼は立っていた。どっこいしょ、と一転気が抜けるような声でナギをそのまま殴りつける、だがそれをさせまい、と割り込むもう一人の青年コジロー。
「ハッ、やらせないようにするのが俺の役目や!」
はいそうですか、と冷ややかに彼は思う。
もうその瞬間コジローは既に空を舞っていた。
誰も理解出来ないほど彼は&ごく普通&に投げ飛ばしたのだ。
あまりにも自然すぎて、それが普通かのように思ってしまうほど。
一瞬だけ空気が止まる。
投げ飛ばされたコジローは気付いたら浮かんでいたという状況、わけがわからないの一言。
「ハ?ぐぁッ!!」
次の攻撃の間までにそれを疑問に思うしか出来なかった。
腕にからみつけた影を肥大化させ、巨大な獣の腕かのような爪を模した手でコジローの腹を&上&から殴りつけた。
腹の痛みを抑えながら、地面にたたき付けられながら、血の気が引くほどの威圧を感じた。
威圧を感じるほうを見てみればジャック・ラカン。アーティファクトで召還したのであろう投擲槍。
「へー、ずいぶんと地味じゃねーかカゲちゃんよ、そら俺の番だ!」
やばい、とコジローは本能から理解した。
ラカンが持っている槍に込められた気の量に、もう声すら出てこない。だが、たたき付けられたコジローの側にすぐに移動してきたナギは、気に威圧されながらも口元を上げた、青年は笑ったのだ。
「俺様も久々に全力が出せそう、ダリャアァッ!!!」
そのままラカンは槍を投擲した。コジローと庇うかのように前にたったナギに槍は襲い掛かる。
たった一撃だが、その一撃は音を越えた。もうその攻撃に爆発音も無かった。
直撃したように見えた槍は、大地を砕き、闘技場に張られた防御結界を振るわせ、衝撃が空までのぼった。
闘技場の障壁が無かったなら、オスティアの大地をそのまま砕いていたのでないのか、軽くそう思えるぐらいの威力だった。
「なにこれ意味わからん」
理解出来ない理解出来ない、と。
人類一匹の気と名付けられたエネルギーが、どうしてここまでの被害を生むか理解出来なかった。
相変わらずだなぁとか思う上、意味がわからないのは今に始まったことではないのだが…そのまま爆煙に巻きこまれていく。とりあえず爆煙に紛れて岩石を一個ラカンへと投げつけた。
「おいテオに何かあったらどうする気だゴリラが」
ボソリと呟いた。
爆煙の向こうから「いてぇーーッ!」と聞こえた気がしないでもなかった。
爆煙が次第に収まっていくと同時に、観客達は騒ぎ出す。普通に考えるなら、死んだんじゃね?と思う、それは正直ラカンさえもやりすぎた、と冷や汗を流したぐらいだ。
もっとも途中で降ってきた岩石で思考が遮られたが。
——ウワァァァァア!!
「ハッハッハ、まぁまぁ」
歓声が広がりラカンの名が叫ばれる。
すさまじい一撃だと、誰かが言った。もう終わったのか、と誰もがそう思った。しかし、それははずれることとなる。
未だに巻き上がっている爆煙の向こう側には、二人の青年が五体満足どころか無傷で立っていた。
さすがにこれにはラカンも驚く。龍すら絶命させるような力技から無傷で生還するなど、誰が出来ようか。
直撃したのなら英雄ナギ・スプリングフィールドでさえ傷を負うのは間違いないのだ。
「ハマノツルギ、ますますムカツク莫迦餓鬼だな」
「おいおい、それはあの子専用のはずだが!?」
だがあれならば防げる、とカゲタロウは納得した。
ハマノツルギを構えたナギとコジローが一気に突っ込んでくる。
若干キレ気味のカゲタロウが影の鞭を展開し、ラカンもまたアーティファクトによる剣軍を召還。
無数の影の鞭と大量の剣軍が青年二人に襲いかかる、がナギの手に持つ剣の一振りで全てを掻き消した。
「ほ!?」
「本物か」
ラカンのアーティファクトを軽々消し飛ばしたその剣は本物でしかありえない。
ハマノツルギ、魔法使いといった存在に対する最強の攻撃力を誇る大剣だ。
魔法といった神秘を打ち消す能力を保有し、そしてあの子の本来の能力に指向性を持たせ増幅させる装置である。
そう、そのアーティファクトはあの子専用のはずなのだ、それはもう誇りの高く狙撃主が認めるほどの少女のもの。
「契約相手のアーティファクトを呼び出すアーティファクト」
「ハッ!?なるほどねぇ、これは激レアだ」
まぁどうでもいいか、とカゲタロウはコジローへと向かっていった。
影を展開しながら面白い、と笑う狗族の青年と対峙する。
——青年は自信があった
目の前の影の使い手を倒すという自信があった。
何故ならば彼らは努力したからだ、同じ影の使い手であるダブル・シックスに半殺しにされながらも戦い抜いてきた。
正直に言うならば、青年は影という魔法を相手にするなら狙撃手&以外&に勝つことは出来るだろう。
影の鞭を拳一つで弾き飛ばし、そして殴りかかる。その巫山戯た覆面の上から顔面を殴りつけようと決めていたのだ。
普通ならばそのまま殴られていただろう、普通ならば。
「鈍い」
彼は頭に向かった拳を、そのまま背中を後ろに曲げて回避した。
避け方すら奇抜すぎると、観客は騒がずにはいられない。
無論、青年はそれに驚いたものの攻撃をゆるめることは無かった。拳、蹴、拳、拳、蹴、思いつくかぎり攻撃してみた。だが…全て無駄だと思い知らせれたのだ。
動きが違いすぎる、と青年は口を開けた。個人的にカゲタロウの動きやら戦法の研究をしてきたのだ。
全ての戦闘が一撃二撃という少ない時間であったものの、彼もまた戦闘の天賦の才を持っている。
見切るのも可能、なはずだった。そこでようやく気付いた。
「(コイツッ!?まだ手ぇ抜いてやがる!)」
「グッバーイ」
人差し指を親指に引っかけて、勢いをつけて人差し指の一撃を青年のオデコにぶちかました。デコピンだ、何の変哲も無いデコピン。だが、青年はまっすぐと吹き飛ぶ。
何百メートルも吹き飛ばされ、闘技場への観客へと…そして障壁が発動しコジローを受け止める。
コジローの背中に浮かんだ障壁の魔法陣、だがコジローはそれに深く食いこみ、まるでガラスのようにヒビを入れた。
「……峰打ちだ」
《か、カゲタロウ選手のデコピン!たかがデコピン、されどデコピン!コジロー選手を観客席まで吹き飛ばし、……障壁を破壊!?信じられません!!》
彼の背後で、ラカンとナギが撃ち合っているのだろう。だが、そんな光景よりも、デコピンでラカンの一撃を防いだ障壁結界に一部といえどヒビをいれるなど。大事件を三回通り越して珍事件である。
彼からすれば、ただ術式を追加しただけである。莫大な魔力と精練を極めた&衝撃&のデコピンなのだ。
バットに組み込めばバントでホームランが撃てるしキーボードに組み込めば打つ度に床が陥没するだろう、そういうアレなのだ!
To be continued