噂の章間小話
後半、結構血なまぐさいというか、かなりのレベルでのヒドイ描写がありますので気分を害する方がいるかもしれません。
外道オーラが出てますのでご注意を。
シックス・テオ・マナ 合わせてシッテマ
「おお、帰ったかシック……おいどこから攫ってきたのじゃ」
「拾ってきた」
彼の正面にいる褐色肌で出ているところは出ている、
むしろはしゃぎ回ってる(?)美女が彼の後ろにチョコンと存在している少女に指を差しながら言葉を出した。
対して、一体コイツは何を言っているんだ?と言わんばかりに整然と言い放ったフードの男。
彼の背中側には、彼女から隠れるように彼のローブを握り締める少女が、彼を壁にして覗き見るかのように彼女を見やっている。
少女の特徴と言えば、指を差してきた美女と同じように褐色、ただし彼女のように頭に角が生えているわけでもないし、彼女は金髪だが少女は黒髪だ。肌が白ければヤマトナデシコゥ、と言えるぐらいの可愛さだろう、ゲフン。
「……大丈夫じゃシックス。初犯だし妾がついておるから」
「まずその謎の誤解を解いて貰おうか我が主よ」
「……師匠は犯罪者なの?」
「なん……じゃと…ッ!?」
ヒョコヒョコ彼の後ろをついて回る少女、そして少女を無視したまま歩く彼。
彼女は彼に対して自首を勧めるものの、それが勘違いらしいことに気づき顔を赤くさせた。
良い光景だ、とふむふむ頷いている彼を尻目に、彼女は彼のことを&師匠&と呼んだ少女の肩を掴んで詰め寄った。
「いいか?見知らぬ少女よ、こやつは色々と危ないから近寄ったら…」
「おい」
「……大丈夫」
そう良いながら、懐から取り出した鉄の塊。
質量保存とか色々無視しているが、そもそもそこは&魔法&世界という場所。
魔を持って&法&を為す神秘の前ではギャグ程度にしか感じられない。
鉄塊……銃を取り出した少女に、彼女は安堵的なため息を吐いたのだった。その安堵は、襲われても大丈夫という意味なのか、銃という繋がり的に師事云々が正しいという意味なのか、そこは女の感情故か彼が知る由は無かった。
もっとも普通の人間の雄の感情ですら彼にはなかなか理解しがたいことだろうが、そこは割愛しよう。
「それにしてもお主に弟子がのう…、今ならまだ間に合うのじゃが?」
「私がお願いしたこと……」
「そうか、ならばいい。お主の師匠は行動概念が変態じゃから注意するのじゃぞ?」
ホメ言葉だな、と内心呟きながら女同士の会話を背中で彼は聞いていた。
時折すれ違う侍女や、警備兵達が彼女と彼の二人が一緒にいることは常のことでなれてはいるのだが、そこで謎の少女がいたことに疑問を覚えた様子だった。
決してどこかの王族や皇族、貴族、名門の子女のような身なりをしているわけではない。黒を基調としたワンピースを着ている普通の少女なのだ。
それも&ヘラス帝国第三皇女テオドラ&と、大戦の英雄、帝国の大英雄、狙撃の代名詞ともなった&ダブル・シックス&と共にいるという、なんというか不思議な光景だったのだ。
皇女自身、いい方は悪いが平民達と会話をしたり慣れ親しむ光景はたびたびあるのも、その後ろで彼が無表情なりに怖い顔をしているのもよくある。だが、今は帝国城内なのだ。疑問に思うのも不思議ではない。
「(……まさか!隠し子!?)」
「(ついにこの日が……あれ?いつのまに?)」
「(おめでとう……!おめでとう……!圧倒的賛美ッ…!)」
ざわ…ざわ…、と回りがはしゃぐ中、そんな周りの様子に気付かないのか、気付いているがどうでもいいのか、淡々と渡り廊下を歩く三人組だった。
無論、その後少女が彼のことを&師匠&と呼んでいることに気付いた者たちの手によって、その噂は次第に薄れていくことになる。
もっとも、それがカモフラージュ——なんのカモフラージュなのかは定かではない——という噂も同じく流れ出すのだが、その噂を出した者は忽然と姿を消し、三日後普通に帰ってきたと思ったらテオドラ至上主義になって帰ってきたとか、なにそれこわい。
「ここが妾の執務室じゃ、弟子のお主じゃから来る機会は増えると思うぞ?」
「……わかった」
ギギィ、と重っくるしいドアを開けると豪勢な、というわけではないがそれなりに豪華に見える部屋。
紅い絨毯を敷き詰め真ん中にポツンと存在する、いかにも最強です、と言わんばかりの執務用の横長い机。
それを包むかのように数多の本が並べられいる本棚。マナはその光景を見て、最初に豪華な執務室と言われて思い浮かべるソレとホトンド一致していることに面白く思う。ただし表情が表に出ることはなかったが…。
「あ…」
「どうした?」
「ん?」
彼女が突然何かを思い出したかのようにボソリと呟いた。彼、少女と続き声をかける。彼女はそういえば、と続けて言葉を紡いだ。
「妾の名はテオドラじゃ、お主の名は?」
「あ…、マナ。マナ・アルカナ」
「そうか、良い名じゃ」
フフ、と肝心なことを忘れていたことに少し後悔するテオドラだった。
同じように一番肝心とも言えた名の交換をすっかり放り投げていたマナも同じようなもの。
どーでもいー、と言いたそうに鼻くそをほじっている&英雄&にテオドラは——どこから取り出したのかまったくわからないが魔法だから問題ない——ハリセンで頭をはたいて、三人は部屋へと入っていった。後には結構有名になる、というか日常光景になる三人組である。
一人は皇女、一人は英雄、一人は凄腕の傭兵として、まぁ色々噂が流れるのだが大丈夫だろう。
○
「……無理」
「無理じゃない」
「無理だって」
「無理じゃねー」
無理無理、と言っているマナを説得しようとも思わずただ言葉だけで潰そうとするシックス。
こういう光景なのもほとんど当たり前の一つである。少女が彼に弟子入りしたのがこれの原因だ。
彼は少女に「正直言えば面倒臭いが、勢いで許可したから責任ぐらいは持つぜ?ゴマ粒程度には」というコメントを残した程度には師事をしていたのだ。その結果がこの無理無理である。
「3つの跳弾後に的に当てるとか師匠しか出来ない」
「そうか、やれ」
「うー!うー!」
「うーうー言うのを止めろ!」
やれやれ、と彼は言いながら銃を取り出す。
「手本だ、よく見ておけ」と言いながら発砲。ただし的を正面から狙うのではなく、銃口を明日の方向へと向けて放ったのだ。
一瞬のことだったが、確かに跳弾する音が3つ、それを聞き取る少女もすごいが彼が側にいると普通に見えてくる、不思議。
こうだ、と言いながらマナに撃つよう急かす彼だが、ぶっちゃけるとお手本見た程度で跳弾を利用した三次元空間狙撃とか出来ねー、と諦めムードのマナだった。だが、彼の背中には憧れるし、彼の生き方はひどく望ましいもの、望ましすぎて誰にも到達出来ないし、到達したらしたらで今度は狂人と言われるほどのレベルのもの、それでもマナは彼の背中を追いたかったのだ。
「……よし」
ガチャリを自らが愛用してきた銃を構える。
目を大きく開かせ魔眼を発動させる。
魔眼の使用と、一見狡っこいように見えるが彼から見れば持てる力を使うのは常に正しいことだと言っているので問題は無い。むしろ魔眼を使わないと当てる気がしないものだが…彼女は銃を撃った。
何度も何度も撃った。硝煙の匂いに包まれ、火薬と鉄で囲まれる生活をしていくのだ。
それでも彼女は生き残り、後には英雄から直接任務を貰うほどの傭兵となる。それは全てマナの才能の御陰だろう。
「…で、出来た…」
「ナンティコッタィ」
3つの跳弾後に確かに銃弾は的に当たった。
的の端っこのほう…正確には頭身大の人型の的の眉間のあたり。彼は心臓にヒットさせたが彼女はヘッドショットをしたのだ、一発目で。
驚きを隠すどころか口調が変になる彼。
何語?と弟子の突っ込まれるが、なんでもない、と変な汗をかきながらマナに対してそう言った。
今後には様々な場面、市街戦や森林の中、そこでの狙撃、近距離銃撃の技術を叩き込んで行くのだった。ちなみに、最初のほうは確かに跳弾は成功したが、次は上手くいかなかった。
やっぱりマグレかハッハッハ、と安心した彼だが、一週間後には10発中8発を当ててくるという状況になったそうな。ちなみに余談程度だが、的に描かれている人物像がやけにリアルで、赤髪の馬鹿そうな青年だったらしい。
「師匠褒めて、具体的に頭を撫でたりして」
「断る」
ムンズと少女の頭を掴み、そのままクレーンゲームよろしく持ち上げ少女を投げ飛ばす。
虐待まっしぐらで警察がトンできそうな光景だが、数十メートル吹き飛んだ少女が華麗に着地すると何事も無かったかのようにトコトコと彼の側へと走っていくのが何度も何度もあったそうな。このころは子犬属性を持っていたのだ!
「師匠のツンデレ」
「黙れ潰すぞ莫迦弟子」
「でも師匠なら……」
「考えている意味まったく違うだろこの莫迦ッ!」
マナは彼の物言いに、ポッと頬を赤く染めてヤンヤンしだした。
あぁ昔はあんなに素直(本の数刻前、ついでに無口)だったのに、と何処かのババァのようなことを彼は考えた。
どうしてこんな性格に、と流れもしない涙を流し、一ミリも思わない悲しみを胸に抱いたという。だが性格が変わったというのなら、それは間違いなく環境。具体的に言うとシックス、彼自身の所為だと言わざるを得ないだろう。
○
「頼む!見逃してくれ!故郷にはおふく「パァン!!」…」
「お袋さん泣いてるぞー」
帝国領内の辺境でのお掃除中のことだった。
どこかの組織の末端部分なのか、確かに大きな犯罪行為に繋がるようなことはしているが調べれば調べるほど不可解なほどの情報の無さ、もう聞き出すこともしようと思わなくなった彼は無情で冷酷に、そもそも何も感じることもなく引き金を引いた。
「や、やめてくれ!もうしない!だから命だけは「パァン!」…」
「そーなのかー」
聞いてるようで、返事もちゃんと返してはいるが、相手にその声が届くことは無い。というか言葉だけでは本当に聞いているのか疑問に思うほどだ。
「畜生!?なんだよ!人をゴミみてぇに!コイツ英雄なんかじゃ「パァン!」…」
「今頃気付いたか生肉」
ゴミという部分か、英雄を否定する部分か、どっちに対しての言葉かわからない。だが、彼にとって一つだけ言えることは、そんなことはどうでもいい、ということだけだろう。
大方掃除を終えたところで血が不自然なほどに、まったくついていないフードをとった。
彼の眼前には、赤い血で染まりきり吹き飛んだ肉塊と、歩く度に足下からビチャビチャと音を鳴らす原因である赤い水が広がる光景。
トラウマまっしぐらで速攻で胃袋の中身をリバースカードオープンしてしまうような光景だ。
「師匠、終わった……、四人捕まえた」
「そうか」
「な、なんだよコレ!?おい!お前仲間をどうし「パァン!」…」
「…三人だった」
「報告は正しく」
「ん」
建物の影からスッと入ってきたマナが彼に言葉をかけた。
マナがひっぱてきたロープの先には拘束された男が四人、だった。
彼が起こした惨状を目の当たりにして、色々あって三人になったがどうでもいいと言う感じ。
残った三人は人間とは思えない冷酷さに、言葉を出そうとしたが、その結果が隣にいる血と生肉が詰まった水風船という現状を見て喉に無理矢理言葉を押し込めた。
三人の内一人がもう言葉を出せるような現状ではなく、あらゆる恐怖を体験したように全身を震わせ顔を青くする。
「聞きたいことは色々あるが……まぁ話さなくてもいいぞ?俺としちゃそっちのほうが楽だからな」
「は、話す!絶対に話すから!!」
「そうか、……莫迦弟子、外をみてこい」
「わかった師匠」
チラリと隣の肉塊を見ながらニヤニヤする彼に、我慢出来なくなったのか命乞いの声を出す。
男の脳内に保存されている限り全ての言葉を出してくるが、逆に彼は五月蠅くなった男に苛立ちを見せた。とはいっても、自ら話すというのに殺すのもアレなので大人しく聞くことにした。
9割がなるべく殺すな、とテオドラの有り難い言葉を貰ってるという抑止力がある所為だが…。
「詳しいことは知らん!突然現れたんだ!仮面の魔法使いがッ」
「ほぅほぅ」
「顔は知らない!本当だッ!アンタと同じようにフードを被って、声からして男だと思う!」
「なるほどなるほど」
「あ、あとは…」
「……あとは?」
言葉を濁した男に、彼は銃をゴリっとコメカミに当てた。
慌てて必死に思い出そうとする男を、楽しそうに見やる。ほれほれ、と急かす彼だが男から見ればたまったもんじゃない。
「そ、そうだ!女の子だ!ソイツの後ろに女の子…ほ、本当だ!現にお前もあんな小さな子「パァン!!」…」
「ヒッ!」
「いかんあと二人になってしまった」
彼は突然有無も言わさず発砲した。
残った男達は短く悲鳴を上げる。
ここで大きな声を出さないようにするのも、全ては彼の機嫌を削らないようにするためだ。残った男達は、二人とも目の前の存在が、今世界で知らぬものがいないほどの英雄だという現実を否定せずにはいられなかった。
目の前の地獄絵図もしかり、先程起こった突然の発砲もしかり、みんなを助けるイメージの&英雄&とはまったくかけ離れた存在なのだ。これでは英雄ではなく&化け物&と言ったほうが正しいかもしれない。
そんな疑問を覚えた男二人の心情を察したのか、彼は男に言葉をかけた。
「あー、すまんすまん。おまえ達は"なるべく"殺さん。今の時期なぁ、不景気のせいか殲滅しても、殲滅した証拠が無いと殲滅したことにならないんだよ。こうやって組織の一員を残した方が楽だ。ドラゴンの群とかならこういうことも無いのだが。おっと、一人でも構わんが…、せっかく弟子が捕まえてきた奴だ。せいぜい残してやろう、大サービスだぞ?」
「なッ…!」
完全に見下してる彼に唖然とするしか無かった。
人間の心が無いのかこのゲスが、叫びたくなるぐらい吹っ飛んでやがる、と男は思わずにいられない。
彼がそれを聞いたなら犯罪者が何を言っても無駄無駄無駄ァ、と言っているのだろうが…。
「(仮面の魔導師に、女の子、どういう組み合わせだ…まったく理解出来ん)」
「兵隊が来たよ?」
「うむ、仕事終わりっと。所詮末端以下だったな、あーメンド」
「師匠褒めて、具体的に撫で撫で…」
「五月蠅い」
いつぞやと同じように頭をムンズと掴んで、そのまま放り投げた。
遅れてやってきた帝国の兵士達は、地獄絵図と化したこの光景に息を飲んだ。
まるで狼の群が徹底的に攻撃したかのような、全てが無慈悲という惨状。
&生き残った&男二人は全てに絶望し恐怖したかのように恐怖を能面にして顔に貼り付けたままだった。
今回、二人が潰した組織は確かに犯罪組織の末端だった。しかし明確に犯罪を表に出したということが無いため、堂々と罰することは出来なかったのだ。そこで白羽の矢が刺さったのが彼である。
重鎮達は確かに頭を抱えた。確実に、明確に危険な犯罪をしているのだが証拠が無いため裁けない。
そこで英雄という立場を利用して無理矢理処罰させたのだ。そして後日には重鎮達の頭を抱えたくなるような予想通りに英雄である彼が批判されることもなかった。むしろ…
「師匠あんまり殺しちゃダメだよ」
「ほー、弟子の分際で俺に意見する気かマナ・アルカナ」
「テオが悲しむよ?」
「なん……だと…ッ!?」
To be continued