最後の射撃 我こそここに在り
「テオドラ様!上空に何かがッ!?」
「……うむ」
帝国が誇るインペリアルシップ、帝国が保有する戦艦の中でも最強の攻撃力と防御力を誇るまさしく化け物である。
魚類を思わせるその体躯だが……その大きさは100メートルを軽く越える。
そんな戦艦のブリッジにての会話である。突如、腹の底から何かを叩くような音を&空から&ぶちまけた何かが現れた。ブリッジの中ではその不可解な現象に焦る兵隊と、妙な落ち着きを持つ帝国第三皇女テオドラの姿があった。
彼女は、ただジッと&盛り上がる&という怪奇な現象を起こしている空を眺めるばかり。思わず戦艦の艦長が彼女に声をかけるものの…、返ってきた答えもまた不可解なものであった。
「よく見ておくのじゃ、……帝国が誇る最強を」
「……何が起こるので?」
「見てればわかる、じゃが、な……あまり良いものじゃないのじゃ」
「……」
どこかを懐かしむような声で彼女は返したのである。
そんな彼女の表情に&あてられた&のか艦長は思わず閉口してしまった。
次第に大きくなっていく謎の音……、何かを呼んでいるような雄叫びか…、それとも崖に落ちる直前の助けを求める悲鳴か……、羽虫が忙しく羽根を動かし仲間を呼ぶ騒音か………、ただ、まるで、と比喩するにはあまりにも異常すぎた。だが、艦長は何かを感じ取った。
艦長もまた彼女が何かを懐かしむようなことに対し、不思議なことだが己も同じような感情を持ち、未だに鳴り響くうなり声を&どこかで聞いたことがある&と、そう思っているのだ。しかもそれだけではない、この空気も、この雰囲気もまたどこかで感じた……、それも&彼&が戦場にいた時と同じような空気を。
「敵さんも動きませんね…」
「動けば死ぬ、かのぅ?」
「……洒落になりませんね"ソレ"も"アレ"も」
戦場は静かであった。
召喚魔のキーキー、ギャーギャー、牙をガチガチならし爪をキリキリ擦る。そんな音もまったく聞こえなかったのである。
そう、それも静止したまま、であるのだ。
例外無く突如オスティアの雲の海に現れた巨大な召喚魔も等しくただ空を見てジッ…と、まるで石のように、否、ヘビに睨まれた蛙と言ったほうが正しいのかもしれない。気付けば、忙しく動いていたはずのインペリアルシップの乗組員も止まっていた。
同じように膨らんでいく空を眺めていた、別の部署からの通信が聞こえるであろうスピーカーからはオペレーターが出す僅かな吐息を捉え、誰かがゴクリと喉をならす。妙にその音がブリッジに響いた。
「来た」
「……」
ピシリ、空にヒビが入った。
膨らんで膨らんで、もう限界が来たのだろう。
一度そう鳴らすと、もう我慢しないと言いたげに連続して聞こえていく。
ヒビは波紋状に広がり、ある一定まで来ると止まった。
どれほどの大きさであろうか、見る位置の問題でそれは確かではないだろうが、わかりやすく大きさを言うならば&1000メートルを越えるようなナニかが出てきても問題は無い&と表せば良いだろう。ボツリ、と彼女は呟いた。
いつのまにか、艦長は右手に血が滲むほどの拳を作っていた。
彼女は次に懐から一枚のカードを取り出した。仮契約カードだった。
それは巨大な銃を構えている彼が映っている&はず&のカードだ。だが今は…、白かったカードは黒く染まりきり、絵柄もまた変わっていた。
それに人間……ヒト型でも映っていればまだマシであったかもしれない。
「そ、それは……シックス様の…、ってどちらへ!?」
「……甲板じゃ」
カツカツ、と彼女は鋭い足音を立てながら振り向き歩き出した。
その声と音にハッとした艦長は、すぐに武装を整え自らがお供をした。
彼女が持つ仮契約カードはただ一つ、それも帝国の民からすれば一般常識でもある話だ。故に艦長はすぐに気付くことが出来た。
今、彼女が手に持つ仮契約カードは&彼&とのカードだと。だが信じたくもなかった、思えばソレを思わせる発言は多々あった。だがそれは今になって初めて意味をなすことで…、例え世界中の頭脳が集まったとしても今の答えを出すことは出来なかったであろう。彼が&そう&なる、などと…。
「テオドラ様ッ!?ご、ごごご護衛を!何かあったらシックス様になんと言われるか!!!」
艦長は震える全身に気付くことが出来なかった。
同時に聞こえてくるガラスが割れるような音に、少しだけ耳を傾けるも……嫌な予感しかしないという現実がそれを押しのけた。
今は走ろう、そう艦長は思い、導かれるように甲板へと足を向ける彼女の背中を追いかけていった。
○
「■■オ■■■■■■■■■オ■■■■ォ■■■■——…… ‥‥ ・ ・」
ガキィン、そういう音が空に響いた。
膨らみにに膨らんだ空が割れたのである。
星々の光をいつものように映している空は、光を映したままガラス細工を砕いたかのように地面へとゆっくりと落ちていく。割れた空は一部が欠けていた。欠けている空には何もなかった。
次元の狭間、隙間、虚無空間、混沌、さて一体どれが&ソレ&に相応しいものだろうか。中にはアレを&根源&だと言い出す者もいるかもしれない。
真っ黒なはずである空であるのに、割れたガラスの穴越しにソレを見れば真っ赤。赤いペンキをぶちまけ、紅い満月を溶かし込み、朱い血飛沫で模様を。赤く紅く朱い背景から……、うなり声を上げている中かがギョロリ、ヒョロヒョロ、ヒタヒタ、ズブルズブルとのぞき込む。
——アレハイッタイナンダ?
静まりかえった戦場で声を出さずに皆そう思いこんだ、もっとも例外は二人ほどいたであろう、が……それはアレの正体を知っているということで幾分冷静なだけである。
そう言うならばやはり、例外なく誰もが&アレは一体何だ&と思ったと言える。
覗き込んだ何かがモゾモゾと動く。目玉をドロドロ震わせ何かを探すように忙しく動く。
おぞましい目玉だった、昆虫が所有するような複眼ではなく言うなれば複数眼。
一つ一つが哺乳類などが持つ球体の目玉、その小さな一個一個が寄り集まって、一つの巨大な眼球を中心に、まるでその大きな目玉のガラス体を作り出しているように一つの目を構成しているのである。
その小さな目玉一つ一つもまた、自己主張でもしているのか、寒気を覚えさせ鳥肌を立てさせる不快感を出しながらクルクル動き回る。
キョロキョロ、クルクル、ギョロギョロ、グルグル……、ビタリ。
動きが止まった。
全ての眼球は同じ方面を向いていた。ニタァ—と黒い何かが目蓋を動かし笑う。
「—————■」
バリン、バリン、ガリガリ、空から漆黒の槍が伸びてきた。
正確には空の背後にいる黒い何かからであったが……、空を&貫通&しそれは降ってきた。
向かう先には、オスティアの雲海に現れた巨大な召喚魔、20年前の大戦時において『完全なる世界』の幹部の一人が使った&人形&である。
巨大で、圧倒的であったはずの召喚魔は動くことも出来ず数万という漆黒の槍に貫かられた。
そこで槍に変化が起こる、グニグニ、と先程まで鋭利を極めていたものとは思えないようにうねりはじめ形を変えた、それは手の形だった。
数万の手が、貫いた肉体を今度は千切り始め……、空の背後へと持ち帰る。
繰り返す、繰り返す。
蟻の群の進行に出会ってしまった虫のごとく、それは小さくなる。
召喚魔が足掻き始めたころにはもう遅かった。再生速度を数十倍に速めた動画を見ているかのように……それは文字通りあっという間に骨片一つ残らず空へと還っていた。
空の背後では、再びニタァと目をゆがめる何か、から咀嚼するような……否、それは咀嚼であったのだろう。
ゴリ、ギリ、ゴリリリ、テケリリ、バリバリ、ゴクンッ、耳元で囁くように小さく、だがどこにいてもそれは聞こえてくるほど大きく。
次第に咀嚼の音は止んでいく、最後に一つだけ大きく飲み込む音が聞こえてくると、それは……、
「■■■キ■■■■■ィ■■■ィ■■■■■ィ■ィ■■■■■■■■ア■■!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
叫んだ、同時に空をぶち破ってそれは出てきた。
バリン、と空を割りながら腕を出す。空を蹴り飛ばし足を伸ばす。
あぁ、どこの世界の『化け物(モンスター)』であろうか。体長は1000メートルを超えようとしている。
肩に&添え&られた腕は3対、6本の腕。逆三角形のような体躯を支える二本の足。
ビコーン、と複数の目玉で構成された真っ赤な目が光る。真っ黒なソレの皮膚には一体何があるかわからなかった。だが聞こえてくる。
生き物の叫びが、人々の悲鳴が、化け物の雄叫びが。モゾリモゾリと夜でもわかるほど蠢いている皮膚。
「数の暴力の化身、というワケじゃな。おー、あれは『混沌竜(カオス・ドラゴン)』じゃな、珍しいのぅ」
「ッてお、テオドラ様!!にゃ、にゃにを暢気なことを!?おえッ、ぎもヂわるッ!」
その皮膚はありとあらゆる生き物で構成されていた。皮膚などでは決してなかった。
生きたままの、バラバラにされグチャグチャに混ぜられ、そのソースを塗りたくり固めたまんま…獣の一部が苦しそうに動く、翼がパタパタ、尻尾がブンブン、中には人の腕もあった。
人の腕はまるで歓迎するかのように左右に振っている。
獣の口が皮膚に張り付いていた、ギーギー、本能を揺さぶる雄叫びだった。
『助けて』
『死なせて』
『こっちにおいで』
『ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ』
『痛い』
『苦しい』
だが、一番耳に入りこむのは一番聞き慣れた人の声だった。
耳を傾ければ僅かに、少しだけ、確かに聞こえてくる複数の声。
誰もが耳を閉じたくなるほどの歓迎の声だ、悪趣味で最低の、絶望に染まりきりありとあらゆるものの死を願う声。
「まさか……そんな、アレが……あれがシックス様だとっ!?」
英雄、と言うにはあまりにもそれは歪だった。
人ですらない、生き物ですらない、ただの&かたまり&だった。
艦長があまりの現実に膝をついた、絶対に違う、そう思いながら同時に出てくる感情は恐怖。
あれが帝国を守っていた、あれに敬愛していた、あれが英雄と言われていた、あれが……化け物にしか見えない。
逆だ、英雄に倒されるべき存在は今目の前の巨人、なのに何故?英雄のように戦うのか、誰もがこのことを知っているなら思ってしまうだろう。だが、一人だけ違った。
「もうよい、お主は戦った。これが終わったら…存分に休むのじゃぞ?じゃから……だから、今この一時を。後継者達を導いてやってくれ…、帝国の大英雄よ!!!」
テオドラは叫んだ。
化け物の耳に届くように、大きな声で、何よりも思いをのせて。
あれが彼ならば、とどかないはずがない、何故ならば……彼は『帝国の狙撃主』ダブル・シックスだからだ。
これ以外の理由など、探す必要があるだろうか。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!!!」
化け物は彼女の言葉に応えるように咆哮した。
不規則な大小の牙を無秩序に生やした口の奥から「我こそは此処に在り」と、轟叫んだ。
咆哮に感化されたのか、オスティアの雲海から大量の召喚魔が出てくる。
無数、大量、空をうめつくさんとする自動人形が化け物へと襲い掛かる。口からブレスを吐き化け物に攻撃し始めた。
「————■」
だが化け物は何事も無かったように歩き出す。
召喚魔の攻撃を受けながら全てを無視したまま。ふと、化け物が空を見上げた。
真っ黒な闇夜が続いている。
星空が点々と輝きながら、化け物を仄かに映しだしていた。
細長い頭部を傾け、虹彩を真っ赤に光らせる複数眼をギョロギョロさせながら、後頭部に連なる&具体化した怒り&という名の絡み合う角をバチバチと発光させる。刹那
「————■」
その時、グバァンと化け物が口を開いた。
ドロドロに溶けきった生命体で皮膚を構成した頭部、大小ばらばらで様々な生き物の牙が生え連なる口内を露わにする。
真っ黒で奈落、覗き込めば魂まで吸い込まれるのでないか、そう思いこむほどの深さ。だが、その暗き口内が瞬間に変わる。
光が集まり始めた、粒子状の光を口内の一点に集め、それを天高く—
——キイィィィィン!!!!
一筋の光光が天へと昇った。雲を蹴散らしながら光が——空で爆散する。
「■■■り■■■■■■ゅ■■■■■う■■せ■■■■い■■■■」
例えるなら流星だった、光の雨だった。
昼と勘違いするほど明るい天災の雷。
光が召喚魔を薙ぎ払う。
光が召喚魔を焼き払う。
召喚魔は為す術も無く光に飲み込まれ消滅していく。
破滅そのもの、莫大で純粋な破壊エネルギー。大地を砕き、剔り、粉砕する。光の雨は自重することを知らないのか、それは真下にいた化け物にも降り注いだ。しかし化け物は光を無視したまま歩き出す。
光が化け物に落ちようとも、ただドロドロの皮膚を焼き固めるにしか終わらなかった。そんな中…
「やれやれ、召喚魔がほんの数秒で壊滅か」
光の雨をかいくぐり白髪の青年が化け物の目の前に浮かんでいた。化け物もまた歩みを止める。
「すさまじい破壊力だ、化け物という言葉がふさわしい。でも……造物主には逆らえない」
フェイト・アーウェルンクス、フェイトの視線が下がる。
視線の先に見えるのは穴だった。まるで桜の花びらが散っていくように、化け物の胸を侵食し虚空へと消滅させていっていた。しかしその速さは遅かった。
『造物主の掟』による最強の攻撃といえど、絶対的な生命の密度を誇る化け物の&連結&を砕くには、あえて言おう、パワーが足りないと。
「————■!!」
だが、それでもいつか消えるには変わりない。
フェイトが言葉を言い終えたその瞬間、フェイトの隣を何かが通り過ぎた。
バシュン、と高速で飛行するなにか。
化け物の口より放たれたソレはあっという間に地平線の彼方まで飛んでいき…瞬間、爆音が響く。
光をぶちまけた、かと思うと次の瞬間にはリング状の雲を携えたキノコ雲が高く伸びていた。
キノコ雲の根本にあろう地平線の彼方は紅く染まり見渡す限りの炎熱が空まで伸びている。闇夜を照らしていた。フェイトは無言で太陽が昇ってきているかと思わせるような地平線を、その惨状を見る。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!」
「『ヴィシュ・タル リ・シュタル ヴァンゲイト』」
その惨状が当たり前か、気にすることなく化け物は腕の一つを振り下ろしフェイトを地面に叩き付けようとする。しかしフェイトはそれを空中で回転し紙一重で回避する。
フェイトのすぐ側を化け物の太い腕が通過、あろうことかフェイトは回転した勢いをそのままに腕を走り抜ける。
腕から飛び出た生き物の小さな攻撃を無視し、彼は魔法を化け物の肩に叩き込んだ。
「『冥府の石柱』」
フェイトの石柱が化け物の肩に深く刺さる。
肩にいた生命体の欠片の悲鳴が劈くように響き渡る、が…、化け物は構うことなく石柱の刺さった肩ごとフェイトを反対の手で握りつぶそうとした。
グジュル、と握った指の間から何の色かも不明な液体が滴り落ち、石柱は発砲スチロールのごとくバラバラとなり地面へと落ちる。
化け物の握撃を間一髪で回避したフェイトは突然の出来事に空中に身を投げられた。
空中にて一瞬の隙を表すフェイトに化け物の攻撃、突然肩がバコンと開く。
一面牙が生え揃い、まるで地獄の鑢のごとく。紛う無きそれは口だった。
肩に出来た口から、灼熱の炎をフェイトに向かって放出した。フェイトは避ける間もなく炎に身を包む。
「——ッ」
バシュン、と炎を引きながらフェイトが炎の竜巻の中から出てくる。
そのまま化け物より高く昇り、ギョロギョロ眼を舞わしている化け物の頭部に
「『冥府の石柱』」
数十本の石柱を突き刺した。
化け物の目玉は潰れ、曲がりくねった角を破壊し、首を貫通する。化け物の頭が吹き飛んだ。
だが、それでも化け物は止まらない。
たかだが頭一つで化け物が止まるはずがなかった。
化け物は腕の一つでフェイトを地面に叩き付けた。頭の代わりに石柱がなってようが動くこの化け物を見たせいかフェイトはそれを回避出来ずに、地面に叩き付けられ大きなクレーターを作った。
化け物の頭部は回復、ジュルジュルと蘇り膨らむ肉で石柱を払いのけ再び頭部が出来上がる。
「—————■」
追撃、化け物の口に光が集まり……放つ。
着弾、十字架の光が大地に突き刺さる。
まだだった、何度も何度も化け物は光弾を放ち、放つ度に大気が震え、爆風を呼び、大地を砕く。
化け物の攻撃は地面が赤く染まり……大地が溶けきり地獄と化した後でようやく止まる。
ゴゴゴ、とゆっくりと動く化け物。もうすでに胸の大部分が花びらとなり消え去っていた。
刹那、ゴキン、と生々しい音が化け物から響く。
化け物は腕を、本来曲がってはいけぬ方向へと折り曲げ背後にいたフェイトを左右から叩いた。
自らの筋力を持って関節を破壊するなど想像出来やしない。
「グッ!どこに目をッ」
『ケヒャヒャヒャヒャヒャ』
化け物の背中から笑い声が聞こえる。
化け物の背中には目玉があった。
侵食による穴で大きく欠けていたが、それでも大きな一つの目玉だった。
頭部にある複眼ではなく正真正銘の一つめ。真っ赤な虹彩と、まさしく血迷っているといわんばかりに充血している白目。その目玉が周りの皮膚を巻きこみ、ニタァ、と笑ったのだ。
満足したのか目玉は欠けてはいるが丸く大きく見開き、紫電をまとわせた。バチバチ、とエネルギーが飛び散る。徐々に目玉は青白く輝き……光が走った。
「おぞましい、だからこそ君にはこっちに——…… ‥‥ ・ ・」
淡く青白く、極太の閃光がフェイトを握る手ごと焼き払った。
閃光の衝撃で辺りに爆風が舞い散る。
地面を剔り大地を吹き飛ばしあらゆるものを吹き飛ばした。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!!!!!!」
化け物は叫ぶ。
己の所業を天に誇らんと、我こそが英雄だと、己の全てを誇示し続けた。
雷雲が共鳴し雷を落とす。
例え侵食が加速し胸の大部分を失い、挙げ句には足の先からもそれが始まろうとも。化け物は叫び続けた。
天に咆哮を、大地に雄叫びを、化け物は六つの腕を広げ続けた。
「———!!———シ———!!」
化け物の雄叫びの中から誰かの声がした。
まさか、誰もが信じがたい。
化け物の雄叫びは一瞬で止まった。
化け物が&彼&であるならば、彼が彼女の声を遮るはずがない、聞かないはずがなかった。
「シーーーーックス!!返事をするのじゃーー!!この戯けーーー!!」
「ヒィィィ!!死ぬ!死んじゃいますテオドラ様!あぁ、妻よ娘よ、次は墓で会」
小型のソーサーにのってきた第三皇女テオドラと、どうみても無理矢理やらされてるしか思えない操作を担当する艦長。
艦長は化け物に共鳴するかのように叫んでいた。
ねぇな絶対、と艦長は一人で否定しながら彼女に退くよう進言するも軽く一蹴。
ギョロギョロ何かを探すように彷徨いていた視線がビタリと全て彼女のほうへと向く。
「■■■オ■■■■■オ■■■ォ■■■■■ォ■■■■——…… ‥‥ ・ ・」
「シックスーー!!!」
化け物が手を伸ばした。だが足りなかった。時間がもう化け物には残されていなかった。
徐々に速まり出した侵食は化け物の大部分に及んでいたのだ。ゆっくりとゆっくりと彼女のもとへと&彼&は手を伸ばす。
彼女もまた艦長に命令し己を化け物へと近寄らせ手を伸ばした。
彼の手が彼女へと至ろうとしたときだった。
——悪いなテオドラ、共に成就は叶わん
「あッ……ああ!!!」
そう、もう化け物には時間は残されていなかった。
化け物の手は彼女に触れようとした瞬間花びらとなり消え去った。
花びらに包まれる彼女の視界の奥では、全てが、化け物の全てが消え去る光景が映っていた。
「シーーーーーーーーーーーーックス!!!!」
○
英雄とは如何なる者(物)か。ある人曰く
「敵を倒した者」
英雄とは如何なる者(物)か。ある人曰く
「人々を救った者」
英雄とは如何なる者(物)か。ある人曰く
「祖国を守った者」
英雄とは如何なる者(物)か。ある人曰く
「ただの生け贄なる者」
英雄とは如何なる者(物)か。ある人曰く
「妾の英雄はただ一人じゃ」
その全てが正しく、私はそれを否定しよう。
○
世界が再び始まろうと、終わろうとしたとき、彼はこの世に降臨した。
それから本来起きたであろう、少年少女の勇敢なる旅の物語は存在しなかった。
彼が全てを壊し破壊していったからだ。
造物主が次なるアーウェルンクスを作り出す頃には、その少年と周りの少女達はあまりにも強くなりすぎた。
「……ハッ、野郎が消えたぐれぇーで俺は悲しまねぇーよ。そっちのほうがいいだろ?なぁ、……シックスよ」
逆に少年達が弱かったころに戦ったアーウェルンクスは強すぎた。
だからこそ先代の英雄達が出てきたのだ。
彼らもまた強すぎたのである、だが戦場とは常に儚いもの。死者が出ない戦争など子供の遊び以下である。
「狙撃手も逝ったか、……600年だ。問題ない、死ぐらい何度も経験しているさ。……私は『化け物(きゅうけつき)』だからな」
世界は救われた。化け物によって救われた。しかしその現実(げんそう)を知るものは少ない。
誰もが信じたくなかったのだ、あんな化け物が世界を救ったなど。
異形の頂点に立つような存在がこの世に存在してはいけない、と。
それは当然のことだろう、なんせ造物主(うみのおや)にすら手を向けた怪物(モンスター)なのだ。
「ナギ、貴方は今どこにいるのですか……。また一人"仲間"が逝ったんだぞ、……馬鹿野郎」
だからこそ、だろう。
人々が涙を流したのは。
彼は世界を救わずに英雄となった。
救ったのはただの過程である。
彼にとっては道ばたに落ちている虫の死骸とほぼ等しい。むしろ目をつい向けてしまうソレよりも悪い。
彼は化け物だった、だが、世界のために戦い平和をもたらした。そんな過程で十分すぎた。
「………彼の半生には興味がありましたが、その願いも叶うことも無く……ッ、言葉も残せないとはッ」
英雄は英雄、それ以外に意味は無い。
それが敵を倒した者だろうが守ったものだろうが、ただの傀儡であろうとも。
持っているのだ力を、敵を倒す力守る力、利用されるだけの力を。『完全なる世界』は次第に戦力を減らす。
三番目の運命を慕っていた少女達は皆、復讐する相手もおらず世界各地に散っていく。
「……まだだぞ!まだ僕は見せてないんだぞ!僕は、こんなに強くなった、と!跳弾も出来た、後は……貴方にッ」
「そっちはどういう場所なんでしょうね…、誰よりも強かった、でも逝くなんて……誰も、予想出来るはずがないッ」
幻想であろうが現実であろうが問題も無い。
そこに彼らは生きた、生きていたのだ。
それが嘘でも誠でも、対した違いは無かった。
物語はここで終わる、彼は生きたのだからどう終わろうとも問題は無く、何よりも彼は満足していたのだから。
——担い手はそこに独り、生命(いのち)の果てで想いを紡ぐ
テオドラ・バシレイア・ヘラス・デ・ヴェスペリスジミア。
帝国第三皇女にて英雄ダブル・シックスの担い手(マスター)。
彼が表より消えた日を境に彼女もまた政界から姿をけし隠居を始めたという。
時折帝国の城下町に出かけ人々と笑いあう。
どんな時でも彼女は元気で、太陽のような笑顔を振る舞っていた。
彼女の女としての一生はどうなったのかは不明だ。
ただ一つ言えることは、彼女の側には「イレヴン」と名付けられた一人の少女がいたということだけである。
「待つのじゃイレヴン!お前の父はもうすこし落ち着きを持っておったぞ!というかそんな物騒な物を持つのではない!」
「あらあら、そんなの知らないわ?ねぇお母様、だって私——」
龍宮真名。
大英雄の没後数年にて、彼女は『狙撃』の名を皇帝より授かる。
彼無き今は、思いをくみ取り彼女の従者として戦場を歩いたという。
彼女は死ぬ最後まで純潔を守り、最後の一言は「師匠に勝てる奴と結婚する、来世も」と迷惑極まりない言葉だった。
彼女の手に握られた二つの拳銃より放たれる無限とも思われる弾丸は、帝国の、彼女の敵となる全てを貫き葬り去ったという。あと求婚者が止まない。
「好きな人?あぁお前じゃないことは確かだね、フフ、何泣いているんだい?」
人々は、泣いて忘れる生き物である。
それが生命体として常に正しいあり方であり、それ以外は狂っている。
無論、彼から言わせて貰えば狂っていようが変態であろうが、テオドラ以外は実にどうでもいい、というかそういう発言すら残さないだろう。
——I'm a thinker.
私は考えた
——I could break it down.
私は壊そう、その現実を
——I'm a shooter. A drastic baby.
私は狙撃主、壊すことしか出来ぬ愚か者
——Agitate and jump out.
弾丸を弾け飛ばし
——Feel it in the will.
己が世界を葬り去る
——Can you talk about deep-sea with me.
私はそこにいる、深海よ我に答えを
——The deep-sea fish loves you forever.
私は深海魚、いつまでも貴方を愛している
——All are as your thinking over.
例え貴方が忘れようとも、全てはそこに在る
——Out of space, When someone waits there.
空間飛び越え、何が待っていようとも
——Sound of jet, They played for out.
我が歩く音は止まらない、そして私は人へと至ろうぞ
The True END for THEODORA
「あー、死ぬかと思った。造物主まじやべぇ」
Thank you for reading!