榛名の能力について、色々と御指摘をいただきました。有難うございます。
今回はそれについての説明回でもあるのですが、多かったのは「絶対防御もそれを使ってぶん殴れでもすれば強いんじゃあないか?」的な質問でした。
……正直に言うと、その発想はありませんでした。ていうか失念しておりました。
ですけど、ちょっと私なりに“絶対防御”について考えてみたのですが、防壁を武器にするって結構難しいんですよね。不可視ですし。
何しろ榛名は身体能力は高くありません。前世と全く変わってませんからね。容姿がちょっと変わっただけです。
おまけに魔力も気も人並です。寧ろ少ないと言っていいかもしれません。
そしてこれが一番の理由なのですが、当の榛名自身に戦う気がゼロなのです。
自分が戦いたくないからこそ、従者を神様に貰いましたからね。
そのため、こんな感じになりました。
第伍話 カノジョとカレの能力と戦争の前兆
マスターとここで暮らし始めてから、すでに数十年が経過しました。
一時期、蠅共がよってたかって纏わりついてきたこともありましたが、それ以外は平和な生活を満喫できました。
ええ……満喫でき
昨日まで、そう昨日まではいつも通りのマスターとの日々だったのです。
最近のマスターは、自身の能力、即ち“絶対防御”に興味をお持ちのようです。
あの手この手で、能力の確認をしておられました。
ですが、全く進んでおりません。
それは決してマスターが愚鈍というわけでも、非才というわけでもありません。
ではなぜかというと、唯単に使う機会が無いのです。
マスターの能力“絶対防御”は、
この“
それは喩えるなら、楯でも振り回せば鈍器になりますし、手甲は手を護ると同時に裏拳の威力もあげるようなものです。
実際、防具と武器の両方を兼ねる武器はマイナーではありますが、ある意味ではベターとも言えます。
ところが前述したとおり、この能力は“
これは寧ろ
ですが、マスターにとってはある意味で大きなデメリットも
なんとなれば、その要因は“不可視”の一言に尽きます。
要するに、マスター自身にも見えないので、バリアがどのように展開しているのか……いや、そもそもそれ以前に
おおよそマスターのイメージ通りになるようなのですが、何しろマスターも私も見ることができません。おまけに効果の程も、仮にマスターが戦場の真っ只中に御降臨されて敵の攻撃に曝されない限りはわかりません。
私がマスターを攻撃するなど天地が引っ繰り返っても有り得ません。実験とはいえ、いくらマスターの御命令とはいえ、私にも譲れないものがあります。
かといって、私がマスターを、鬱陶しい
マスターを戦場に出したりはしません。その前に、私がその場にいる蟲を殲滅します。連中は蟲如きの分際で殺蟲剤が効かない上に、蟲ピンも効きません。さらにいくらでも沸いてくるので、一片たりとも気を抜くわけにはまいりません。細胞の一個たりとも残してはならないのです。
蟲の中には、無駄に知恵を働かせて自身の体内に子を匿うモノもいれば、四肢を千切ってもなお意地汚く地べたを這いずり生きるモノもいます。寄生蟲とおぞましく共生している蟲もいれば、姑息にも擬態して生き永らえようとする蟲もいるのです。
……少し熱くなってしまいました、申し訳ありません。
兎にも角にも慎重に事を進めて、困る事はありません。マスターと過ごす時間が減ってしまうのが最大の欠点ですが、長い目で見れば、確実に潰した方が楽になります。
幸いなことに、マスター自身は自ら戦う気は皆無の様です。「そんなことしたら、神様に君を付けてくれるよう頼んだ意味がパァになる」と仰いました。
正しく
マスターは戦いに参加することを好みません。傷付くことを怖れています。
ならば私は、マスターの願いを叶えるのみです。マスターには戦場の様な汚れた地に、一歩たりともその足を踏み入れさせません。
マスターの御身体が、蟲共の体液で汚されるなど、あってはならないことです。
別に戦わずとも、自身の能力を把握する事は些事ではありません。
私も非力ながら協力し、マスターは少しずつ、自身の能力をモノにしておりました。
流石はマスターです。凡人共が、武器を手に取るどころか息を吐く気力すら失う程の、圧倒的なまでの才能です。
私はマスターに何か起こらないよう、常にマスターの御傍に控えていなければいけません。だからマスターが訓練中の時でも、私は一瞬たりともマスターから目を逸らさず、その勇ましき雄姿を目に焼き付けているのです。
……そろそろ話を戻しましょうか。
兎にも角にも、先日まではそう言った平穏で愛しい日々だったのです。
ところが、そのような生活に
「マスター」
「ん? どうした?」
ソファで御休みになっているマスターの御顔を(吐息がかかる程の至近距離で)見つめながら、私はマスターに唾棄すべき報告をあげます。
「連合が再び、私達に接触を仕掛けようとしています」
「……はぁっ?」
マスターは呆れたように首を振ります。
それも当然でしょう。私も、連合の阿呆加減には閉口しているのですから。
「え? それってつまり、こりてない、ということ?」
「おそらくは、そうかと」
私がそう言うと、マスターは頭を抱えてソファに身を沈めました。
動きが逐一素敵です、マスター。
……それは兎も角、連合も舐めた真似をしてくれるものです。
何しろ理由が理由ですから。
「目的は?」
「平たく言えば、徴収です」
「徴収?」
「要は『戦争やるから、戦力と金寄越せ』と」
「……マジで?」
「はい、マジです」
麻帆良と私達とは、一応連絡が取れるようになっています。それは私に繋がるようになっていますが、そう簡単に連絡できるようなものではなく、現に今まで数十年間、一度も使われた事がありませんでした。
ちなみに一年毎の土地租借料については、決められた日に私が決められた場所に取りに来ています。
その時襲われた事もありますが、無論殺して世界樹に吊るし上げておきました。ちなみに生首で、顔の皮も剥いでおきました。
「大体こっちに、向こうの要請に応える義務は何一つないだろう?」
「仰るとおりです」
「よし、拒否しといて」
「
マスターはキッパリとそう言いました。
私も、それに異議を申し立てるような真似は致しません。
「……簡単に引き下がるかなぁ」
「また攻撃しましょうか? 今度は首都を全壊させてもいいでしょう」
「う〜ん……」
マスターは起き上がると、腕を組んで唸ります。滅多に見せない真剣な表情に、思わずさらに顔を近付けて、マスターの頬に手を伸ばしてしまいます。
「……あの、ハク?」
「はい、マスター」
「……はぁ、いや、いいよ。……もういっそのこと、滅べばいいのになぁ、連合」
「畏まりました」
「ん〜…………………………………………はぁっ!?」
マスターが慌てたように、私の顔を凝視します。
心臓が高鳴るのがわかりますが、はしたなく頬を緩めたりはしません。いつも通り、落ち着き払って言葉を紡ぎます。
「はぁ、と言われますと?」
「いや……マジでやる気か?」
「はい、マジで
「…………………………………………………………うん、今のは聞かなかった事にしといて」
「ですが——」
「しといて」
「畏まりました」
いけませんね、私ともあろう者が、マスターに口答えしてしまうとは。要反省です。
自分でも思っていたより、苛ついていたようですね。
「でも……あまりに鬱陶しかったら、ちょっと細工してみようか?」
「細工、と申されますと?」
「戦争が、とっとと終わる様にするとか」
「畏まりました。両陣営を殲滅するのですね」
「ハク、ドヤ顔でそんな事言われても承諾しかねるよ。ていうか、そんなテロリストのような思想は持ち合わせていないからね?」
「当然です。マスターがテロリストなら、此の世に善人などいなくなります。最初からいるかどうかは別として、ですが」
「……あ、そう……。そうじゃなくてさ、そんなことしていられないようにするんだよ」
「どうするのでしょう?」
「古今東西、戦争と言うのは“目標”を達成するためにするものだ。
領土確保、国力増強、民族団結、或いは単なる殺戮とか。その目標が達成できれば、一時的に国力が衰退しようが、そもそも敗北したとしても勝利となる。
言い換えれば、目標が達成できないと悟った時点で、マトモに頭が働くヤツは休戦・停戦や講和を模索する」
「連合の戦略目標を調べ上げ、それが達成できない状態にする、ということですね」
「そういうこと。まぁ、大学生が考えた机上の空論だけどさ、割といけると思うんだよね。ハクがいれば、さ」
「勿論です。マスターの望みを叶え、マスターには出来ない事をする。私はそのために此処にいるのですから」
私はそう言って、マスターに深く一礼するのでした。
お気に入り登録数500越え、PV54,015 ユニークアクセス10,302人 ……マジですか?
え? ちょっと本気で叫び声をあげました。「はぁっ!?」って。
だって一週間も経ってませんよ?
……頑張ります。もう、これメインで書いていきます。頑張って更新していきます。
本当に嬉しいです。
御意見御感想宜しくお願いします。