今回、『紅き翼』の初期メンバー(ナギ、詠春、アル、ゼクト)がヒドイ目に会います。ファンの方々は御注意ください。
思ったより早く執筆が進んだため投稿させていただきます。
サブヒロイン枠、現在木乃香に一票。
どうなるかは……未定です。
サブヒロインにするにしても、大恋愛にまでは発展しないと思いますけど。
第漆話 カノジョと英雄候補たち
一時期機能不全に陥ったメセンブリーナ連合ですが、ヘラス帝国に講和を申し込む気配はありませんでした。さらに当然ですがヘラス帝国も、相手に停戦の意思が無い限り、進軍を止めたりはしません。
しかし、一時期混乱していた連合は、帝国に押されっぱなしの状態になっていました。
当然でしょう。
愚かにもマスターを狙うような蠅共の国に訪れるのは、破滅のみです。
連合の国力は疲弊しています。首都メセンブリアの復興や、賢明な事にマスターに金を貢いだ結果、国庫は悲鳴を上げています。
ですが、ヘラス帝国もまた大国。
相手が大国とはいえ疲弊した国を相手に、あっさり白旗をあげるわけもありません。
私達は、この戦争の発端にして不確定要素、『
連合を私達に隷属させるにしろ滅ぼすにしろ、帝国のテロリスト共を潰すにしろ、まずは邪魔者を消してからの方がよいでしょう。
しかしマスターは、こんな茶番劇に付き合わされる市民や兵士を不憫と思っていました。
そのため私はマスターのためにも、戦場に介入しては、
鎮めるといっても、両陣営の兵士を一人残らず気絶させるだけです。
大抵の蠅ならば、少々気迫を見せるだけで失神してくれます。
本音を言うと、手っ取り早く始末したいところなのですが、魔法世界の国力が下がる事は旧世界の魔法組織やら何やらの混乱や離反を引き起こします。
麻帆良もそれに巻き込まれ、マスターの土地が血で汚されるのも問題です。
適度に魔法世界が弱まる事は兎も角、弱まりすぎてもそれはそれで問題です。
まぁそうなったら、世界を隔離するか別の星に向かってマスターの御世話をすればよいのですが、マスターは宇宙よりも広い心を御持ちなので、蟲とはいえ、死ぬのを好まないのです。あくまで“目の前にいる”蟲ですが。
そんな事をしている内に、私達は戦場に一時的な安寧を齎す事から『
私は自身の名声になど興味はありません。私が求める称号は唯一つ、“マスターの従者”ですから。
ですが、これはマスターが晒し者にされているようで、良い気分ではありません。
取り敢えずこの戦争が終われば、噂の元を断つことにいたしましょう。そして全魔法世界人を洗脳し、唯の“伝説”扱いにでもしておきましょうか。勿論、マスターの本名を曝すことなど許しません。
しかし——。
「マスター……」
「ん? どうした?」
私は背中にしがみ付いているマスターの方を向きます。
マスターは身体能力があまり高くありません。そのため、移動時には私の背に掴まっています。勿論振り落さないよう、私とマスターを粘着魔法で固定しています。
マスターの感触はとても心地良く、何度歓喜の雄叫びをあげかけたことか。寸でのところで抑えましたが。
ちなみに私は基本メイド服なのですが、魔法世界に来てからは白を基調としたコンバットスーツを着込んでいます。あまり使いませんが、武器は異空間に収納しています。
此のコンバットスーツは、マスターのリクエストにお応えした結果です。
「純白の髪と一緒の白が似合うと思う」とマスターが言ってくれたため、此のスーツを錬金しました。
「前方から魔力反応です。此れは……そこそこの強さですね。この世界に来てから一番とも言えます」
「マジか?」
「はい、マジです。軽く駆逐してきますので、離れて“能力”を発動しておいてください」
「……わかった、気を付けてな」
「……マスターが信じてくれる限り、私は何京年何極年と戦い続けられます。そして——」
立ち止まってマスターを下しながら、私は小さく呟きました。
「マスターの従者に、敗北など許されません」
「……貴女は……」
目の前に現れた——というより出くわしたのは、四人の集団でした。
ふむ、やはり、今まで見た中では最高級の蠅ですね。せめて
滅多に無い機会です。マスターを護るための、訓練相手になってもらいましょうか。
——マスターに手出しをしなければ、ですが。
「白の長髪、黒い瞳、白ずくめの戦闘服の美女……間違いありませんね、ナギ! あの女性は『
ローブを纏った優男風の魔法使いが、リーダーらしき少年に声をかけました。
それにしても、“絶望”とは失礼ですね。
私はマスターに身も心も捧げているだけで、別に
大体おぞましい
「ケール……? よくわかんねぇが、ヤバいヤツなのかよ!?」
「ヤバいなんてものじゃあないのぅ、史上最高の賞金首ながら、ほとんど殺人をしない“無殺の極悪人”。どんなことをやらかしたのかもさっぱり不明じゃが、トンデモなく強いという噂じゃ……」
どことなく年季の入った雰囲気の子供が、私を見て唸りました。
“無殺”……確かにここ最近は、常にマスターと行動しているだけの事もあって蟲の完全駆除(殺害)はしていませんね。私の罪を明かせない以上、私は
確かに私が駆除しているのはあくまで
「じゃあ、その後ろで立っているのは滅多に姿を見せないという『
野太刀を差した青年が、私の後ろで集団を観察しているマスターを睨みつけます。
……無礼な。
マスターの前でなければ、四肢を折って首を落として斬り刻んでやるところです。
ちなみにマスターが滅多に姿を現さないのは、単にマスターを戦場に入れないよう、私の分身体がマスターを後ろへ送っているだけの話です。
「とにかく強ェんだな!? おい、お前らッ! 俺は最強の魔法使いナギ=スプリングフィールドだ、勝負しやがれッ!!」
リーダー少年が叫びます。ふむ、
こういう蟲はイイですね。潰してもしぶとく生き残れますから、お得です。何度でも潰せます。度が過ぎると、途端に鬱陶しくなるのですが。
「——いいわ、とっととかかって来なさい」
私は構えを取ります。同時にマスターが、後方に瞬動(高速移動の様なもの)で遠ざかるのを確認します。
……あそこの木の上に逃げましたか。
マスターもそれなりに気を使いこなせてきているので、あの程度は楽勝でしょう。
流石はマスターです。凡人共とは比較するのも冒涜となります。
兎に角、あの木には攻撃が通らないようにしなければいけませんね……。
私は騒がれても面倒なので、姿がマスターにしか見えないよう調節した分身体を一体呼び出し、マスターの方へと送ります。
ちなみに分身体の実力は、
そんなことをしていると、いきなりリーダー少年、ナギとやらが魔法を撃ってきました。
あれは……それなりに強力な雷魔法ですね。……一対一で使うものではありませんが。
どれ、味見でもしてみましょうか。
私は迫って来る雷に一指し指を伸ばします。途端に雷が、私に衝突して消えました。
「「「「なッ!?」」」」
四人が驚きの声をあげます。
……この程度ですか。蚊の一刺しにもなりませんね。
静電気以下の雷が効くとでも思っているのか……舐められたものです。
此の蟲はもういりません。
サンドバックにでもしましょうか……ダメですね、恐らく三発も耐えられないでしょう。
役立たずに興味はありません。
私はさっさと終わらせて、マスターの御傍にいたいのです。
顔面に蹴りを入れて吹き飛ばします。そしてそのまま、森の奥へと突っ込み、巨木の群れを薙ぎ倒しながら消えて行きました。
「うげッ!」
「ナギッ!」
剣士が前に出て来ますが、彼の振る刀を指で止めます。
「な……!?」
「ヌルい」
「ぐはぁッ!」
なかなかの使い手ですが、所詮は蠅程度。左手を手刀の形にし、蠅剣士の腹に一閃、同時に殴り飛ばします。蠅の刀——一丁前に、なかなか良い刀を使っていますね——も一緒に吹き飛んでいきます。
あまり近くに、マスター以外の存在を置いておきたくありません。
顔にかかった蠅の体液を拭い、残りの蟲を探します。
おっと、身体に少々重力がかかってきました。これは……重力魔法、あのローブ青年ですか。
同時に子供も突進してきます。
これは、動きを封じるタイプの重力魔法ですね。なかなかに強力です。私でなければ足止めされていたでしょう。
ですが——
「……汚らわしい」
腕を振って、重力をかき消します。
身体を蟲の魔力に包みこまれるなど、汚らわしい事この上ありません。
私の身体を包み込んでいいのは、マスターだけ……マスターの暖かさや優しさだけです。
これは、帰って丁寧に身体を洗わなければ……マスターに近付く事もできませんね。それまでは薄いバリアを張って、此の汚れがマスターに移らないようにしなければいけません。
そのまま、驚愕する子供に回し蹴りを叩き込みます。子供の身体は折れ曲がり、そのまま吹き飛んで行きました。
そして、あの汚らわしい重力蟲は……。
「消毒です……『魔法の射手・火の1矢』」
私の手から放たれた火の矢が、重力蟲に襲いかかります。
蟲は小生意気にも障壁を張りますが、そんなものは用を成しません。
「そんな、たった1矢で……」
その言葉を最後に、重力蟲は矢に貫かれ、同時に大爆発が起こりました。
森一つは確実に消滅するでしょう。
爆風に残りの蟲が巻き込まれます。
が、マスターは安全です。
マスターがお乗りになっている木は分身体に、マスターはマスター自身の能力に護られています。
すぐにマスターの元へと向かいます。マスターの御傍を離れるのは、ほんの一瞬でも辛いことです。寂しくて、悲しくて仕方がありません。
燃え盛る炎の中、私は先程の戦いを思い出していました。
つまらないことは事実でしたが、少なくとも今までの蟲の中では一番マシでしたね。
それにしても…………それなりの
マスターと私のために、動いてもらうのもありかもしれません。
蟲共も、マスターのために戦えるのならば本望でしょう。
“一寸の
「お疲れ様、どうだった?」
マスターが木から下りてきて、私に微笑みかけてくれます。
それだけで、蟲に纏わりつかれた嫌悪感など吹き飛んでしまいます。
同時に分身体を消します。
こんな塵の様なモノでも、マスターを御護りする事が出来ます。塵にも塵なりの使い道がある、ということでしょう。
「凡人共にしてはやりましたね。まぁ、所詮は凡人の域を出ませんが」
「そうか……うん、間違いない」
「何がでしょう?」
「『紅き翼』。最近連合について、帝国の快進撃を押し止めている連中だよ」
「……成程」
私は遠くの方で転がっている、炭の様な四つの物体を一瞥します。
生きてはいますよ? ギリギリですが。
「蠅共の配下でしたか。道理で——」
——汚らわしい真似をしてくれるわけです。
「?……何か言ったか、ハク?」
「いえ……申し訳ありません」
思わず声に出してしまいましたか。
小声で良かったですね。
ですが、アレが『紅き翼』……とりわけ生きの良い蠅共でしたか。
アレが暴れているせいで、思ったより連合が弱っていないのです。
……邪魔ですね。
「潰しましょうか?」
「いや、いいよ……でも……」
そう言ってマスターは、四匹の蟲を見つめます。
……蟲の分際で、マスターに見つめられるという至上の幸福を享受するとは……。本当に潰したくなってきました。
「……ハク、目が怖いって」
「……も、申し訳ありません」
いけませんね……マスターに御迷惑をかけてしまいました。
此れは帰った後、いつも以上に御世話を頑張らなくてはいけません。
「……もうちょっとしたら、協力してもらおう」
「……そうですね……」
マスター、“協力”など、御遠慮する必要は無いのですよ?
蟲共に命令してください、マスターのために働けと。
そしたら私が、この蟲共を洗脳してさしあげます。無知な蟲共は、マスターに従うことこそが、至上の存在意義であることを知るでしょう。
それでも駄目でしたら、言う事を聞くようになるまで殴り続けて、言う事を聞かせます。拷問でも、何でもします。
そして、足元に平伏す蟲共に、
役に立たなければ、私が処理しますので……。
此の世の全ては、マスターの餌なのですから。
ハクのヤン度はだんだん上がっていきます。
カンストすることなどありません。
御意見御感想宜しくお願いします。