ルビを振ると、「カレとサンドバック」。
今作の一番目フェイトは、榛名達に興味を示している影響か、ちょっとキャラが違います。
あと不憫です。
紅き翼の比じゃあないくらい。……まぁ、ハクを怒らせたものは皆不憫ですけど。
あと、あんまり進展も無しです。
次回くらいには、フェイトとの話も終わると思います。
第拾話 カレと白髪人形
はぁー、鬱だ。
いや、実際に『
合った瞬間わかった。
コイツ、唯の破滅願望のある馬鹿じゃあない。
この手のヤツが一番厄介だ。本人は命令に忠実な
歴史で一番、混乱時に頭角を現しやすいヤツ。
「やぁ、『
白髪青年は、そう言っていたずらっぽく笑った。
……あれ? 思ったより、表情が多彩なんですけど。
それとも演技か? いや、
……よそう。僕に初対面の人間の嘘を見抜く能力なんてない。
目の前の白髪君は、最初は能面の様な顔で僕とハクを睨んでいた。
あの目はヤバかった。ハク程じゃあないけど……アレは、無機質な目だった。
人を殺すことに、
僕だって、戦場で遊んでいたわけじゃあない。
こう見えて、観察眼はそれなりに備えているつもりだ。
だから、わかる。
何故って、彼らにとって殺人とは
では何かというと、唯の行為だ。ハンバーグにフォークを刺すのと同じ。そういう感覚。
そう考えると、どう思います?
人を殺せば満足
「……気安くマスターの名を呼ぶな」
あ、ヤバい。
別の意味でヤバい。
いつの間にか、僕の後ろにいたハクが、白髪君の首を片手で絞めてる。それでいて、絞めていない方の腕を振りかぶって拳を握りしめて、今にもパンチを入れそうな態勢を取っている。
そして、ハクが超怖い。
此処からだとハクの表情は見えないけど、激怒しているのが雰囲気でわかる。
それでも白髪君は、一瞬驚いた後は笑っているのか嗤っているのかわからない、何とも微妙な表情になる。
「……離してくれないかい、『
瞬間、白髪君が吹っ飛んだ。
周囲に血が飛び散って、ハクの拳から雫が落ちている。
——あぁ、ぶん殴られたんだ。
これでも慣れた方なんだよ。
最初はハクの戦闘を見ていても、何をしたかが全く分からなかった。あまりにも速いんだよ。
気で目を強化しても意味無くて、あまりに速すぎて見ているこっちが酔う——間も無いくらい速い。
「……蟲が。私の名を……マスターから初めて賜った大切な名前を口にするとは。
……もう、いいわ。……死ね」
「————————ちょぉおおおおおおおっと待ったぁああああああああ!」
ちょっと、何でいきなりそうなるんだよ!?
ハク、ちょっと落ち着いて!
「————ッ! これは、申し訳ありません。……マスターの御前で、蟲の体液が飛び散る様を見せてしまうとは」
すぐに僕の後ろに戻り、ハクは深々と一礼する。
反省するべき点がちょっとズレている点には触れないでおこう。
ハクにもハクなりの矜持があることだしね。
それに、白髪君も無事みたいだし。
うわ、立ったよ。傍目でもわかるくらい辛そうだけど。足めっちゃガクガクしてるけど。口から大量に吐血しているし、右頬が変に曲がっていて顎も変になっているけど。
無表情で。
見ていて、ハクとは違う意味で怖い。ていうか、グロい。
あと、腹抑えている。多分顔だけじゃあなくて、腹も殴られたんだろう。
「……低脳ですね。マスターの名をその口から吐き散らした時点で、学習するべきでしょう」
心底呆れた、と言わんばかりの表情で、思いっきり地球の
だからさ、怖いんだって。
美女なのがよけいに。
「……ハク、あの人、何発殴ったの?」
「右頬、顎、腹に一発ずつです。極限まで手加減したヤツですから、死にはしません。
第一、殺すには早すぎます」
普通に答えられた。
ていうか、やりすぎでしょ、それ。
……あと、「早すぎ」って何さ?
あ、白髪君
無表情で。
この人、表情豊かなのか違うのかわからないなぁ。
アレか、必死で耐えているのかな?
無駄だと思うけど。
うん、わかったよ。
さっきあの人をヤバいだの何だの言っていたけどさ、ウチの従者の方がずっと怖かったよ。
ていうか、こっちが悪人にしか見えなくなってきた。
立って傍から見ると、美女と平凡青年が美青年を
「何をしているの? さっさと立ちなさい。
怖れ多くもマスターが、蟲如きと対等に御話をされようとしているのよ」
そう言いながら、ゆっくりと白髪君に近付く我が従者。
うん、たぶんじゃない。
カンペキ
何か、自分の主義主張を言いまくってやると気合入れたのが莫迦らしくなってきた。
もう、放っとこかなぁ……駄目か。これじゃあ一方的に喧嘩振って逃げるだけだし。
「……蟲が。せっかくマスターとの話に支障が無いよう、ギリギリまで手加減してあげたのに。
惰弱、脆弱……。これだから、蟲は……」
そう憎々しげに呟くハク。
いや、無茶でしょ。
ハクのパンチだよ?
前に……そう、グレート・ブリッジとかいう要塞を、本人曰く「最低の力」で数発殴って、瓦礫すら残さず吹き飛ばしたヤツだよ?
あんなもの、三発も喰らって、肉体が粉微塵にならなければ上々だよ。
ちなみにハクが言うには、「私の近接スタイルは本来なら蹴りが主体なのですが、蹴りは威力が高すぎるのです。大体の人間は、腕力よりも脚力の方が強いですから」だそうだ。
うん、ハクには“蹴り技禁止令”を出そう。
そのままハクは、蹲った白髪君の腹をさらに蹴り上げた。
あ、“蹴り技禁止令”、施行前に破棄。
何処の国際法だよ。
白髪君は下から蹴り上げられ、空に吹き飛——ばなかった。
ハクの腕に頭を掴まれ、無理矢理立たされた。
蹴りが強烈だったのか、また吐血する白髪君を見て、苛立たしげに舌を打っているハク。
いや、普通そうなるから。
そして、右手で白髪君の頭を掴み、汚物を避ける様な感じで数歩下がった後こっちを振り向いて、
「……さぁ、マスター。御存分にどうぞ」
……………………………………………………………………………………………………………………………えぇ〜……。
「ハク、どうしろと?」
「仰りたい事があるのでしょう?
……あぁ、私の事なら、御気になさらずとも結構です。確かにマスター以外のモノに長時間触れているのは、汚らわしいことこの上ありませんが、マスターのためならば苦にもなりません」
「いや、こっちが困るよ。何処の世界に、片方がボコボコの状態で行われる言葉のキャッチボールがあるのさ」
これじゃあ“尋問”いや“拷問”みたいじゃあないか。いや、“みたい”どころかまるっきりそうだ。
「キャッチボール? まさか、私がマスターに、この蟲の言葉を伝えさせるとでも?」
「……はい?」
「マスターが蟲の言葉に耳を傾けるなど、何処に必要性があるのでしょう。
蟲はマスターに跪き、許しを乞わなければ、地べたを這いずることすら許されません。
そんなモノが、マスターに言葉を投げかける? 身分不相応にも程があります」
うわぁ〜お。
久しぶりに長広舌を振るったら、この従者、どうやら僕と白髪君を会話させるつもりすらなかったらしい。
「いえ、会話程度は……許し難いですが、まぁマスターが望むのならば認めました。
ですが、この蟲はマスターの名を呼び、私の名を呼んだのです。万死に値します」
………………………ちょっと待って。口に出していないよね? 僕。
「マスターの仰りたい事は、私にとっては容易く想定できます」
ついにそこまでいったか、この従者。
「ハク? せめて……喋れるくらいには、回復させてあげないかなぁ?……なんて……」
……情けないなんて言わないでよ、ホントに怖いんだからさぁ……。モン〇ンに出てくるラー〇ャン100体に囲まれる方がマシだよ、これ。
「……御命令ならば」
それでも、ハクは不承不承といった感じを
行為が完全に外道の美女。
しかも戦闘服。
いや、いつものメイド服の方が怖いか。
そんな事を考えている内に、白髪君の治療が終わったらしい。
……文字通りの意味で、
喋るのが精一杯なくらいボロボロなんですけど。
「さぁ、御存分に」
そう言って、まだ白髪君の頭を掴んでいるハクの目が妖しく光る。
僕でもわかる。
あれは白髪君に、「これ以上マスターに無礼の一つでも働いたら……次は無いぞ」と言っている。
絶対にだ。
「え〜と……」
「あ、僕はフェイト=アーウェルンクス。まぁ、周りからは“一番目”って呼ばれているよ」
え、何この人。
普通に返してきたんだけど。
……あぁ、
「一応、組織の大幹部……ボスの側近ってところかな? とにかくはじめまして。
それから、従者の人には済まないね。『
「あ、綺羅川 榛名だから、榛名で良いよ」
「マスター!?」
ハクが慌てたように言う。
そして、急に凄い目でフェイトを睨みだした。
「もし呼んだら、ぶっ殺すぞ」と言ってる。目が。
「いいって、ハク?」
「——はい」
ハクは小さく頷くと、フェイトの耳元で何かを囁いた。
途端に、ダラダラと汗を流すフェイト。
うん、何かごめん。
「それで、僕達と会いたかったんでしょ」
「その通りだよ。やはり、君達は良いね。『紅き翼』より、ずっと物分かりが良い……そして強い」
「まぁ、僕は従者に頼りっきりだから」
そう言って肩をすくめる。
「此の世界の事、知ってるよ。世界崩して自殺を——」
「いや、救うのさ」
フェイトは真剣な表情で言って、
「マスターの御言葉に、口を挟むな」
また殴られた。
……って、
「ハク、もうそろそろ限界! その人限界だから! ストップ!!」
完全にヤバい。一瞬目玉が飛んだかと思った。
そんくらい、顔がひんまがった。
……ハク、完全にボクシングの構えだよ。
殴る気満々だよ。
一言も見逃す気が無いよ。
……仕方が無い、こうなったら——。
「————————ハクッ!!!!!!!」
「ッ!!」
「……それ以上殴るな、絶対に、だ」
「……は……」
「殴ったら……本気で怒るぞ」
「申し訳ありませんッ!!」
そう言ってフェイトを投げ捨てて、土下座しかねない勢いで頭を垂れ、跪くハク。
……ってフェイトは?
……あ、地面に落ちた。
頭から。
……大丈夫だろう。
「わかったらいいよ。こっちにおいで」
「はい」
すぐに、僕の後ろに移動するハク。
頭を垂れたままのハクを撫でる。
うん、後で謝らないとなぁ。
……そして、フェイトにも。
榛名が本当に怒鳴るの、初めてかもしれませんね。
次回は恐らくハク視点です。
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