今作初の第三者視点。
そして番外編です。かなり短めです。
番外編第壱話 とある妹の閉幕
日本国のとある県にある、山と海に囲まれた小さな村、
此処は、
露土音村は、“現代日本”を体現するにはあまりにも寂れた村だった。
それはもう、地元の名産品と村唯一のカラオケボックスくらいしか無い様な所。
しかし、どういうわけか子供や若者の数は案外多く、学校も小学校から大学まである。
文系の学科と教育科しかない、あまり大規模とは言えない大学の付近を、一人の少女が歩いていた。
少女は地元中学校の制服を着込み、首からイルカのペンダントをぶら下げていた。
黒の髪を肩まで伸ばし、華奢だが女子中学生とは思えない程長身で、肌も白い。
そのため余計に細身に見える。いや、病弱にも見える。
現に、その少女の顔色はかなり悪い。顔立ちは整っているので、美少女と言えるのだが、今は死人にすら見える。
彼女の名は、綺羅川
綺羅川家は父
そして、交通事故——運転側の信号無視というしょうも無い理由——で、長男榛名を亡くした。
親馬鹿とも言える程、息子(と娘)に愛情を注いでいた父と母は嘆き悲しんだ。
人口は少なく、車よりも軽トラにトラクタや漁船の方が多い村だ。
電車もバスもほとんどない。
交通事故など、そうそう滅多に起こる事ではないのだ。
友人達も、榛名と言う青年がその“滅多にない事”に当たってしまったことを嘆いた。
が、友人達よりも、そして両親よりも嘆いていたのは——榛名の実の妹、子日だった。
「はぁ……兄さん……。どうして……」
兄が事故に遭った横断歩道を虚ろな目で見ながら、子日は本日何億回かわからぬため息をついた。
生真面目で優等生気質の彼女にとって、成績は良い癖にいつも適当で行き当たりばったり思考だった兄は、表面上は
しかし、心の奥底ではいつも羨望していた——自慢の兄だった。
引っ込み思案で、優等生だった彼女には、近付き難い雰囲気があった。
対して、優等生だったがいつも柔らかな物腰だった兄には、多くの友人がいた。
幸運なことに(誰にとっての幸運なのかはひとまず置く)恋人はいなかったが、それでも毎日友人達と楽しくやっていた兄は、子日にとって憧れだった。
しかし、その兄との繋がりは突然途絶えた。
何時も身につけるよう、散々言っておいた、誕生日プレゼントのペンダント。
彼女のものと対になっている、片方のイルカはなぜか消えていた。
捜索しても、欠片すら見つからない。
しかし、どう見ても事故のこの状態では、警察も見向きもしなかった。
それだけならまだ良い。
所詮はモノの繋がりだ。
しかし、兄の命まで消えてしまった。
命の繋がりも、心の繋がりも無い。
兄がいた痕跡を残し、残らず消えてしまった。
今年に中学生になったばかりの彼女にとっては、それは酷すぎる現実だった。
彼女は確かに、並の女子中学生よりかは(精神的に)成熟していたし、落ち着いていた。
が、人としてはまだ二十歳にもなっていない少女。
心の強さは、年相応のものでしかない。
「兄さん……貴方を失って……私は、どうすればいいのですか……?」
子日は、まるで未亡人のような雰囲気を纏いながら、フラフラと歩き出した。
余りにも絶望していて、さらにショックによる寝不足が災いしたのか——少女は気付かなかった。
いや、確かに、運動神経が良い方ではないのだが……生存本能が働いていれば、そこは普通に気が付いたはずだ。
鳴り続けるクラクションと、迫ってくる轟音に。
子日がどうなるかは……まぁ予想はつくと思いますが……彼女が本編に登場するのは、少なくとも大戦後です。