紅き翼とのお話編。
といっても、ガトウと詠春くらいしか出番はありません。
ナギ? ラカン? アル? 交渉なんて出来そうにないですし。
ゼクトは見た目的に空気に合いませんし。
第拾参話 カレと計画進展
「これは……」
僕の目の前には、『紅き翼』の面々——の中でも比較的
勿論僕の後ろでは、ハクが凄い目で『紅き翼』の面々を睨んでいる。
え? 『紅き翼』の好戦的な連中?
とっくにハクにズタボロにされて、アル(本名はアルビレオ=イマだけど、アルで良いと言われた)が必死で治療している。
……ていうかナギとかラカンとか(さん付けする気にもなれない)の相手はもう疲れたよ。
…………………………いや、正確に言うと
ハクがいる限り、誰だって僕に近付けないから、僕自身は戦っていない。勝てる気もしないし。
あんだけハクにぶちのめされ、それでも懲りないヒトなんて初めて見たよ。しかも二人も。
ハクもウンザリした表情だったし……傍から見れば、嫌がる女性に襲いかかるヤバイ人にしか見えないんだよなぁ。
指摘したらヘコむだろうから、言わないけどさ。
で、今渡したのは連合、帝国、王国、アリアドネー他中立国から独立都市、或いは辺境の小国にまで潜り込んだ、『
「……本物か?」
「捜査官なら、それを見分ける能力くらいは御持ちでしょう? ガトウ=カグラ=ヴァンデンバーグさん」
そう言うと、渋い感じの中年捜査官は静かに唸る。
『紅き翼』に加わっただけの事はあり、この人は結構先見の明があると言うか、鋭い。要するに、優秀の部類に入る人だ。
この人にならと思って、資料を渡した。
正直他の面子は、政治的駆け引きなんてできそうにないし。まぁ、それは僕も同じなんだけどさ。
「『紅き翼』は今は犯罪者ですが、それを発布した連合はこの様です。これをバラまけば、貴方達の容疑はたちまち晴れる。
どうです? 世界を揺るがすこと確実な、なまじっか戦略兵器よりも
そこまで言って、ハクが淹れてくれた紅茶を飲む。
ちなみにテーブルを真正面に座るガトウさんと剣士……青山 詠春さんの前にも、ハク特製の紅茶が置かれていた。
ハクは渋っていたけど、頼み込むとあの二人にも淹れてくれた。
もっとも、ガトウさんも詠春さんも警戒しているのか、手を付けてはいないけれど、それは仕方が無いと思うし、言ってもどうにもならないだろうからもんくは言わない。
ハクに至ってはガン無視状態だ。
自分が淹れた茶が飲まれようが捨てられようが、どうでもいいのかもしれない。
僕が飲んでいるときは、とても嬉しそうにしているんだけどね。
「この資料が暴かれたら大変だ。何しろこの戦争が、一組織の陰謀で始まったという事が知れ渡るんだから。
現場で戦う兵士、戦時下の経済統制で苦しい生活を送っている市民、家族を失った遺族……。彼らがどのような反応をするかは、貴方にも想像がつくでしょう?」
「……」
「下手すれば暴動……内戦に発展しかねませんが、理性ある者は可及的速やかな終息を望むでしょう。そして、阿呆をやらかした連中は法的に処罰されます。
この世界の法律には詳しくありませんが、国家反逆罪に反乱etc……。良くても長期収監か終身刑、悪ければ極刑でしょうね。
人々が国家への信用を失った時、注目を集めるのは、“集団”或いは“個人”です。それは“英雄”。
即ち……
「……成程」
詠春さんが小声で呟いた。
「確かに此れなら、戦争を終わらせることは可能だが……連中は? 『完全なる世界』は?」
「これを」
僕は二つ目の資料を渡す。
「『完全なる世界』の潜伏地及び計画書です。
「……信用度は?」
「貴方達が思った通りの信用度ですよ?」
まったく、えらく緊張するけど、こういうときは余裕そうな、飄々としたポーズが肝心だ。提供者の態度によって、情報の信頼度って結構左右されるものなんだよ。
自信無さ気になるのは論外だし、だからと言って完璧だと太鼓判を押しても、かえって信用度は落ちる。
要は、眉唾ものだと思われないためには、信用出来るか出来ないか……6:4くらいの(相手側の)判定がちょうどイイ。
架空戦記とか読み漁ってて、こんな結論になった交渉術だ。
本来ならハクに丸投げしたいところだけど、一応僕がハクより上の立場なんだし、交渉くらいは僕がやらないと格好がつかない。
それにハクだったら、出会った瞬間交渉相手を血の池に沈めそうで怖い。
ハクは従順……にみえて、いざとなれば問答無用で許可なく(僕が認知できないようにして)殺すようなバイオレンス思考も持っているんだよ。
ていうか、当の本人がそう宣言していた。
ハクは嘘を言わないから、こっちとしては戦々恐々だ。
あと、『完全なる世界』関係の資料については、しっかりと
いや、“許可”と言うよりは“通告”かな? 本人達は唯「是」と返してきただけだ。というより、即答された。
フェイト曰く、僕達が何をどうするのか興味があるので、どう動いたところでノータッチらしい。
今のところ、僕には造物主を倒すつもりもない。あの人にも葛藤とかがあった事ははっきりしたんだし、どうせだったら見届けた方が得策かもしれない。そりゃあ、世界を壊すなんて静観するつもりは無いけど。
ハクをけしかけるくらいしかできない自分が悲しいけどね。
もっとも、この場合の“倒す”というのは“完全に殺す”と言う意味だから、ハクに頼んで殺さないようにしているだけだ。
だから、ハクに死なない程度に嬲られる可能性が大きいんだよなぁ。
でも、そこは勘弁してほしい。
ていうか、僕だって迷惑かけられたんだし、これくらいの罰は受けてほしいよ。色々大変だったんだから(ハクを抑える的な意味で)。
もっとも当の造物主は、せっかく僕等と言う“イレギュラー”(言われた時一瞬ドキッとしたけど……考えてみれば、フェイトと初めて会った時に自分がこの『世界』生まれではないような事を、さらっと言った様な気がする)が関わってきたのを機に、もう少し計画を煮詰めるつもりらしい。
造物主曰く、あの人は万事策が尽きて、強行手段しか残っていなかったから“世界の崩壊”という手段を選んだだけであって、僕達が接近してきた事で新たな選択肢が幾つか生まれたとのこと。
ならば、その選択を吟味・実行するのも悪くは無い……と言う結論に至ったそうだ。
正直、造物主が考えナシの暴走野郎でなくて本当にホッとしている。
まぁ一つの世界を壊して、何億人ものの命を亡くす(“救う”ともいうけど、要するに殺すってことだ)何て行動を取る前なのだし、普通は慎重に他の手があるかどうか模索するだろうね。
話を戻すけど、フェイト達は『紅き翼』との戦いに乗るつもり満々のようだ。
いっそのことこのまま倒されれば、それを口実に
勝ったら勝ったで万々歳だし、負けてもそれを隠れ蓑に出来る。つまり、どっちに転んでも『完全なる世界』(のほんの一握りの超強者)に損は無い。
ちなみに造物主は別名“始まりの魔法使い”といって、此の世界を造った主。そして、僕やハクから見ても次元の違う存在で、要は不死だそうだ。もっというと、造物主を殺せるのはハクだけ。
そしてフェイトも、何と“アーウェルンクス・シリーズ”という造物主印の量産型(“粗悪品”と言う意味ではない)戦力なので、不死ではないけどまた創造できるそうだ。
このシリーズ、今のところ本格稼働しているのは
ていうか、フェイトもかなり強い部類に入ると思うんだけど、それが量産可能ってどんだけだよ。
……いや、我が従者に比べれば、そのチートレベルはずっと低いだろうけどさ。
まぁ、僕自身はフェイトとかなり打ち解けてきているんだし、彼には死んでほしくないのが本音だ。
「で、その代わりに……僕達二人の懸賞金を解除してほしいんですよ。コレで名声があがった貴方達なら、不可能ではないでしょう?」
「だったら、最初から貴方達が公開すればよいのでは?」
いつの間にか敬語口調になっている詠春さんが、ようやく安全だと思ったのかティーカップに手を伸ばした。
……流石剣士とはいえ名家出身。外国の茶葉だけど、飲み方は結構様になっているね。
おっと、こんなこと考えている場合じゃなかった。
「史上最高の賞金首とその主がいっても、信用されませんよ」
「ですが……貴方達は“不殺”——『
それに、今の我々だって賞金首ですよ?」
「……ふぅ、本音を言いますけどね、僕、英雄になんてなりたくないんですよ。ていうか、世界から称賛を浴びるなんて嫌です」
「……そういうことですか」
「体の良い押し付け役にされた気がするが……これだけのチャンスを前に、四の五の言っていられんな。
今回の取引、応じさせてもらおう」
納得した様子の詠春さんと、決断したようで頷くガトウさん。
よし、これで布石は整ったかな……。
やっぱり、こういう役目は疲れるよ。
口に出したら、多分ハクが「では過労の元を消してきましょう」とかいって飛び出していきそうだから、態度にも口にも出さないけどさ。
榛名の『完全なる世界』への印象は大分変わっています。
今では怒りも結構収まっていて、世界崩壊を行わないのなら気の合う友人達と言う感じです。
なお、榛名と造物主、そしてフェイトは会う事はあまりありませんが、ちょくちょく(二、三日に一回くらい)連絡を取り合う関係。
造物主、個人的には結構好きなキャラです。
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