前話のフェイトとの話から、数週間後の話です。
第拾弐話 カレの世界と脳内環境
フェイト(そう呼ぶように言われた)とは、ちょくちょく連絡を取るようになった。
それは、フェイト達にとっての
思いっきり情報流出だけど、フェイト曰く「造物主の許可は取っている」らしい。
それって、造物主が僕達の事をある程度認めてくれた、ということなのか——と思いたい。
唯、フェイトと連絡を取ったり直接会ったりする度に、ハクが凄く怖くなるけど。
それはまぁ、ハクにも譲れないものがあるだろうから咎めもしなかったし、一応“敵”だから悪くないと思う。
僕の場合、護る事は出来ても敵に打撃は与えられない。
僕にも魔力や気はあるから、勿論攻撃手段が無いわけでもないし、“絶対防御”を攻撃技に応用する事も出来る。
けど、前者は総量が少ないし、組織の大幹部がちっとやそっとの術で倒せるとは到底思えない。ていうか、有体に言って魔法戦や殴り合いで勝てる気がしない。
そして後者は、物凄く集中していないと成功しないし、時間もかかったりする。
その代わり、命中率は凄まじく良かったりする。
何しろハクでさえも知覚が出来ないから、そもそも気付かれない。避けられないし、迎撃もされない。
されたところで効果も無い。
つまり、当たるとデカイが成功率はとんでもなく低い。
基本受け身だから、敵が撤退するか距離を取ればお終いなんだよ、この技。
つまり僕はフェイト相手に護る事は出来ても、手も足も出せない、というわけ。
だから攻撃は全部ハク任せだ。
そのハクが警戒してくれないと、寧ろ困るのはこっちだ。
おまけに僕は賞金首。
しかも、自分で言うのもなんだけど、僕の賞金(80万ドル)はそれ程高くない。
ハクが1800万ドルで、次点の『
まぁ、自分の事を“小物”なんて呼んだら、ハクが静かに激怒するのは目に見えているから、口には出さないけど。
当たり前の話だけれど、世間一般的には“懸賞金額の高い賞金首=
そしてそれはつまり、賞金稼ぎや傭兵・諸国軍にとっての
要するに、余程豪胆か正義感が高いか、或いは莫迦でもない限りは、そうそうハクなどの“大物”に手を出さないというわけだ。
まぁ、世の中“莫迦”の分類に入る賞金稼ぎや諸国軍が圧倒的に多いのも事実で、ハク(ついでに僕)を狙う連中もしょっちゅう出てくるんだけどね。
兎に角、僕みたいな“小物”は、返り討ちにあって生涯に幕を閉じる羽目になる可能性が低い。
だから、結構狙われやすいんだよ。賞金稼ぎからすれば、僕を倒せば80万ドルが手に入るんだ。
我ながら、ボロい商売だよね。
もっとも僕を狙ってきた賞金稼ぎは、全部ハクによってトンデモない目に合わされている(と思う)。
おまけにハクは、どうやっているか知らないけど事前に敵の位置を察していて先手を打つから、僕の目の前に敵が来る事は滅多にない。
ハクは教えてくれないけれど、あの激怒ぶりは凄まじいの一言に尽きる。
だから一発や二発ぶん殴って、それですませたとはとても思えないんだよ。
勿論、僕はハクに全幅の信頼を預けている。
ていうか、他に縋るものも頼るものも無い。カッコイイ言い方だと“信頼している”、カッコワルイ言い方だと“丸投げ”。
でも、用心するに越した事は無い。
痛いのは嫌だし、何しろここ最近は賞金稼ぎはおろか、軍ですら、周りの一般人が多い街中、酷い時は室内で襲撃してくる。
他人に迷惑かけたくないし、おまけにそれで街や市民の皆様に被害が出ても、僕達
幸い僕はハクより忠告を受けていたから、あらかじめハクに周囲への被害を最低限にするよう言っておくことができた。
危ない危ない。これ以上賞金が上がったら、困るなんてものじゃあない。僕の精神がいい加減に限界だ。
まったく賞金稼ぎは兎も角、正規軍になら住民を一時的に疎開させる権限くらいはあるだろうに(しかも今は戦時中)。
敵に悟られぬようにするためかどうかは知らないけれど、街中を歩いている兵士たちがいきなり攻撃を仕掛けるのはどうだろう?
日本人の常識からすれば、そういう時はまず長ったらしい逮捕状を読み上げるとか、事前に近辺を封鎖するとかが考え浮かぶと思うんだよね。
警察だか公安だか自衛隊警務科だか、日本の司法取締機関は色々あるだろうけど、そこの辺りにはある程度の秩序と言うか配慮があると思う。
司法関係はさっぱりだから、詳しくは知らないけど。
「……ハク? その、あんまり怒らないでいてくれると……助かるんだけど」
僕は小声で言いながら、後ろを向いてハクを見つめた。今日のハクは、外行き用の戦闘服じゃあなく、黒と白のメイド服だ。
目の前には、いつも通り(戦闘中以外は)僕より一歩控えた位置で、直立不動の態勢を取っている我が従者。
ここはとある廃屋……だった場所で、今はそれなりに豪華な一戸建てになっている。
ハクが錬金で修理・補強して、結界で隠蔽したものだ。
基本、僕らは帰りたい時に何時でも麻帆良に帰れるから、
でも、念には念、ということで、幾つか拠点、というよりアジトをハクが用意してくれた。僕が寝ている間に、彼女の分身体が。
此処もその一つだ。
そういえば、ハクには睡眠とか休息は必要ないらしいけど、じゃあ夜は何をしているのかと聞いてみたら、「マスターを御守りしています」と返された事がある。具体的に何をどうしているかは知らないけど。
それで、ハクが怒っている理由が、僕が『紅き翼』に手紙を出したからだ。
内容は、『完全なる世界』の情報etcを渡す代わりに、僕の計画に協力してほしい。一度、話し合う機会を設けさせてもらいたい、というもの。
これをハクに頼んで出してもらったんだけど、それからハクはずっと不機嫌だ。
いや、傍から見れば無表情なんだけど、僕ならわかる。
現在進行形で機嫌が悪い。
どうもハクは、『紅き翼』を避けている——というか、毛嫌いしているんだよなぁ。理由を聞いても、「蟲を好きになる理由などありません」の一言でバッサリ。
前に何回か戦ったから、仕方ないと言えば仕方ないのかな?
で、僕の計画と言うのは、別に世界を救うとか、そんな大層なものじゃあない。
フェイトに偉そうなことを言ったけど、要は僕の意見を言っただけ。
フェイトを従わせたかったら、とっくにハクに頼んで洗脳してもらうとか……造物主を倒している。
造物主には少し通信で言葉を交わした事はあっても、会った事は無い。けど、ハク曰く、実力的には「雀蜂程度」らしい。
何故かって、ハクが言うには「相応の実力者なら、その時点でわかりますが、この世界には蟲の気配しかしません」とのこと。
ハクにとっての“相応の実力者”がどの程度かは知らないけれど、そんなのがいたらとっくに世界は滅んでいると思う。何しろ魔法世界の創造主が、“雀蜂”呼ばわりなんだから。
個人的には傲慢不遜なイメージがあったんだけれど、ヒトの話を聞かないような人でもなかったし、あの人にも、あの人なりの葛藤とかがあったのはわかった。
心なしか、口調も少し疲れていたようだったし、案外憔悴していたのかもしれない。
少なくとも、変にテンションがおかしいイカレたヒトじゃあなかったのでホッとした。
そんなヒトとワンツーマンで応対できる程、僕は豪胆じゃあない。
……兎に角、僕の計画と言うのは、簡単に言うと各国に潜り込んでいる『
そして、僕とハクの懸賞金の解除。
最初はハクが殺すとか洗脳するとか言っていたんだけど、殺すのはどうかと思うし(キチンと法によって裁かれた方が、民衆の怒りも沸くと思うし歴史的事象にもなる)、何か雑草の葉の部分だけを刈る様な……無駄足になる気がしてならない。
ハクが言うには、大勢の上部が無くなって“玉突き人事”になっても、大して思想もやることも変わらない後釜が、就任するだけになる可能性が高いと言うし。
それにいきなり各国のトップが“謎の死”を遂げるとか、どう考えても混乱と疑心暗鬼しか生まない。
下手すれば、これが引き金となってまた戦争が起こる可能性すらある。
こうなるともうお手上げ状態。
次に洗脳だけど、わざわざ国家を従えても僕が思うにはメリットなんてないだろうし、それだと結局(見かけは)大戦前に戻るだけだ。
民衆や兵士が納得するわけがない。
戦争起こした上層部が、纏めて戦後も権力を維持しているなんて。しかも、得たものは無し。
“スケープ・ゴート”でもあれば話は別かもしれないけど……そう上手くいくとは考え難い。
ならば、社会的に連中がしでかした(ていうか、しでかしている)事を社会に公表してもらうのが一番手っ取り早い。
そうなれば、民衆の怒りは阿呆な夢見て莫迦やらかした
しかし、僕ら二人の“犯罪者コンビ”やモロ世界崩壊計画を進めているフェイト達が言っても、誰も聞く耳を持ってくれない。
だからといって
政治家や軍人も立場上できないし、やったら色々と禍根を残す。
中立国の連中が言っても同じ事。ていうか、耳を貸すわけが無い。
となると、連合所属とはいえ、今は(フェイト達の陰謀で)犯罪者扱いされ、追われている——それでも有名すぎるほど有名な『紅き翼』に託すのが最善——と結論したわけ。
それで、今は返事を待ちながらのんびりしている状態だ。
「怒っておりません、マスター。……ええ。マスターの御計画に反対する理由などありません」
「……僕が、連中に会うのが、嫌なのか?」
「……ええ」
ハクは珍しく、歯切れが悪そうに言った。
たぶん、色々とあるんだろう。
気になったけど問い質すこともなく、僕は紅茶を一口飲んだ。
「……………………………………………………マスター。マスターの御望みは……本当に、
「え?」
何かが聞こえて、僕は再び振り向いた。
其処には相変わらず、無表情で僕を見つめる黒い瞳があった。
ちなみに造物主もフェイト同様榛名に強い興味を持っていて、特にハクには敵わない事を悟っている設定。
フェイトは榛名の行動を手助けしていますが、これも興味(+友情)によるものです。それと、フェイトは元老院達の事をちょっと使えればいいな的な駒としか見ていないので、摘発されても榛名の行動が見れれば問題なしだと結論しています。
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