三日連続投稿。
今回の内容。
フェイトよ永遠に。以上。
第拾肆話 カレとカノジョの戦争終結と世界構築
人生の中で、はっきりと“チェス盤の回転を悟る瞬間”っていうのは、実は結構ありふれているものだと思いませんか?
何も戦争とか、大統領選挙とか、政党交代とか大そうな話でなくてもいい。
サッカーの試合を観戦中に逆転されて絶叫した時とか、或いは友達と(ゲームとかで)対戦していて最後の最後でドジを踏んだりした時。
だから、それ程騒ぐ事でもないと思うが、それでも野次馬魂が疼くのが現代人。
ニュースも新聞も、『紅き翼』が公開した大スキャンダルで持ちきりだ。
勿論、いきなりマスコミにリークしたわけじゃあない。
二週間前に『紅き翼』や彼らの協力者が軍を動かし、会議やらプライベートやらで忙しい売国者共を一斉逮捕。
証拠は完璧だし、言い逃れも出来ない。全員仲良く監獄行きだ。勿論、それが本物であることの裏付けはばっちり取れている。
ハクの仕事ぶりは本当に見事だから、一ミクロンも反論の余地は無いはずだ。どうやって集めたかは知らないけどさ。
ヘラス帝国やアリアドネーはまだ良かった。帝国皇帝やアリアドネー総長はシロで、クロだったのは取り巻きや高官だけだ。
だから、混乱も事前に通告を受けていた皇帝他が先陣切って終息に動いた。
数少ない例外がメセンブリーナ連合。そしてウェスペルタティア王国。
連合の場合は、元老院そして次期元老院候補、挙句の果てには次期元老院候補まで大部分がクロと来た。
御蔭で一気に政府要職の大部分がすっからかんになるという異常事態。
その所為か、もう即席でも何でもいい程の“玉突き人事”が起こっている。
王国では、あろうことか国王以下要職全員がクロ(正確には国王が操られ、その国王に要職連中が操られていた)で、マトモなのが王女だけだった。
そのためアリカ女王(即位したので王女から女王)は王国に閉じこもりっきりで、対応に追われているらしい。
そして、速やかに終息に向かった帝国やアリアドネーだろうが、混乱が続いている連合や王国だろうが、軍や兵士たちの戦意はガタ落ちだ。
ちなみに現在の戦線は、連合の首都であるメガロメセンブリアの一歩手前。
つまり、帝国が大優勢。
やっぱりというべきか、首都の半壊の復興や麻帆良の土地を借りておくために、湯水の如く使った国庫が限界だったみたいだ。
さらに、連合防衛の要と言っていいグレードブリッジ要塞がハクによって吹き飛ばされたから、もう打つ手が無い。
聞いた話によると、連合はそれでも諦めず、焦土戦術を展開して帝国(と市民)を苦しめていたようだ。
しかし、自分達がそんな非人道的な作戦に手を染めたというのに、それが無意味である事が全世界にばらされたんだから、連合兵が虚脱状態に陥るのは当然のことだと思う。
でも、兵士たちにとって幸いなことに……彼らには、すぐに新たな敵が与えられた。
つまり、『完全なる世界』とそれにそそのかされた
兵達や民衆の怒りがキラウェアも吃驚の大噴火をやらかす前に、反乱を怖れた国の高官たちは必死になって迅速な終結……つまり、罪人たちの迅速で、そして容赦の無い処罰を行った。
連合は、逮捕者達の衣食住を賄う資金すら惜しんだみたいだ。
どれだけ逼迫していたんだよ。
そんでもって、ほとんど“宣告”と変わらない、弁護人すら抜いた“裁判”の後、罪人たちは然るべき刑を受けた。
もっとも、大部分がケラべロスとかいう場所で処刑されたそうだけどね。
そして、最早形だけの“停戦”が宣言されて(とっくに現場の兵士は武器を置いていた)、各国は国を挙げての“悪者退治”に動き出した。
……そんな中、どさくさにまぎれて、“情報提供者”として僕とハクの懸賞金が解除されたんだけど、そんなことは話題にもならなかった。
「魔法世界を救う?
些事ですし、簡単な事です。単に、供給先を“魔法”から
「……どういうこと?」
「私の力を使い、火星自身が創り出す“星の力”、“星の生命エネルギィ”とでも申しましょうか、それに替えれば良いのです。
レシプロエンジンが駄目なら、核融合炉にすれば良い。的確な喩えとは言えませんが、概ねそのような感じです」
魔法力が枯渇することを知った僕が聞くと、ハクはこんなふうに返してきた。
……マジですか?
「そんなことが、できるの?」
僕がそう言うと、ハクは「心外です」と言わんばかりに眉を少し動かした。
「失礼ながら、私を誰だと思っているのですか? 綺羅川 ハク。マスターのみに仕える、マスターだけの従者です。
マスターの願い、全てを叶える力を持ちます。
生命エナジィは、火星が存続している限りは無限にあります。あとはそれを魔力に変換し、魔法世界中を循環するよう配線を接続しなおせば良いのです。
何も魔法力が枯渇すると、火星自体も息絶えるわけではありません。
なお、その際には此の世界の魔力の質・量、住民、地理、何一つ変わらない事を保証いたします」
そう言った後、ハクは少し小声で続けた。
「……本当のことを言うのなら、私が常時此の世界に魔力を供給し続けるのが一番手っ取り早いのですが……私の魔力を吸い、蟲共とその巣が生き永らえるなど、生理的に嫌です。
私の力は、マスターだけに注がれるべきものですから」
……あぁ、納得。
そして、久方ぶりの長広舌。
いや、説明を求めたのは僕だから、文句は言わないけれども。
……やっぱりどこまでいってもハクはハクだ。理由がハクらしすぎる。
それを
その代わり、「それでもまだ不備が起こる可能性があるから、少しは魔法世界の事を気にかけてほしい」とは言われたけど。
アフターケアは大事だよね。
どうせ此処まで首を突っ込んだんだ。
痛いのとかは嫌だけど、此の世界で初めてできた知人のために(ハクは従者で家族だしね)、一肌脱ぐくらいのことは大丈夫だ。
……やるのはハクであって、僕じゃあないけどね……はぁ……。
「……マスター、どうなさったのですか? 不安の種は、私が消して差し上げますが」
「……あ、うん……ごめん、なんでもないよ」
まさか、今更自分とハクの力の差を嘆いていたなんて言えない。
ていうか、神様にそう頼んだのは僕だし。
「そうですか……御気になさる必要など、ありませんよ、マスター?」
……なぜわかるし……。あぁ、ハクは僕の考えている事を推測できるんだった。
「……そんじゃあま、行きましょうか」
僕の視線の先には、『完全なる世界』と対決する『紅き翼』の面々がいた。
『黄昏の姫巫女』ことアスナ姫。
王国の姫だけど、姫とは名ばかりの体の良い国家戦略兵器だ。
彼女には、“魔法無効化能力”がある。
造物主の当初の計画では、アスナ姫の“能力”を使って魔法世界を破滅(という名の新構築)に乗り出す予定だった。
そして『紅き翼』も世界の面々も、それを本当だと信じている。
だからこそ、連合兵も帝国兵も必死になって立ち向かっている。
多分この先、ずっと睨みあう関係だろうけど。今だけは共闘しているという感じだ。
ていうか、戦果を奪い合っているようにしか見えない。
ナギによりフェイトがやられ、
「……まさか未だに、僕の事をラスボスだとおも——ぶぐちゅッ!?」
「消えろ、蟲」
……うん、トンデモなくグロい事になっている。
だって、文字通りの意味で“潰れている”んだし……フェイトに化けたハクの分身が。
ちなみに本物のフェイトは、僕の横でボロボロの状態で顔を青褪めさせている。
ついでにいうと、ナギと戦っていた時のフェイトは本物だ。
ナギが止めを刺す直前に、ハク(の分身が化けたフェイト)と入れ替わった……というのが種明かし。
分身体が可哀相だけど、ハクは「マスターの計画の礎となって死ぬのなら本望ですし、偽装するだけです。いかに分身体とはいえ、白髪蟲が死ぬような攻撃では、かすり傷一つつきません。幻術で見せかけるだけです」と言っていたから、心の中で御免なさいと言っておこう。
「……本物の僕だったとしても、彼女はああしていたのかな……」
「違うよ。……もっと酷いと思う。連行されて、三日三晩は嬲られたんじゃあないかな?」
「……つくづく、彼女は恐ろしいよ」
「フェイト、絶対にハクを怒らせないでね……」
僕ら二人がしっかりと握手をを交わしている間に、
「ぐぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
「雀蜂が……とっとと消えなさい。私には、マスターの御傍にいるという至上の役目があるのよ」
造物主がハクのサンドバックと化していた。ちなみにあの人は本物です。
作戦前に、ハクが「ようやく鉄槌を下せます」と言って指を鳴らしてた。
御愁傷様です。
ちなみに『紅き翼』の面々は、造物主の先制攻撃とハクの分身体によって、全員戦闘不能の状態になっている。ていうか、ズタボロで転がっている。
あ、吹き飛んだ。
ハクが造物主をぶん殴る度に余波が起きて、そのせいで枯れ葉の様に舞っている『英雄』……ファンが見たら泣く光景だよね。
結界で誰も見れないように、入れないようにしているけどさ。
「そして、僕も泣きそうなんだけど」
「フェイト……ハクを相手にする方法は唯一つ。土下座して自分の首を切り落とすことくらいだよ」
「……土下座じゃあ駄目なのかい?」
「………………………………前にハクに土下座した人がいるんだけど、その人、ハクに頭を踏み潰された」
「……打つ手なしじゃあないか」
「打つ手がある程、僕の従者は甘くないんだよ」
そう言って、二人揃ってため息をつく。
直後、フェイトが青褪め、ガタガタと震えだした。
そりゃあもう、ナギと殺し合った時の比じゃあないくらい死にそうな顔をしている。
「ど、どうしたの?」
そう言ってフェイトの視線の先を見てみると……。
造物主にパンチのラッシュを叩き込みながら、海王星の芯まで凍りつきそうな、無機質さを極限まで追求したような目でフェイトを睨みつける、返り血を浴びまくった戦闘服姿の我が従者がいた。
血に濡れた、というより血の
うん、超絶怖い。
何が怖いって、鮮血でシャワーを浴びているようなド凄い光景なのに、妙に色気があるというか、妖艶だ。
そのせいか、怖さが百倍増しだ。
「————————————————————————蟲 風 情 が、舐めた真似を」
めちゃくちゃ離れているのに、ハクのやたらと低い声がこっちにまで届いてきた。
……フェイト、アウトー。
「……フェイト、頑張ってくれ」
「……その質問にイエスと答えられない自分が憎いよ」
そうこうしている内に、ハクが造物主にトドメの一撃を叩き込んだ。
「フ、フハハハハハハハハハハハハハハハハ!
「黙れ、そして死ね」
「んぬぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」
「最後に————私は人間ではありません。マスターの従者です」
造物主が死……いや、正確には(ハク曰く)百分の九九殺しの状態だけど、とにかく悲鳴を上げながら消え去った。
そして、瀕死の造物主はそのまま離脱。
フェイトが手を振りながら、上手い事口実を見つけてさっさと離脱。
そして僕は
「お疲れさま、ハク」
何時の間にやら目の前にいた従者に、労いの言葉をかけたのだった。
汚れ一つない服を纏い、綺麗な白髪を風に揺らす長身美女は、そんな僕に微笑んでくれた。
大戦編終結です。
章に分けることにします。
次回からは、暫く戦闘シーンは入らないと思います。
御意見御感想宜しくお願いします。
〜おまけ〜
ハク「……貴方、マスターに謝らせたわね。心の中とはいえ」
フェイト(に化けたハクの分身体)「へ?」
ハク「分身体如きが……生意気ね。マスターに心配をかけるような欠陥品は……」
フェイト「え? ちょ、まっ」
—————————————おしおき中———————————————
ハク「さて、それでは本物の白髪蟲も殺そうかしら。マスターに近付き過ぎよ、汚らわしい」
翌日から二週間、フェイトの姿を見た者はいなかった……。