今回は、大戦編の総まとめの様なもの。
この時点でかなり原作とかけ離れています。また、オリ設定を多数含みますので、御注意ください。
第拾伍話 カレと戦後報告と新たな問題
戦争が終わった後、記念祝典やら戦後処理があったらしいけど、そんなモノは無視してさっさと麻帆良に戻ってきた。それが、今から三カ月前の話。
そして再び続く、僕とハクだけの悠々自適なスローライフ。
うん、やっぱり最高だ。
……クラウゼヴィッツの『戦争論』を読みながら、そんな事を考える今日この頃。
あれからは、フェイトと
だから、連中が今何処で何をしているかは知らない。
フェイトからの通信も来ない。
少し心配していたら、ハクが「連絡が取れる様な身体にしておけばよかったですね」と言ってきた。
……スルーしておいた。ゴメンよ、友人。
「“人類の自然の状態は戦争であって平和ではない”……カントの史的環境の中で生きた軍人、クラウゼヴィッツ……か」
何となく、ソファに寝転んで、口に出してみる。
それを、じっと見つめてくる我が従者。
クラウゼヴィッツの『戦争論』といえば、“戦争は政治の延長にしかすぎない”という言葉が有名だ。
勿論、彼が魔法世界での戦闘なんて考慮しているはずも無いんだけれども、今思うと、やっぱり旧世界だろうが魔法世界だろうが、戦争なんて同じようなモノだと思えてくる。
世界崩壊を最終目的とした戦争なんだから、レアケースと思われがちかもしれないけれど、もっとミクロな……国家の崩壊とかを目的とした戦争なら、別段珍しくは無い。
何時だって、敗戦国が消滅するのは世界の常識だったりする。
もっとも近代の場合は、“精神的に”消滅するのだから尚
近代的、文明的の皮を被っていて、一見人道的に見えるんだからね。
今回の戦争……巷では“大戦”と呼称されるモノだけど、それも同じだ。
連合と帝国の仲は、今後さらに酷くなるだろう。
第三者から見れば、何れの国も掌で踊らされていただけの莫迦揃い。
だからと言って、恨み怒りが消えるわけじゃあない。
『
現に、失墜した連合の地位は下手すれば永遠に戻らない。
帝国はまだ良い。連合首都メガロメセンブリアの喉元まで攻め込んだし、最前線が連合寄りだったから、帝都ヘラスを含む都市部の大半が無事だ。
此れはハクから聞いた話なんだけど、寧ろ戦争特需で好景気になっているらしい。
おまけに賢明と言うかなんというか、帝国皇帝は早々に軍縮を宣言し、公共事業費・復興費用や何やらに予算を振り撒けた。
簡単に言うと、軍備に
御蔭で帝国は、早くも復興の兆しを見せている。
何しろ、帝国領土は戦前から変化なしで、戦火に焼かれたのは国境線近くのみ。つまり、帝国勝利・快進撃が大フィーバーする前に、連合が帝国に少し攻め入った時だけだ。
一応、帝国も連合を無視していた……つまり仮想敵国から除外していたわけじゃあない(ていうか、帝国に対抗できる国が連合くらいしかない)ので、国境付近にはそれ程民間人も住んでいなかったみたいだし、疎開プログラムもあった。
寧ろ、連合の領土を獲得した方がエライ事になっていただろう。何しろ戦火で焼け野原や廃墟になった連合領土は、大抵が帝国占領地だったのだから。占領地が新たな領土になるのが、世界の常識。
復興費用を捻り出すのは、いくらなんでも不可能だろうし、旧連合市民が帝国の支配を容認するとも思えない。
そんなこんなで帝国は順調。順風満帆。
寧ろ、疲弊した近隣諸国に資金を貸す余裕すらあったみたいだ。
ぶっちゃけると、帝国の“一人勝ち”状態だ。この景気が、何処まで続くかは知らないけどね。
王国も、浮遊島にあるという地理的利点の御蔭で、荒廃はほとんどしていない。内政的にはえらいこっちゃなんだけど。でも、少なくとも死傷者自体はかなり少ないと聞いている。
ちなみにこういった情報は全部ハク経由だから、信憑性は折り紙つきだ。
問題は連合。裏から手を引かれていたとはいえ、最初に帝国に攻め込んだ——つまり喧嘩を吹っ掛けたのは連合だ。
自分達から仕掛けておきながら、首都の鼻先まで奪われて(もう返還されたけど)、帝国の攻撃以上に自分達が行った焦土作戦の被害を受けた領土の復興に金をつぎ込まなければならなくなった。
さらに一方的な負け戦だったのだから、賠償金も得られないし新領土も無い。
要は、単に人命と金を失い、廃墟と化した街や焼け野原を得ただけの戦いとなったわけ。
ついでに、元老院の権威もプライドも地に落ちた。
……うん、悲惨すぎる。
それに、元々金が無くて難儀していたんだから、復興費用もおいそれと出せるわけがない。
だからと言って、このままでは戦火を浴びた都市諸々の連合離脱、中立化、帝国に接近もあり得る。
ていうか、普通に考えればそうなる。
勝手に戦争に巻き込まれ、連合兵士に焦土作戦まで展開され、復興費用は出しませんなんて言われたら普通はキレる。
そうなれば、余裕がある帝国に、金と人員、資材などを借りる可能性が大きい。
それは、帝国の“紐付き”になることを意味している。
帝国もお人好しじゃあないから、無条件で大金を貸すような真似はしないと思う。たぶん、貿易や通商での優遇とか、色々と条件を付けるんだろうなぁ。
そうなれば、連合側にすれば、これらの都市の手綱を取られたも同然——植民地化されるのと大差ない。
勿論、それは新生元老院(下から上に異動しただけなんだけどね)にとっては始動早々大きな汚点となる。
ざっくばらんにいうと、連合には負担を覚悟でこれらの都市を援助するか、斬り捨てて帝国に差し出すかの二択しかない。
前者を選べばプライドを守れる代わりに、貴重な資金資材諸々がさらに消える。後者を選べば資金を手元に残せるが、代わりにプライドを失う。
そしてハクが言うには……連合は、絶対に後者を選ばない。
何故って、そんな事をすれば、民衆の不信感はますます高まり、下手すれば改革、ていうか革命が起こる。
——今の連合は巨大すぎる。もう少しコンパクトになるべきだ。
——或いは、こうした国難においては、強力な中央集権国家である、帝国の様なシステムの方が向いているのではないか?
——自治権が与えられている都市や国家は、ここまでして連合(正確にはメガロメセンブリア)に巻き込まれてやる義理も無いのではないか?
——寧ろ、小規模な都市・国家連合体が幾つも出来た方が、より運営しやすくなるのではないか?
そんな意見が生まれてくる可能性もあると思う。
元はと言えば、亜人(帝国)の脅威(あくまで人類側の主観で)に人類が一致団結するために誕生したのが連合だ。
しかし、連合に加盟していない人類独立都市や小国家は幾つも存在する。これは、連合にいなくとも人類は魔法世界で暮らせることの証明にもなる。
そして、今や連合でも、帝国に国力的な意味で対抗できない。
つまり——連合に加盟していることで生まれるメリットは、今やほとんど無くなり、デメリットのみが残った……ということになる。
つまり、相互協力の関係である以上、疲弊した中央|(メガロメセンブリア)や戦火に焼かれた都市の援助をせざるを得なくなっている。
しかも、中央が勝手に始めた(しかも乗せられた)戦争によって。
はた迷惑もいいところだ。
いっそ帝国につくか、独立する方が良い……正解かどうかは知らないけど、そう考える者が出てもおかしくないんだよね。僕個人の意見としては、さ。
いや、最早意見とかのレヴェルでもないみたいで……ハク曰く、連合の分裂はかなり現実味を帯びているらしいんだよ。
巷では、“大
とはいえ、表向きには“正義”を掲げているのがメガロメセンブリア。
“独立”とは、まさに正義の代名詞だ。少なくとも、世間ではそう認知される事が多い。
つまり、それを止める手段を連合(元老院)は持たない。
独立運動を軍を出して止めれば、国中から総スカンを受けることになるのは必至だし、近隣諸国も独立を支援するか、或いは静観するかの選択肢しかない。
そこまで考えて、僕は首を振る。
——止めよう、首を突っ込むようなことじゃあない。
そう、これは関係ない事——
きっかけは、いつも通りと言うべきか何と言うべきか、ハクからの報告だった。
「連合から、麻帆良使用料についての交渉を求めるとの報告があります」
というもの。
つまり、こうだ。
「復興に使う金も捻り出せないのに、麻帆良の土地賃貸料などとても払えないから、値下げするか、若しくは徴収を一時期保留にしてほしい」という。
うん、予感はしてたんだけれど、やっぱりそう来るか。
でも、こっちとしては少なくとも値下げ交渉は却下。
一度承認すると、
そもそも、払いたくなければ麻帆良から引き揚げればいいだけの話だ。
……実現性は低いだろうが、例えば日本のもう一つの魔術組織——“関西呪術協会”に管轄を移行させれば良い。
明治維新の
よって、日本政府からの支援も受けているし、大戦にも中立(不介入)を貫いていたから、資金・人材ともに兎に角潤沢。戦力も有り余っている。
何より、勢力範囲が違いすぎる。
麻帆良だけを管轄としている関東魔法協会と違い、関西呪術協会は西日本全域を管轄としている。加えて、配下には無いものの東北・北海道などの魔術組織とも繋がりがあり、アラスカやペルーなどの旧世界中の魔術組織とも相互扶助・同盟関係にある。
他にも
にも拘らず、今まで麻帆良(というより“関東魔法協会”)がデカイ顔が出来たのは、連合と言う“超大国”のバックがあったからというだけの事だ。
そのバックが悲鳴を上げている今、東西のパワーバランスはエライ事になっている。
……この情報も全部ハク経由、或いは呪術協会に属している詠春さんからの情報だけどさ。
ちなみに、呪術協会とはすでに協定を結んでいて、もし東西で戦争が起こっても、結界で守られている以外の土地(つまり学園都市)だけ攻撃する事が決められている。
結界で護られているけど、何度も攻撃されると(ハクが)キレる。
さらに、民間人に手を出さない事も、だ。
その代わり、僕|(とハク)は呪術協会に手を出さず、学園都市がどうなろうと静観する。
流石に、大勢の学生が巻き込まれて命を落とすのは忍びないからね。
まぁ、学生を護る義務はあくまで麻帆良教師の義務だし、こっちもいちいち出しゃばらない。
ちなみに詠春さんやガトウさんとは、あの交渉以来仲良くなって、前に一緒に飲んだ事もある。
とはいっても、僕は缶一本位が限界だから、唯の雑談会と言ってもいいかもしれないけど。
え? ハク?
ずっと僕の後ろにいて、詠春さん達に冷めた視線を送っていたけれど。
御蔭であの二人、全然酔えなくて最後まで
ちなみに、僕は煙草も吸うけど、これも精々一月に一箱(20本程度)くらい。
ガトウさんが吸ってたやつは、ちょっとキツすぎた。
そろそろ話を戻すけど、とにかく、連合からの値下げ交渉は却下だ。
だからといって、保留も無しだ。
何というか、そのまま踏み倒されそうな気がしてならない。
それに、こういうのもなんだけど、本気で国庫がヤバイのなら、独立したがる都市や小国を手放すなり、軍縮をするなり、旧世界の連合傘下魔法組織を引き揚げさせるなり色々とやりようはあるはずだ。
簡単にできるとは思わないけど、不可能でもないとも思う。
「……ハク、拒否しといて」
「交渉自体を、ですね? 畏まりました」
ハクが優雅に一礼するのを見て、僕はこれからまた連合と揉めるような気がして、大きなため息をついた。
はぁ、何か疲れてきたなぁ。
その所為で……。
そんな僕の姿を、従者がじっと眺めていた事に気付かなかった。
これからネギ襲来(予定)まで、少し長くなる予定です。
ちなみに『戦争論』が出てきたのは、昨日大学図書館で借りたから。あと『車輪の下』も借りました。
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