麻帆良学園都市へと繰り出し回。
次話に続きます。
第拾陸話 カレとカノジョの学園都市探検
大戦終結から半年余り。
律儀にも、ハクは、麻帆良とか魔法世界とかの実情を、毎日教えてくれた。
一体、我が従者の情報収集能力はどうなっているんだろう。
聞くとトンデモない答えが返ってきそうだから、聞かないけどさ。
何にしても、相変わらず、(ハク曰く)太陽が
うん、平和だ。
ちなみに最近では、学園都市の方を“麻帆良”と呼び、僕の土地(学園都市)以外の自然地域を“
まぁ、表記とか色々とややこしいからね。
「……ん〜」
「いかがなさいましたか? マスター」
昼食を食べた後、ソファで本を読みながら唸っていると、一秒以内で食器洗いを終えたハクが近付いてきた。
ちなみに、我が家の家事から食材確保など、基本的に“生産的行為”のほぼ全てを独占しているハクは、けっこう多忙————でもない。
何故って、それらの行為に費やす時間が、物凄く短いんだよ。
掃除、炊事、洗濯etcetc……。全部の所要時間を足しても、五から一〇分かかるかどうかくらい。
で、それ以外の時間は……ずっと僕の傍にいる。文字通りの意味で。
背後に控えているとか、真正面から覗き込んでくるとか、触れてくるとか、抱きついてくるとか……色々あるけど、兎に角僕の傍にいる。
そしていつものように、真正面から零距離で覗き込んでくる、我が従者。
表情を(比較的)変えるようになっても、積極的に言葉話吐き出すようになっても、この所作はずっと変わらない。いつも通りの無表情。何も感じ取れない、黒い瞳。
「なぁ、ハク……提案があるんだけどさ」
「何なりと」
「……学園都市、見に行かない?」
僕の提案に、ハクは小さく首を傾げた。
実は僕、連合に貸してから、学園都市となった麻帆良に行った事は一度も無い。
しかし、もう八〇年代ど真ん中。
いい加減、僕の以前住んでいた村のような……いや、八〇年代の大都市と言った雰囲気になって来ていると思う。
まぁ、ぶっちゃけていうと、前世でもそうそう滅多に行けなかった都会(の様な学園都市)が、すぐ横にあるのだから……見に行きたい。
それに最近、平和になってきたからか、前世での学生ライフが懐かしくなってきたんだよ。
勿論、生徒になるとかじゃあない。ちょっとふらつくだけだ。
平日なら問題だろうけど、幸いにして本日は日曜日。
学園“都市”というからには、学校施設だけでなく、生徒の生活をサポートする施設……スーパーとか、或いは娯楽施設とかもあるだろう。
単に興味があるだけなんだけどね。
「わかりました。但し、認識障害の結界を、マスターと私の周囲に展開させていただきます。
マスターは、蠅共に纏わりつかれる可能性をお持ちである事をお忘れなく」
ハクは頷いたけど、しっかりと釘を刺してきた。
勿論、納得する他はない。
麻帆良(ていうか関東魔法協会)は、連合の配下組織……でも、その麻帆良が、“元・犯罪者”である僕の土地を借りて成り立っている事を、快く思っていない連中がいることは、僕もハクから聞いていた。
……僕とハクが、
……………………………武力で人様の土地奪うって、そっちも犯罪じゃん。しかも契約破棄。
おまけに今の僕らの賞金(+手配)は解除されているから、唯の民間人に危害を加えるのと同じ事だし。
あとは、プライドの問題もある。
仮にも大組織が、所有する土地が借り物だなんて格好がつかない。
だからと言って、僕にしても、せっかくの土地を丸々奪われるなんて面白くない。
ハクが用意してくれたものだし、現状でも麻帆良学園都市は上手く機能している。
別段、一般人に苦労をかけているわけではない。
要は、連中に僕らを討てる正当な理由などないんだよ。
「わかっているよ。……ハクこそ、むやみやたらに麻帆良関係者を攻撃しないでくれよ?
そんなことしたら、連中に大義名分を与えてしまう」
「マスター、そうは仰いますが……大義名分が向こうにあることに、何の意味があるのです?
私にとっては、マスターに逆らうモノは害蟲。マスターが正義。それだけです」
……この従者、その内新興宗教でも開きそうだなぁ。
「まさか。マスターを崇拝し、マスターの御許しを請うのは私だけです。有
分不相応にも逆らうような腐った蟲よりかは、余程良いですが」
そこまで言って、ハクは小さく微笑した。
「それに、マスターは、そんなことなど望んでいないでしょう? ならば、私はしません。私は、マスターが御喜びになる事だけをするのです」
…………………………………………最近本格的に、この従者に心を読まれるようになった気がする。
……まぁ、いいか。
口に出す手間が無くなっただけだし。
元々ハクは鋭いから、僕の考えなんてお見通しだろうしね。
「……へぇ、結構発展しているもんだ」
目の前には、先進国の都心部となんら変わらない街並、さらには異国情緒溢れる欧州風の街並みもあった。
「麻帆良学園都市は、麻帆良全土の三分の一程度の広さ——それでも世界有数の学園都市ではありますが——です。数少ない予算も、面積そのものがこの程度では……上手くやりくりできたのだろう、と思われます」
へぇ、皮肉なモノだ。
学園都市の面積を限定したのも僕。その使用料で連合の国庫に影響を与えているのも僕。いや、全部ハクの提案なんだけれども、名目上は僕ということになっている。
多分当初の予定では、麻帆良そのものを大規模な学園都市にでもする予定だったんだろう。
ところがどっこい、先人がいたため、止むを得ず三分の一程度のサイズに留まった。
でもそのおかげで、限られた予算が学園都市全土に余すことなく広がる事になった。
麻帆良学園都市は、自己完結型都市————というわけではない。
予算があろうが、(ある意味では)日本国の法の適用外だろうが、学園都市は何処まで行っても学園都市だ。
あくまで、メインは教育・研究機関とその設備。何も麻帆良内で、住民全ての食料を生産しているわけでもない。
そりゃあ、農学関係の学生さんや教師が耕作くらいやっているかもしれないけど、所詮は実習や研究用。品種改良くらいしかできないだろうし、途方も無い数の住民の腹を満たすことなど、夢のまた夢。
結局は、此の国の諸都市と同じように、中央政府や県から支援を受け、交易しないと、研究どころか
唯、麻帆良には、連合という日本国とは一味も二味も違った国家がバックにあるだけ。それだけの違いだ。
でも、バックにしても予算は限られているし、連合が優先すべきは(普通に考えたら)魔法世界(連合本国)だ。それに、連合傘下の旧世界魔法組織は、何も麻帆良だけじゃあない。
おまけに唯今、連合は絶賛国家崩壊の危機を迎えている。そりゃあもう、解体直前の某雪降る赤色国家みたいな有様だ。
こんな状態でまだ旧世界に固執する
でも、麻帆良はまだもっている。
どうなることやら。
まぁ、麻帆良が崩壊しても、それは“裏”での話。“表”からすれば、一部の教員・生徒・警備員の集団異動(辞職)が騒がれる程度だろうね。
あとは此の国か、関西呪術協会の庇護下に入るか……そんなところだろう。呪術師にとっても、世界樹は魅力溢れる存在らしいし。
ちなみに、今の僕は普通に大学生が着そうな服……皮ジャンにジーパン。ハクは、いつも通りの黒と白のメイド服。
流石は麻帆良。一般人用の対策として、常時認識障害が発動しているだけの事はある。
メイド服で街中を闊歩する——というよりかは、さり気無く僕の後ろをついてきているハクに、見向きもしない。
……あくまで、“メイド服に関しては”の話だけどね。
顔もすっごく美人で、スタイルも抜群な長身美女なんだから、性別問わずに見つめられてはいる。でも、当のハクは顔色どころか視線すら変化なし。
……つまり、ずっと僕を見ている。
でも、思ったより街中(所謂“娯楽街”)を歩いている人は少ない。
休日だけど、私服の少年少女達が思い思いに満喫しているだけだ。
まぁ、大勢の人間にハクが注視されるよりかはずっといいけどね。
ハクが注目を浴びるという事は、そのハクが影のように寄り添っている僕にも、色々と注目が集まるということだ。たまったものじゃない。
……そんな事を考えていると、後ろから、小声で何かが聞こえてきた。
「……まさか、此の私が、マスターを蟲共の見世物にするとでも御思いですか? マスター。
抜かりはありません。一般人や魔法関係者に対する認識障害に加え、
よって噂になる事も、話のネタにされることも御座いません」
たぶん、僕がそわそわしている事に気付いていたのだろう。
「え? だったら何で、最初から目にもとまる事が無いくらいの認識障害をかけないんだ? ハクなら出来るだろうに」
僕もまた、小声で聞き返す。
多分、ハクは僕の質問も予期していたんだろう。即答してくれた。
「無論可能ですし、御命令ならば実行しますが、それなら店に入って、レジに行っても無視されますよ。蟲全てに認知されないのも、マスターが望むことではないでしょう」
成程。確かに、すれ違う人はおろか、店員にまで無視されるのはキツイ。せっかく学園都市までやってきたのに、そんな幽霊みたいな扱いをされたくはない。
僕は小さく頷くと、娯楽街の奥の方へと向かった。
影のように寄り添う、従者を引き攣れて。
妖しげに周囲を睨みつける、美女メイドを引き攣れて。
原作より大幅スケールダウンした麻帆良。
でも、連合が逼迫している今では、そっちの方が都合が良かったりしています。
本作における麻帆良は、大部分をを自然地域(榛名達以外は入れない土地)が占めており、麻帆良学園都市自体の面積は小さめです。
表向きは「自然と共生した次世代型学園都市(笑)」。
ちなみに麻帆良魔法関係者では、真の支配者とも言える榛名達の事は有名。但し、連合首都を半壊させた事とか、連合に不利な事は一切知りません。
真実を知るのは学園長と……タカミチくらいでしょうか。
そのため麻帆良の大部分の魔法関係者にとっては、榛名達は唯の“不法占拠者(笑)”という設定。
御意見御感想宜しくお願いします。
〜おまけ ハク語辞典〜
・うちゅうむちゅう[有蟲無蟲]名
マスター(とハク自身)以外の全ての存在。蟲。いてもいなくてもいい存在。ていうか、今すぐ消してしまいたい存在を指す。