いい加減に、原作キャラと本格的に絡ませたい。
そう思ってやりました。
第拾捌話 カレへの依頼と王国記譚
「……はい? 何だって? もう一度言ってくれませんか」
ハク以外の事で当惑したのは、実に何年振りだろうね。
そんなことを考えながら、目の前で(なぜか)正座しているガトウさんを見る。
「……王国で、内乱が起こった」
「王国?……何処ぞの中立国じゃあないですよね?」
「あぁ。ウェスペルタティア王国だ」
ウェスペルタティア王国。浮遊島に建国された、世界最古の伝統的な王国だ。
伝統と格式溢れる
しかし、マトモな政府関係者は女王、つまりアリカ=アナルキア=エンテオフュシア女王だけとなってしまい、政変や内部分裂やらで大変な目にあっているとは聞いていたけど……“内乱”って、何さ?
ていうか、其れ程までの
「ハク……?」
嫌な予感をひしひし感じながら、恐る恐る後ろを振り返る。
すると案の定、
「ええ。把握しておりました」
花マルあげたいくらい無表情な我が従者が、あっけらかんと答えた。
「なっ……!?」
絶句するガトウさんに、頭を抱える僕。
ハクは、絶賛驚愕中のガトウさんには目もくれず、僕の顔を覗き込んで来た。
「現在、マスターと王国には、さして関係がありません。よって、報告の価値なしと思った故の判断ですが、いけませんでしたか?」
「………………いや、怒ってないよ」
「有難うございます。……おしおきなら、後で幾らでも受けます」
……怒ってないって言ったよね? まぁ、いいか。
「それで、其処の蟲は、マスターに何の御用ですか?」
ハクは一気に視線を冷たくさせ、ガトウさんを睨みつけた。
……ハクの方が怒ってたよ。
絶対アレ、「面倒事持ち込むんだったら、ぶっ殺すぞ」って言ってるよ。目が。
ガトウさんは……あぁ、気力で耐えてる……いや、わざとガトウさんの気力でもギリギリ耐えられるよう、ハクが調節しているんだろう。
だってハクの気迫って、戦場のど真ん中で出せば、全兵士を失神させるくらい凄いんだし。
絶対、本気の欠片も出していないよ。
「王国でアリカ様に牙をむいたのは、俗に“革命派”とも呼ばれる連中だ。保守派と革新派が、最悪の形で混ざり合ったような奴らだな」
ガトウさんがいうには、王国には主に三つの派閥があったそうだ。
一つは“保守派”。伝統を重んじ、(魔法)世界最古の王朝と国家体制をこのまま維持していこうとしている勢力。主に高名な貴族連中や、王の側近の子孫たち、或いは代々王家に仕えている連中で構成されている。此の派閥は、戦後処理で王家連中や貴族連中が大分減ったので、数としては少ない。
二つ目は“革新派”。現国家体制を“時代錯誤”と称し、新体制……民主国家への再編、或いは地方分権国家などへの移行を目指す連中。数は多いが、目指す理想の国家体系はバラバラなので、厳密に言うと一つの派閥ではない。要するに、纏まりは皆無。
そして三つ目。これが、アリカ王女や現王国主要幹部が属している、“現状維持派”。保守派と違うところは、ありとあらゆる手段を使って現国家体制に意地でも拘るんじゃあなく、“妥協点”として現状維持に留まっていること。国家の再編・変革云々よりも、今は混乱を抑えることに力を入れようとしている。
ところが最近、保守派と革新派が手を組んだらしい。
保守派としては、国家の威信を取り戻したい。が、何しろ魔法世界最古の国が、魔法世界崩壊に一枚も二枚も噛んでいたんだから、威信はどん底なんてものじゃあない。
声高に「伝統の危機である」と叫んでも、「お前らもその伝統とやらを壊そうとしてたじゃあねぇか」と言われれば、言い返す事も出来ない。
魔法世界では、
だから、『完全なる世界』の行為は、完全に“悪”の行為だ。
それに国ぐるみで協力していたんだから、そりゃあ権威は落ちる。
勿論、『完全なる世界』の息がかかった者は、連合や帝国、アリアドネーや中小国にまでいた。だから、権威が失墜していない国の方が少ない。
それでも連合、そして王国の失墜の度合いは群を抜いていた。
民衆はアリカ女王を支持しているが、それでも支持を集めているのは“アリカ女王”であって、“ウェスペルタティア王家”と“王立政府”ではない。此処が、話をややこしくしている。
アリカ女王は、『紅き翼』と共に、戦争を終戦に導いた“英雄”——ということになっている。
だからこそ、国民は女王に従っている。
が、アリカ女王が退位した後はどうなる?
たかが五〇年や一〇〇年では、失った権威は回復しない。記憶は伝承され、記録され、“歴史”、そして“汚点”となる。
それに、自分達はどうなる?
アリカ女王の隠れ蓑にならなければ、未来永劫非難され続けるだけ。そんな惨めな末路など、貴族や高官が納得するわけがない。
そのためには、自分達も“英雄”にならなければいけない。
“悪”の
その
革新派の方としても、現国家体制が存続している限り、国の大規模な変革などできない。王家を存続させるかどうかは兎も角として、せめてある程度の民主化は推し進めたいところだ。
此処に、両陣営の思惑は一致した…………………のか? なんか、納得いかないんだけど、ガトウさん曰く、そうらしい。
まぁ、それもガトウさんの見解で、“事実”かどうかは分からない。
「それに、王国の経済は酷い有様だ」
ガトウさんの説明、ていうか釈明は続く。
王国は、確かに戦火自体はそれほどでもない。理由は、浮遊島にある国家という地理的条件が、幸いした結果だった。
でも、メリットとデメリットってのは、紙一重なのが世の中の常道。
浮遊島という地理的条件にも、デメリットはある。
まず資源の問題。
これは島国にもいえることだけど、食料やら物資やら原料やら、兎に角資源が無い。
しかしそれでも、国民を飢えさせない程度には自給が出来ていた。
ところが、戦後の混乱や何やらで、自給率も国庫も減った。
次に流通の問題。
王国は空に浮かぶ国だから、フネで他国と輸出入する必要がある。
でも、貴重な船舶は混乱の最中で、少なくない数が喪失。近隣諸国からチャーターしようにも、戦争が行われた中で、軍艦・民間船問わず多くが失われた。特に連合の国際戦略艦隊は、ほぼ壊滅状態。
戦時中に優秀な民間船が、軍に徴集される事は、それほど珍しい話じゃあない。当然、軍が徴集した“元”民間船、或いは傭兵契約を結んだ民間船を攻撃しても、国際法違反にはならない。
ましてやこの状況下で、王国に支援する余裕がある国はほとんどない。完全に中立だった国か、或いはヘラス帝国か——。
…………ん?
「ヘラス帝国は? 色々な国を復興支援していると聞いたけど?」
「王国は特別だ。というより、王国の位置に問題がある」
え? ウェスペルタティア王国の位置?
……あ。
思い出したよ……。ウェスペルタティア王国って、ヘラス帝国とメセンブリーナ連合の二大超大国に、ちょうど挟まれた位置にあったんだった。
それってつまり、帝国の支援を王国が受けたら、連合は、自国の目と鼻の先に敵国の潜在的同盟国をが生まれるのを、座視することになるってことだよね。
あぁ、そりゃあ無理だわ。
つまり王国は、この状況下で、何処の国の支援も受けられない状態ってことか。
「民衆は? どっちについているんですか?」
「どっちつかずが半分、残りはアリカ様よりといったところか。だが、国民自体は動いていない」
「そりゃあそうだ。民衆の手による革命じゃあなくて、唯の政府の内部争いなんだから」
「其れに国民は懐疑的だ。何が正しくて、何が違うのか。アリカ様は正しいのか? 其れも分からず、混乱している。唯、国外脱出はほとんど考えていないみたいだが」
「究極的な事を言えば、国民にとって“正しい
自分達が其れなりに食って、其れなりに生活できれば、殆どの国民は文句は言わない。
其れくらいの事は、知っているでしょう?
だからと言って、国民が内乱に巻き込まれてやる義理も無いでしょうし」
「あぁ。……全く、変わっちまったものだ」
そう言って、ガトウさんは頭を抱えた。
「それで、ガトウさん。結局、何をどうしてほしいのですか? まさか、『女王側に立って参戦しろ』とか、『金を貸せ』何て、言いませんよね?」
「勿論だ。王国の事情を
……もう
そんな言葉が口から出かけたけど、寸でのところで堪えた。
「ハク、こ——」
「紅茶おかわり」と言おうとしたら、すでにティーカップにイイ感じの色の紅茶が注がれていた。
忘れてた。ハクは何時も、僕が頼む前に紅茶とかお菓子とかを用意してくれていたんだっけ。
「“こ”?……あぁ、此の蟲を殺せば良いのですね?」
「…………………いや、全然違うから。ハク、わかってやっているでしょ?」
「申し訳ありません、マスター。つい本音が」
……ハク、無表情でそういう軽口言われると、言われた方はめちゃくちゃ怖いんだよ?
あと、ガトウさんにも聞こえているから。
ガトウさん震えているじゃん。
ハクのガトウさんを睨みつける目、あれはマジの目だ。太陽をも凍らせるような目だ。
「頼みたいのは、
「彼女……?」
そう言って、ふと横を見ると、
「……こんにち、わ」
…………………………………………………………………すっっっっっっっっっごく見覚えのある少女、いや幼女が、いつの間にかソファをよじ登って、僕の真横に座りこんでいた。
「ア、アスナ姫……」
王国の
……名前長いよね。何時も思うんだけどさ。
ペタリ、とソファに座ったアスナ姫は、こてんと首を傾げ、置物か何かのように僕を見ている。
何しろ僕には、一〇歳近く年が離れた妹がいたから、こういう子供と遊ぶのは慣れているし、正直、子供は好きだったりする。
それにこの子は、雰囲気が妹の
その所為か、大分……いや、ものすごく懐かれた。
ハクも、「子蟲なら問題ないでしょう」と放置していたし、慣れた手つきで、アスナ姫の御世話とかしていたっけ。
「ひ、久しぶり……」
「……うん、ハル、ナに会え、て嬉、しい」
そう言って、フラフラと、いや、ヨロヨロと近付いてくるアスナ姫。
この子はこれまで、ロクでもない扱いを受けていたからか、舌足らずで無感情、感情の起伏もほとんどない。
無表情の幼女がヨロヨロと寄ってくるって、けっこう怖かったりする。
逃げるほど、鬼畜な真似をするつもりはないけどさ。
「ていうか、今までどこにいたの? 全然気付かなかったんだけど」
「……うし、ろ」
「後ろ?」
そう言って後ろを振り向くと、あるのはソファの
………………………あぁ、ソファの後ろにいたのか。そりゃ気付かないなぁ。
それで、いつの間にか回り込んで、ソファをよじ登った、と。
ッてちょっと待って。
王国がエライことになっているってのに、何でこんなところにその国の姫がいるのさ?
「聞いてくれないか、キラ」
ガトウさんが済まなそうに言ってくる。
ちなみに、“キラ”というのは僕の事だ。
本名で言うと、ハクがマジギレするから、折衷案でこうなった。『
ちなみに、アスナ姫だけは特別。「子供だから許してくれないかな?」ってハクに頼み込んだら、けっこうあっさり許可を貰った。
「
「これは、アリカ様、そしてナギの願いだ。これ以上、アスナ姫を戦に巻き込むようなことは避けたい。
それにもし、アリカ様が失脚でもしてしまったら、アスナ姫は、王族の生き残りとして祭り上げられるか傀儡にされるか、或いは処刑されるか。それでないなら、兵器扱いされるかだろう。
そんなことを許すわけにはいかん。頼む」
そう言って、頭を下げるガトウさん。
……ん?
「ちょっと待ってください。アリカ女王と
「ん? あぁ、聞いていなかったか。ナギはアリカ女王と婚約した。非公式だがな。まだ表舞台へ、王家として出すわけにはいかんからな」
へぇ、そうだったのか……。ん? そう言えば僕、アリカ女王とは一言くらいしか会話していないけどなぁ?
「何で僕なのです?」
「……キラには失礼だろうが、消去法なんだ」
……ハク、眼が物凄く怖いんですけど。
「ナギは世界中を飛び回り、地域紛争の停止に動いている。俺には調査の任務があるし、タカミチは
ゼクトは旅に出て消息不明。クルトは連合にいる。連合の下はもっと危険だ。ラカンは暴れまわることしか考えていないし、帝国のテオドラ様の元に預けるのは外交問題となる事確実だ。アルは……アイツ自体が危険だ」
あ。そういえば、アルってロリコンだったっけ。
……うん、アルの下だけは駄目だ。何があっても駄目だ。その時は、悪いけどアルには犠牲になってもらおう。
ハクの本気の蹴りの。
「……つまり、僕しかいない、と?」
「そうだ。キラたちは旧世界、魔法世界各国のどの国にも属していない。関係はあるが、
悔しいが、俺にはキラに頼る他、選択肢が無かったんだ。
勿論、彼女の養育費や報酬は払おう。王国にも、そのくらいの余裕はある。
期間は……済まないが、最低でも二、三〇年は。今回の騒動、其れくらい経たねば、収まりそうにない」
「ならば、アリカ女王ごと——」
「それはできないんだよ。国家の指導者の面子がある」
………………僕が如何こう言う話じゃあないか。
「ハク、僕は了承しようと思うんだけど……」
「今回の件」
後ろを向こうとすると、ハクが突然鋭く言った。
……飛び上がるかと思った。僕の心臓が。
「——第三者に漏れていませんか?」
「其れは心配ない。誓って、だ。今回の件は、アリカ様とナギ、そして俺だけで決めた事だ。タカミチも知らん。
アスナ姫の世話も、主にアリカ様だけで行っていた。それに、身代わりも用意してある。
アスナ姫は、存在そのものが
「そうですか」
ハクは二回頷くと、じっと僕を見た。「任せます」という意味だ。
……珍しく、ハクが僕以外に敬語を使った。
其れを確認すると、僕はガトウさんに向かって、頷いた。
僕だって、知り合いの子供が不幸になるのなんて、出来る限りは避けたいんだよ。
……世話や教育は、ハクに丸投げしよう。子育てなんて無理だ。
遊ぶくらいは、できるけど。
………………………あぁ、僕って莫迦だ。
ハクに教育を任せちゃったら、あんな性格になるよなぁ……。
何て、後になって後悔するんだけどさ。
私が思うに、仮にアリカが処刑されなかったとしても、王国が存続できたかは疑問が残ります。
もともと伝統だけで持っているような国からアスナを取ったら、それこそプライドしか残りません。
そんな国に戦後の混乱が襲えば、こんな感じになる……と思ってこうしました。
あくまで私の独自解釈ですので、罵詈雑言はなるべく無しでお願いします。
あとおかしな設定も、独自設定という事で。
あとアスナはあくまで家族役|(みたいなもの)。ヒロインにはなりません。どっちかっていうと、ハクにコキ使われるキャラになる予定です。
御意見御感想宜しくお願いします。