子日にスポットを当てた一人称版。
彼女の視点も、いずれは本編に出てくると思います。
番外編第弐話 とある妹の開幕
こんにちは、はじめまして。
趣味は読書。あと絵を描く事。こう見えても、コンクールに出せるレヴェルです。
コンプレックスは一六〇センチの長身と、初対面の人に十中八九「保健室、行く?」とか「大丈夫?」とか言われるくらい、顔とか肌が白い事。
あ、
私、周囲からは“生真面目”だとか“優等生”だとか、“テンプレ委員長”だとか言われていますし、自覚はありますけど、表に出せないだけで、結構兄さん——綺羅川
軽いんですよ。表に出せないだけで、家族も私の素顔を知らないと思います。
あ、話題を変えても良いですか?
実は私、先程……って言っていいのかわかりませんけど、兎に角、死にました。
それだけなら、まぁ新しい身体に生まれ変わって、日本か何処かの国に生まれていたんでしょうけど、そうは問屋が下さず、生き返りました。
いえ、正確には違います。
別の人間の魂に入り込んで、其れに成り代わった……簡単に言ってしまうと、“憑依”というもののようです。
というのも、私は死んだ後に、神様に会いました。
……ええ、自分でも、莫迦げた事を言っているくらいの自覚はあります。
その人が言うには、私、というよりも私たち“兄妹”の死が、神様にとって予定外だったようです。そこで、五つの願いを叶え、別の世界の人間に憑依させてくれるそうです。
其れを知った時、歓喜しました。主に私の心が。
だって、また兄さんに会いに行けるのですから。『ネギま』が何だとか言われましたが、そんなのはどうだっていいんです。
私は真っ先に、「兄さんのいる世界に行きたい」と願いました。
これが転生だったら、
どんな人間に憑依するのかと聞いたところ、性別が女性で固定されている以外はランダムだそうです。
特定も可能だそうですが、それも“願い”にカウントされてしまいます。
とはいえ、私は『ネギま』のキャラクタなど知りません。なので、「兄さんと関係を持つ事が可能な人物」ということにしてもらいました。
残る願いは三つですが、困りました。
兄さん以外に、特に望むものがありません。
身体能力とか魔力とかは、漠然とし過ぎて浮かびませんし……第一、無理すぎます。
私、体力の無さは、胸を張って誇れるレヴェルなんです。
……………………あ、そうだ。父さんと母さんのことを。
あの親馬鹿二人だけをそのまま残して逝きたく——いや、生まれたくないですし。
というわけで、三つ目の願いは「父さんと母さん、そして元々いた世界から、私と兄さんに関する記憶や痕跡を消してほしい」。
これであの両親も、悲しむことは無いでしょう。
もう会えない以上、仕方がありません。これしか思いつきません。
……………………………………別に「これで、もうあの世界出身で兄さんのことを知っているのは、兄さん、そして私だけ……」何て腹黒いこと、考えていませんよ?
フフフ。
残りは……「ある程度の敵は倒せる程度の実力にしてください」にしましょうか。殺されるのなんて御免です。
魔法だの何だの言いますけど、要は魔法使いって、たくさんの武器を持っているようなものでしょう?
小銃とかミサイルとか爆弾とか。
そんな人たちに襲われたら、口喧嘩すらした事の無い私では、逃げることもできません。
死ぬなんてまっぴらです。せめて、もう一度兄さんに会って、兄さんの腕の中で死にたいです。
……何を言っているのでしょうか? 赤面モノです。
私の表情、そうそう滅多に変わらないのですけど。
兄さんが死んだ時だけは、号泣して、喚き散らしましたが……当然でしょう? 世界で一番、大切な人を失ったのですから。
最後の五つ目は……そうだ!
兄さんへプレゼントした、イルカのペンダント。
私のと対になっているペア・ペンダント。
これを持っていけるように……。
それで、目を覚ましたら、コレですよ。
ちょっぴり期待していたんですよ? 目を開けたら、兄さんが微笑んでいてくれるって。
……何ですか? コレ。
何でローブ姿の見知らぬ男が、私を凝視しているんですか?
何か腹が立ってきました。
「……あ」
ポケットに違和感。
探ってみると、そこにはイルカのペンダントが。
用意が良いですね。
さっそく装備しましょう。
「…………う……」
瞬間、頭が、いや脳と言うか意識と言うか、色々なものが一気に覚醒し、頭の中で炸裂しました。
まるで、超弩級に強烈なミントの香りを、無理矢理味合わされた気分です。
とはいっても、スッキリ爽快! 何てことにはなりません。刺激は刺激でも、不快な方の“刺激”です。これは。
……あぁ、
私は“
またの名を、“水のアーウェルンクス”。
「おはようございます、デュナミス。早速ですが、貴方の心臓と肺と肝臓と腎臓と
生まれたてで、聴覚の操作が上手くいっていないのか、やたらと頭に響き渡ります。
おまけに頭もボーッとします。壊れた
目は霞みますし、平衡感覚もオカシイです。
まるで、頭の中でオーケストラと合唱とミュージカルとオペラが一斉に開幕し、ノートルダムの鐘の音がそれに加わったような大音響。いや、超音響です。
二日酔いの人って、こんな気分なのかもしれません。
「……いきなり毒舌だな、セクストゥム」
「好きで毒舌になっているのではありませんよ。あぁ、頭に響きます。あぁ、脳が壊れます。もうちょっと離れてください。
それと、椅子でも何でも良いので用意してくれませんか? とにかく今は座りたい。いや、できれば横になりたいです。
あと、できればソフトドリンクを一杯」
地べたに座り込むなんて、はしたない真似はしません。
それにしても私、以前と比べてだいぶ舌が回りますね。
苛々しているせいで、思った事がすぐに口から出てしまいます。
まぁいいですか。
相手は
少しくらい、八つ当たりさせて下さいよ。
目の前に兄さんがいることを期待していたら、無駄にイケメンのローブ男がいたのですから。
あの後ソファに横になって、少し落ち着きました。
家なら絶対しないでしょうが、今ははしたなくても構いません。要は、兄さんと厳格な母さんに見られてなければ良いのです。
室内で靴を履いたまま、ソファに倒れる。
アメリカンスタイルです。
基本スカートかワンピースだった私にとって、スラックスというのは中々にして新鮮です。
ソファの前には、小さい正方形のテーブルが一つ。モノクロデザインの、
そのテーブルの上には、レモネードの入ったコップが置かれています。デュナミスが用意してくれました。
美味しかったです。意外と。
見た目は不遜なイメージですけど、意外と面倒見が良い人みたいです。所作がさり気無い辺り、女性をエスコートするのも、案外得意かもしれませんね。
額に手を当てて天井を見ながら、デュナミスに“組織”——『
大体頭に入っているのですけど、これ、必要なのですか? 私、“二度手間”は大嫌いなのですが。
天井でくるくる回っているファンを(だから何で
「それで、綺羅川 榛名と、その従者の事だが—————————————」
……………………………………はいぃ!?
「ちょ、ちょっと待ってください。その、キラカワって……」
あ、ああああああああああああああああああ焦るな私!! ど、同姓同名の他人かもしれない。まさか、本名で此の世界で暮らしているわけ……ありそうですね。
「親から貰った名前を捨てたくない」とか言いそうですし、兄さん。合理的に見えて、意外とそういうところを気にするんですよね、あの人。
「あぁ。協力者、みたいなものだな。一番目が言うには、「変わっているというか、掴みどころが無い。でも、彼がいなくなってはいけないような雰囲気を感じる」とか言っていたな」
……。
…………。
………………。
…………………………兄さんだぁあああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!
「掴みどころが無い」、「でもいなくなってはいけないような雰囲気」…………間違いない、長年の親友とかから、密かに「アイツは
いや、確かに「兄さんと関係を持つことが可能な人物」って願いましたけど、関係早ッ!!
……ふぅ、私ったら、はしたないですね。
「それで、お前の任務は———————」
「あ、もう決めました」
「……何?」
デュナミスが片眉をあげますが、そんな事は気にしません。
「まずは修行です。一通り能力を確認して、そして—————————協力者に、会ってきます」
フフフフフフ、近いうちに、会いに行きますよ、兄さん。
前話と同時に執筆していたので、早めに更新。
彼女が榛名達に合流するのはもうちょっと先、薬味襲来辺りからです。
それまでは、彼女は榛名達とは別行動です。
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