アスナ・刹那・木乃香の三人娘のフラグ回。
そろそろ原作突入が近いですね。
第弐拾弐話 カレと回天と長代理
ウェスペルタティア王国の内乱は、未だ大混乱の呈を示しているらしい。
そして、ついにハクから凶報(?)が舞い込んできた。
アリカ女王、そしてナギが行方不明になったそうだ。ついでに、ガトウさんとも音信不通。
アリカ女王とナギの婚約(あと子供も生まれたらしい)は、未だ大衆の知るところではない。
取り敢えず、王国には王立政府の代わりに暫定政府が成立。国号は“王国”だけど、“王が不在の王国”という何とも微妙な国家になった。
このままアリカ女王が行方不明のままなら、一〇年とかからず新王家が誕生するか、共和国に再編するだろうね。
幸いと言うか何というか、暫定政府に連合が本格援助を始めた。
取り込もうとする魂胆が見え見えだ。
でも、当然帝国は良い顔をしない。
帝国もまた、暫定政府への援助を行った。
御蔭で、政府も民も飢えることだけは防げている。
その代わり、今や王国は第一次世界大戦時のバルカン半島のような有り様——要は、“
もっともハクは、まるで天気予報か何かの様にあっけなく言っていたけどね。「次の戦争は王国が中心となるでしょう」って。
因みにガトウさんが音信不通になった時、咄嗟にハクを問い質した僕は悪くないと思う。
ハクは残念がっていたけどね。「殺せなくなった」って。
———————————————————————————————九割は本気だったと思う。
それと、アスナは
だから実年齢は全然違うけど、今の外見年齢は、アスナと刹那は同じくらいだ。
相変わらず、教育方面はハクに丸投げだけどさ。
そんなこんなで四人暮らしをしていた時に、
無論、非公式で。
呪術師、特に日本国内の呪術師は、一部(皇室や幕府・藩お抱え)を除いた殆どが一般民衆と共に生活していた。
その分、民間人から隔離されるように暮らしていた旧世界の西洋魔術師や、魔法が広く知られている
だから学園側に知られず、少人数が侵入することは、それほど難しいことじゃあない。
おまけに今回は麻帆良学園都市に入らず、直接
あと、関西呪術協会の表向きの長は詠春さんとなっていて、木乃魅さんは長代理だ。
でも、詠春さんがあくまで一介の武人(剣士)で、政治家には向かないこと。そしてあくまで余所者(神鳴流)であることもあって、詠春さんは戦闘方面を担当。内政とか外交関係は、木乃魅さんが“補佐”という形で丸々引き受けている。
勿論、正式な場では詠春さんが長になっているから、木乃魅さんが表舞台に出ることはそうそうないけど、敢えて悪い言い方をすれば、政治方面での詠春さんは木乃魅さんの傀儡だ。
当然、詠春さんはそれを自覚しているし、納得もしている。
『紅き翼』という
話を戻すけど、つまりは木乃魅さんが来ると言うことは、
「……生憎、此方は紅茶と珈琲しか用意しておりません」
ハクがあからさまに不機嫌そうな表情で、木乃魅さんを睨みつけた。
因みに、木乃魅さんは一人で来た。この人、やっぱり胆力がある人だ。
ハクが怒っているのに、ひたすらニコニコしたままだ。
「其れは残念ですなぁ。でも、榛名はん、日本人なら緑茶や抹茶に拘らなぁあかんよ? ちょうど良い茶葉を御土産に持ってきたから、これを機に、どうや?
ハクはんやったら、並の茶屋より美味しく淹れられそうやし、茶葉もその方が幸せやろうしなぁ」
そうも言いつつ、ハクがぞんざいに置いたティーカップに口を付ける木乃魅さん。やっぱり公家の人だからか、その様子はとても優雅だ。
「……で、どうなさったのですか? 娘自慢ですか?」
「其れも悪くはないし大外れでもないんやけど、ちと違うんよ」
僕の質問に答えるように、木乃魅さんは風呂敷から書類を取り出した。
「実は娘——木乃香を、麻帆良学園に通わせることになりました」
同時に口調も、流暢な標準日本語に変わる。
雰囲気もガラリと変わって、木乃魅さんは目を光らせた。
……………………あ、厄介事なのは確実かな?
って……今何て言った?
「木乃魅さん……冗談ですよね?」
「…………………………仰りたい事は、よぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおくわかるので……あまり突っ込まないでほしいです」
麻帆良学園都市は、関東魔法協会の本部も兼ねている。呪術協会からすれば、仮想敵組織のど真ん中だ。
そこに西の長の娘を送る?
厄介事にしかならないでしょ。
「……理由は?」
「現在呪術協会、そして魔法協会は、“冷戦”とも言える此の状況の打破に動いております」
面倒だから、木乃魅さんの話を要約する。
西と東は、両方共に、此のいがみ合い(そして小規模な小競り合い)を何とかしたいと思っている。
東がそう思っている理由は、極度の戦力不足だ。
連合の財政難と戦力不足の影響で、麻帆良は専守防衛が精一杯—————いや、それすら妖しい状況。戦争っていうのは、護りに徹していては絶対に勝てない。
長期戦は危険だし、何より麻帆良側にとって“防御に徹する”ということは、学生や民間人を戦禍に放り込む事と同義語だ。
だから、決して許されない。
とはいえ、打って出たところで戦力差は圧倒的なのだから、
そして西の理由は、国外問題と世界樹の問題。
西と東だけでは、確かに西の方が戦力でも地理的にも有利だ。
でも、東との全面戦争は、連合への宣戦布告に等しい。
幾ら呪術協会でも、魔法世界の(弱っているとはいえ)大国を相手にするのは厳しいし、勝てたところでメリットは麻帆良と世界樹の奪取のみ(流石に魔法世界に乗り込もうとする者はいないと思う)。
はっきりいって、割に合わない。
確かに事実上日本全土を影響下に置ける事と霊地、そして世界樹を手に入れられる旨味は大きい。
が、その代償として呪術師サイドに大被害が出ては、元も子もないし、敗戦の可能性も零ではない。
そして、現実世界には呪術協会を良く思っていない魔法組織も少なくなく、魔法世界に構ってばかりもいられない。
アラスカ魔術連合とかの同盟組織も多いけど、敵もまた多い。
戦力の分散は下策中の下策。
だから西としては、とっとと麻帆良と
そして、麻帆良には世界樹がある。
世界樹を支配下に置くのは無理だけど、“暴走”させるのはそれ程難しくはないそうだ。
つまり関東魔法協会は、やろうと思えば世界樹を利用して、敵も味方も全て巻き込んでの自爆が可能。
勿論、そんな莫迦げたことをやるとは思えないし(ていうか、そこ貸しているだけで僕の土地だし、世界樹も僕のものなんだけど)、そんなことしたら日本列島どころか東亜(東アジア)が滅びる。
でも、連合ならやりかねない。
まったく、大戦末期にパリに爆弾しかけるよう命じた(各将軍の独断で実行されなかったけど)ヒットラーが可愛く見えてくる。
どうでも良い雑学だけど、各将軍がヒットラーに逆らったのは、ドイツ軍の将軍ってのが大抵プロイセン貴族だったからだ。
ドイツの貴族は武人が多かったけど、それ以上に芸術を愛した人が多い。芸術方面に明るい人にとって、パリを破壊しろなど狂気の沙汰だからね。
ヒットラーも一応画家志望だったんだから、パリの価値くらいわかるだろうけど、やっぱり焦っていたのかねぇ。
……話が逸れた。
でも、西と東の確執はそう容易く収まらない。
そこで、ある種の“交換留学”が行われることになったそうだ。
つまり、東西交流にかこつけて、両方に人質を送り合う。
それで、西からは長の娘の近衛 木乃香。そして教師役として
東からは、麻帆良有数の実力者である
木乃魅さんが言うには、麻帆良学園長は魔法教師を四人も寄越すのを渋っていたみたいだけど、呪術協会は「長の娘を送るのだから、魔法協会もそれなりの面子を寄越すのが常道であろう」と言って、戦力を武器に猛然と言い張ったそうだ。
「いやぁ、あの時の御父さん……近衛 近右衛門学園長の顔色は、溜飲が下がりましたよ」
木乃魅さんはそう言って笑っていたけど、やっぱり近衛家なのに東のトップになった学園長を、木乃魅さんは快く思っていないのかなぁ?
プライベートに関わる事だし、突っ込むのはよしておこう。
「麻帆良の学園長殿は、読みが甘いですなぁ。……麻帆良に
実は木乃香は、すでに陰陽道については木乃魅さんから教わっている。
詠春さんは反対していたけど、木乃魅さんは「この子は強大すぎる力をもっとる。魔力タンクには、武器が無いとあかん」と言って、詠春さんの言葉を斬り捨てた—————ってハクから聞いた。
でも、その事は呪術協会の上役数人とその部下、あと僕達くらいしか知らない。
「御父さんの気持ちも分からないでもない。要は私と同じやからな。
でも、西洋魔法を教え込むのはマイナスや。東西融和どころか、確執に油を注ぐことになる」
東には西洋魔法至上主義者と言う感じの人がいるし、西にも東洋呪術至上主義者と言う感じの人がいる。
大方、学園長の魂胆は、西の長の娘に西洋魔術を覚えさせ、其れを東西融和の象徴とするつもりなんだろうけど、西からすれば、それは暴挙以外の何物でもない。宣戦の理由にすらなる。
「そこで、榛名様達に木乃香をさり気無く……本当にさり気無くで良いので、護衛、そして学園長殿の監視を頼みたいのです」
そう言って、木乃魅さんは深々と頭を下げる。
「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん……」
ハクに任せれば、それで済む話なんだけど………………………………あ、そうだ。
これを機に、アスナと刹那を学校に行かせてあげよう。やっぱり、そういうのは必要だと思うし……。
認識障害をかけて、“綺羅川”の名字を使っていてもわからないようにしていれば……問題は無いと思う、きっと。
でも、二人だけじゃあ心配だから、ハクの分身体に護衛とか監視とかを頼もう。
そんな事を考えながら、僕は木乃魅さんに頷いた。
詠春さんの奥さん、木乃魅さんは本作のオリキャラです。
詠春さんと違って政治方面を担当。思考も豪胆でリアリズム、木乃香を“裏”から遠ざけるのは愚策として却下したツワモノ。
木乃香達が麻帆良に通う理由はこうなりました。
なお、直接描写はしませんが、ネギは原作通りウェールズ在住。
ザジはもう一人のレイニーディ(ポヨポヨ言ってる人)が普通に『完全なる世界』側で孤児救済などに手を出しているので、「人を知る」ために麻帆良行きで普通にいます。
真名は神多羅木教諭らの代わりに麻帆良に雇われて麻帆良行き。超もスタンスや立場は原作と異なりますが、“とある理由”により麻帆良に来ます。
要は、3−Aの面子で原作から欠けている人はいません。
増えることはあり得ますが。
御意見御感想宜しくお願いします。