テストやレポート提出が近付いてますので、さっさと麻帆良編に入りたいのですが……間に合いそうにありません。
テストが始まったら更新が停止するでしょうし、夏休みになって帰郷したらPC使えないし、如何したものか……。
学園長とのお話編です。
本作の学園長、死亡フラグしか立ってません。
あと、次話から「アスナ」表記を「明日菜」表記に統一します。名字も刹那と共に「綺羅川」とします。
第弐拾参話 カノジョとカレの娘の学園対談
最近、マスターが御喫煙なされる回数が増えています。
私としては大問題です。
健康上は、マスターは実質的な不老不死ですし、常にマスターの健康をチェックして不具合が生じるたびに治療していますので問題ありません。
ですが、此れはマスターのストレスが増加している証。見過ごすことなどできません。
やはり、あの呪術協会長代理が此処に来た時点で、あの雌蟲を始末しておくべきだったのかもしれません。
マスターが首を縦に振らなければ、私は確実に、あの雌蟲を嬲り殺していたでしょう。
もどかしいですね。
マスターが御許しくださるのなら、すぐにでも殺しに行けるのですが……。
いえ……あの雌蟲は今は、いえ、最初からどうでも良い。災厄の種であることなど、此の世の蟲全てが
マスターにとって、無害な蟲など存在しません。
マスターに完璧に尽くせるのは、私だけです。
そう思いながら、私はマスターの御心労が少しでも減るように、マスターへの御奉仕を続けるしかありません。
マスターが少しでも気持ち良くなって、煩わしい蟲共の記憶が、一時でも離れるように。
私の身体を余すことなく使い、マスターに捧げ尽くすのです。
……あぁ、何か余計なモノまで思い出してきました。
あの煩わしい蟲が……。
数日前、関東魔法協会理事室(麻帆良学園学園長室)に、三人の客人が訪れた。
正確には、二人の少女と一人の青年だった。
少女たち二人は麻帆良学園本校女子小等部への入学試験に合格した新入生で、オレンジがかった明るい髪をストレートにしているオッドアイ少女は
二人揃って、下したばかりの本校女子小等部の制服に身を包んでいる。
一方、残りは黒髪の細身で柔らかな物腰の青年で、黒いスーツに藤色のネクタイを締めている。
いつもは革ジャンとジーンズ姿が多い此の青年は、
本物の榛名は、本物のハクと共に家に残っていた。
理由は、三人の目の前にいる老人————学園長に、榛名の能力などを隠しておくためだ。
高位の術師なら、相対するだけで相手の実力はある程度把握できる。
無論、ハクの力で明日菜や刹那の力も含め、隠すことは可能である。
が、念には念を、だ。石橋を叩き過ぎて困る事は無い。
アスナや刹那の能力や実力が知られても、痛手とはいえ如何にかなる。が、榛名の能力や実力が知られる事は、大きすぎる痛手——というのが、ハクの見解だった。
後はハクの個人的感情で、本物の榛名の姿を学園長の前に曝したくなかったというのも大きい。
もっとも、明日菜と刹那も、反対する理由は無かったので(それ以前に怖すぎて反対などしたくなかったので)、寧ろ進んで本物の榛名が同行することを反対したのだが。
「それで、関西呪術協会より依頼を受け、我々が
とはいえ、実際に護衛するのは彼女たち二人だけです。
なお、“護衛”とは近衛 木乃香に降りかかる危険を排除すること、彼女への魔法バレを防ぐこと、彼女の肉体・精神面での自由に、束縛からの解放も含まれております」
何十年も前から榛名だけを見つめ続けていた、ハクだからこそできる所作だ。
榛名の挙動や発言を逐一記憶しているハクにとって、榛名の真似をするなど容易いことである。
その所作は、榛名の娘(書類上は)である明日菜と刹那からして見ても、思わず「本物の榛名だ」と思わせてしまう程自然だった。
そして学園長は、書類に目を落としながら顔面蒼白で震えている。
まさか
「木乃香の護衛役として人員を送り込ませてほしい」という
此れで、木乃香に(魔法関係者が)不用意に接触しては、麻帆良が滅ぼされる可能性すら浮上してきた。
そしてそれは、木乃香の祖父である学園長自身も例外ではない。少なくとも、
「木乃香に何かあった場合、此方は契約に基づき報復を行いますし、呪術協会も宣戦布告と受け取ります。
手始めに呪術協会に派遣された或いは派遣予定の魔法協会人員を処刑し、麻帆良に軍団を送り込む予定——とのことです」
一方的な宣言だが、学園長は其れに口出しすらできない。
呪術協会の言い分は至極もっともだし、綺羅川 榛名は麻帆良の裏の支配者だ。
しかも此方には、部下が独断で——とはいえ襲撃をかけたり、“自然調査”にかこつけて無断で結界内の調査にあたった(結果は何の成果も出なかったが)という負い目もある。
此方は土地を借りているだけで、向こうが法的にも実力的にも何もかもが上なのだ。
まさに、絶対的な差だ。勝ち目などありはしないことを、学園長は良くわかっていた。
が、何時の間にやら、その勝ち目も無い相手と呪術協会が手を組んでいたらしい。
いや、単に依頼を受けただけなのだが、それでも麻帆良側からしてみれば、其れはどっちにしたって凶報以外の何物でもない。
「し、しかしの〜、綺羅川 榛名君の名は、麻帆良……連合にとっては
そう言って、学園長は糸口を見つけようとする他はなかった。
が、此れは愚策だった。
榛名に化けても、いや、化けているからこそ、榛名への忠誠心は一ナノメーターも減ってはいない。
因みに、この事は
そして明日菜と刹那も無表情ながら、あからさまに不機嫌となった。
明日菜は片眉をあげて唇を噛んでいるし、刹那は額に青筋が浮かんで口元も歪んでいる。
「其れが何です? 別に
それに、其れが如何したのです? 貴方達は、
遠回しな言い方に、
が、その意見は正論だった。
それだけに、学園長は呻くしかできなかった。
何も犯罪者の娘だからと言って、彼女たちを逮捕して裁判にかけたり、攻撃したりすることは許されない。
許されないのだが—————それがまかり通ってしまうのが、“正義の魔法使い”の組織であり、麻帆良であり、メセンブリーナ連合なのだ。
犯罪者の家族・仲間・友達もまた、犯罪者に違わない。だから、我々“正義の魔法使い”が裁きを下す——そんな無茶苦茶な論理を、彼らは信じて疑わない。
無論、例外も多いが。
そもそも“
では、“犯罪”とは何か?
一般に犯罪とは、“刑法その他刑罰法規(要するに法律)に規定される犯罪構成要件に該当する有責且つ違法な行為”と定義される。
敢えて、誤解されかねない程簡単に言うと、法律に違反することが犯罪である。
「何を当たり前なことを」と思うかもしれないが、此処で疑問に思わないだろうか?
犯罪者の家族・親族・知人etcであることが犯罪行為など、一体何処の法律に明文化されているというのか。
それ以前に、容疑者の行為が犯罪かどうか(即ち法律に違反しているか否か)は、専門の司法機関(日本国で言うところの裁判所や法務省)の仕事であり、言わば現場レヴェルで対応する“正義の魔法使い”(警察)の仕事(管轄)ではない。
つまり“正義の魔法使い”の行動は、現代日本国で例えるなら、警察官が自分で逮捕状を作成し、自分で犯罪者に発砲したり拘置所に送るなりして、自分で裁判を行い、自分で判決を下すようなものなのだ。
この時点で、現代日本国の常識に染まりきった人間は、思わず唖然として目を
日本人なら、警察と検察と裁判所が全く別系統の組織であることくらいは御存知だろう。少なくとも、日本国ではそのようなシステムが成り立っている。
本来なら、“正義の魔法使い”も
そんな歪な組織が、麻帆良であり、連合なのだ。
無論、緊急時に備え、現場(個人)にある程度の裁量権を与えるのは、決して間違ってはいない。
いちいち上に御伺いを立てていれば、捕えられる犯罪者も捕えられなくなる。
が、現在の“正義の魔法使い”の場合は、その裁量権があまりに大きすぎる、というよりかは曖昧すぎるのだ。
「それ以前に、僕……いや、私の罪歴は削除されているはずですが? 犯罪者ですらない者を、おまけに子供を、貴方がたは襲うのですか?」
「…………………わかった。孫娘を宜しく頼むぞい」
「言われるまでもありません。っていうより、言われる筋合いがありません」
不機嫌そうに
無論、
「それで、お主らに頼みたい事が————」
「あ、却下」
「ほっ!?」
「明日菜、刹那。学園長殿は執務に忙しい。これ以上邪魔するのは失礼だろう。さっさと退散しようじゃあないか」
「はい」
「諒解です」
何故か陸軍式の敬礼で応える明日菜と刹那を引き連れ、
雑音を無視して。
ハクは榛名を束縛しているようですが、あくまで榛名を危険に遭わせたくないだけです。
榛名自身も納得しています。
御意見御感想宜しくお願いします。
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夢が叶ったぁ!! 本当に感謝感激です。
最近は、交渉とか対談とか地味な話が続いていますが、此れも布石のため仕方が無いということで。此れから先は原作に突入させ、子日と合流させ、いつも通りのほのぼのを目指します。