初の刹那視点回です。
明日菜視点も書いてみるつもりです。
今回、いきなり時間が飛びます。中学一年へと。原作突入まであと少しです。
第弐拾肆話 娘二人の進学
私達、つまり
本校では、中学生から寮生活となります。
そのため、私達は中学進学早々、泣く泣くお父様と離れることになってしまいました。
まぁ、此れもお父様とハク様の、私達に経験を積ませるための御好意ですから(ハク様の場合は九割九分九厘悪意でしょうけど)、それに何時までも駄々をこねるような年でもありませんし……ハク様が怖いですし……どの道、護衛対象のこのちゃんが、京都に戻れば任務終了。
精々高校か大学までですから、一〇年かそこらの我慢です。
それに、ハク様に転移術式を教えてもらいましたから、何時でも戻れますので。
1−AでのSHRが終わった後、私は寮で同室となった少女と、部屋で荷物整理に明け暮れてました。
ダンボール箱とかに梱包された荷物は、業者の人(お疲れ様です)がリストと一緒に置いていってくれています。
其れを見ながら、私と
此の真名という少女は“裏”の人間で、旧世界でも屈指のスナイパー。おまけに魔法にも精通している傭兵です。
学園の警備任務にも参加しています。私はしていないのですが……それでも、小等部の時に少しだけ話をした事があります。
詰まるところ、顔見知り以上同胞未満。
「……何だい、それは?」
「え? これで……これか?」
後ろから話しかけられ、私はダンボール箱から取り出したものを持ちあげます。
小さい時からお父様やハク様といったように、敬語で話していた相手が多かった私は、つい敬語口調になってしまうことが多々あります。
普通に話すのは明日菜だけなのですが、その明日菜は無口で会話の機会があまりありません。
このちゃんは今は兎も角|(クラスメートですし)、昔は滅多に会いませんでした。
おかげで、敬語で話すのが癖のようになってしまいました。
だから、慌てて言い直しました。
「見ての通りだが?」
私が取り出したのは、モコモコした中くらいのサイズのポシェット。
唯、魔眼を持っている真名には、中に入っているものに感付いたようです。
だったら、説明は不要ですよね?
「とんでもないものを、さり気無く装備しているんだね」
「そうか?」
ポシェットのチャックを開けると、棒状のものが何本も飛び出しました。
私が持ってきた、“道具”達の
備えあれば憂いなし。
一応、私は剣術を中心に習得しています(習得中と言った方が正しいですけど)が、無手も補助術も何でも、ある程度は習得しています。
手段が多くて、困る事は無いでしょう?
表向きは一般生徒と言うことになっている私と明日菜ですが、何があるかわかりませんから。
「本当に、君は生真面目だね」
「不服か?」
「いや、別に」
そう言って、真名は肩をすくめました。
飄々としている彼女ですが、その実力は本物です。“魔眼”を持ち、私と同じ
少なくとも、中立に回ってくれれば問題ありませんよね?
潰す手間が省けますから。
……最近、自分でも思うのですが……考え方が、ハク様に似て来ました。
それとも、ハク様は私達を
お父様のことは名前しか言っておりませんが、真名曰く「
流石は傭兵、といったところでしょうか。
「一度は会ってみたい」と言ってましたし、お父様の周囲に女性が増えるのは感心しませんが、協力の対価として会わせてあげることにしました。
とは言っても、“後払い”なのでまだまだ先です。
……私は悪くありません。ハク様に目をつけられお仕置きされるにしても、棺桶にダイビングするような真似ををした真名が悪いんです。
一応警告はしましたよ?
でも、お父様と繋がりを持てるということは、
何しろハク様は、お父様の知り合いは殺し
それに、お父様の傘下に入るということは、此の世で最も強いハク様の庇護対象(あくまで命
ハク様に危険視されるという(どうしようもなく)高いリスクを冒してでも、お父様との“繋がり”は魅力的でしょう。
……私からすれば、迷惑千万ですけど。
基本的に、お父様は知り合いには気をかけます。
だからこそ、
部屋の整理が済んだ後、私は寮近くの喫茶店で、明日菜と待ち合わせしました。
ちなみに、明日菜はこのちゃんと同室です。
ハク様が学園長を脅し……懇願した成果、というやつです。
私が喫茶店に入ると、すでに窓際の席を明日菜が陣取っていました。
「刹那」
「あ、こんにちわ」
私が軽く手を振ると、明日菜は小さく頷きました。無愛想に見えますが、彼女からすれば、精一杯の誠意です。
「気分はどうだ?」
「重畳」
私が聞くと、明日菜は文庫本から目を離して呟きました。
どう見ても“重畳”だと感じているような仕種ではありませんが、明日菜は大体無表情・無感動を地で行ってますから、それ程珍しくはありません。
「あ……」
「? どうした?」
「珈琲のミルクが足りない」
「それは不幸な」
「取って来て」
「着いたばかりなんだ、労わってくださいよ」
「さっさと行って来い、伝書鳩」
「……誰が伝書鳩ですか誰が。私は
こんな何の脈略も無い会話も、明日菜の特徴です。
「行け」
「まさかの二文字ですか!?」
「Go」
「……ったく、わかりましたよ」
そう言って、私はまだ冷たい椅子から立ち上がりました。
ミルクは……レジ付近の籠の中に入っていたはず。
ええ、どうせ私は綺羅川家のヒエラルキィ最下層ですが、何か?
一番新入りですし、実は一番年下ですし。
ヒエラルキィの構図ですか?
お父様>>>>>>>>>>>(絶対に越えられない、そもそも越える気すらない壁)>>>>>>>>>>>ハク様>>>>>>>>>>>>>>>>>>(絶望しか見えない壁)>>>>>>>>>>>>>>>>>>明日菜>>>>>私です。
実力的には私と明日菜は拮抗しているんですが、明日菜には……逆らえません、何となく。
……こんなことまで、ハク様に似なくともいいじゃあないですか。
もっとも此の話を真名にしたら、「お前も大概だよ」と言われました。何故?
「はい、ミルク。あ、店員さん、私はアップルティを一つ」
ふぅ、ようやく腰を下せました。
学園都市内にあるだけあって、此の喫茶店は中学生も小学生も気軽に来れるところが良いですね。
おこづかい的にも。
私達も、このちゃんと常時一緒にいるわけではありません。普段はハク様(の分身体)がこのちゃんを見張り、私達は授業中や、一緒に遊んだり勉強をしている時くらいしか一緒にいません。
ハク様ならバレませんけど、私達がやったら唯の常時ストーキングですし、ずっと見張っているのも骨が折れます。
それに、護衛のためとはいえずっとプライベートまで監視するのも、あまり褒められた行為ではありませんし。
私達もそこそこの実力ですからね。このちゃんに何かあったり、学園都市に良からぬ輩が侵入してくれば、ある程度はわかります。
まぁ、何かあってからでは遅いですけど。
学園の方からして見ても、このちゃんに何かあれば責任問題になります。
能の
……多分、ですが。
それに、実は麻帆良内を姿を消して“観察”しているハク様の分身体は、一人や二人ではありません。
私も詳しい事は知りませんが、その配備人数は最低でも二桁だそうです。
……何ですか? その要塞なんて目じゃない程の警戒網は。
私達二人がかりでも、ハク様の分身体の小指ほどの力も無いのに(比喩ではありません)。
「あぁ、美味しい」
「刹那、現実逃避している目になってる」
「ほっといてください。私だって頑張ってるんだ」
「……あぁ、ハクの規格外さにまいっているんだ」
何故バレましたし。
あぁ、本当に憂鬱です。
生まれてこの方、ずっとずっと憂鬱です。
お父様に会えたことで、全てがチャラになりますが。
刹那の口調は、敬語時々普通、或いは敬語と普通口調のごっちゃまぜ。
固くもなりすぎてないけど、フランクでもない。
それが本作の刹那です。
あと、明日菜は口数が少ないクール少女です。成績も悪くありません。
刹那も悪くはありません。
悪い結果を出すと、ハクにお仕置きされますから。
御意見御感想宜しくお願いします。