図書館島編です。
此の後は吸血鬼編をやりたいと思います。ちゃっちゃと済ますかじっくりやるかでまた悩んでいます。
ていうか、どうしても榛名とハクの出番が減ってしまいます。仕方がないですよね……。
第参拾話 カレとカノジョたちと図書館騒乱(未遂)
家のテラスに置かれたチェアーに腰掛け、夕日の光を浴びながら、漂ってくる珈琲の香りと湯気を見ながら、大きく伸びをする。
「……平和だねぇ」
「はい、マスター」
後ろで控えているハクの方を見ると、相変わらずの無表情……でも、何処か幸せそうな表情で首肯してくれた。
「ハク、どうだい?」
「どう、とは?」
「最近の麻帆良の様子だよ。刹那や明日菜、子日は元気かな?」
「はい」
即答。
それを自信・確信から来るものなのか、或いはどうでも良いから即答したのかはわからない。でも、ハクは何だかんだで彼女たちの面倒を見ていてくれているし、ハク曰く「そこそこの強さ」だから大丈夫だと思う。
「麻帆良側は?」
「上層部は、特に。ネギ=スプリングフィールドの実習が進んでいるくらいでしょうか」
また即答。
「ハクは、ネギのことをどう思う?」
「——蟲を引き寄せる、汚泥のような蜜だと」
「御免、聞いた僕が悪かった」
「? マスターが悪い? そんなことがあり得るのですか?」
本気でわからないように、真顔で首を傾げた。純白の長髪が揺れ、その仕草だけでもトンデモなく妖艶だ。
いや、絶対本気で言っている。
「でも、ネギ君自体は問題起こしていないんだろう?」
「いるだけで問題になります。此れで本人も問題児だったら、とうの昔に消しています」
そう言って、さも当然のように頷くハク。
「……そう言えば、そろそろ三学期も終わりだったっけなぁ……。
テスト、大丈夫かな?」
「問題無いでしょう。
もしすれば、その時は————」
……話題を変えても、結局はこうなるのか。
瞳に剣呑な光を宿したハクを見ながら、そんなことを考えて苦笑した。
その時、コポ、と音が聞こえた。
「ん?」
音のした方を見る。
テラスから見下ろせる位置にある、ハクがわざわざ作り上げた小さな池だ。
そこから、コポコポと泡が噴き出している。
よく見ようとチェアーから身を乗り出すと、パシャ、と音を立てて、池から何かが飛び出した。
「あっ」
僕が声を上げるより早く、ハクが動いた。
トンデモない速さで移動し、飛び出してきたソレを手刀で薙払う。
薙払われたソレは、ピシャ、と音を立てて散った。周囲に
「……水?」
飛び出してきたのは、水の塊だったようだ。
と、飛び散った水飛沫が再び集まって、手鏡サイズの長方形の水の膜になった。水の膜の表面はフルフルと振動し、波紋が広がる。同時に
[もしもし、兄さん? 聞こえていますか?]
……あぁ、成程。
「子日か?」
[はい、綺羅川 子日です。突然申し訳ありませんが、些か妙な事態になりまして、ですね……]
いつも冷静な妹にしては、どうも歯切れが悪い言い方だった。
「……あぁ、貴女でしたか。てっきりマスターを狙う蟲の攻撃かと」
[……………………いけしゃあしゃあといってくれますね……。従者、貴女知っていたでしょう。
大体、本当に敵の攻撃だったら貴女が張っている結界に阻まれて、
「貴女こそ
子日とハクは、どうもたまにギスギスするところがある。
まぁ、妹は口数も少ないし生真面目で、積極的に他者と関わっていくタイプでもない。上手く馴染めず、緊張しているんだろう。
こればっかりは、時間が解決してくれるのを待つしかない。
[……それは兄さんに謝罪すべきことです。重ね重ね申し訳ありません、兄さん。
ええとですね……クラスメイトの数人が、図書館島に行こうとしているのですが]
「は?」
そう言って僕は、夕暮れが過ぎ、そろそろ宵の明星(金星)が見えそうになった空を見上げた。
「ええと、図書館島はこの時間帯は……?」
[ギリギリ開いていますが、彼女たちは夜に行くことになりそうです。今はまだ、見回りの先生や警備員がいますから]
「そもそも、どうしてそんな話が?」
「それが……」
そう言って話し始めた子日の声を聞きながら、僕はチラリとハクを見た。
ハクは「余計なことしやがって」と言わんばかりに目を細め、図書館島の方角を見つめている。が、すぐに視線を僕に移した。
「図書館島周囲一帯の警戒網を強化しました」
「あぁ、有難う」
「恐悦至極です、マスター」
相も変わらず、仕事が早い。
それにしても……子日の説明に、僕はズッコケそうになった。
曰く、子日たちのクラスは学年成績で万年最下位らしい。それで何故だか知らないけど、今回の期末テストで最下位だったクラスは解散、その中でもさらに低い者たちは小学生からやり直しなどという噂が流れたそうだ。
しかも、その最下位から脱出させることがネギ先生の試験らしい。
[入浴中に
その最中、図書館島には“頭が良くなる本”があるとかないとかという噂も入ってきまして、綾瀬さんたちがやる気になってしまいまして。
私と明日菜・木乃香・刹那も誘われたのですが、断っておきました。
私は一応止めたのですが……あの調子では………………………………]
僕は素直に吃驚した。まさか、根っからの委員長気質であるウチの妹でさえも、手綱を握りきれない猛者共がいたとは。
前世の時の子日は無口だが、いざとなればクラスに活を入れたり、暴走を止めたりすることで、教師陣からの評価がかなり良かったはずだ。
[その時はまぁ、莫迦な人たちが莫迦をやらかすなの思いで済ませたのですが、今になって考えてみると……どうにもきな臭い感じがします]
「きな臭いって、噂が?」
「いえ、噂の
明日菜が聞きまわったところ、最下位クラス解散の噂も図書館島の噂も、知っているのは2−A(妹たちのクラス)と2−A関係者くらいで、隣のクラスにすら伝わっていなかったらしい。
何とも限定的な噂だ。
そんな噂が期末テスト数日前に、しかもネギ先生の試験が行われる期末テストの時に、ネギ先生が担当しているクラスにだけ広まる……。
確かにきな臭い。
いや、妙だ。
「つまり、子日はこう言いたいのかい?
この噂は、生徒たちを図書館島に誘導するために、何者かが仕組んだことだ、と」
「はい。フラ……いえ、“虫の知らせ”のような嫌な予感を感じるのです」
「……ネギ先生に報告は?」
「それが、職員寮に行っても応答なしなんです。連絡先も知りませんし……」
連絡網は高畑君に繋がるようになっているらしく、ネギ先生の連絡先は(多分)みんな知らないそうだ。で、肝心の高畑君は例によって出張中。
「……危険だな。学園側は、その……えーっとアヤセ……さんだっけ? その人たちを巻き込むつもりなのかもしれない」
「え?」
「子日は、図書館島に行ったことは?」
「ありませんが」
「一度行けば子日ならわかると思う。辺りは魔道式トラップだらけ。地下に行く毎に魔法書や封印指定の禁書がゴロゴロ。おまけに今の司書はアルビレオ=イマだ」
[……………………………………………………………………………………………………………………………………………全力で止めます]
「うん、そうした方がいいと思う」
子日との通話を終えた後、僕はハクを見た。
「学園側も無茶するねぇ。どうやら憂慮すべきは、ネギ君よりも学園上層部みたいだ」
「はい、マスター。まるで、死にかけの蟲に覚醒剤を飲ませたような結果になったようです。
御命令ならば誘蛾灯に誘われた蛾の目を覚まさせ、イカれた蟲を潰してきますが」
「……………ううん、多分子日がやってくれるよ。明日菜や刹那、木乃香も……ね」
子日から無理矢理に図書館島へ行く途中だった生徒たちを止めたという連絡を受け取ったのは、それから数時間たった後だった。
はい、行ってすらいない図書館島編終了です。
明日菜・刹那・木乃香・子日。マトモな四人がいたら止めていたでしょう、下手すれば犯罪行為になってしょっぴかれることくらいは想像つくでしょうし。
ゴーレム操作してスタンバってた学園長はお疲れさまでした(笑)。
ちなみに、ネギは会議室で他の科目の教師たちと対策プリントをつくっていました。
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