ネギフルボッコの回(序の口編)。
此の後もっとボコられます。
第参拾弐話 娘達と英雄の息子のカリカチュア
認識障害を展開した後、私は寮の前で刹那と合流した。
「真名は?」
「疲れたから寝る、と」
そう言って、肩をすくめる刹那。
「……ゴメン、夜に急に面倒なこと頼んじゃって」
私が頭を下げると、刹那は驚いたような表情をする。
……何故かカチンときたが、此処は大人しく頭を下げておこう。
「構いませんよ、此れで問題が起これば、
そう言って、エヘラエヘラと笑う刹那。
相も変わらず楽観的というか、諦観しているというか。
刹那は私を指して、よく「ハク様に似てきましたね」と言うが、私から言わせてもらうと、一番ハクと榛名の影響を受けているのは刹那だと思う。
其れに刹那の一言は、一応ネギのことを案じて、の一言だった。
私たちからすれば、ネギを大して怪我させずに捕縛するなど容易いことだ。
だが、仮にハクがやったとなると多分……あの『蟲ピン』でネギの四肢と腹を撃ち止めたりするだろう。
あれは尋常なく苦しい。……私もやられたことがあるからよくわかる。
記憶を処理したりする場合も言わずもがな。
もう、ネギが問題を起こすことが前提だが、エヴァンジェリンと絡んだ時点で大問題だ。九割九分絡むことになるだろう。
……もっとも刹那の場合は、ネギに良い感情を抱いていない。邪魔者にしか見えていないだろう。
だから口ではネギのためというニュアンスを込めて言っているが、内心では邪魔者処理ができてラッキーとか考えていると思う。
……私もほぼそれに共感しているのが、何とも笑えない。
ネギが常識人なら、エヴァンジェリンの現行犯を視認したうえで、真っ先に被害者の安全を確保。誰か先生を呼ぶだろう。
麻帆良が関東魔法協会本部であることは別に(魔法使い側には)秘匿されてもいないし、当然ネギもそれを知っているはずだ。
少なくとも学園長が魔法関係者であることは確実だから、まずは学園長に知らせれば衛生部隊が派遣されてくるだろう。
或いは、追撃部隊のおでましか。エヴァンジェリンが逃走した場合、だけど。
もっとも、それはエヴァンジェリンがネギの一連の行動を全て座視した場合だ。
流石に一般生徒に吸血行為を行ったことは、学園側とて無視できない。なら、目撃者の口を封じることも考えるだろう。
いやいやいや、そもそもエヴァンジェリンの狙いがネギ自身だとすれば、あくまでネギを誘い込むためだけに吸血行為をすればいいだけで、ネギが来たら当然、ネギを襲う。
………………………あれ? もう終わってない?
ネギと封印が解除されたエヴァンジェリンが対面した場合のことなど、考えるまでもなくネギの詰みだ。
「刹那……ネギ、如何なると思う?」
「え? ハク様に殺されて仕舞いでしょう?」
何を当然な、という表情で小首を傾げる刹那。
「あー……うん、ゴメン、私が莫迦だった」
本当、救えない。
ネギは此処に修業先が決まっていた時点で、死が確定していたわけだ。
エヴァンジェリンは予想通り、桜通りで3−Aの生徒本屋ちゃん(
あ……よく見ると、文字通り“一口”飲んだだけだ。あれなら余程の貧血持ちでも害にはならないだろう。
すると、其処にネギが現れた。
何か大声で話し合っているが、要は平行線。押し問答だ。
大体、よく知らない子供に「悪いことはやめろ」と言われてやめるような人種が、犯罪など犯すわけがない。
特に、
「と、兎に角、学園長に知らせないと……」
そう言って、一旦距離を取って念話を使うネギ。だが……
「フン、そんなことを許すと思うか!」
エヴァが『氷爆』を使ってネギを牽制……いや、攻撃している。
あぁ、あれは仕留めにかかってるな……。もう、此れは戦いじゃない。鷹によるヒヨコ狩りだ。
「うわぁ!!」
何とかかわしつつ、ネギも応戦に入る。
それにしても……。
「
私の横で興味深げに観察している刹那が、顎に手をあてながら呟いている。其れは、私も思っていることを全部言ってくれていた。
「くっ! 仕方がありません。僕一人でも貴女を捕縛してみせます! 一般人への吸血行為、到底許せるものではありません!!」
が、ネギは悪い意味で期待を裏切ってくれた。
其処は可能性は低かろうとも、“逃げる”ことに全力を使うべきだろうに……。少なくとも、“勝てる”可能性よりかは幾分かマシのはず。
「ほう? 私は吸血鬼だ。血を吸うのは食事と一緒……人間が肉や魚を喰うのと同じだ」
「だからと言って、教師として、生徒を襲った危険を見過ごすことはできません! “
あっちゃー……。
思わず頭を抱えた。
隣の刹那を見ると、「こりゃ駄目だ」と言わんばかりに肩をすくめて首を振っている。
エヴァンジェリンの意見も間違っておらず、ネギの言葉も正論だ。
が、時として、正論ほど場をややこしくさせるものもないのだ。……って、前に榛名が言っていたけど、今ならその通りだとわかる。榛名、凄いよ。
人生勉強。
何て現実逃避している場合じゃない。
ネギは、さっきのやり取りで完全に頭に血が上っているようだ。
本屋ちゃんを担いでとっとと逃げろー。と心の中で叫んでみる。何か、端の方で寝転がされている本屋ちゃんの背中が痛々しい。演劇でのやられ役って、ああいう感じなんだろうなぁ、とか考えた。
「フン、お綺麗な自慢の正義論は余所でやってくれ。私はもう吸血を終えた。もう此処にとどまる意味などない……茶々丸!」
「イエス、マスター」
「ネギ先生を丁重に御持て成ししてやれ」
「
「か、
「はい。失礼します、ネギ先生」
そう言って、茶々丸さんはネギに一気に近付くと、何処からか取り出したハリセンでスパンと叩いた。
「……あれって、前に子日が暇つぶしに制作したものよね、確か特殊な水で浸した紙でできている……」
「子日さんは茶々丸さんと仲が良かったから……その時、渡したのか?」
私と刹那がそんな会話をしている間に、ハリセンでボコボコにされていくネギ。
…………ひょっとして、近接戦闘の訓練をまったくしていない?
エヴァンジェリンも帰るとか言っておきながら、きっと何処かから腹を抱えながら見ているのだろう。何しろ、自分に呪いをかけた
まぁ、茶々丸さんが
確かあのハリセンも、普通のハリセンより壊れにくい以外は唯のハリセンだったはずだし。
「……あぁ、予想通り過ぎて泣けてきました」
そう言ってため息を吐く刹那の肩を叩きながら、私も心の中で涙を流していた。
勿論、こんな茶番についてきてしまった自分たちへの涙だった。
ところでネギは、魔法教師に回収されていた。
やっぱり全部把握していたのか……まさか、此れ、学園側の陰謀とか?
だったら本気で泣く。
・子日ハリセン(
子日が暇つぶしと武器制作の実験を兼ねて作った特製ハリセン。子日が生み出した特殊な水で浸した紙からできている。丈夫で鉄柱に叩きつけてもびくともしないが、威力は唯のハリセン。
なお、茶々丸が持っていたのはMk.1であり、水の刃を発生させられるMk.2や、威力をトンカチ並みにしたMk.3などの改良型も存在する。
ネギを呼ぶ餌扱いされ、当のネギからは半ば存在を忘れられかけた本屋ちゃん憐れ。
ネギアンチが決まっている以上、せめてネギとの関係をあまり持たないことで助けてあげたい……と思っています。
そして、ネギの弱さと吶喊ぶりに涙を流す明日菜と刹那。
原作でものどかは木乃香と明日菜に丸投げしていましたが、襲われた生徒を生徒に任せて犯人を追うってのはどうかと私は思っています。
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