修学旅行編スタート。
長丁場、原作無視のオリジナル展開になると思いますので、御注意ください。
第参拾伍話 カレとカノジョの旅行計画
「ハク、用意は?」
「万全です」
家から一歩出て、ハクの方を振り返った。其処には、相変わらず白と黒を基調としたメイド服姿のハクが荷物を持って立っていた。
修学旅行の行き先が京都になったと聞いた時、久しぶりに怒鳴ってしまったのは記憶に新しい。
普通に考えればあり得ない事。僕だって天才じゃあないんだから、学園側の行動を万事予測できるわけでもない。そもそも予測することだってない。ハクがいつも的確な情報をくれるから、だけどね。
関西呪術協会は、関東魔法協会への対応に関して大まかに三つの派閥に分かれている。
長である
これは旧穏健派と旧強硬派の大部分が合併してできた比較的新しい派閥で、穏健でも強硬でもない、つまり簡単に喧嘩を売ったりはしないが、だからといって軟弱な態度もとらない派閥。この合同派だけで、関西呪術協会及びその下部組織の連中の八割を占めている。
そして残りの二つは“強硬派”と“穏健派”。此の二つの派閥は主要メンバーの大部分が合同派に鞍替えしたことで、最早発言するのがやっと。前者は指折りの過激思想屋、後者は指折りの非戦思想屋しかいない。
要するに、殆ど形だけのモノとなっている。
言いかえれば、合同派の方針が関西呪術協会の対関東外交方針そのものになる。おまけに協会内で内政・外交を握っているのが、合同派筆頭である木乃魅さんだ。
詠春さんはどちらかというと穏健派よりだけど、あの人は神鳴流を始めとする武力関係を率いるのがやっとだから、外交問題にはノータッチだ。
何が言いたいのかというと、関西呪術協会は関東魔法協会の魔法教師派遣にOKを出すほど甘くない、ということ。
「やっかいなことになったなぁ、ハク。
麻帆良はネギ君の派遣を強行する気満々だ。多分、木乃魅さんは部隊を差し向け、ネギ君を確保するだろう。西は許可を未だに出していないみたいだし。
問題なのは、その時に西がどういう対応をしてくるか、だ。単にネギ君を捕える
「無能揃いですね、マスター。
無礼を承知で言わせて頂きますが、あの蟲共を排除すべきではないでしょうか。マスターの御命令さえあれば————」
ハクはとことん、僕以外の人間に辛辣だ。それは東も西も無い。
ハクにしてみれば、東と西に差は無いかもしれないなぁ、どっちにしたって、“煩わしい蟲”以外の何物でもないのかもしれないし……。
でも、僕にとっては西の人たちは、宴会にも参加させて頂いた仲だ。こういうのも何だけど、東のヒト達より余程大切にしたい。
問題なのは、その西の暴れ馬連中の矛先が一般人や木乃香にまで及ぶことだ。
西に限らず、組織というモノはそう簡単に一枚岩にならない。現在の長や長代理、体制などに反発する者がいて当然だ。
そう言った連中が、木乃香や一般人に手を出さない保証はない。
そんなことは木乃香だって自覚している。でも、彼女は今のところ長の座を継ぐ気満々だ。狙われるのが怖くて、帰郷もできないのでは将来部下となる(可能性が高い)連中に対して示しがつかない、という困った事情もある。
「待ってくれ、ハク。ハクの言うことはもっともだし、仕方がないと思う。……でも、やるならもっとあとがいい。
此れは僕の考えだけど……ネギ君は、いっそ今のうちに西に捕まってくれた方がいい。それなら、責任はネギ君じゃあなく、ネギ君の京都行きを強行した学園側に生じる。その場合、ネギ君は上司の命令と教師の義務により、生徒の引率をするだけだからね。
そしたら、其れを理由にネギ君を堂々と本国(連合)若しくはウェールズに送り返すことができる。というより、本国が進んでネギ君を手中に置こうとするだろうし。
それが失敗した後でも、幾らでも手はある……そうだろう? 殺すのは……どうも、ね。せめて魔法を使えなくさせる程度で……かなぁ。
まぁ、最終的には
「では、麻帆良学園側はどうしますか?」
「……ハクがやるまでも無く、西に潰されるよ。こんな事をするなら、ね」
「成程、卓見です」
不満があるのか、反対なのか、或いは納得してくれているのか。
そんなことは、無表情のハクからは全く読みとれない。読み取らせてくれない。
不満があっても、最後には必ず僕の言うことを聞いてくれる。其れが分かっていながら、
京都旅行へ行きたいと言い出した時には、ハクは二つ返事で了承してくれた。
でも、京都で何があっても関わる必要はないことを力説されたし、釘も刺された。
「京都でのトラブルは、木乃香や明日菜、刹那、、妹様、あと雇うのなら龍宮 真名に対処させれば済みます。確かに
勿論、
ですので、なにも御心配いりません。
マスターが明日菜たちに全てを任せることを心苦しく感じておられるのなら、そんなことに御気を病む必要は全くございません。マスターに尽くせるのならあれらも本分でしょうし、近衛 木乃香とて……子蟲は子蟲でも、少しは自衛ができる子蟲です。唯蜂に喰われるのを待つだけの
わかってはいたけど、ハクに隠し事なんてできない。僕のことを僕以上に知っているんだから。
相も変わらず凄いというか酷いというかわからない喩えに苦笑しながら、僕は頷くしかなかった。
大体、僕が乗り込んでいっても盾の役割を果たす事くらいしかできない。戦闘の指揮なんて当然できないし、明日菜たちの足を引っ張ることくらいにしかならないことなんてわかりきっている。
まぁ、ハクに言ったら激怒する類の話だけどさ。
だから、此れは純粋な旅行だ。心配性の平凡男と、従者のぶらり旅。
京都は日本人の心だ。急に行きたくなったって、別に全然問題ないと思う。うん、問題無い。
「わかってるって。
兎も角、さ。ワープなんて無粋なことはしないで、ちゃんと新幹線で行こうよ。埼玉から京都までの道のりを楽しまないと損だ。」
「勿論、手配済みです。明日菜たちの出発は三日後となります。ホテルも、明日菜たちが宿泊予定の旅館とは別ですが、それ程離れていない、それでいてより豪華な旅館を手配いたしました。
旅行プランも一応作成しておりますが、無論マスターの御自由にどうぞ。なお、現地の向こう一週間の天気
………………本当に、何処までも万能でハイスペックな従者だよ、ハクは……。
其れに、天気予測? 天気
気が利きすぎるのも困りものだよなぁ、と少し思う。
や、大して困っていない、て言うか困っているのかすらよくわからないんだけどさ。
「ところでさ、ハク」
「はい、マスター」
「京都も、メイド服姿なの?」
「振袖にでも着替えましょうか?」
「………………………いや、もう、何でもいいや」
明日菜たちには、後で温泉旅行でもプレゼントしてあげよう。
そう誓いながら、僕とハクは駅に向かって歩き出した。
榛名とハク、3−Aより三日はやく京都行きです。
こっちはのんびりほのぼのと旅が楽しめそうですが、明日菜たちは如何なる事やら。
そろそろ明日菜たちの戦闘シーンも書きたい(書けるといいなぁ)皐月二八でした。
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