榛名&ハクのターンは一回終了。今度は娘と妹&傭兵ターンに突入します。
子日は出て来てませんが、ちゃんと駅に向かっています。
第参拾捌話 娘二人の修学旅行出発
「……はい、明日菜」
[おはよう、朝から御免……今、時間空いてる?]
「うん」
答えてから、チラリと木乃香をみる。鼻唄を歌いながら朝食をつくっている様子が一瞬だけ視界に入った。
榛名が連絡してくることは、それほど珍しいことじゃない。でも、今回はいつものように雑談とかの類の話じゃなさそうだ。
私もこう見えて、二〇年近く榛名の傍にいる。ハク程ではないにしても、榛名のことは知り抜いているつもりだ。
声色からして、バッド・ニュースではなさそう。でも、
榛名は話し始めた。京都で地脈が操作されたこと。おそらくは鬼神を復活させるつもりだということ。
[木乃香のことが心配だけど……君たちのことも心配だ。ハクに頼んでみようかな…………]
「心配しないで」
即答する。別に、ハクの折檻が怖くて言ったわけじゃない(怖いけど)。純粋に、榛名に心配かけたくなかった。
「リョウメンスクナは前回、ナギ達に倒された。……それと同じことをすればいいだけ」
其れから少し話した後、携帯を閉じて再び操作する。
まぁもっとも、京都は呪術協会の管轄だから、向こうが何とかするだろう。復活した場合の対抗策が全くないような危険な代物を、御膝元である京都に封印しておくわけもない。
呪術協会の仕事を奪って面目ぶち壊しにしたら、それはそれで後が面倒だ。私と刹那の保護者は榛名だから、最終的に責任を追及されるのは榛名となる。そうなれば、ハクに殺される以前に自分で自分が許せなくなる。刹那だったら切腹するだろう。
いや、刹那は前に榛名に黙って危険なことをして物凄く怒られて、本気で切腹しかけたことがある。ちなみに、その時ハクは何もしなかった。
刹那(と私)にとって、榛名に本気で怒られることが何よりの薬になる事を知り抜いているんだろう。本当にあの人は、何を知らないのか探す方が難しい人だ。
後、リョウメンスクナのことは少し強がりを言った。自分たちがそこそこ強いという自覚はあるけど、まさか刹那と二人で鬼神を葬れる自信は無い。……多分、無理。できたとしても、一週間はぶっ倒れる。
奥の手はいくつもある。勿論、進んで披露したいわけでもないし。
メールで刹那に伝えながら、今は修学旅行で楽しく過ごせることを夢見よう。
……刹那は、どうだろうか。……西とはいろいろ確執があるみたいだけど。
この時期特有の、暑くも寒くもない風が頬を撫でます。
荷物を持ち、集合場所への駅へと向かいながら、私は携帯を取り出しました。低いバイブ音と振動。着信です。
「……ふむ」
小さく息を吐きます。
京都。私の生まれ故郷でもあると同時に、私を手放した両親が住んでいる……かもしれないところです。
“両親”といっても、私は顔を知りません。行方も知りません。生死も知りません。
両親は、
産んでくれてありがとう。
お父様に逢ってくれてありがとう。
お父様に親権を渡してくれてありがとう。
此の三つの感謝だけです。それ以外は無いし、抱く必要もないことです。恨みもなく、もう一度逢いたいとも思わない……唯、感謝しているのですから。
そして、神鳴流の本拠地があるところでもあります。あの剣術は、少し習いました。退魔・破魔に特化しているのが気になりましたが、一千年以上洗練され続けているというだけあって、学ぶべき点は多かったですね。
まぁ、“神鳴流創設以来の神童”とか持て囃されたのは憂鬱でしたけど。変に期待を持たれ、救世主まがいな扱いを受けても困ります。
憂鬱ですし、
こんなこと、ハク様に言ったら「一極年早い」と言われますよね。
……まぁ結局、最終的には神鳴流から放逐されたわけなのですが。嫉妬に狂った醜い輩と、私の才能と血筋を恐れ、人外と罵倒した無知共と、私の覚悟を狂気呼ばわりしたお偉い方によって。
お父様は怒ってくれましたけど、私は其れを宥めました。無意味に期待され、勝手に同胞呼ばわりされるよりかは、敵視してくれた方がよっぽど気が楽だったからです。
それでも、私は京都が好きです。理由はお父様が京都を愛しているからです。
それでも、私は呪術協会が好きです。理由はお父様が長や幹部の方々と仲良しだからです。
それ以外に、如何なる理由が必要だというのでしょう。
熱くなってしまいました、
「地脈……私はその辺りの知識には疎いのだが…………」
「その土地のエネルギィ、とでも解釈していればいい」
首を傾げた真名に、そう素っ気なく返します。別に機嫌が悪いわけではありません。唯、考え事をしていただけです。
このちゃんを護るのは、お父様から与えられた大切な任務。そしてこのちゃんは、かけがえのない友達。
このちゃんに危険が及ばないなら私たちが動く理由は薄いわけで、少しホッとします。
ネギ先生の件は知ったことではありませんし、関わってはかえって不味いことになります。あくまで私たちは、魔法協会とも呪術協会とも違う第三者的立場に身を置いているのですから。
何か異常事態が起これば長や長代理がお父様に助けを求める可能性もゼロではありませんが、その結果が何を生むかは想像がつくはずです。
権威が失墜すればまだ良いですが、ほぼ確実にハク様の手によって磔にされるでしょうね。
ネギ先生がポカやらかして、そのとばっちりが此方に来るのも怖いですが、寧ろ、私にちょっかいをかける神鳴流の方が危険なのかもしれません。来るかどうか知らないですが、どうも嫌な予感がします。
まぁ、その時は、軽く相手をしてもらいましょうか。最近はハク様に
いい加減に、自分の実力の程を知りたいと思っていましたから。
そんなことを考えながら、同僚と肩を並べて駅へと向かっていくのでした。
本作の刹那は神鳴流とは微妙な関係にあります。付き合いがないわけではありませんが、ほぼ破門状態です。
その理由や詳しい説明は、後ほど本編に登場する予定です。
あと、刹那も実はヤンデレっぽいという罠。
御意見御感想宜しくお願いします。