修学旅行一日目。
基本的に明日菜たちの会話だけです。
第参拾玖話 娘たちの初日と動く不穏
京都に到着し、日程通りに修学旅行初日が終ろうとしていた頃。
「ふぅ。初日は何ともなく終わった、かぁ……」
「とはいえ流石は
私の呟きに、横で茶を啜っていた刹那が苦笑しながら返した。
確かに騒がしかった。でも、此れも平和故の莫迦騒ぎだ。敵の襲撃で起こるような騒ぎよりは万倍マシというものだろう。
「あれ? 木乃香は?」
「このちゃんなら、此処の従業員たちと話している」
「従業員?……まさか」
「当然、呪術協会所属の人だそうだ。このちゃんの護衛とネギ先生及び麻帆良勢の監視を兼ねているのだろうな」
……それが原因で、此処が襲われたりしないのだろうか。いや、いてもいなくても襲われる可能性は変わらない、か。だったら、素直に西の配慮に甘えておこう。
「どれくらいの強さか……数は?」
「二人。両者ともに陰陽師だったよ、神道術師とか神鳴流はいなかった。……いや、あくまで旅館に常駐している数が二人というだけのことだから、此処を監視している人数はもっと多いだろう」
陰陽師は隠蔽術に長けている。普段の陰陽師は、日本国内で民間人に平然と溶け込んでいるのだから当然だろう。陰陽師の探知については、私よりも木乃香や刹那の方が専門だ。
正直、東洋呪術のこともそれほど詳しくない。
だから、此処は木乃香や西に任s————
「!」
………任せられ、そうにないかもしれない。
「刹那」
「わかっている」
瞬時に警戒。ぐるりと辺りを一通り見渡す。感知したのは、少し大きいがすぐに消えた魔力。
例えるなら、爆竹を破裂させたような感じだ。
一応念には念を入れ、此の旅館には魔力遮断や防壁などの結界を(刹那が)張っている。ネギが狙われるのは不可抗力だから、攻撃する対象が
ネギに防壁があると感付かれても、面倒なことになってしまう。3−A関係者に魔法関係者がいると宣言しているようなものだ。
其れに正直、
……今更親書なんて、何の意味もないのに。
其れは兎も角……感知された魔力は、問題だらけだ。
一瞬とはいえ、街中で魔法を使用するなんて。それも、碌に隠蔽もされていない。
しかも、感知された魔力の形式や残滓から計測するに、此れは……攻撃魔法、それも『
やろうと思えば戦車すら穴だらけに出来る、基礎魔法故に強力な魔法。そんなモノを現実世界の街中で……何を狙ったのかはわからないが、碌でもないことには違いない。
「魔法世界の者……?」
こんなポカ、現実世界出身者はまず犯さない。それこそ、五歳児でもない限り。
だったら……“強硬派”と手を組んだという、魔法関係者だろうか?
こんな事をして得するのは、いや、そもそも関わろうとしてくるのは…………。
「メセンブリーナ連合……メガロメセンブリアの者…………? だとすれば……………」
まさか……メガロはこれを機に関西呪術協会を殲滅し、関東魔法協会から自治権を奪い……日本国を支配するつもり、とかじゃあ……。
…………………………………………完全に否定できないのが恐ろしいというか阿呆らしいというか……。
呪術協会を“鬼神を使うような凶悪な組織”と印象付け、それを口実に滅ぼしてしまえば、「日本は危険だ」と難癖を付けて麻帆良から強制的に自治権を剥奪することも可能だ。強引すぎるほど強引だが、もともと連合傘下の組織は自治権を認められているとはいえ、メガロ元老院には逆らえない。
そして、ついでに木乃香も攫って魔力電池にでもしよう……という魂胆かもしれない。まだまだ判断材料は少ない。
……ハクは、榛名に木乃香を狙っている輩がいるとは言わなかったのか……言わなかったんだろう。榛名は何も言っていなかったし、知っていたら伝えてくれたはずだ。
「しかし、そうだとすれば連合は相当の大莫迦だ。ハク様の恐ろしさを誰よりも理解しているはずだというのに……まさか、このちゃんの護衛を
刹那が顎に手をあてながら呟く。
……そうか。
「刹那。“強硬派”は、そのことは連合に伝えなかったんだと思う」
「あっ、そうか……強硬派はハク様を恐れてこのちゃんを
……連合が強硬派を出し抜き、利用する腹だとすれば、わざわざこのちゃんを狙うことを強硬派に悟らせるわけもない。
……って、ちょっと待って下さいよ。それって……」
関西呪術協会強硬派は地脈を操作しつつ鬼神を復活させ、本山を潰し、麻帆良に乗り込ませる。そして連合にも攻め込もうとする。
メセンブリーナ連合はそんな強硬派を出し抜き利用し西を潰す口実と東を掌握する口実を得て、日本を掌握しようとする。同時に、“英雄の娘”木乃香も手中に収めようとする。
「ややこしい……」
刹那は頭を抱えながら、小声でうめいた。
此れはまだ仮説。そして推測。でも、可能性は鬱になるほど高い。
「あ、明日菜、せっちゃん」
そんな時、ちょうどタイミングを見計らったかのように、木乃香が入って来た。
「御帰り、木乃香。どうだった?」
「うん、
格好と手持ちから察するに、連合の者ということで間違いないって」
東海林、そして戸狩。どうやらそれが、
「その二人は、信用できるの?」
「信用……“強硬派”の手の者かということなら、心配いらへん。どっちもお母様の一族(近衛家)に仕えて長いし、私も子供の時から良く知ってる。
実力についても折り紙つきやで? 連合の“立派な魔法使い”程度には、引けを取らんわ」
「そう……」
「あ、でも一人、凄く強そうなのがいたそうや」
「え?」
瞬間、頭の中で嫌な予感が入道雲のように広がっていった。
「“
「東海林さん曰く、『特攻すれば戦闘不能にはできるかも』って」
特攻? “自爆”じゃなくて? 戦闘不能って、それでも死なないってこと?
……これはちょっと、本気でマズイかもしれない。
…………あと東海林さんとやら、貴方(貴女かもしれないけど)はその思考をどうにかした方がいいと思う。
「刹那、刹那」
「うごぅっ!……え? 明日菜? このちゃん? どうしましたか?」
両手で頭を抱えて唸っている刹那の頭を叩いて、状況を説明する。
「へぇ、侮れない敵がこのちゃんを狙っている、と」
「どうする?」
「如何するも何も、護衛に徹するしかないでしょう。此方から仕掛けても意味は無いですし、私たちの任務は連合魔法使いの殺害ではなくこのちゃんの護衛なわけですし」
あっけらかん、といってのける刹那。
そんな刹那の姿にため息をつきそうになり、軽く睨みつけた。
「そういうけど、何かあったら榛名に————」
「何も相手に勝つ必要などないし、わざわざ相手取ってやる必要もないわけだろう? このちゃんが無事なら良いわけだし。……なら、相手がどれだけ強者だろうが、手の打ちようはいくらでもある。それに……」
其処まで言って、刹那はふと、窓から見える夜景の方に目を向けた。
「それだけの強者なら、それだけお父様に危険を加える可能性が高いわけだから…………ハク様が放置しておくとも、思えない」
「その通りです。そして、警戒する必要はありません」
「え?」
思わず聞き返すと同時に振り向くと、いつの間にか子日がそこに立っていた。壁に寄りかかり、足を組んで無表情で此方を見ている。
「先程、連絡を受けました……。その
「「「…………え?」」」
間の抜けた声が三つ、部屋の中に充満した。
次回は三番目が登場予定。ハクが彼を殺さない事を祈るばかりです。
まだまだ序盤です。本格的に動くのは二日目以降となりそうです。
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