色々といっぱいいっぱいな刹那の回です。
途中に第三者視点を挟みます。
ストレスって怖いですね。
第肆拾壱話 剣士娘の過去とメタメタ精神
修学旅行二日目。班のメンバーと共に色々回っていた私は、ずっと感じていた殺気と視線にウンザリしていました。
……どう見ても、呼び出しですよね。
仕方なく明日菜と真名にこのちゃんの護衛を任せることにし、私はこっそり式神で造った分身体と入れ替わりました。
「明日菜、真名、頼みましたよ」
「任せて」
「諒解。
頼もしい返事を背中に受け、私はふぅ、とため息を吐きました。
憂鬱です。
全く、何でこんなことに————。
ハクの指導を疑っているわけではないのだが、此処で一千年以上の歴史を持つ剣術である神鳴流を学んでも、得られるものが大きい……そう踏んだのである。
神鳴流のトップである
元々ハクの下で鍛えられ、さらに才能に溢れていた刹那は、瞬く間に師範を抜き……“神童”やら“
が、余所者の子供がいきなり天才として祭り上げられたのだ。当然、気に食わない者もいる。
刹那自身は、其れを寧ろ歓迎していた。彼女は神鳴流の正式な一員になるつもりなど皆無だったし、学ぶものを学んだら、とっとと榛名と共に麻帆良に戻る予定だった。
榛名が滞在しているのは、別に仕事でもなんでもなく、単に詠春や仲の良い呪術協会の重鎮・上役たちと時間を過ごすためだったが、刹那の願いを知った榛名は、滞在期間をもう少し延ばした。
榛名としては、此処で刹那に仲間でもつくって欲しかったのだ。
もっとも、当の刹那にそんな気はさらさらなかったのだが。
確かに友達も仲間もできたが、それ以上に敵が増えてしまった。
もっとも、単なるひがみが原因でもない。
師範たちが危惧したのは、刹那の才能と実力以上に……思想であった。
刹那は、人を斬る事に全く躊躇いを見せていないのだ。神鳴流は人を斬れなくもないが、あくまで本来は破魔の剣である。人斬りが奨励されているわけもない。無論、禁止されているわけでもないが。禁止されていたら、魔法世界の大戦に参加した詠春が神鳴流のトップにいるわけもない。
しかし、刹那は人を斬るのは積極的……というより、何の感情も抱いていなかった。
彼女が剣を学ぶ理由は、榛名を護るため。榛名の敵は、魔の者とは限らない。
何よりも恐ろしいのは魔の者ではない。其れを生み出し、使役する人だという考えを彼女は持っていた。
食い違いは其処にあった。
神鳴流は破魔の剣であり、そのために洗練されていった剣術であり、大勢の神鳴流剣士にとって主たる敵は魔の者なのだ。
しかし、刹那は最初から、言い方は悪いが人を斬るために神鳴流を学んでいる。
どちらが正しいとも言えない。善も悪もない、唯の思考や理念の違いなのだから。
魔の者を斬る……そのこと自体に異を唱える者もいる。人間が駄目なら、魔の者は良いのか。斬っても異界に帰るだけだから良いのか。ならば人間とて、仏教の思想においては死んでも輪廻転生するではないか————。
“斬る”という行為そのものに善悪を付ける方が間違いだ、と思う者もいるだろう。正義や思想も千差万別なのだから。しかしだからと言って、「人を斬るも斬らないも個人に任せます」でも収拾がつかなくなる。そんな剣術は、唯の人殺しの剣だ。分別なくば、獣と同じ。
結局は平行線をたどるまま、刹那は師範たちと意見の衝突を繰り返した。
京都に賊が攻めてくれば真っ先に殺すような刹那を、恐怖の目で見る者も多かった。
勿論刹那にも賛同者はいた(言うまでもなく、彼らは人殺しが大好きな狂人ではない)。
裏に関わる者、侵入してくる賊、
幾ら妖を仕留めたところで、彼らを使役する術者を倒さねばいたちごっこになるだけだ。寧ろ積極的に術者を仕留めた方が、結果的に被害の減少へと繋がる。
殺す必要はない、捕縛すれば良いとぬかすのは、戦場を知らぬ者か甘い戦場しか知らぬ者だけだ。殺さずに捕えるということは、余程の実力者でも幸運が重ならなければ難しい……という考えを持つ者たちである。
……もっとも、当の刹那は彼ら賛同者の援護すら、鬱陶しいと思っていたのだが。
そして、刹那に嫉妬する者や疎ましく思っていた者たちは、好機とばかりにこぞって刹那の非難に回った。
結局、詠春や一部の重鎮たちの擁護空しく、綺羅川 刹那は“危険思想を持っている”との理由で破門された。
榛名たちが動かなかったのは、刹那がストップをかけたからだ。刹那自身は、此れを京都神鳴流と手を切る格好の口実となると考えていたのである。
ズルズルと神鳴流との関係を断ち切れず、そのままいつの間にか神鳴流メンバー扱いされてはたまらない。自分の実力なら、脱退を申し出ても受領されるかも怪しい。
この辺りは、流派から抜けるというモノがどれだけ“重い”かを知らなかった刹那にも非がある。
どの流派も、若手とはいえ実力者は離したがらない。それに抜けた者が流派の秘術や奥義を持ち出して、勝手に広めたりすれば大問題となる。悪党にでも身を墜とせば、流派の恥晒しにもなる。
足を洗うのがそう簡単ではないのも、考えれば当然のことなのだ。
だが、神鳴流を自分の実力を上げる(若しくは確かめる)ための道具としか思っていない刹那に、其処まで考えは及ばなかったのである。
しかし、未だに神鳴流に、刹那以上の実力と才能を持つ者も現れていない。
神鳴流の中には、刹那を戻して彼女をトップにし、神鳴流を再興しようと考える者たちもいる。純粋な戦力として、彼女を欲しがっている者もいる。
そして同時に彼女を破門するに飽き足らず、処刑してしまえと声高に叫ぶ者もいるのである。
意見の対立は上VS下とか単純なものでもなく、上(師範・上層部)にも下(門下生)にも刹那を欲しがる者と刹那を処刑しようとする者が均等にいるのだから、さらに複雑化させていた。
それが、余計に現在の刹那と神鳴流の関係をややこしくしているのだった。
「どうも〜、綺羅川先輩、神鳴流です〜」
私の目の前には、二刀流の少女がいます。……眼鏡に、所謂ゴスロリ系の格好の……。
最近の神鳴流のトレンドでしょうか。……いえ、そんなわけないでしょうけど。
「
「あぁ……此の手の輩かぁ……」
思わず溜息を吐きます。
ええ、慣れているんですよ、こちとら。
神鳴流で私が神童だの持て囃された頃から、全国から挑戦者と名乗る鬱陶しい輩が続々と……殺したら思いっきり騒がれましたし、多い時は一日に何度も来るし、お父様とお茶しているところを邪魔されたこともありましたし……本ッ当に、あのときばかりは本気でキレそうになりましたよ。
心頭滅却の修行か何かですよ、あそこまで来ると、もう。
いや、知らんがな……と心の中で呟いた私は、悪くありませんよね?
「どうしたんどす〜、テンション低いどすなぁ〜」
「誰のせいですか、誰の」
「まぁそう邪険にならんといてください〜ちょっと死合えば帰りますから〜」
其の儘土に還れ、と言いたくなってしまいます。……そうだ。
ストレス発散に、使わせてもらいましょう。
「……それじゃあ………………一戦、殺っておきましょうか」
「———————!!!? す、凄まじい殺気どすなぁ……」
ふむ。……
……まぁ、期待してたよりかは上物が出てきましたけど。……面白い。
「何処かの子供教師のせいで……穴があきそうな私の胃の
「……へ?」
「それとも……何処かの子供教師のせいで……痛みっぱなしの私の頭の敵となって散りますか?」
「え、いや……」
「好きな方を選べぇ、
「ちょ—————————」
人間、ストレス発散って大事ですよ。
憂鬱な心にちょうど良く……どうせ、また憂鬱になりますけどね。
此の後一時間くらいかけて、フルボッコにされた月詠でした。
その様子は次回にてちょっと描写します。
神鳴流の設定諸々はオリジナルです。
御意見御感想宜しくお願いします。