今回、視点の変更がちょっと激しいです。
パパラッチ登場回。クラスのメンバーも、隙を見つけては出してみたいです。
彼女はすぐに退場しますけど。無論、安全に。
あと、刹那はまだ受難が続きます。でも、三日目以降は明日菜を活躍させる予定です。
第肆拾参話 娘達と騒動未満とパパラッチ
「え?
何故か先程まで御機嫌だった刹那の顔が、みるみる歪んでいく。例えるなら「うわぁ……」っていう感じだ。
彼女は私を見て、髪を乱暴に掻き毟った。
「……で? 明日菜、その
……相当キているようだ。
刹那はあまり自分の身体を大切にしないけど、真っ白な髪だけはとても大切にケアしている。理由は、榛名に髪を褒めてもらったからだそうだ。
その髪を、酷く乱暴に掻き毟っている。おまけに目が据わっている。
「
その後ネギが引き取ったらしいけど、ネギが直接学園に送り返したみたい。
私も監視していたけど、物凄く怒っていた……あと刹那、どうでもいいけどオコジョよ」
「送り返した? 呪術協会に断って?」
「……いいえ、無断で」
「……」
刹那がもう呆れかえったと言わんばかりに天を仰いだ。そして、ブツブツと小声で呟いている。
二日目の夜。仮契約未遂の騒ぎが起きた。
まぁ、刹那の反応も当然の反応だと思う。ネギもオコジョを捕まえたのは及第点だが、学園に送り返すのはマイナス点だ。
此処は呪術協会の管轄区域。そこで契約陣なんてものを、それも一般人が多数いるところで敷くなど大問題だ。しかも、やったのは一応ネギの使い魔であるオコジョ。責任はネギ、ひいては関東魔法協会にある。
ネギの監督不届きは子供だからという理由で、未遂だという点で鑑みてまぁ許されるかもしれない。でも、オコジョ自体を東が回収しては西の怒りに油を注ぐことになる。
此の場合、責任があるのはオコジョを送ったネギに注意の一つもせず、寧ろ進んでオコジョ回収に動いた東にあるだろう。
「呪術協会は黙っていないだろうな。
「……当然の反応」
疲れたように息を吐いた刹那は、不意に手を動かした。
途端に超高速で結界が張られ、刹那の手に巨大な弓と矢が出現する。麻帆良の家に置いてあったものを“口寄せ”した……って、此れはマズイ……!
「刹那、止めて。今コトを起こせば、京都にいる榛名にも迷惑がかかる。最悪、榛名に容疑がかかるかも————」
「其れが何です、お父様に容疑を向けるような輩は殺せばいい……もう限界だ、此処からオコジョごと東を狙い撃ちにしてやります。そして、あの子供先生も地獄に————」
………あ〜あ。
駄目だこりゃ。
目が完全にイってる。榛名じゃなきゃ止められないレヴェルだ。
……でも止めなきゃ。あの矢、ハクの“蟲ピン”と同じ素材でできていて、気を纏わせれば銃弾どころか戦艦砲以上の威力がある。しかも、確か一度に一〇〇本くらいは連続発射できたはずだから、それこそ麻帆良に五月雨のように襲いかかる事になる。
……絶対、タダじゃ済まない。
……そうだ。
「刹那、麻帆良の本屋は榛名もよく行く常連の店だから、他にも————」
「……チッ。お父様のお気に入りの店を(物理的に)潰すわけにはいかないか……」
あ、弓と矢を戻した。同時に感知を防いでいた結界も消える。
……やっぱり、こういう方向で止めるのなら私にもできたみたいだ。
それにしても、刹那の様子が変だ。聞いてみよう。
「何か、あったの?」
「…………………………………………………変態に、目を付けられた」
「変態?」
「あぁ、取り敢えず本山付近に簀巻きにして逆さ吊りで捨て置いた。
証拠探しは向こうの仕事だが、一応本人が自白したテープを置いておきましたよ。
出来れば処刑しておいてほしい。ウザすぎる」
「……ふーん、プロポーズでもされた?」
「ゾッとするからやめてください。私に同性愛の趣味はありません」
茶化すと心臓が止まるほどの殺気を当てられたので、思わず冷や汗を流しながら数歩下がる。
「憂鬱です、あぁ、ずっとずっと憂鬱です……厄日だ、もういい……今日は寝ます」
……どうしよう、榛名。
……………仕方ない。面倒だったから刹那に任せていたけど、そろそろ交代しようかな。
その頃、ネギ=スプリングフィールドは困っていた。
使い魔のアルベール=カモミールが、目を離した隙に
カモはネギの従者を増やすため、好奇心旺盛で情報戦に富んだ彼女に目を付けたのである。
そして、厄介なことにノリが良すぎる性格の朝倉は、カモの提案をあっさり了承しゲームを計画……その間にカモは仮契約の陣を旅館中に敷いてしまった。幸いなことに、肝心のカモが従業員に見つかって捕まり、危うく処分されかけたところでゲームどころではなくなり、カモのネギの従者を増やす作戦は露と消えてしまったのだが。
それでも、朝倉にバレてしまったという事実は消えない。
本来なら、記憶を消すなどの処理が必要だ。だが、修学旅行についてきた魔法先生や学園長に聞いても、曖昧に返されるばかりで全くアクションを起こしてくれない。
とはいえ、ネギ自身は修業中の身だ。記憶操作の術は、見習いが完璧に扱えるほど簡単な術式では無い。
許可も下りていないし、失敗すれば目も当てられない。
困ったネギは、朝倉に頼み込んで黙ってもらう以外の選択肢しかなかった。
ネギは、学園長から親書を届けるという重大(とネギ本人は考えていた。彼は西と東の実情など殆ど知らない)な任務を抱えており、朝倉のことに構っている精神的余裕がなかった、というのが正直なところだったのである。
しかし、此の時ネギはカモのやらかしたポカに激怒しており、さらに魔法バレを起こしてしまうという非常事態を経験し、重大なミスをやらかしていた。
即ち、朝倉 和美に魔法の危険性や、東と西の関係について全く説明していなかったのである。
「……………………」
烏族は、常人を遥かに凌ぐ視力を持ちますし、聴覚その他の五感も優れた
そんな私の視線の先には、朝倉 和美さんというクラスメイトが、さり気無くネギ先生を窺いながら朝食を平らげていました。
私も食事を摂りつつ、起き抜けで然程働かない頭をゆっくりと回転させます。
朝倉さん、通称麻帆良の
ネギ先生を監視していた真名の話によると、その朝倉さんに魔法がバレてしまったとか。
そのこと自体は興味ありませんが、朝倉さんとネギ先生……。変な化学反応を起こさなければ良いのですが。
……あ、起こしたら起こしたで、排除できる口実になるのか。
だとすれば……いや、しかし。
お父様は、朝倉さんを巻き込むことに賛成しないでしょう。
ならば……。
「魔法ね……世界に此れほど、面白いものが眠っていたなんてね!」
3−A生徒朝倉 和美は密かに微笑みながら、手帳をペンでトントンと叩いた。
好奇心。探究心。それが彼女の原動力である。
富が欲しいわけでも、名声が欲しいわけでもない。迷惑記者だのパパラッチだのと言われてはいるが、今まで自分の我が儘で周囲を苦しめたことはない……はずだ。少なくとも、意図的にそうしたことはない。
誰も知らぬ未知の情報を我先に知り、それを発信することこそが記者の役目だ。その得た情報でどうするとか、どう使うかは記者の本分を超えている。そんなことは、その情報に触れた第三者が考えれば良い。
「ネギ先生を助ければ……先生も少しは信用してくれて、魔法の事を色々教えてくれるかも」
昨日、同盟を組んだオコジョが捕まった後、朝倉はネギにアプローチを仕掛けたが、「規則なので教えられません。どうか、忘れてください」の一点張りだった。
朝倉も、担任(其れも子供)に其処まで迫り、根掘り葉掘り聞くようなことはしない。取材や質問も行き過ぎれば、唯の暴力となる。朝倉には、彼女なりの矜持があった。芯は持っている者なのである。
なら、まずはネギの信頼を得ることから始めよう。
「そうと決まれば……確か、カモっちの話だと、先生は重要な任務を抱えているとか言ってたよね……? だったら、まずそれの手伝いから……って、内容知らなきゃ手伝いようがないじゃん……聞いても……駄目かなぁ……?」
「朝倉さん」
「うひぃ!?……って、びっくりしたぁ、刹那じゃん……」
指で回していたペンを取り零しそうになった朝倉は、後ろを振り向いて刹那の顔を見つめた。
呟きが聞かれてマズイ、と一瞬だけ思ったが、直ぐに聞かれてもどうということはないと気付いて勝手にホッとする。
「何を、悩んでいるのですか?」
「ん〜、ちょっと取材のことでね……」
「修学旅行中に、ですか?
敢えて「部活」の部分を強調した皮肉交じりの言葉に、朝倉は思わず苦笑した。
彼女は新聞部に所属している。
「勿論、学業の一環に手は抜かないよ。刹那も、如何して一人でこんなところに? 今日は班別行動でしょ?」
朝倉はそう言って、目の前の実は学年でもトップクラスの成績を誇る白髪紅眼少女を見た。
刹那は小さく目を細め、僅かに小首を傾けた。
「……ええ、少し、私用で」
「ふぅん、大変d————」
其処で突如、朝倉の意識が途絶えた。崩れ落ちる彼女を支え、彼女の首に手刀を落とした方の手をポケットに突っ込み、素早く札を取り出した刹那は、冷たい目で朝倉を見下ろした。
「……聞こえていないでしょうけど、一応言っておきますね、朝倉さん。
今回の件は……まぁ、いいです。貴女自体は何もしていませんし、貴女が魔法を知った原因はハクビシン……あれ、イタチだったかな……まぁいいか、小動物の暴走にあります。
よって、今回は助けますが………………次に、お父様に迷惑をかけ得る行動をすれば……」
————————殺す。
最後の方は小声で呟きながら、刹那は札を朝倉の額に押し当て、小声で何かを呟いた。
札は淡い光を放ち、そして蛍の光のように揺らめき、消えた。
「……よし。此れで貴女は
あの子供先生は、貴女が自分の頼みを聞いてくれたと思って、今後魔法関係で関わろうとしないでしょうし、貴女も同様。これで、貴女は巻き込まれないと思いますよ? まぁ、今のところは」
其処まで言って、刹那はパンパンと朝倉の頬を叩く。
「ん、うぅん……アレ?」
「大丈夫ですか、朝倉さん?」
心配げに声を僅かに震わせながら、刹那は顔を朝倉に近付けた。
「ん、あれ? 刹那?」
「朝倉さん、突然立ちくらみを起こして倒れたんですよ」
「え……ええ!? 嘘ぉ!?」
慌てて自力で立ち上がり、自分の身体を見下ろす朝倉に向かい、刹那はゆっくりと微笑した。
「
首を捻る朝倉の肩にポンと手を置いて、刹那はその場を去っていった。
・補足説明:仮契約未遂
ネギの従者を手に入れようと画策したカモは、好奇心旺盛で新聞部所属の朝倉に技と己の存在をばらし、協力を取り付ける。其れで原作通りラブラブキッス作戦を決行しようとしたところに木乃香の護衛が事態を察知。一般人のふりをしたままカモを捕縛。
ネギは一般人を巻き込もうとしたカモに激怒。学園長の元に送りつけるよう、魔法先生(瀬流彦先生の代わり。連合から派遣された英雄信望者)に頼み、学園側は了承。カモは麻帆良に送られる。
が、当の関西呪術協会には一切知らされず、何の説明も謝罪もなかった。カモの召還も無断である。
学園側が何の対応もしなかったのは、此れを機に、朝倉をネギの従者にしてしまおうと考えたからです。まぁ、不可能になったわけですが。
コラボ前にストックを一つ消化。ふう、もうストックが尽きかけてます(笑)。
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