前半は第三者視点、後半は久しぶりのハク視点でお送りいたします。
此の後から、色々動き始めます。
第肆拾肆話 術師の思惑とカノジョの心中
修学旅行三日目の昼。とある山にある小屋の中で、数人の男たちが話し合っていた。よく見ると、彼らは
全員、乗り気でない顔を隠しもせず、第三者が見れば任務中だとは誰も思わないだろう。葬儀前のような辛気臭さすら感じられる。
「ん〜、やっぱり一昔前の地脈図に頼ったのが間違いだったかなーぁ。いや、間違いだね、コリャ。んーったく阿呆な仕事させてくれちゃって〜ぇ……」
その中の一人、白い袴姿の青年が古ぼけた地図を見ながら唸った。
「やはり、無理か」
落胆した様子を見せず、淡々と言ったのは、先日連合魔法使いのリーダーに噛みつかれていた古参陰陽師だった。
すると、言われた方の白袴の青年は首を振った。
「できなくはないですよ……情報が少なくとも何とかするのが、僕の仕事ですからね。
でも、地脈関係の資料は長と長の配下の名家……
老人たちも、僕らにやらせるくらいなら資料くらい用意してほしかったですけど」
「所詮、あの時代に取り残された老害共に一条を出し抜く術など持たなかった。それだけのことといえよう、なぁ
渡嘉敷と呼ばれた白袴の青年は、ウンザリだと言わんばかりに顔を歪めた。
「君のところは、末の妹だったかな。人質にされているのは」
別の神道術師に言われ、渡嘉敷は無言で頷いた。
「……で、鬼神は復活させられるんか?」
浅黒い肌が特徴の陰陽師が聞くと、渡嘉敷は微妙な表情で頷いた。
「其れについては可能だろうね。でも、完全に復活できるかとなると微妙だし……リョウメンスクナを掌握するには、封印を解除した後さらに服従させるための“枷”やら何やらが必要なんだけどね。どうも、その構築も上手くいかない」
「そうか……」
その陰陽師は目を伏せると、古参陰陽師の目を見た。
「
京極と呼ばれた古参陰陽師は、顎に手を当てながら頷いた。
「……皆も分かっているとは思うが、本任務に大して意味などない。本山を潰す? 鬼神を従える? そんなものは何処ぞの物書きが考えていれば良い架空の戦争ゲームにすぎぬ。
しかし、ワシらはやらねばならぬ。
死によってか、或いは生き恥を晒しながら……かは定かではない。しかし、もう先祖代々忠誠を誓った呪術協会を裏切るような真似は、もう終わりとなろう」
「……せやな。老害共は自分たちが西を手に入れることで、東を手に入れられると踏んでいるようやな……」
「愚かな。一条を出し抜けぬ時点で、あ奴らの底など知れていよう」
「確かに」
周囲の東洋呪術師たちが次々と賛同する。
「……だからこそ、ワシらを負けさせてほしい……
「——————」
全員黙りこむ。そして、周囲に視線を投げる。
此処にいる何人か、例えば京極に渡嘉敷は
が、あの青年の気配は勿論、従者の気配も感じない。いや、感じ取れるわけがない。
しかし、京極は確信を持っていた。
確実に、見られている、と。
その時、襖が開いた。
其処にいたのは、千草だった。
後ろには彼女の両親が控えている。
「天ヶ崎か」
「報告があります。連合は予定通り……本日、本山を奇襲するようです。指揮官のカスター氏より連絡がありました」
「……本当にやるのか」
京極をはじめ、全員が呆れたように息を吐いた。
「まさか本当に一〇人前後で、呪術協会総本山を落とせると思っていたとはな」
計画段階で知らされていた京極だったが、まさか本気だとは思っていなかった。いや、やるとしても強硬偵察くらいだろうと思っていたのだ。
「魔法世界の英雄でもある
「……どーでもいいさ。こいつぁー当たりだ」
底冷えするような声で、渡嘉敷が呟いた。
「此れで、連合の罪がまた増えた。鬼神の復活なんて、どうせできやしないんだから」
分身体から送られてきた情報に、私はマスターに悟られぬよう心の中で舌を打ちました。
「? ハク?」
「いえ、何でもありません、マスター」
昼食後の紅茶を楽しんで頂いているマスターに心配をかけてしまうとは。あってはならない失態に、さらに苛立ちが募りました。
蟲共が。マスターを利用する気とは、嘗めた真似を……。
今すぐ殺してやりたい。見るに堪えない汚らわしいオブジェにした後、余す事無く殴り、蹴り、踏み躙ってやりたい。
連中は、少なくとも現場レヴェルの連中は、最初から私たちに阻止されるつもりだったのでしょう。
……蟲に想像されるまでもなく、私はそうするつもりでした。鬼神だか何だか知りませんが、私がマスターのいる場所の付近にそんな存在がいることを容認するなどあり得ません。暴れることしか能がない蜂は、潰してしまうに限ります。
本音を言うと、一秒でもマスターの御側を離れたくありません。私の本来の存在意義はマスターを御護りすること。それさえ叶うなら、明日菜たちや京都や此の国や世界がどうなろうと、知ったことではありません。
ですから、明日菜たちに全て任せたいというのが私の本音です。
しかも、マスターは明日菜たちの安全を祈っておられました。無論、鬼神程度に殺されるほどヤワな鍛え方をしているつもりはありませんが、私はあの小蟲共を全く信頼していません。万が一にも考えられます。
まったく、中途半端にしか使えない駒になったものです。せめてもう少しだけ強くなってくれていたのなら、マスターが危惧されるような事態になる可能性を消去できたものを。
……仕方がありませんね。強硬派の連中は西に捕らえさせるのがベストです。マスターは呪術協会との関係を悪く思っていませんので、壊すわけにもいかない……蟲を始末できないのは残念ですが、まぁ、そんなことはマスターの御意志の前では些事です。
私はマスターの御意志を絶対なものとします。マスターの前では私の欲望や意思など、塵に等しい存在です。いえ、私自身がマスターに跪く、マスターとは比べる価値もない低俗な存在にすぎません。
……マスターに感謝しながら、醜く生き延びて見ろ。
明日菜や刹那、子日が此の事を知れば、恐らく怒るでしょう。それも、沸騰する程に。
その時、明日菜たちはマスターの思いを汲んで思いとどまるか、それとも奴らを潰すか……。
恐らく、その
「ハク」
「はい、マスター」
「無理していないかい?」
「————」
突然マスターにそう言われ、私は息が詰まりそうになりました。
そんな、此の私が、マスターの仰ることを予測できなかった……しかも、此の御言葉は。
マスターに御心配をかけてしまった……私が? 此の綺羅川 ハクが?
「……大丈夫、そうだね」
「え……」
フリーズした頭を何とか解凍させようともがいていると、視界には振り向いて私を見上げているマスターの瞳がありました。優しさしか籠っていない、慈愛の瞳でした。
「ハク、此れが終わったらさ……家族皆で旅行に行こうか」
「承りました、マスター」
「うん。明日菜たちものんびりさせてあげよう。……思ったんだけどさ、あの子たちだけで旅行に行かすのも駄目だしね……」
マスターの御声を聞きながら、私の頭は猛烈に回転し始めます。
……あぁ、そういうことですか。
マスターは、自分だけのんびりしていることに、まだ罪悪感を覚えているのですね。
別にマスターに、苛立ちを読み取られたわけではないし、そんな愚を犯すことなど許されない。
だから、此れは純粋に……マスターの、御配慮です。
「マスター、マスターが御気になさることなど、何もありません」
「えっ?……そう、かな?」
「はい。マスターに責任など、何一つないのですから」
……………やはり、憎い。マスターを利用しようとする蟲共が。マスターを煩わせ得る蟲共が。
ですが、それ以上に私は……マスターの御側にいたいと強く思うのです。
そう、全ては……マスターのためだけに。
補足説明:強硬派
強硬派の現場部隊は強硬派トップの老害たちに同調したものは皆無で、大抵は家族を人質に取られるか、或いは脅されるかなどで参加したものが多い。
彼らは現長体制の崩壊など望んでおらず、寧ろ計画が失敗し、自分たちの行動が老害の一斉排除の引き金になることを望んでいる。
だが、表立って裏切る真似はできない。しかし、主人公たちに邪魔されることを確信している。それでハクに殺されても、仕方がないと思っている者もいる。
但し、ネギの持つ親書奪還及びネギ捕縛は別で、強硬派・合同派両者ともにネギの特使派遣は認めない方針。
御意見御感想宜しくお願いします。
追記:早いもので、此の小説も50部を突破し、PV500万アクセスを突破する勢いです。こんなに読んで下さって、本当に有難うございます。
訂正:500万突破記念ですが……以前、300万突破記念したばっかりで、コラボをやった直後ですし、もうちょっと間を開けようと思います。
其処で、600万アクセス突破した暁に記念話を投稿する方針に変更しました。
募集:記念話のネタというより要望(「こんな話を書いてほしい」・「こんな企画を実施してほしい」etc)を募集します。御要望にはなるべく応えたいと思っていますが、完全に御答えすることはできない可能性もあることを御留意下さい。
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