今回のサブタイトルは「むくげ」と読みます。
花言葉は『信念』です。
物語はどんどんクライマックスへと進んでいきます。あと少しとなりますが、最後まで楽しんでいただける事を願います。
木槿
ムラサメと樹獣達は一路、メガロメセンブリアに向かっている
エヴァンジェリン達はその姿を見ているだけで動けずにいた
「ムラサメ、ムラサメェ……」
エヴァンジェリンは地面に座り込み、泣き続けている
彼女の手の中には花びらが無残に散ってしまったコチョウランが握られていた
エヴァンジェリンがムラサメ達が移動を始めてから、急ぎ拾い集めた物だった
コチョウランを胸に抱きながら、エヴァンジェリンは泣いていた
こんなエヴァンジェリンは見ていられない
夕映はエヴァンジェリンの正面に立ち、彼女に言う
「エヴァンジェリンさん、立ってください」
「…………」
「立ってください!! あの人に、私達の大切な人に、世界を破壊させては駄目です!!」
夕映はエヴァンジェリンを立たせようとする
しかし、彼女は動かない
その目は地面に向いたままだった
その姿に、夕映がいつも見てきた誇り高い姿は微塵もなかった
今、この場にいるのは誇り高き真祖の姫君ではなく、悲哀に打ちひしがれる一人の少女だった
「エヴァンジェリンさん、立ってください! 私にそんな姿を見せないで下さい!
エヴァンジェリンさん!!」
夕映は泣いていた
泣きながら叫んでいた
しかし、彼女の叫びも今のエヴァンジェリンには届かなかった
「……。エヴァンジェリンさん、私はあの人を止めてきます。どのようになろうと、あの人はムラサメさんです」
夕映はそう言い残し、樹獣達を追い始めた
エヴァンジェリンはそんな夕映の後姿を見るだけだった
そんな彼女に茶々丸は声を掛ける
「マスター、行きましょう」
「……」
「マスター、貴方のムラサメさんへの想いはその程度なのですか?」
茶々丸の挑発的な言葉に、エヴァンジェリンが顔を上げる
「そんな訳がないだろう! 私は、私の想いは!! ……でもっ」
エヴァンジェリンは再び、顔を伏せる
そんなエヴァンジェリンを優しく諭すように、茶々丸は喋る
その言葉には慈愛が満ちていた
「ならば、立ちましょう。マスター、花は散ってしまえばそれで終わりではありません。
散った後には新たな花が咲きます。……だから、だから」
ガイノイド、機械であるはずの茶々丸の瞳から涙がこぼれた
「立ってください、マスター!! 貴方は私のマスターなのですから!!」
「茶々丸…………」
「ムラサメさんと戦ってください、とは言いません。ただ見ていて下さい。夕映さんの、私の姿を」
そう言って、茶々丸はエヴァンジェリンを抱き上げ、夕映の後を追い始めた
テオドラ達の目の前には廃墟が広がっていた
帝国から出てきた彼女達の目に入るのは廃墟と死体の山だった
死体はいずれも何か大きな物に潰されていた
「こいつぁ、ひでぇ」
テオドラに説明を受け、同行したラカンが言葉を漏らす
今、目の前に広がる光景は大戦を経験した彼等でさえ、目を背けたくなるものだった
「これは、やはり代行者達が?」
「そうだろうな。だが……」
「だが、なんじゃ?」
「ここまで見境が無かったか?」
ラカンの言葉の意味が分からないのか、テオドラは尋ねた
「何か、気付いたのか?」
「大戦の時は、あいつ等は自然の近くで戦闘を行っている奴等だけを潰してきた。
だが、今は目の前にある物全てを破壊してる。こいつぁ、まるで……」
「暴走しているかのようだ、と?」
「そういう事だ」
ラカンの言葉にテオドラの顔が青くなる
「あの、代行者が暴走……」
それは、考えうる中でも最悪の出来ごとである
どうしたものか、と考えていると
「テオドラ様! 後方から何かが急速で接近してきます!!」
「なんじゃと! 一体なにが……!!」
『RuOooooooooooooooooo!!』
彼女達の乗る戦艦を追い越した存在の正体はヘラス帝国を守護する守護聖獣達だった
「守護聖獣達が帝都を離れた? 守護聖獣は帝都を護る存在、その守護聖獣が動いた」
その事実が意味するのは、唯一つ
「全艦に通達! 急ぎ、代行者に追い付くぞ! このままでは大戦以上の災厄が起きるぞ!!」
メガロメセンブリアでは既に市民の避難と、騎士団の展開が進められていた
「慌てずに、必要最低限の荷物のみを持ち、避難しろ!!」
「押すな! まずは病人や老人が優先だ!!」
「助けて助けて助けて助けて!!」
「大丈夫だ、私たちが必ず守る!」
「どきやがれ! 邪魔だ!!」
「ちゃんと騎士団の指示に従え!!」
「なんでこんな事に」
「止まるな! 生きたいのなら止まるんじゃない!」
「お母さん!! お母さんどこ!!」
「安心しろ、君のお母さんも必ず避難している。こっちに来るんだ!!」
「まだ、父が病院に!!」
「ちゃんと搬送する。一先ず避難を!! くそっ、人手が足りねぇぞ!」
帝都は大混乱となっていた
全ての市民を避難させようというのだ
それも当然だろう
そんな中、騎士団を指揮する男がいた
男の名をクルト・ゲーデルと言った
「いいか、何よりも市民の避難を第一としろ! 終わり次第、郊外にそのまま防衛戦を展開しろ!
上層部はこんな時になにをしている!!」
クルトは指示を出しつづける
すると、一人の騎士が走って来た
「大変です! 上層部の方々の執務室には誰もいません!!」
「なんだと!? まさか守るべき市民を見捨て、先に逃げたのか!?」
「いえ、どうやら随分前からいなかったようです」
この時、クルトには知るよしはないが、既に上層部は全員が代行者によって死に絶えていた
「あの老害共め! 肝心な時に役に立たん! ご苦労だった、お前も市民の避難誘導に加われ!」
「了解しました!!」
騎士はそう言い、走っていった
クルトは一人、天を見上げ息を吐く
そして、懐に入っている連絡装置に手を伸ばす
「お前にだけは頼りたくなかったが、そうも言っていられないか」
麻帆良学園に帰って来たタカミチは近右衛門に報告するために学園長室にいた
その時、彼の携帯が鳴った
「はい、タカミチです」
『タカミチ、久しぶりだな』
「クルト!? 一体どうしたんだい!?」
『……タカミチ、至急、関東魔法協会理事長に連絡を繋いでくれ』
「なにか起きたのかい?」
『それの説明もする。とにかく急いでくれ』
クルトの後ろから悲鳴や怒号が聞こえる
何かが起きている
近右衛門はタカミチから携帯を受けとった
「今、変わりました。何が起きたのですかな?」
『現在、代行者の勢力が此処、メガロメセンブリアに進撃してきています』
「なんじゃと!? 何故……」
『わかりません。ですが、進撃してきているのは事実。現在、我々は市民の避難を第一に動いていますが、正直に言えば人手が足りません。そちらにいる全魔法使いを至急派遣していただきたい』
「……了解した。直ぐに送ろう」
『協力、感謝する』
それだけ言うと、クルトからの通信は切れた
「……学園長」
「タカミチ君、直ぐに全魔法関係者に連絡を。そして、その指揮を君に任せる」
「学園長は?」
「わしは、指揮よりもやらねばならん事が出来たようじゃ。後は頼むぞ」
そうタカミチに告げると、近右衛門は足早に出て行った
タカミチは近右衛門の態度が気になったが、まずは指示をこなす事とした
ネギ達に付いていかなかった木乃香は、女子寮の自分の部屋で刹那と共に過ごしていた
すると、部屋の扉がノックされた
「誰やろ? は〜い」
木乃香が扉を開けると、其処には自分の祖父である近右衛門がいた
「おじいちゃん? どうしたん?」
「お嬢様、誰でしたか?」
刹那が顔を出し、近右衛門の姿を確認すると、顔をこわばらせる
「学園長先生、どうしたのですか」
「ふぉふぉ、ちょっと愛しの孫娘と話がしたくての」
近右衛門は笑いながらそう言うと、部屋に入る
表面だけを見るのなら、その姿はいつもの近右衛門なのだが、木乃香は気付いていた
何かが起きたのだと
この態度は演技であると
彼女は気付いていたが、敢えて近右衛門の演技に付き合う事とした
「もう、いくら学園長やからって、そうホイホイ女性の部屋に来ていいんかな?」
「これは手痛い言葉じゃ」
二人はしばらく歓談を続けた
しかし、何処か白々しかった
ついに、木乃香が尋ねた
「……おじいちゃん。何が起きたん?」
「別に何も起きとらんよ。ただ、お前と話がしたくなっただけじゃ」
「誤魔化さなくてええよ。私はおじいちゃんの孫やもん。おじいちゃんの今の態度が演技やって事くらい直ぐに分かる」
近右衛門は少しだけ目を見開き、溜息をついた
「分かってて、付き合うてくれたか。やはり、お前は優しい子じゃ。木乃香、その優しさを決して失うでないぞ」
近右衛門はそう言いながら、懐から二つの手紙を取りだす
「おじいちゃん、これは?」
「一つは婿殿へ、そしてもう一つはお前にじゃ。木乃香、その手紙は必ず婿殿に、お前が手渡すのじゃ。そして、もう一つは別に開かんでも良い。お前が必要と思ったのなら開きなさい」
「……おじいちゃん、死ぬつもりなん?」
「何故、そう思うのじゃ?」
「否定しないんやね」
「……………。なに、ちと友人が困った事になったようじゃからな。ちょっと助けに行って来るだけじゃ。それに、お前の晴れ姿を見るまで死ぬに死ねんわい」
近右衛門はそう言って笑う
「学園長先生、必ず帰ってきてください。私達にはまだ、貴方が必要です」
刹那の言葉に近右衛門は笑いながら答える
「それは違うぞ、刹那君。未来を創り、先へと進むのは、わしのような老骨ではない。
それは、君達若い世代の仕事じゃ。わしの様な老骨に出来るのはその道を遮る障害物を少し、ほんの少し取り除く事ぐらいじゃ。
大丈夫、君達はわしも驚く程の才気に満ちておる。何でも出来る。どこまでも進んで行ける。恐れずに、進みなさい」
近右衛門はそう言って、立ちあがった
「刹那君、これからも木乃香を頼むぞ」
「……ッ。はい、身命を賭しましても、必ずやお嬢様は、このちゃんは私が護ります」
「木乃香、お前はわしの自慢の孫じゃ。良き人を見つけなさい」
「おじいちゃん。うちにとっても、おじいちゃんは自慢のおじいちゃんや。
大丈夫やよ、うちはおじいちゃんの孫や。良い人くらいすぐに見つかるで。
やから、うちの晴れ姿、見るまで死んだらあかんよ?」
木乃香は涙を堪えながら、笑顔を作る
近右衛門は木乃香の頭を優しくなでて、部屋から出て行った
近右衛門は麻帆良学園の敷地を歩いていた
その歩みはゆっくりとしたものだった
彼は、麻帆良の光景を焼きつけていた
そこかしこから、部活動の声が響く
自分の横を駆けていく生徒全員が、声を掛けてくれる
辺りは笑い声と笑顔であふれていた
「ふぉふぉ、わしは幸せ者よな」
そして、彼は世界樹の下にある転送装置へとたどり着いた
「ムラサメ殿、今、参りますぞ」
そう呟き、彼は転送装置の中へと消えていった
彼が消える直前、世界樹が少しだけ輝いた
今回は色々な勢力が集結するというお話です。
学園長を書き過ぎた気がしないでもないですが、気のせいですよね!
後、サブタイトルの花を何故、前回はカタカナで今回は漢字で書いたのか
それはメインの人物が違うからです。
前回はエヴァンジェリンの想い『愛情』
今回は近右衛門の想い『信念』
近右衛門がメインならばサブタイトルも漢字が良いかな、と思いそうしました。
それでは、また次回
活動報告の方で次回作アンケートを行っています。こっちにも一応コピペしておきます。
下記のいずれかから一つお選びください。期間は『樹木の王』が完結するまでです。
1、原作 コードギアス ナイトオブワンの義理の息子が主人公
2、原作 恋姫無双 徳が主人公。作者はゲームをやったことがないため、三国志よりのお話
3、懲りずに再びネギま。主人公は弱いです。今度はネギとも仲良く。アーニャやまさかの造物主がヒロイン
4、トリコの美食会側のオリ主が、ネギまかなのはの世界へ
以上4つから選んでいただければ幸いです。
それでは失礼します