第92.5話 貴族と平民の使い魔
俺は朝いつも通り厨房で賄いを分けてもらった。
流石に何時も何時も世話になって、何のお返しもしないのは流石に気が引ける。
俺はそう思って一つの提案をした。
「俺に配膳を手伝わせてくれ!」
「なんだいきなり、お前さんは貴族様の使い魔なんだろう?
なら勝手に働くのは不味いんじゃないか?」
「あとで伝えれば大丈夫だって!
それに何時もただ飯食わしてもらってるから、なんか恩返ししたいんだよ!」
おっちゃん迷ってるなぁ。
もしかして迷惑だったか?
「いいじゃねぇか、手伝ってくれるって言うんならよ」
「マルトーさん!」
「いいのか?!」
「まぁ大丈夫だろ。
但し料理をこぼしたりすんなよ?」
「分かってるよ!」
俺は意気揚々と料理を持って配膳の手伝いを始めた。
しばらく配膳を続けていると、何か騒ぎが起こっているようだ。
俺は野次馬根性で少し覗いてみることにした。
「だから、僕が一方的に振られたなんて事実は存在しない!」
「おいおい、ヴィリエ。
みんな知ってるんだぜ?
お前がキュルケに告白して振られたこと」
「何回も言っているだろう……僕は告白したんじゃない! 提案しただけだ!」
どうやらヴィリエって言うやつが告白したとかしないとかの話らしい。
やっぱり恋愛関係の話は盛り上がるもんだな。
「提案?」
「そうだ!
僕は特定の人と深い付き合いをしていないようだから僕が付き合ってあげようって言っただけだ!」
なんだそれ……マジかよ?
流石にそれはないだろ、ヤベッ笑いが……。
「プッ…」
俺は少し口から笑いが漏れてしまった。
するといきなりその場が静寂に包まれた。
「今、僕を笑ったのか?」
「い、いやそんなことは……」
「平民のお前が、風の名門ロレーヌ家の僕を馬鹿にしたのか!」
あれ、これもしかして不味いのか?
なんかさっきと空気が違う。
「良く見ればお前は……‘爆発’のルイズが召喚した使い魔じゃないか!
主が非常識なら使い魔も非常識だな!
平民は貴族に逆らうんじゃない!」
なんだこいつ……。
すっげぇムカつく!
「お前感じ悪いな」
「な……それは僕に言ったのか?
平民風情が?
この僕を侮辱したのか?」
「侮辱じゃねぇよ、本当のことを言ったまでだよ」
「そうか……ならば決闘だ!!
無礼な平民に立場と言うものを教えてやろう!」
「上等だ! ぶちのめしてやるぜ!」
俺は勢いでそう言った。
しかしシエスタが俺の服を引っ張って何かを言っている。
「サイトさん、謝った方がいいです!!
貴族様と戦うなんて……勝てっこない!」
「どうせ決闘って言ったって喧嘩みたいなもんだろ?
なら殴り飛ばしてやる」
「サイトさん殺されちゃいますよ?!」
「殺……される?」
「貴族と平民の違いは身分だけじゃないんですよ!
魔法にどう対抗する気なんですか?!」
魔法ってそんなに危険なのか?
俺はそんな危険な相手に喧嘩を売ったのか?
でも……それでもアイツは許せない!
「アイツは平民は貴族に逆らうなって言ったんだ。
なんだよそれ。
俺はそんな考え大嫌いだ!
……大丈夫、きっとなんとかなる!」
俺はそうシエスタに言った。
でも本当は自分自身に言い聞かせていたのかもしれない。
怖い、でもさっきの発言は気に入らない。
俺は大きな不安を抱えながら、中庭へと足を進めた。
中庭に着くと、そこには沢山の学生がいた。
どうやら野次馬らしい。
「なんだ、逃げなかったのか?
今なら平伏して許しを請えば許してやらなくもないんだがな」
ヴィリエは周囲の野次馬を見ながらそう言った。
大勢の前で俺の情けないところを見せようとしてるのか……。
「誰が謝るか!
俺は……何も間違ったことを言った覚えはない!」
「き、貴様……平民風情が大口を叩くな!!」
ヴィリエは鬼の様な顔で俺を睨む。
喧嘩の経験なんてほとんどない。
でも一発、一発でもいいからアイツを殴りたい!
そんなことを考えていると、野次馬の中から一人が前に出てきた。
「ヴィリエ、君は恥しくないのか?
武器すら持っていない平民を魔法で嬲る……そんなのは唯の弱い者いじめじゃないか?」
「ギ……ギーシュ! 貴様まで僕を馬鹿にするのか!」
「馬鹿にはしていないよ。
だが、決闘と言うくらいなら相手に剣の一つも持たせてあげたらどうだい?」
「フン、いいだろう!
平民、剣を持ってもいいぞ!」
剣を持ってもいいぞって言われても、俺剣なんか持ってないぞ?
するとさっきギーシュって呼ばれていた人が俺に近づいてきた。
「君も無謀だな」
「成り行きで……」
「成り行きで命がけか……なんにせよ死なない様にな!
剣は……錬金!
っとこれでいいかな?」
「魔法ってすごいな……ありがとう!」
俺は彼が今作った剣を受け取った。
その瞬間頭に剣の情報が入りこんできた。
材質、この剣の制作者、重量。
「なんだ……これ?」
「どうかしたのかい?」
「い、いやなんでもない。」
なんだ今の?
それになんか身体がすっげぇ軽い。
これなら……誰にだって負ける気がしない!
「それじゃあこのコインが地面に落ちたら、決闘開始だ!」
「上等だ!」
予想より長くなった……。
もう一話掛かります。