第92.75話 レッドの実力
コインが空に向けて投げられた。
「平民は大人しく貴族に従ってればいいんだ!」
「平民平民ってそんなに貴族が偉いのかよ!」
「当り前だろう!!」
そんな会話をしている内に、コインが地面に落ちた。
「一発で決めてあげよう!
エアハンマー!」
なんか飛んでくる?!
俺は急いで横っとびした。
「俺今すっげぇ飛ばなかったか?」
「僕のエアハンマーを避けた?」
なんかよくわからないけど、隙だらけだぜ!!
俺は全速力でヴィリエに近づいていって、剣で杖を斬った。
「あ……」
「俺の勝ちだよな?」
「そんな、そんなはずがない……この僕が平民なんかに負けるなんて……」
なんか話しかけても反応がないな……とりあえずギーシュに剣を返しに行くか。
そう考えていると、遠くからシエスタと……ルイズが来た。
「アンタ何考えてんのよ!!
魔法を使えないのに貴族と決闘だなんて、今直ぐ止めなさい!」
「いや……」
「ルイズ、もう決闘は終わっているよ」
「へ? だってコイツ何処も怪我してないわよ?」
「まぁ……それは僕も驚いているんだけど……」
「魔法を使わないで魔法使いに勝てる人なんて、私兄様位しか知らないわよ?」
「レッドさんってそんなに強いのか!?」
「あぁ君は知らなかったのか。
あの人は僕の師匠でもあり、学院最強の一角を担っているんだよ?」
あの人が……そんなに強かったのか。
世の中分かんないもんだなぁ。
「なんにしても勝手に決闘するなんて、アンタ馬鹿じゃないの?!」
「だってアイツが平民は貴族に大人しく従えって言うんだぜ?!
ムカつくじゃねぇか!」
「アンタ本当に何処から来たのよ……」
「だから月が一つしかない世界だって言ってるだろ!!」
そんな感じでしばらく口喧嘩していると、不意に後ろで物音がした。
「平民の癖に……平民が……平民が平民が平民が僕に勝つなんて認めない!!!!
死ね!! エアカッター!!!」
「な?!」
ヴィリエが何処に隠していたか分からないが、新しい杖を持って俺の方に向かって魔法を放ってきた。
ヤバい、さっきみたいに身体が軽くない。
寧ろいつもより重い……これは死ぬかも。
「アース・ウォール」
俺は死を覚悟して目を瞑ったが、何時まで経っても痛みどころか衝撃すら来ない。
不思議に思って目を開けると、目の前に大きな土の壁があった。
誰がこの壁を……。
「勝利の余韻に浸っている相手に魔法を放つ。
確かに戦場でなら有効的な攻撃だな。
しかし決闘で既に負けた後にやることじゃないな……。
(それにしてもコルベール先生は何してるんだ?)」
「兄様!」「「レッドさん!」」
「君たち後でまとめて説教ね?」
「「「え?!」」」
助けてくれたと思ったら、後で説教……。
っていうかなんで説教?
「決闘は校則で禁止されてるから……。
あぁそれとヴィリエ君」
「………またお前か!!
またお前なのか!!」
「いやいや、前回の事も今回の事も自業自得だと思うのだがね?
後一応僕も教師だから敬語を使ってくれないかな?」
「前回ってなんだ?」
「いいからアンタは黙ってなさい!」
何で怒られてんだ俺?
っておい! またヴィリエの奴魔法使おうとしてるぞ!!
レッドさんは……杖を構えてない?!
「レッドさん危ない!」
「はぁ……一回お灸をすえないと駄目かな?」
「え?」「レッドさん、何する気ですか?」
レッドさんがそう呟くと、俺は驚くような光景を目にした。
ヴィリエが放つエアカッターを避けながら、徐々にヴィリエの元へと進んでいる……。
見えないはずの風の刃を飛んでくる場所が分かってるかのように回避している姿は、まさに達人って感じがした。
「来るな!!来るなよ!!
何なんだよお前!!」
「凄ぇ……」
「「流石兄様(レッドさん)」」
レッドさんはそのままヴィリエのすぐ近くまで行くと、軽く顎を殴った。
すると人形の糸が切れたように、ヴィリエが膝から崩れ落ちる。
あれって……良く漫画とかである様に脳を揺らしたのか?
あの人本当に何者だよ……。
「さぁてと、これでこの件は御終いだ。
みんな教室に戻りなさい。
授業の時間が近づいているからな」
レッドさんはそう言って、ヴィリエを肩に担いで学院に戻っていく。
あの人凄いな……漫画のキャラクターみたいだった。
野次馬達も最初レッドさんの鎮圧劇をみて驚いていたが、授業の時間が近づいて来ていることに気付き、教室に戻り始める。
するとレッドさんと入れ違いになる様に、髪の毛が薄い人が走ってきた。
「決闘を止めなさい!」
「コルベール先生……もう色々と遅すぎです」
「はい?」
「もう決闘は終わっちゃいましたし、その張本人であるヴィリエ君も暴れたので、レッド先生が気絶させて連れていっちゃいましたよ?」
「やっぱり遅かった……眠りの鐘の置き場所が変わっていたのが悪いのですよ!!
なんで宝物庫の奥の方にあるんですか!!」
なんか最後は締まらなかったけど、怪我しなくて良かった……。
それにしてもあの剣を持った瞬間に感じたやつは、なんだったんだ?
「サイト! アンタ速く来なさいよ!!
授業に遅れちゃうじゃない!!」
「あ、あぁごめん」
「私に髪がないからミス・ロングビルは振り向いてくれないのですか!?」
延々と独り言言ってるけど……大丈夫かあの人?
やべぇ主人公自重してねぇw
でもこれぐらいなら……OKか?