第93話 行動の責任
ヴィリエを担いだ俺は、そのまま学院長室に向かった。
特に怪我はないみたいだから、起きてすぐ説教タイムに入れるように今はソファーに横たえている。
「今回の罰はどうしますか?」
「そうじゃのう……二回目じゃからのぅ」
「取りあえず親への連絡は決定としても……」
「謹慎が妥当かの?」
「そうですね」
そうやって話している内に、コルベール先生が学院長室に掛け込んできた。
なにやってたんだ?
「コルベール君、君は何をやっていたのかね?」
「違うんです学院長!
私が眠りの鐘を置いてある場所に行ったら、何故か無くてですね?
そして色々なところを探し、宝物庫の奥にあった眠りの鐘を持って現場に向かったら、もうすでに決闘が終わっていたんです!」
「あれ? 眠りの鐘についてはこの間宝物庫に置いておくと会議で話があった気がするんですが……」
「あぁコルベール君はあの時ロングビル君と話し込んでおったからの。
聞き逃したんじゃろぅ……これは減給かの?」
「そ、そんな……」
コルベール先生は漫画ならば顔に三本線が入るほど落ち込んでいた。
ドンマイ!
「う……ん」
「あれ? 彼はミスタ・ロレーヌじゃないですか。
何故ここに?」
「特に怪我もないので、起きてすぐに今回の件の処分を伝えるために真っ直ぐここに連れてきました」
「そう言えば暴走した彼をレッド先生が止めたんでしたか……」
「あの時のレッド君の動きは見事じゃったのぅ」
「やっぱり見てたんですか……でもあれはそんなに難しいことじゃないですよ?
ヴィリエ君は杖を振った方向に風の刃を出していたので、杖の先を見ていればある程度の身体能力で出来るはずです」
「(そんなことできる者は早々おらんと思うのじゃがのぅ)そうか」
「何の話ですか?」
「いや、別になんでもないんじゃよ」
「そうですか?」
そっかコルベール先生はあの場に居なかったからヴィリエの暴走を見てなかったのか。
あの時眠りの鐘があったらもっとスマートに事態を終結出来たのに……。
俺はそんなIFを思い浮かべて、少しだけコルベール先生を恨んだ。
「う、あ、あれ?」
「フォ、どうやら目が覚めた様じゃな」
どうやらヴィリエが目を覚ましたようだ。
なんか俺を見たら、また騒ぎだしそうだから死角に移動しよう。
「僕は……確かルイズの使い魔と決闘して……」
「お主は負けて、その事を認められず彼を後ろから殺そうとした」
「な?! 彼はそんなことをしたのですか!?」
「コルベール君、少し黙っていたまえ」
「は、はい」
まぁコルベール先生の反応も分からなくもないか。
殺すという行為に大きな嫌悪感を抱いているし……。
「そうだ! あの平民はどうなったんですか!?
死にましたか!」
「お主は……もし彼が死んでいるとしたらどうする」
「どうする? 特にどうもしませんが?」
「彼はミス・ヴァリエールの使い魔だったのじゃが?」
「使い魔ならまた呼び出せばいいじゃないですか。
アイツは僕を、貴族の僕を馬鹿にしたんですよ?
死んで当然です」
うわぁ……ギトーも酷かったけど、それ以上にコイツ腐ってるな。
ここまで来ると怒る気も失せるな。
「はぁ……サイト君は生きとるよ」
「なんだって?!」
「それにお主覚えていないのかね。
何故お主が意識を失っていたのか」
「僕が意識を失った理由……」
ヴィリエは少し考え込むと、次第に身体が震えてきた。
そして勢い良く学院長の方を向くと、叫びだした。
「そうだ!! レッド先生、いやレッドに殴られたんだ!
アイツは生徒を殴ったんですよ!
首に、首にしてください!!」
「「………」」
流石にコルベール先生と学院長も開いた口が塞がらないようだ。
まぁ殴られたって言っても青タン一つないからなぁ……。
それに学院長はあの一部始終を見ていた。
「(どうしたもんかのう……)君はレッド君を首にしたいのかね。」
「当り前じゃないですか!
前々から気に食わなかったんだ……僕たちとあんまり歳が変わらない癖に偉ぶって、癪に障る!」
え? 俺偉ぶった態度とったっけ……。
俺は確認のためにコルベール先生を見るが、コルベール先生は苦笑しながら首を横に振った。
ですよね……。
「彼の生徒からの評価はかなり高いんじゃが……」
「それはそいつ等の程度が低いんですよ!」
「そうか……もういい加減面倒じゃし、姿を見せていいじゃないかの?」
「何を言って……「いや、なかなか耳に痛い話だね」!?」
俺は学院長の横に移動して、彼と相対した。
突然現れた、っていうか俺の存在に気付いたヴィリエは口をパクパクして後ずさった。
「な、なんで……何時から……」
「いやね、見えるところに僕がいると冷静に話せないかなって思ってね。
見えない位置に立っていたんだ」
ドンドン青ざめていく彼の表情を見ていると怒りの代わりに憐れみの感情が沸いてくる。
一応今後こういうことがない様に色々話しておきますか。
「取りあえず殴ったことに関してはすまなかった。
でもあぁするしか止める方法を思い浮かばなくてね。
それに痛くはなかったろう?」
「……」
「それに君がもし彼を殺していたら、君の家はもしかしたら多大な損害を受けていたかもしれない」
「なんの話……ですか?」
無理矢理丁寧に話したな。
まぁしょうがないけど……。
「君は忘れているのかもしれないけど、ルイズ嬢はヴァリエール公爵の娘なんだよ。
その相棒ともいえる使い魔を背後から不意打ちで殺したとしたら……どうなるかな?」
「え?」
「それに君は前にタバサ嬢とキュルケさんをハメて、決闘させたね?
あの二人は片やガリア、片やゲルマニアからの留学生。
その二人を嘘の情報で決闘させた。
もしかしたら国際問題になっていたかもしれない」
もうヴィリエの顔の色は青を通り越して、白くなってきている。
全部自業自得だけどな!
「君が起こした二つのことは正直大問題なのだよ」
「そ……そんな……そんなこと僕は……」
「それに君はサイト君に言っていたね。
平民の癖に!と何度も何度も」
「それは……当然じゃないか!」
「でも平民がいない領土に発展はあるのか?」
「え?」
「君は平民を物みたいに思っているのかもしれないが、彼らのおかげで貴族は成り立っているんだよ」
「………」
「一気に考え方を変えろとは言わないけど、そう言ったことを頭に入れておいてほしい」
その後ヴィリエは学院長から一週間の謹慎を命じられ、親にも連絡がいった。
でもそれが命じられているときも、ヴィリエは一言の文句も言わずにただ俯いていた。
彼が学院長室を退出した後も、3人は残っていた。
「これで彼も少し考えを改めてくれるでしょうか?」
「さあのぅ、それは彼次第じゃろ」
「それにしても貴族の平民蔑視はどうにかなりませんか?」
「難しいのぅ、親にそうと教えられてきている場合は、そうそう考えは変わらんよ」
俺の知り合いは、そんなに平民がどうとか気にしない人が多いからな。
あそこまで露骨な平民蔑視思考を持った人と関わりを持ったことがなかった。
まぁきっとサイト君の活躍が平民に対する感情を和らげてくれるはずだ。
俺では授業で少しずつ変えていくこと位しかできないから……。
ヴィリエ改心?