第95話 吸血鬼の出る村
サビエラ村に着く前に俺は念のためLv40位のハガネールも装備しておいた。
このレベルなら俺の見た目に変化は起きない。
噛まれてグールの仲間入りなんて御免だからな。
それと今回はシルフィが人間に化けて、従者として顔合わせするらしい。
服を着るのが嫌って言って渋ってたけど、タバサに杖で一回叩かれると変身した。
「今回も俺は傭兵という立場にしてもらう」
「分かった。 でも今回は私は従者」
「どういうことだ?」
「彼女を騎士役に据えて、様子を見る」
「あぁ、吸血鬼が何処にいるのか分からないんだっけ……」
「うぅ、ゴワゴワしてるのね……るーるー」
こら、スカートを持ち上げるな!!
見えるだろうが!!
と思いながらも口には出さない俺……俺も男ってことで。
「うぉ!? 何だいきなり?!」
「……なんとなく」
突然杖で小突かれたわけだが、何故に?
取りあえず俺達は村長の下に、到着したことを伝えるために村の中を歩いて行った。
「ようこそいらっしゃいました騎士様!
私が村長のアイザックです」
村長は結構歳を召した白髪の男性だった。
心なしか目の下の隈が濃い。
「私は花壇騎士のシルフィード!」
「シルフィード?」
なんか村長が不思議そうな顔をしている。
そう言えばシルフィードって人の名前には少ないんだっけ……。
一応フォローしとくか。
「花壇騎士の特性上、偽名を使って動いた方がいい場合も少なくないのです」
「あぁ、そうだったのですか……これは失礼いたしました!」
何とか納得してもらえたようだ。
シルフィも冷や汗を拭っている。
「それで、そちらのお二人は……」
「彼らは私の従者なのね」
「どうも、傭兵のヘイと申します。
仮面は、幼い頃に顔に火傷をしてそれを隠すためにしております」
「同じく従者のタバサ」
「そうだったのですか……大変だったのですね」
同情の視線が痛い。
そしてタバサとシルフィの視線も痛い。
うっ……罪悪感が……。
「そ、それでは吸血鬼について教えていただけますか?」
「あ、はい」
話を聞いてみると、少し前に森の近くで吸血痕がある死体が見つかったのが最初だったそうだ。
それからも偶に森の近くで死体が見つかる様になった。
村人にも被害が出ているために討伐を依頼したということらしい。
「そうですか……吸血鬼の姿を見た人は今のところいないんですか?」
「も、もしかして、私たちが嘘をついているとでも?!」
「あぁ、いえいえそう言うことを言いたいわけじゃないんです。
ただ人間と吸血鬼の見た目は殆ど変わらないものですから、少しでも情報が欲しいと思いまして」
「そうですか……」
この人結構精神疲労してるな。
まぁ当り前か、自分の村に吸血鬼がいるかもしれないって思えばな。
「おじいちゃん?」
「おぉ! エルザ!
身体は大丈夫かい?」
「うん、少し良くなったよ」
「村長、彼女は一体?」
「あぁ私の娘のエルザです」
娘?それにしては歳が離れてないか?
タバサも少し目の色が変わった。
「歳のことですよね……少し前に彼女は森で倒れているところを、私が見つけて保護していたのですが、身寄りもないとのことなので、私の子供として引き取ったのです」
「そうでしたか……優しいですね」
俺は一応そう言ったが、何か引っかかる。
タバサとシルフィは露骨に彼女を疑っている。
やっぱり森で見つかった身元不明の人間は怪しすぎる。
幾ら子供に見えても、吸血鬼なら見た目なんか当てにならないからな。
「ほらエルザ、騎士様達に挨拶は?」
「あ、あの……私エルザって言います」
こう見る分には色白で病弱な少女にしか見えない。
もう少し調べてみないと分からないな。
俺達がエルザのことを見ていると、急に村長が話し始めた。
「そう言えば村人たちは、皆マゼンタさんとアレクサンドルが怪しいと言っていました。
マゼンタさんは歳のせいか寝たきりで、アレクサンドルもその看病で外に出てきませんから……」
それは確かに怪しいかもしれない。
取りあえずその二人から調べてみるか……。
そして俺達はマゼンタさんが住んでいる家に向かったのだが、そこには沢山の村人が家を取り囲んでいた。
「出て来い吸血鬼!
いるのは分かってるんだぞ!」
「止めろ! 俺達は吸血鬼なんかじゃない!」
村人が家に石を投げながら叫ぶと、家の中からがっしりした体の男性が出てきた。
彼がアレクサンドルか?
「ならなんで夜しか外に出てこないんだ!
日の光に当たるのが嫌だからじゃないのか!」
「何度も言ってるじゃないか!
おっかあが寝付くまで看病してるから、明るいうちは外に出てないだけだ!」
「そんなの言い訳に決まってる!」
そう言って村人の一人がアレクサンドルの服を掴んだ。
流石に止めないとヤバいか?
「落ち着くのね!」
「誰だアンタ達?」
「私は花壇騎士のシルフィード!
後ろの二人は私の仲間なのね!」
「アンタ達が村長が呼んだ騎士様か!
ならとっととこいつ等やっつけちまってください!」
「それは待ってください。
まだ彼らが吸血鬼である証拠はないのですから」
「だけどよぅ」
「取りあえず私たちが調べるので、村人の皆さんは取りあえず今日は家に戻ってくれませんか?」
「騎士様がそういうってんなら今日は帰りますけど……しっかり調べてくださいよ!」
「はい、それが任務ですから」
なんとか村人たちは納得したようで、家から離れて行った。
さてと、この二人は本当に吸血鬼なのか調べないとな。
「アンタ達騎士様なのか……頼む信じてくれ! 俺もおっかぁも吸血鬼なんかじゃねぇ!」
「そう信じたいですが……おや、首に包帯を巻いているんですね。
どうなさったんですか?」
アレクサンドルの服はさっき村人に掴まれた時に、首の部分が伸びてしまったようだ。
そこから白い布が見える。
「あぁこれか? これは森に山菜を取りに行った時に葉っぱで切っちまったんだ」
「少し見せていただけますか?
私も水メイジの端くれなもので、治せると思います」
「そうだったのか?
ならお願いしようかな……」
彼はそう言って包帯を外していく。
すると首筋が顕わになったのだが、そこには二つの穴が開いていた。
俺とタバサ、そしてシルフィードは顔を見合わせ、状況を確認した。
……彼はグールだ。