第96話 偽りの吸血鬼
アレクサンドルは自身がグールである自覚がない。
そしてマゼンタさんのことも同意の元調べてみもしたが、一応手に隠し持っていた銀の装飾品を手に当ててみたが何の反応もなかったし、牙もなかったことから彼女はグールではないのだろう。
吸血鬼本人と言う線も消えた。
なら誰が吸血鬼なんだ?
何時吸血鬼にアレクサンドルが操られるか分からないが、元凶の吸血鬼をどうにかしないとこの件に終わりはない。
取りあえず他の家も回ってみることにした。
「やっぱり敵意のこもった視線に晒され続けるのは嫌なもんだな」
「彼?」
「マゼンタさんを調べると言った時から、彼の視線は一気に刃物の様に鋭くなったからな。
母親が疑われるのが気に入らないのは確かに分かるんだが、それが証明にもなるっていう説明で納得してもらえなかったら、眠りの雲で眠ってもらうことも考えたくらいだ」
少しでも変な真似したら殴ってやるって顔に出てたからなぁ。
後タバサが母親って言う単語が出るたびに少し表情が変わるのが気になる。
「それにしてもマゼンタさんは大丈夫だって言った時の彼の顔は凄く嬉しそうだったな」
「確かに」
そんな母親思いな彼が実はグールだってことをマゼンタさんに知られたら……どう思うだろうか。
取りあえず他の村人に知られるわけにはいかないな。
「取りあえず一回部屋に戻って作戦会議をしよう」
「分かった」「分かったのね!」
一先ず俺達は村長に用意された部屋に向かった。
「取りあえず現状を整理すると、アレクサンドルがグール。
マゼンタさんは村人には怪しまれているが、銀に対する反応から恐らく白。
他の村人も特に反応はなかった。
残っているのは村長と……」
「エルザ」
「あの娘怪しいのね、なんか血の匂いがするのね!」
「そう言うことは早く言え!」
「てっきり気付いていると思ったのね……るーるー」
「お仕置き」
「嫌なのねーーーーーーーーー!!!」
まぁ漫才は置いといて、多分エルザが吸血鬼なのだろう。
だとしたら、騎士が派遣された今はとても焦っているはずだ。
なら近いうちに行動を起こすはずだ……。
「痛い、痛いのね!」
「……」
「レッド止めてーーーーーーー!」
「……俺はヘイだ」
そんな話をしていると、夜も更けてきた。
俺は二人を部屋に帰すと、ベットに横になった。
エルザは何時仕掛けてくるかな……。
「ヘイさん! アレクサンドルが!!」
「なんだって?!」
俺の部屋に突如入ってきたのは村長だった。
どうやらアレクサンドルが暴れているらしい。
タバサとシルフィは既に現場に向かっているという話だ。
「分かりました、急いで向かいます」
「お願いします!」
俺は急いでマゼンタさんの家に向かった。
俺が着いた時には既にマゼンタさんの家は燃えていた。
アレクサンドルも既に倒された後らしい。
「やっぱりアレクサンドルの野郎がグールだったのか!」
「ということはマゼンタ婆さんが吸血鬼だったってことか……やっぱりな!」
野次馬にきた村人たちは好き放題言っているが、まだ吸血鬼はいなくなっていない。
一先ずタバサやシルフィと合流しなくては……。
「あ、レ……ヘイ!そこに居たのね!」
「もう退治し終わった」
「……そうか」
「従者さん遅かったな!
ついさっきそこ小さい従者の子が毒の雲を杖から出して、アレクサンドルを退治したところだ!」
「いや〜あの手際は素早かったな!」
毒の雲? いやそんな魔法は……。
俺はタバサの方を見ると、小さく首を縦に振る。
眠りの雲か?!
「そうですか……遅くなったようですみません。」
「良いってことよ!
どっちにしろ、吸血鬼は退治しちまったんだ。
今日は宴だぜ!!」
「「「「うぉおおおおおおおお!!!!」」」」
俺はタバサとシルフィを連れて、一旦その場を離れた。
人影がいない場所まで来ると、俺は今回の件の事情を聞いた。
「で、どういうことなんだ?」
「先ずアレクサンドルがマゼンタさんの家の前で暴れてたのね」
「あぁ、そこまでは村長に聞いた」
「だから私が気絶していたマゼンタお婆ちゃんを裏から外に連れ出したの」
「そうだったか」
「そしてその間お姉さまがアレクサンドルに眠りの雲を使って眠らせたの」
「二人は今どこに?」
「今アレクサンドルは縄でぐるぐる巻きにして、私の部屋にいるのね、きゅいきゅい」
「マゼンタさんは私の部屋」
そっか……でも疑問が一つある。
「タバサ……何でグールになったアレクサンドルを殺さなかったんだ?」
「……吸血鬼本人にグール化を解かせれば、彼はマゼンタさんと暮らせる」
「退治する前に捕える気なのか?」
「(コクリ)」
「簡単じゃないと思うぞ?
それでもか?」
「(コクリ)」
「大丈夫なのね! 私も手伝うのね!」
二人は近接戦がそれほど達者じゃない。
もし組みつかれでもしたら、そのままグールにされるかもしれない。
なら……俺がどうにかするしか……。
殺す手前まで攻撃して、交渉するか。
問題はどうやって呼び出すかだな。
「ヘイ、どうしたのね?」
「?」
「あぁいや、ちょっと授業計画を考えててな」
「今そんなこと考えるときじゃないのね!」
「空気呼んで」
「あぁすまんすまん。
取りあえず今日はもう大きな動きはないだろうから、部屋に戻るか。
マゼンタさんとアレクサンドルは眠りの雲で眠らせたままにしておいてくれ。
一応ベット二つあるから問題ないだろ?」
「そうね」
「(こくり)」
本当なら俺の部屋で預かるべきなんだろうけど、何があるか分からないからな。
二人にはあの二人への対応に集中してもらおう。
早めにどうにかするから勘弁してくれよ?
そうして自分の部屋のすぐ近くまで来ると、俺は部屋の前に誰かが立っていることに気付いた。
「お兄ちゃん……吸血鬼いなくなったの?」
「……エルザちゃん」
まだ俺の夜は終わらないようだ。
タバサが原作に比べて対応が甘いですが、友人と協力者が出来たことにより少し心に余裕が出来た。
故に母親のことを愛していたアレクサンドルと、息子を愛しているマゼンタさんに幸せになってもらうことで、自分と重ねている部分がある。